第53話 マグロ、ご期待出来ない。



「って事は、結構長引くんですね?」

『そうなるね。最低でも一ヶ月は確定かな』


 オスシやサシミ、勿論ネマが好きなアクアパッツァも楽しみながら過ごすサーベイルの日々。ああ、釣りも楽しかったな。

 そんな、サーベイル入りして実に七日目の昼前。

 やっと連絡して来たロコロックルさんから今後の予定を聞いて、僕らは最低でも一ヶ月はサーベイルに居る事が決まった。

 やったぜ、拘束料だけで三○万確定だ。

 それが無くとも、ここ数日はまた警戒領域に行って生体金属ジオメタルを狩って来たり、更に遠くへ赴いて盗賊機を鹵獲したりと、結構稼いでる。サーベイルに来てから稼いだ額はもう二○○○万シギルくらいに成るかな。我ながら稼いでるなぁと思う。

 もっと本気を出して稼げば額も上がるんだけど、サーベイルは食べ歩きとかも楽しくて、だから休日も結構な頻度で設けてる。

 逆に言うとそれでもこの稼ぎって事だ。

 この世の中は、どの都市も例外無く生体金属心臓ジェネレータのエネルギーに頼って生きてるので、エネルギー源である生体金属ジオメタルはどうしても常に需要が発生する。

 そして生体金属ジオメタルを入手する為にはバイオマシンが必要で、バイオマシンを動かす為にも生体金属ジオメタルは必要だから、より需要が高く成るって言う、生体金属ジオメタルマッチポンプみたいな経済形成が成立してる。

 戦争も有り、盗賊や野良から身を守る為の武力も必要な殺伐とした現代は、だからこそバイオマシンを含めた生体金属ジオメタル産業って言うのが値段も稼ぎも飛び抜けてる。

 じゃないと、命を懸けて生体金属ジオメタルに関わる人間が居なくなるから。

 それこそ市民とは桁二つも違う報酬が貰え無いなら、安全でヌクヌクと暮らせる都市を出て、野生のバイオマシンに殴り掛かる仕事なんて誰もやらない。端金で死にたく無いから。


「僕らは何か、手伝う事とか有ります? 契約外の事なら別途料金を貰いますけど」

『そうだねぇ。いや、流石に報酬が発生する様なお願いは控えるけど、商家が集まるパーティなんかには、二人とも招待したいね』

「むぅ? 堅苦しい感じのは、多分無理ですよ?」

『まさかっ。僕が参加出来るグレードのパーティで、そんな格式張ったパーティは無いよ。ただの成り上がりが集うパーティさ』


 まぁ、気が向いたら参加しても良い。

 ロコロックルさんは、持ち込んだデザリアの内、既に予定してた二機の商談は終えている。そして、残った二機をより高く売る為に、そう言ったパーティ等に参加しては人脈を広げているのだそうだ。

 

『しかし、君なら堅苦しいパーティでも問題さ無そうに思うけどねぇ? 態度を作るのは得意そうだけど』

「まぁ、苦手じゃ無いですけど。それよりも、取るべき態度を最初から知らないのなら、作り様が無いですからね。僕、上流階級のマナーとか知りませんし」


 雑談を少し挟み、通信は終了した。ガーランドに帰る予定が立ったなら、最低でも一週間前には知らせてくれる事になった。

 事前連絡なんて常識、なんて思う事なかれ。稼ぐ為なら意図的に常識やマナーを無視出来る人だって居るのだから、ちゃんと確認するべきである。と言うか、依頼確定前にその手の事は話しておくべきで、つまるところ僕の手落ちだ。


「さて、今日は何しようか。また狩りに行く?」

「……………みっか、れんぞく?」

『急いで稼ぐ理由も無いのだから、休息を推奨する。通常、警戒領域への侵入は激務。三日も連続では行わない』


 そんなに負担でも無いけど、休めって言われたなら休もうか。


「じゃぁどうしようか。ムク君連れてマイ釣具でも買いに行こうかな」

「…………じゃぁ、ねま、ちょっと、よーじ、ある」


 ね、ネマに用事? なんだ、彼氏でも出来たのか?


「彼氏でも出来たの?」

「………………? …………あっ、ここ、なぐる、とこ?」


 ペシって叩かれた。なんでや。僕別にオカシイ事言ってないだろ。て言うか雇い主を叩くんじゃねぇよデコスケ野郎!

 別に突っ込みどころでも殴りどころでも無かったんだけど、何故僕を叩くんだ。

 ふむ、つまり、サーベイルに彼氏が出来た訳じゃ無いんだな。だから馬鹿を言うなって怒ったんだろう。

 いやいや、でも別に馬鹿な事じゃ無いでしょ。ネマは顔面の造形が神話級なんだし、歳が近い子だったらコロッとイッちゃうでしょ。選り取りみどりじゃん。充分有り得るよ。

 そんな事言うなら、その用事とやらはなんなんだ。言ってみろよ。そうネマに言っても、ネマは僕に用事を教えてくれなかった。

 理不尽では? 内緒にするなら僕の事を叩くなよ不公平だろ。


「ふーんだ。良いもん。僕もムク君誘って釣具買いに行くもんね!」

「…………いてら、しゃ」


 サーベイルにはコレからも定期的に来たいので、サーベイルでしか使え無い様なアイテムでも買ってしまう。釣りは良いゾ。楽しかったし、釣った魚のパックを持って帰って来たら、シリアスが料理してくれたので幸せ。

 シリアスが『昼に続き、夕食まで……』って呟いてたけど、夜は元々オスシ三昧だったじゃん。そしてごめんね、まだまだオスシ食べたい欲は満たされてないんだ。シリアスの作ってくれる夕食を挟みつつオスシを食べる日々は、控えめに言って幸せなんだ。

 ああ、先日シリアスが用意してくれた『秋刀魚の塩焼き』も美味しかったね。なんで塩振って焼くだけでこそまで美味しくなるのか。サンマって魚は不思議だ。

 魚の骨を取り除くのに四苦八苦してたら、バトラを従えたシリアスが小骨を取ってくれたりして、イチャイチャしながら夕食を楽しめて最高だった。

 シリアスとイチャイチャしてるとネマから「じぃ〜………………」っと見られるんだけど。何なんだろうねアレ? シリアスとイチャイチャしてるとかなり高確率でネマが真顔で見てくる。


「なら、僕は今日もシリアスとお出掛けかな?」

『肯定。滞在期間の最低日数は確定したので、アリーナを見に行くのも良い』

「あー、それも有るね」


 僕としては、確かにアリーナは気になるし楽しそうだけど、今は良いやって気持ちがやっぱり強い。

 稼ぎが安定して伸びて来たし、このまま稼いでランクも上げて、それで装備のグレードを一気に上げてから参戦したいと思ってる。じゃないと、装備の差を言い訳にしたくは無いけど絶対に無いとも言い切れないから、現在の傭兵ランクでは覆し様も無い相手と当たったら悔しさで死んでしまう。

 当然、ランク四を目指してるけど、それ以上のランクじゃないと買えない装備でボコられたら同じ事だ。けど、ランク四まで行けば装備の格で負けてても種類では負けないのだ。

 今はまだ炸薬、パルス、プラズマのライフルやブラスターしか手を出せないけど、ランク四に成ればミサイルやロケットなんかの制圧用武装も買える様になるし、バーニアやスラスターって言う機動が複雑化する特別な装置も入れられる。

 他にもミラージュウルフ程とは行かなくても有用で強力な特殊兵装も有るので、手数で負ける事はほぼ無くなる。そうすれば後は腕次第だと思うのだ。


「だから、アリーナはまだ良いかなって。今はお金をチマチマ稼いで、シリアスをもっと素敵にして、その間に今まで出来なかった色々を楽しんで幸せな日々を噛み締めたいかな」

『理解した。シリアスはその計画を支持する』


 と、言う訳なので今日はどうしようか。

 ネマはさっさと出掛けると言うので、僕はシリアスに乗ってシャムから降りる。こう言う時にダング住まいは少し不便だな。いや、自分で買った機体をネマに譲ろうとしてるから起きる手間なのか。

 颯爽とメインストリートのマシンロードを流しつつ、僕は考える。


「…………ふむ。ネマにもこう言う時に使う為の小型機体を用意した方が良いかな?」

『疑問。ビークルで良いのでは?』

「あー、いやでも、バイオマシンとビークルだと免許が違うし、流石にビークル免許も取れとか言えないよ。自動運転で充分かも知れないけど、シャムに乗せておくなら可能な限り有意にしたい。自動運転じゃないと使えないとか良くないと思うんだ」


 まぁ、僕とネマが成る可く一緒に行動すれば良いってだけなんだけど。

 でも僕もネマもまだ子供で、コレからどんどん年頃に成って行く。ずっと一緒は無理だろう。


「ふむぅ。アンシーク買うかー?」


 アンシークなら乗せっぱなしでも、シャムと通信を繋いでセンサー系を利用したり出来るし、腐る事は無いと思う。置型の超強度広域センサー君として使える。

 必要ならアンシークのセンサー系をトレースしてシャムのコックピットに表示出来るシステムとかアイテムを買えば良い。可能ならシリアスのコックピットに置いても良いし。


「シャムの格納庫には余裕があるし、普段は置型センサーとして強力なサポート要員になって、都市ではネマの足に成ってくれる。うん、良いのでは?」


 アンシークの強力なセンサーが有れば、狩りが相当楽になる。つまりよりは稼げる。アンシークは安いから何処でも買えるし、なのに上手く使うと稼ぎが爆増する良い子である。


「いっそ今からアンシーク見に行く?」

『それも良い。しかし、わたしシリアスに乗りながら他の女バイオマシンを見に行くとの提案は、どうなのだろうか?』

「エッッ!? ま、待ってッ!? ネマの機体を見に行くって話し--……」


 慌て過ぎて良く分からない事まで口走りつつ、誤解は解けた。いや、元々シリアスに揶揄からかわれただけだった。

 まぁ、アンシーク購入の件は置いとこう。ネマの意見も無しに新しい機体買うとかアレ過ぎるし。買うなら買うでネマに話しを通すべきだ。

 突然「買った! 乗れ!」ってライキティさんかよ。僕はもう少しだけ団員の意見を聞ける団長に成りたい。ライキティさんは尊敬してるけど、それはそれだ。


「よし。ムク君呼ぼっと」


 トゥルル、トゥルル。五歳児の先生に通信コール。

 僕の釣りライフにはもう、ムク君の存在が必要不可欠だ。


『…………は、はい。えと、おにーちゃん?』

「ムク君? 今日って暇じゃない?」

『ぅえっ、えっと……?』

「僕さ、自分の釣具とか欲しくなっちゃって。それで良かったら、ムク君に選ぶの手伝って欲しいなって思ってさ。お礼は、そうだな。取り敢えずこの後のお昼にオスシでもどう? また奢るよ」

『いくぅぅうー! すぐいく! ぜったいいくから、まっててねおにーちゃん!?』

「いや、待っててねって言われても、迎えに行くの僕だし……」


 通信の向こうでムク君が『ママぁぁぁぁあ!』って騒がしい。けど可愛い。

 良いなぁ、僕もあんな弟欲しかったなぁ。

 うん。ムク君が弟で、ネマが妹で、ポロンちゃんがペットで…………、楽しそうな家族だな。

 勿論シリアスが奥さんだよ。


『ママに、いってきていいよっていわれた! いこぅ!』

「はいよー。すぐ迎えに行くから、着替えて出て来てね」


 とか言ってる間に、もうスーテム家が住んでるタワマンの前である。

 路上駐機して暫く待つ。待ってるとムク君の到着より前に、アヤカさんから通信が入った。


『ラディア君? ムクから聞いたけど、そんなに沢山お世話になって良いのかしら?』

「あー、いえ、むしろ遊び会では僕の方がお世話されてましたし。それに今日も、僕はムク君にお仕事を依頼するくらいのつもりなんですよ? 依頼内容は僕の買い物のアドバイザー。報酬はお昼のご馳走と、後はムク君の釣具もついでに買ったりですかね」

『…………んー、母としては、ムクだけが特出するのは困ってしまうのだけどぉ』

「でもアヤカさん? ムク君が自分の釣具を手に入れたら、フィッシャーマーズで今まで以上の釣果が期待出来ますよ? 食費が浮くのでは?」

『なるほどそうね。その通りだわ。じゃぁムクの事お願いするわね!』


 現金である。

 ウオナミで食べるオスシが安いから『養殖物安い!』って思ってる僕だけど、良く考えると切り身が一つ二つで一シギルなんだから別に安くないって事に最近気が付いた。

 養殖物の魚もやっぱり、フードマテリアルなんかのイミテーションじゃ無いから結構するのだ。庶民でもお求め易い価格なのは間違いないけど、それでもイミテーションの方が安い。ああ勿論、高級なフードマテリアルとかは例外としてだ。

 で、そんなお高い食材である養殖魚を一定の入場料を払うと山程釣って来てくれるムク君五歳。スーテム家のエンゲル係数を大きく助けてる才児である。

 前回の遊び会も、僕のサポートをしながらもアジを八○尾くらい釣ってて、全部パックして家に送ってた。魚のパック加工と配達はフィッシャーマーズのサービスなので無料だ。きっとアヤカさんは大喜びだっただろう。

 魚のサイズや種類にもよるのだろうけど、一尾に五シギルから一○シギルもの値が着くなら、そんな物を常食してたら市民の貯金が吹っ飛んでしまう。

 だけどフィッシャーマーズや他の施設で入場料の元が取れる程に魚を釣れるムク君が頑張れば、その分だけスーテム家に取っての魚は値が落ちて、食べ易くなるのだ。

 必要なら年パスとか買っても良いし。


「あ、来たね」

『肯定。アヤカ・スーテムも同道』

「アヤカさんも一緒に来るのかな?」


 と言うか他の子はどうしたのだろうか?

 僕、興味無いと本気で他の事を気にしないけど、今思うと兄と姉が居た場合は面倒な騒ぎになったかも知れないと思い至った。

 僕が送った通信を聞いた子供達が「じぶんも!」と言い始めたら大変面倒だ。

 僕はシリアスを路駐したままハッチを開けて、外に出る。


「アヤカさん、ムク君、突然ごめんね」

「ううん、いいよ! ぼくもたのしみだから!」

「本当に、ウチの子を構ってくれて有難うね?」

「ムク君に至っては僕がお世話になってるので……」


 少し話しを伺うと、まずキッズ達は居ないそうだ。全員が夏季休暇のラストスパートを味わい尽くすべく、友達の所へ遊びに行ってて不在。

 ムク君はどうしたのかと言えば、お家でアヤカさんの手伝いをして、お魚を捌いて下拵えしてたらしい。

 ムク君、君って奴は料理まで出来るのかい!? なんて万能な五歳児なんだっ!

 僕は本気でムク君を雇いたくなった。けどガーランドに連れ帰っても海が無いので断念する。


「ムク君は偉いなぁ…………」

「えへへ、そんなことないよぉ……」


 てへぇって照れてる黒髪を撫でる。


「まぁ、ムク君が得してズルいって言われたら、一人お家に残ってお手伝いをしていた良い子だから、ご褒美があっただけって事で」

「ふふ、そうね。その通りだわ。じゃぁムク、楽しんでいらっしゃい?」


 アヤカさんは来ないらしい。

 僕はムク君を預かり、一緒にシリアスへ乗る。アヤカさんはその様子を見ながら手を振るけど、多分あれってムク君に対してじゃなくてシリアスに対してだよね。シリアスもアームを振り返してるし。


「アヤカさんとシリアスの仲ってなんなんだ……」

『主婦友』


 主婦友ッ!? いや、でも、そうか。メイド業を始めたから家事のアレコレとか、語る話題は沢山有るのか。

 僕はシリアスからそんな話しを聞きつつ、ムク君にも話しを振りながらマシンロードを進む。

 もう何回も通ってる道なので、スムーズにウオナミまで辿り着く。

 駐機場にシリアスを停め、「行ってくるね」と挨拶をしたら、可愛く「おしゅしぃ♪︎ おしゅしぃ♪︎」と喜んでるムク君の手を引いてウオナミへ。


「あ、いらっしゃいませっ」

「お姉さん本当に何時いつ休んでるのッ!? 実は双子か三つ子だったりするッ!?」


 毎回必ず居るお姉さんに案内されて、何時ものボックス席へ。毎回通される席も同じだ。


「よし、食べよっか」

「うんっ! おにーちゃん、ありがとー!」


 素直可愛いムク君の頭を撫でた後は、取り敢えずオオトロ四皿、チュウトロ四皿、炙りサーモン二皿とトロサーモン二皿、アナゴニギリとウナギニギリを二皿ずつ。あとエビとホタテも二皿ずつかな。


「ムク君は? 何が好き?」

「えと、ぼくはねぇ。エンガワと、コハダがすきぃ」


 へにゃっと笑うムク君が可愛いのでエンガワとコハダを二皿ずつ。

 後は上のベルトをゆっくり運ばれて来たタマゴニギリと、ツナマヨグンカンを適当に取って食べる。


「…………ッ! ツナマヨグンカン、美味いじゃん。チープな味が良い感じだ」

「おいしいよね! ぼくもそれすき! おさらしろいから、おこられないし!」


 子供が皿の値段を気にして食べるの世知辛い……!

 ふむ。いっつもマグロを基本に食べてるから、色々食べたくなっちゃった。


「そのコハダって美味しい?」

「うん! おにーちゃんもたべる? はい、あーん♪︎」


 小さいお手々で持ったコハダニギリを差し出してくれるムク君。せっかくなのでパクッと食べた。

 あー、これは、美味しいな。甘酢? いや、なんだろう。何かで味付けされてるネタだ。

 ムグムグして、ゴックン。美味しかった。


「おいし?」

「うん、美味しいね。ありがとう」

「よかったぁー!」

「じゃぁお返しに、ほら、あーん……」

「…………あむっ」


 食べさせてくれたお礼に、オオトロを食べさせてあげた。

 ムク君は食べさせて貰ったのが恥ずかしいのか、照れ照れしながらも素直に「おいひぃ〜♪︎」と喜んでる。

 ………………可愛い! 僕やっぱりこんな弟欲しかった!

 チェーンジ! これはもうチェーンジ! ネマとムク君のチェンジは可能でしょうかッ!? あのデコスケ野郎と取り替えたい素直さだよコレ!

 いや、でもなぁ。最近のネマも、素直になって来た感は有るしなぁ。相変わらず敬語を知らぬデコスケ野郎だけど、甘え方を覚えたって言うか、吹っ切れた感じはするんだよね。うん、チェンジは言い過ぎたかな? じゃぁ両取りにして置こうか。


「おにーちゃん、さーもん、あーん……」


 ぱくっ。美味しい。

 む? 端末にメール着信……?


 送信者・シリアス

 受信・ラディア

 内容:疑問。浮気?


 ち、違うッッ! ……え、違うよねッ!? 待って違うよッ!?

 シリアスから態々メールで届いた指摘に慌てる。思い返すと確かに、ちょっと、イチャイチャしてた感は有ったかも知れない。

 でもムク君は男の子だから! まずそこから間違ってるから!

 僕はシリアスにメールを送り返した。ビックリしたなぁ。僕は別に可愛い男の子に興奮する変態男じゃ無いんだってば。もう、酷い言い掛かりだよ。


「…………おにーちゃん? どーしたの?」

「ん? いやいや、何でもないよ。ほら、あーん……」

「あむっ♪︎ …………おぃひぃ! むぐっ、おにーちゃん、ほんとーにマグロが好きなんだねっ」


 確かに、僕は今のところ、魚の中でマグロが一番好きだ。


「……さて、もうお腹ポコポコだし、そろそろ行こうか」

「うんっ! おにーちゃんありがとー! ごちそーさまー!」


 鱈腹たらふく食べたので、支払いをしてお店を出る。二人で食べてたのに支払いが九○シギルだ。いやぁ食ったねぇ。高い物を頼み過ぎたのか。

 シリアスの元に戻ってただいまを告げる。おかえりって言ってくれるシリアスの中に入って、今日のメインイベントへ向かう。

 そう、僕の釣具を買いに行く。


「ムク君、オススメの釣具屋とか有る?」

「えーと、ゆーめいなのは、キャスターかな?」


 マシンロードを移動しながらムク君に聞くと、有名な釣具店って言うとキャスターか中州屋って店を使うのが安定らしい。そしてそのふたつを並べると、ムク君のオススメはキャスターの方になるそうだ。

 なんでも、中州屋も大きな店なのだけど、そっちは店員の質が微妙らしく、常連とダラダラ喋ってる様子を見ると一見さん的には微妙だろうって言われた。

 確かに、自分がその常連だったならフレンドリーなお店は通い易いかも知れないけど、初っ端からその態度は嫌だなぁ。

 対して、キャスターの方は店員の質も揃ってて、店舗も綺麗で品揃えも良好だと言う。

 って言うかその評価を下せる五歳児の事が僕は怖い。ムク君有能過ぎない?


「あ、あれ! あのおみせだよ!」

「りょーかい。シリアス、またちょっとお留守番お願いね」

『了解した。その間にシリアスは、ラディアの為に釣りの作法やテクニックに着いて調べておく』


 ムク君の案内で到着した店舗は、サーベイルで見た中ではかなり規模の小さいビルに見えた。端的に言うと細い。

 でも、そのビルがまる一棟全部、釣具屋キャスターなのだそうだ。

 階ごとに扱う品の種類が少しずつ違っていて、自分がやる釣りに合った階層で買い物をすると、丸一階全部がそのジャンルの商品となってるので、品揃えに不満を持てないと言う。


「おにーちゃんは、どんなつりがしたいの?」

「ふむ。僕はね、それすらも分からない初心者なんだ。逆に釣りってどんなのが有るの? 僕、ムク君に教わったホロコマセしかやったとこ無いんだけど」


 取り敢えずシリアスから降りて店内に。

 ビルに入ると一階からもう既に、所狭しと商品が並んでいる。一階はどんなジャンルの階なのか、釣り初心者の僕には何も分からない。


「じゃぁおにーちゃんは、なんでもできそーなつりざおがいいね!」

「うん。て言うかもうムク君に任せまくって良い? 予算は限定しないから、ムク君が僕に必要だと思った道具はバンバン選んで良いよ」

「………………えへっ、それ、ちょっとたのしそぅ」


 金額を気にせずアイテムを選べるとあって、ムク君はほっぺが緩んでる。

 そうして案内されたのは、まず二階の釣竿専用フロアだった。

 釣り方や場所を限定せず、キャスターで取り扱う釣竿は全て此処に置いてあるらしい。勿論、専用フロアに行ってもその釣り方や場所に適した物はそこにも置いてある。ただ二階は釣竿に特化してるってだけだ。


「えっとね、おにーちゃんなら、カートリッジつかうやつの、たかいのがいいかなって」


 今更だけど、釣具って高い。釣竿なんて最安の品でも五○○シギルはするので、それなりに釣りを愛して熱を燃やす趣味人じゃないと買えない値段となってる。

 だって、中級市民の平均月収の六分の一だ。釣竿を六本買ったら月収が飛ぶのだ。買えなくは無いけど、情熱が無いと手が出せない値段設定である。

 ムク君は当然、マイロッドなど持ってない。いつか欲しいと思ってて、だからネットで色々調べてるし、遊び会で釣りに行ける時は全力でやってる。


「だからね、ほらこれ、カートリッジかえるとね、レプリケーターがしゅつりょく? するのがかわるから、つりざおのしゅるいもかわるの!」


 そんなムク君にオススメされたのは、かなり高めの釣竿だった。

 値段は六八○○シギル。中級市民の平均月収換算で二倍だ。僕の端末一式買った様な値段である。

 それはやはり歪な銃にでも見える作りだけど、内蔵された超小型限定レプリケーターとマテリアライザーが仕事をして、装填されてるマテリアルを使って釣竿の竿先を印刷する機能がある。これはフィッシャーマーズでも借りた釣竿にも着いてた機能だけど、ムク君がオススメするコイツは中のマテリアルを入れ替える事で数種類の釣竿に変身してくれる優れ物らしい。

 それを更に、ムク君のオススメするカートリッジを二個か三個買えば、大体どんな場所でも釣りが楽しめるはずだと説明されたので、やっぱりお任せする。僕は君を信じるよ。


 まず、海釣り全般とあらゆるフィールドの疑似餌釣りテクニカルをカバー出来る『シーバスロッド・マテリアルカートリッジ』。お値段二二○シギル。高いねぇ。


 次に淡水でのトラウト狙いと海でのスモールゲームを楽しめる『トラウトロッド・マテリアルカートリッジ』二○○シギル。


 最後にマグロ釣り用の極太パワーロッド、『マグロ・ゴキタイクダサイ・マテリアルカートリッジ』三八○シギル。


 ご、ご期待下さい? 何に? いやマグロを釣れる事にかな?

 最後のネーミングは良く分からなかったけど、マグロが好きな僕に対してのチョイスなんだろう。有難い事だ。

 そして、釣竿が決まったら三階へ移動してリールを探す。三階はリール専用フロアだ。

 二階で選んだ万能竿とカートリッジ。それらに対応出来る万能なリールをムク君に選んで貰って、これでタックルは大丈夫だ。

 メインが揃ったなら、後はそれぞれの階を転々としながらルアーやリグも一通り探して行く。一つ一つをムク君が解説しながら選んでくれるので助かる。助かり過ぎる。

 頼めば品物を持って着いて来てくれるボットを借りれるので、そのボットを買い物カゴ代わりに店内を移動する。


「ふむ。此処まで小物が多いなら、それを入れて置く専用のボックスとかも要るね?」

「うん! それはよんかい!」


 四階に行く。

 そこは待機状態の釣竿や仕掛けなんかを入れて置くバッグやボックスが並ぶエリアだった。ついでに釣りに着て行く類の服もある。


「えへへ、ぼくがおにーちゃんをこーでぃねーとしてあげるね!」


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