第44話 盗賊。



 すぐにでも旅立ちたいと言うロコロックルさんに合わせて、僕らは早急に準備を整えて翌日に出発。

 最低でも往復で八日。海洋都市サーベイルでロコロックルさんが長期の商談をするなら、下手すると一ヶ月とか掛かるのだ。

 すると、僕が現在受けてるアルバリオ家からの依頼とカチ合う。自由で良いよと言われてても、流石に無断で一ヶ月もレッスン無しとか不義理が過ぎる。

 なので、アルバリオ邸にすぐ連絡し、依頼で海洋都市まで行く旨を伝える。

 すると、アズロンさんから「是非持って行って売り捌くと良い!」と香辛料を譲ってもらった。いや流石にお金は払う。めっちゃ値引きされたけど、お金は払う。

 と言うか、その時にロコロックルさんを紹介し、ロコロックルさんがアズロンさんから買い付け、その仲介料としてマージンを貰う事にした。

 アズロンさんからはシッカリ商人を挟む事に感心されて心象がまた上がり、ロコロックルさんからは現在スパイスキングと名高いアルバリオと繋いでくれた事を泣きながら感謝された。

 お金がカツカツだったロコロックルさんは、アズロンさんから香辛料を買い付ける為におじさんから借金。おじさんも返済の当てが硬いならと貸し出した。

 僕は他にもタクト達にも連絡して、暫く留守にする旨を伝え、都市で見掛けた清掃員さんや、らべ…………、るべ? ルベラ! ルベラお兄さんにも同じ様に挨拶した。

 依頼で出るだけなのに、ちゃんと挨拶して偉いなって褒められた。

 あとは、ポロンちゃん経由でモモさん達にも。何気に連絡先は交換してないんだよね。


『警告、迫撃砲反応』

「了解……、とっ」


 さて、そして現在。

 ガーランドの東門から旅立ってから二日。警戒領域も何も関係無く突っ切る旅程の為にバンバン戦闘が発生する今回の行商。

 既に砂漠は抜けて、五年前より昔に見た記憶が朧気ながらにある丘や森を見る。旅してるなーって実感。

 下手したら、襲われ過ぎて依頼料的には割に合わないかも知れないけど、僕的には戦闘出来て嬉しいから気にしない。戦うの楽しい。

 シリアスから聞いた警告で、僕は既に起動しっぱなしのウェポンシステムを操作して素早く照準。

 山成りに落ちてくる砲弾を戦闘用シザーアーム『グラディエラ』のパルスライフルで狙って、撃つ。


『命中確認。被害ゼロ。弾道逆算。敵機補足。ポイントマーク』

「了解。…………迫撃砲?」


 僕は随分珍しい武装だなと思いながら、シリアスが出してくれたマークポイントを確認。

 高精度光学照準システムをオンライン。ポイントを拡大してモニターに映す。七キロ先にランドリザード?

 二足恐竜型の中型下級戦闘機だ。


「…………うん? この警戒領域には居ないはずの機体だね? 取り敢えず撃つけどさ」


 ああ、そもそも武器を撃ってる時点で人が乗ってるのは確定か。つまり野生のバイオマシンじゃなくて、盗賊? ほーう、話しには聞いてたけど、盗賊なんてマジで居るんだね。ちょっと感動したや。

 でもそんなの関係ねぇので、僕はウェポンテールを向けて、長距離狙撃用中型パルスライフル『グラムスター』を発射した。喰らえ僕のオーシャンパシフィックピース。


『命中確認。コックピット大破。パイロットの生存確率は一%未満』

「だろうね。…………狙ったのは生体金属心臓ジェネレータなんだけどなぁ」


 正確には、「何処に有るか知らんけど、多分生体金属心臓ジェネレータってこの辺じゃね?」的な当たりを付けて、胸辺りをズドンしたんだけど、僕の狙撃の腕がお察しな為に頭を吹き飛ばしてしまった。


『警告。ビークル反応確認。時速八○キロで接近中。そして搭乗人員二○名』

「………………はぁっ!? 警戒領域でビークル!? 自殺行為じゃないの!?」


 レーダーに従ってそっちを見る。黒っぽい装甲ビークルがブイブイ言って近付いて来る。窓から体を乗り出して楽しそうに騒いでる奴も居る。

 なんだコイツら。

 取り敢えずネマに通信。止まらず先に行けと伝える。

 ビークル乗りは二分程でシャムに取り付ける様な速度で接近中。狙いもそのままシャムらしい。まっすぐ進んでる。


「シリアス、広域通信と外部スピーカー音量最大」

『了解。何時でも良い』

「…………警告するッ! コチラは傭兵団砂蟲!」


 僕は近付くビークルに対して通信、スピーカー、どちらでも警告を発する。

 要は『それ以上近付いたら撃っちゃうぞ☆ 要件が有るなら通信で教えてね♪︎』って事だ。

 でもビークルは止まらない。何故だ? いや何か用なら通信使ってくれよ。本当に撃っちゃうぞ?


『予測。盗賊の一味では?』

「…………ハッ!? コイツらがまさか、生身で移乗攻撃仕掛けてるクレイジーなのッ!?」


 驚愕し、戦慄しながらも僕は取り敢えずプラズマ砲をブッパした。もう警告はしたからね。

 あと弾が勿体ないので、撃つのは展開したコンシールドブラスター。つまりプラズマ砲だ。

 プラズマ砲もエネルギーを食うからその分はフードメタルを消費するし、ぶっちゃけ費用節約って意味だとそこまでじゃないんだけどさ。エネルギーなら最悪その辺のバイオマシンを殺して生体金属ジオメタルを食べれば補給出来るし、シャムに積んでる弾薬もフードメタルも有限だからね。


「……は? 生意気にも避けやがったよアイツら」

『しかし横転。虫の息』

「いやピンピンしてるじゃん。這い出て来たじゃん」


 プラズマ砲が光った瞬間にでもハンドルを切ったのか、ビークルはコンシールドブラスターの砲撃をギリギリで避け、でも地面に着弾して爆発した殺傷範囲からは逃れられなかったのか、ビークルが横転した。

 ワラワラとビークルから這い出て来る様は、卵から孵った例の黒い虫だ。気持ち悪いので成る可く巻き込む様にプラズマ砲を撃って、撃つ。

 ゴキ共は半分シャムへ、半分は当ても無く逃走を始めてた。けど、コンシールドブラスターの二発で残り四人。


「残り四人を相手に、人間を殺すのにプラズマ砲は嫌だな。費用対効果がゴミだ」

『ハッチを開放する。携行用パルスライフルの出番。走行機動はシリアスが行う』

「任せた」


 僕はホロバイザーとセーフティを跳ね上げて、コックピット後方のボックスからライフルを取り出した。何気にマトモな射撃は初めてかな?

 シリアスが自分で走りながらキャノピーを上げて、ハッチも開けてくれる。そこから外を見て、シリアスが狙い易い角度を意識して走ってくれてるのを有難く思いながらライフルを撃った。

 外部マイクが『ちくしょう! 死にたくねぇ!』とか『カモじゃなかったぁ!』とか聞こえる汚い断末魔を耳に、僕は指切り射撃でパルスライフルを撃つ。

 うん。ぜんっぜん当たらない。機体の近距離から中距離射撃なら得意なのに、自分の手で撃つライフルだと此処まで当たらない物なのか。

 結局、僕はマガジンを交換してそれも使い切ったところで、やっと四人を射殺した。


「…………はぁ、世間にはあんな風に、本物のクレイジーが居るんだからさ。僕のクレイジーボーイって二つ名は取り下げるべきだと思うんだよね」

『疑問。クレイジー度合いで負けたから彼らが死んだのでは?』

「いやいや、僕よりも圧倒的にクレイジーだったから死んだんでしょ? 生身で移乗攻撃仕掛けるとか、どう考えても自殺行為クレイジーじゃん。アレがクレイジーじゃ無いなら、何がクレイジーなのさ。僕が生きてるのはクレバーだからだよ」

『…………疑問。井戸ポンが、冷静クレバー?』

「井戸ポンは止めてったら」


 井戸ポン言われたら僕負けちゃうじゃん。

 それに彼らの作戦って、ガレージの中に動ける状態のバイオマシンが一機残ってるだけで皆殺しだよ? そんな分が悪いギャンブルを意気揚々と仕掛けてくる彼らそこがクレイジーでしょ。


『通信要求。ネマから』

「はーい、どした?」

『…………どう、なた? おきゃく、しんぱい、してぅ』

「あー、うん。ひとまず見える位置の賊は皆殺しにしたって伝えて」

『もぅ、きこぇた』


 なるほど。今はロコロックルさんもコックピットに居るのね。

 一応はまだ、後続も居る可能性がゼロじゃないので警戒は続けると重ねて伝えた。と言うか今居るのって警戒領域だしね。馬鹿を処理しても、バイオマシンは優遇なんてしてくれない。

 その後、警戒領域を抜けて通常領域へ。一旦お昼休憩したいところだけど、どうなるかな?

 時間に余裕が有るなら止まっても良いし、無いならこのまま走って移動を続ける。こっちにも民間レーションくらいは積んでるので、食事に問題は無い。

 排泄も専用のナノマシンを服用して処理してるから、夜までは大丈夫。

 流石に夜は走らない。暗闇で野生のバイオマシンに突っ込むとか最悪だから。警戒領域を抜けたって、警戒領域からハミ出た野良が居ない訳じゃない。

 土地が足りなーいって言いながらも、通常領域を開拓出来て無い時点でお察しだ。

 いや、本当なら開拓も出来るんだろう。ただ湯水の如く金を使う。

 警戒領域に近い分だけ野生のバイオマシンが襲って来るし、土地を開発して形に成るまではアリ一匹通せない。文字通りの意味だ。

 開発途中のベース拠点なんて、アンシークが一匹侵入するだけで民間人が踏み潰されて殺される。大騒ぎは必至。

 しかも開拓が終わって都市の一つでも作ったなら、間近の警戒領域からガンガン攻められて防衛費が無限に掛かる。

 現代で都市間の距離が離れているのは、そこが限界距離なのだ。もっと近くに作ると国庫か人材、何方どちらかに、もしくは何方どちらにも多大なダメージが入るのだ。

 大昔なら警戒領域の根幹、つまり古代遺跡を攻略しようって動きも有ったらしいけど、現在その動きがほぼ無い時点でやっぱりお察しだ。

 古代技術の獲得と、あわよくばバイオマシンの製造技術、そして土地。全部ゲット出来る最高の計画は、まず古代遺跡の防衛機能を舐め過ぎてた事で大損害。大量の死者を出してのゴリ押し攻略をするしか無くなり、攻略が成功した時には移籍の防衛機能が働いて全機能が瓦解。最悪は遺跡ごと大爆発。

 それだけの人的被害と国庫のダメージを受けながらも成功させた古代遺跡攻略は、『大爆発によって荒れ切ったまぁまぁ広い土地』だけを成果に残した。

 そんな事が昔に何回かあり、現代人はもはや古代遺跡の攻略なんて諦めてしまった。


「ネマ。昼はどうするかクライアントに相談して」

『……あぃ。…………だって』


 だってじゃ無いよデコスケ野郎。そこに居るからって横着をするな。


『あー、あー、聞こえてますか?』

「はい聞こえますよロコロックルさん。それで、どうしますか?」

『旅程は安定してますし、もう半分は超えてます。止まってゆっくりしても大丈夫でしょう。それに、その、予想以上に襲撃が激しいですけど、大丈夫ですか?』

「ええ。戦闘による損害は有りません。集中力と言う意味でも、僕はシリアスに乗ってる間は限界が来ない生き物なので」

『…………す、凄まじいですね。初対面での態度を、今更ながらに謝罪します。こんなに強くて頼れる傭兵を舐めるとか、私は何をしていたのか』


 取り敢えず、お昼は僕もシャムで休めるらしい。

 ガレージは四機の売り物デザリアと、みっちりムッチリ詰まった香辛料や補給品で埋まってるので、シリアスは入れない。ソコは泣きたい程寂しいけど、僕が食事をして少し休憩するくらいなら、シリアスが単独で警戒してくれるそうだ。

 停まったシャムの傍にシリアスを駐機して、シャムのコックピットから中に入る。シャムの操作権限は僕も持ってるので、端末でハッチを開けられる。

 それに後ろは荷物でみっちりだから通り難いし、一人で通るならコックピットからの方が居住区が近い。


「ただいまー」

「…………おか」

「せめて〝えり〟を付けろよデコスケ野郎。本当なら〝なさい〟を付けろって言いたかったのにちょっと予想外じゃん」

「……えへっ」

「可愛く笑えば許されると思うなよ〜?」


 眠そうな顔でにへらって笑うネマの金髪をグシャグシャに掻き回した。眠そうな声で「…………きゃー」とか言うのちょっと面白い。


「お疲れ様です。賊の処理、有難う御座いました」

「いえ、お仕事ですから」

「…………本当に、君を紹介してくれたサンジェルマンには感謝だ。中には殺しを躊躇ってゴタつく傭兵も、居ないじゃないので」


 まぁ、それはね?

 普段は狩りで稼げるし。ちょっと何時もと違う事がしたくて護衛受けて、いざって時にブルっちゃうのは仕方ないと思うよ。

 むしろ、時にもケロッとしてた僕がオカシイのだ。なんならトドメ刺したいって言ってルベラお兄さんにオネダリしたからね。


「…………しかし、やはり君の様な子供に戦わせて、殺しまでさせて、良い大人の自分はこんなに設備の良い場所でぬくぬくしてるのは、罪悪感と忌避感が凄まじいですね。倫理が壊れそうだ」

「あはは、まぁ僕はその倫理がブッ壊れてる場所の筆頭、スラムで生きてましたからね。例外って事で一つ」

「……対応も大人だ。君の様な才能ある素晴らしい人材がスラムに溺れて居たなんて、帝国は何をしてるのか」

「むしろ、僕の能力の六割くらいはスラムで磨かれたんですけどね。操縦は前からですけど、それ以外はスラムで必死でしたから。じゃないと死んじゃう場所なので」

「ああ、喋る程に薮蛇やぶへびみたいだ。もう黙った方が良いかね?」

「いえ、僕は本当に気にしてないので。…………本当に、僕はシリアスに出会えた時点で報われたんですよ。残りの人生が全部幸せで確定してます。十歳でコレですよ? むしろ人よりずっと幸せな人生だと、今は確信してるんですから。一○○歳まで生きても後九○年はずっとずっと幸福が続くんです」

「君は、強過ぎる。その精神が硬過ぎて、何時いつか割れてしまわないかが心配だよ」


 大丈夫。割れる時はシリアスと一緒だから、その時さえ僕は幸せでしかない。死ぬ時まで幸せが約束されてるなんて、僕はやっぱり世界一幸運な機兵乗りライダーだろう。


「それより、お昼はどうします? ちょっとだけ培養肉と天然野菜持って来てるので、何か作りましょうか? 無難にマテリアルをプリントしても良いですけど」

「君は料理まで出来るのかい? 周りの大人は本当に何をやってたんだっ? こんな多芸で有能な人材、中々居ないだろうっ」

「あは、料理は最近覚えてるんですけどね。おじさんに習いました。知ってます? おじさんって凄い料理が上手なんですよ」

「…………サンジェルマンが? とてもそうは見えないが」


 うん。それには同意する。

 おじさんって、見た目だけなら『食い専』だよね。でも作る側なんだよねぇ。

 ちなみに、ロコロックルさんの滞在費は片道で五○○○シギル貰う事に成ってる。ぶっちゃけこのレベルの居住区画に使うエネルギー量と消費するマテリアル代を考慮すると、若干の赤だ。しかし依頼料は弾んでもらってるので、まぁ良いかって事になった。


「じゃぁ、ランチは無難にハンバーグセットのプリントで。ロコロックルさんはハンバーグの種類と、パンとライス、どっちにします?」

「私はパンかな。ハンバーグはデミグラスで」

「…………ねま、らいす。きのこそーすが、よい」

「了解。一分ほどお待ち下さい」


 フードプリンター起動。プリセットからハンバーグセットの一覧表示。

 ロコロックルさんはデミグラスにパン。ネマはキノコのソース…………、いや多いんだが? キノコソースの種類、山程有るんだが? まぁキノコ系ランダムで良いでしょ。詳細言わないネマが悪い。

 僕はそうだな…………。このワフウオロシソースって言うのにしよう。美味しそうだ。

 しかし、ワフウってなんだろう?


「はいどうぞ」

「ありがとう。…………いやぁ、本当にこのダングは設備が良いね。…………本当に良い。此処に住みたい。自分の家に帰ったら落差に絶望しそうだ」

「あははははっ」


 それは精々、今回の行商で大きく稼いで家の設備を更新して下さいな。

 みんなでハンバーグを食べて、一休み。その間は他愛ない話しをするけど、この二日はずっとロコロックルさんが感心し切りだ。


「しかし、ラディア君もそうだが、ネマちゃんも凄いね。こんな大きな機体を動かして、私の平均的な稼ぎよりずっと稼いでるなんて。私なんて、こんな大きな機体を動かせって言われても、恐ろしくてとてもじゃ無いが無理だよ」

「………………えっ、へん」

「ラディア君も稼いだお金は殆ど自己投資。そしてより稼いで、また自己投資。理想的な傭兵だ。そのお陰でこの暮らしと思えば、羨むのも馬鹿らしくなる程立派だ。そこらの豪遊系傭兵にも見せてやりたいね」

「いやいや、豪遊さん達も都市の経済をブン回してくれてるんですから、馬鹿にしたモンじゃないですよ。彼らも立派な都市の歯車ですからね。ロコロックルさんだって、売った香辛料とかの諸々、消費する大半は傭兵ですよ? 彼らが豪遊しなくなったら、ロコロックルさんも稼ぎが減ります」

「………………まったくその通りだね。うん、考えればそうなんだが、やっぱり心情的にね? 君がどれだけ立派でも、やはり子供なのにと言う意識が抜けないんだよ。こんなに立派な十歳が居るのに、お前ら大人は何やってんだって言いたくなってしまう」

「光栄な話ですけどね。でも、豪遊さん達が豪遊してる間に僕は、美味しい仕事をちょちょっと選り抜けると思えば、悪い事も無いですよ」

「…………でも、らでぃあ、りっぱ」

「〝さん〟を付けろよデコスケ野郎。褒めても食後のゴマダンゴを一つしかあげないぞ?」

「……………………えへっ、おぃひぃ」

「加えて、ネマちゃんの面倒も見てるんだろう? …………はぁ、立派だ。私は色々あって独身だが、もし娘が居たら君に貰って欲しいと願っただろうね」


 それは困る。僕にはシリアスが居るので、断るしか無い案件を持って来られても嬉しくないのだ。

 ポロンちゃんみたいなペット枠なら考えるんだけどなぁ。シリアスと一緒に育てるの、きっと楽しいぞ。

 ………………僕、割と本気でポロンちゃん飼ったら楽しそうって思ってるのヤバいな? 最初はちょっと冗談だったけど、最近マジで楽しいんじゃねって思ってる。

 はぁーヤバい。ポロンちゃんのほとばしるペット力がヤバい。


「じゃぁ、僕はそろそろ仕事に戻りますね。スタートはロコロックルさんの判断でどうぞ。コチラは合わせます」


 食器をフードプリンター一体型の洗浄機にブチ込む。こうしとけば勝手に洗って、また食事を出す時に出してくれる。

 一度マテリアルにまで分解してから、フードプリンターの出力と一緒に食器もプリントするタイプの物もあったけど、コッチの方が安かった。

 この洗浄式でも充分以上に僕の要求に応えてるのに、無駄に高額な物を買う理由が見当たらなくてコッチを買った。シリアスに金銭感覚の崩壊を注意されてるし、節約できる所は節約するのだ。

 でも使う所には思いっきり使うけどね?

 食器を片付けたらまたシャムのパステルカラーなコックピットを通って、外に出る。

 シリアスの方は何事も無かったらしく、降りた時と同じ姿勢で同じ場所に鎮座していた。

 オリジンであるシリアスには端末の操作なんて要らないので、コックピットを開けてもらって中に入る。


「ただいま」

『おかえり。随分と褒め倒されてた』

「シリアスのお陰だよ。僕はシリアスが居ないとダメなんだ」

『否定。きっとラディアは、シリアスが居なくても成功した。しかし、その成功を早めたのがシリアスである事を、シリアスは誇らしく思う』


 もうシリアスが素敵過ぎて、僕はシートに抱き着いた。むぅ、シートのフレーム部分は流石に硬い。しかし、この硬さもシリアスだと思えば中々…………。


『熱烈。抱擁に照れた方が良いのか悩む』

「照れたら可愛いけど、可愛いシリアスを見たら僕の心臓に負担が掛かる」

『…………思案。ラディアの当該発言は、割と事実であった事案が多数。シリアスはラディアの生命維持を優先し、ラディアを喜ばせる行為を断念せざるを得ない事を悲しく思う』

「……………………んくっ、シリアス、それは狙ってるッ!?」


 断念、出来てないッ…………!

 つまりアレでしょ? 喜ばせたいけど危ないのダメだから諦めるね、しょぼーん。ってことでしょ?

 カワッッッッッッッッッッ……………………!

 ダメだ、これ以上は心停止してしまう。僕は本当にシリアスが好きなんだよ。良い加減にしてくれ。でも可愛いからもっと持って来いよ弾幕薄いよ何やってんのッ!


『し、心臓部に拍動の異常を確認。ら、ラディア、落ち着くと良い。シリアスは困惑している』

「シリアスが、可愛いんだもん…………」

『困惑。シリアスは困惑している…………。--警告、センサーに感。襲撃の可能性』


 ………………………………あぁん?


「…………………………僕とシリアスのイチャイチャを邪魔するクズは死ね。ケツ毛の一本すら残さず蒸発させてるッッ!」


 僕は速攻でシートに座ってセーフティを降ろし、パイロットシステムを立ち上げ、モニター類を展開してホロバイザーを下げる。

 シャムはまだ停止中。一応ネマに通信。端末の方に。動いて無いならコックピットに居ないでしょ。


「ネマ、襲撃。コックピットに居て。発進するか否かは任せる。襲撃者が野良か賊かはまだ未確認。ロコロックルさんも一応コックピットへ。そこが一番固くて安全です」


 言うだけ言って発進。

 センサーを見ると反応は三つ。いや賊じゃん。バイオマシンは基本的に群れない。三つなら人が乗ってると見てほぼ問題無い。


「ネマごめん。襲撃は賊でほぼ確定。数は三。恐らく最大速で接近中。接触まであと一分弱。急いで」

『あぃ』

『ラディア君も、気を付けるんだよ! 君は怪我なんかしちゃダメだ!』

「了解。以降はアナログ通信で。シリアス、広域通信」


 速度二○○キロ。獣型か。この速度なら多分ウェポンドッグだな?

 僕はさっきと同じ様に、一応、無いとは思うけど、念の為に戦闘の意思が無い相手かどうかを確認する。


「警告! コチラは傭兵団砂蟲! 現在は護衛任務中である! 貴機の告知無い急接近は敵対行動と取れる! よって戦闘の意思が無ければ応答し、機体を停止しろ! これは既に最後通告である! …………戦闘の意思が無いなら通信開いて止まれオラァッッ!」


 五秒待ち、通信は無い。知ってた。


「シリアス、先頭の脚を抜く! 補助お願い! グラムスター!」

『了解。グラムスターOK。グラディエラも展開完了』


 スロットルを開けて走る。三機居るならシャムに取り付かれると面倒だ。

 さっきのクレイジーと仲間だったっぽい奴は遠かったけど、コイツらの距離なら僕でも抜ける。けど、走ったまま狙撃を成功させる程の腕は無い。

 だから、グラムスターだけシリアスに制御を投げて演算狙撃をお願いした。グラディエラを使ってまだ遠い三機に牽制しながら、僕は演算終了を待つ。


『完了』

「っぇぇぇえッッ…………!」


 激発。

 トリガーを引いてパルス弾を発射。シリアスの見事な演算による狙撃は、姿が大きく見え始めたウェポンドッグの先頭、その右前脚をブチ抜き、そのまま貫通して左後ろ脚まで破壊した。


「完璧以上! 流石シリアス!」

『容易い。コントロール譲渡。後は任せる』

「任されたぁッ……!」


 足を抜かれてすっ転ぶ一機と、それに釣られて体勢を崩した一機。上手く躱してシャムに向かって走ってた一機は、僕を脅威だと認識したのか進路をコチラに変える。

 上等!

 撃たれるパルス弾は砲撃予測線を見てグラディエラで弾く。背中のプラズマ砲は展開しないままのコンシールドブラスターに内蔵されたパルスシールドを使って相殺する。上手く角度を付けたりして弾いてるけど、流石にプラズマ砲をパルスシールドで受けるとエネルギーを馬鹿食いされる。ムカつくなぁ。

 そして肉薄、最大速でカチ合う。制したのは僕だ。

 僕はコンシールドの利点、『格納時は非武装に見える』それを大いに利用し、ギリギリで急展開。ほぼゼロ距離になってから突然増えた武装に相手は対応出来ない。


 これパルスシールド装置だと思っただろ? 残念! ブラスターでした!


 ウェポンドッグの頭に何か着いてる。衝角攻撃ラムアタックでもするつもりだった? それも残念! デザリアシリアスにはお前の顔をカチ上げる為のハサミうでが有るのさ!

 頭突きを敢行するアホの顔面をグラディエラで挟んでブチ上げ、そのままコックピットにパイルバンカーをブッパしながら展開したプラズマ砲を体にブチ込む。

 コケた馬鹿の足を抜けたから分かったけど、コイツらゼロカスタムだな? まぁ賊がマトモな装備持ってる訳無いか。都市なんて利用出来ないし、賊相手に商売してくれる闇商人が売る装備なんて法外な値段の筈だ。


「おら死ねや」


 機体を壊すつもりだったけど、ゼロカスタムの柔らかコックピット君がグラディエラのパイルで普通に抜けちゃった。お陀仏!


『警告。シャムに--……』

「させねぇよバーカッッ!」


 たった今パイロットを殺した機体を挟んだまま横に一回転。人の身には余る質量を持ったウェポンドッグ君を砲丸投げの球にする。

 まだ元気な一機がシャムに取り付こう飛び、僕はそこにウェポンドッグ君をブン投げて撃墜。

 そのまま動かない機体にのしかかられた形のアホに向かって、…………弾代勿体ないなぁ。プラズマ砲で殺ろう。

 この距離からグラムスター連射で動けない内に諸共殺してやろうと思ったけど、コイツら殺してもお金に成らないのに、一発で三○○○シギルもする中型パルスライフル弾を連射とか馬鹿げてる。

 僕はウゴウゴして抜け出そうとするアホにそこそこ近付いてから、コンシールドブラスターを乱射した。死ね死ねオラ死ね。シリアスとのイチャイチャを邪魔したお前は億回死ぬべきだ。

 コイツらの機体を食べてエネルギーを回復するつもりなので、プラズマ砲の大盤振る舞い。

 夥しい爆発に晒されてグッシャグシャになった二機目のウェポンドッグ君を一瞥いちべつして、僕は最後さいしょに残った最初さいごの機体、脚を二本も抜かれてマトモに歩けなくなったアホに近付く。

 立ち上がろうとして失敗し、這い擦ろうとして失敗するアホには、もう急ぐ必要も無い。


「シリアス、今更なんだけどさ。このウェポンドッグを食べても大丈夫?」

『肯定。心情的にも、元は祖国に敵対する国の機体であり、モグモグするのは吝かじゃない』


 モグモグとか言っちゃうシリアスが可愛くて吐血しそう。

 ああ、早く殺してイチャイチャを再開したい。

 僕はテンションが上がって、シリアスの可愛いあんよでテクテク歩く。勿論ラッキーパンチなんて喰らわないように、寝転がってマトモに動けないアホの腹側から近付く。背中から行くと向こうもプラズマ砲使えるからね。


『まっ、待ってくれ! 降参だ! 投降する!』

「………………あん?」


 そして、残り五○メートルくらいまで近付いて、アホに対してコンシールドブラスターをジャキッと向けたら、なんかローカル通信入れられた。

 テンション落ちた。なんでそんな面倒な事するの?


「なに? 投降? あと僕がトリガーをちょっと引くだけで終わる、この状況で? 国際法が効く戦争でも無いのに? 法の保護を受けられない賊が? ちゃんと警告までしてあげた僕に?」

『なにも、もう何も出来ねぇんだ! 丸腰も一緒だぜ! なぁ、こんな無害になっちまってんだ、殺すこたぁ無いだろっ……!?』

「いや、自分で武装解除したならまだしも、アナタを丸腰状態にしたの、僕の功績だし」


 僕のって言うか、シリアスの演算狙撃だけどさ。


『嫌だ、死にたくねぇ! プラズマ砲でボコボコにされるなんざ、人の死に方じゃねぇ!』

「え、人のつもりだったの? 帝国は賊にまで人権は保証してないよ?」


 帝国はどんな人にも最低限の人権を保証する。それが例え犯罪者でも、本当に最低限の人権は有るのだ。

 犯した罪によって人権が緩んでくので、強姦とか誘拐をやらかすと、『限りなく人っぽい何か』扱いになるんだけどね。そしてなんか、噂だと人体実験とかされるらしい。陽電子脳ブレインボックスの生産には生体遺伝子とかが必要なんじゃね? みたいな研究の材料にされるとか、まぁあくまで噂だ。

 でも、都市外での盗賊行為には人権剥奪が決定してる。帝国が保証するのは『人が人に犯した人の罪』までで、『古代の英智でバイオマシンまで持ち出して盗賊等と言う蛮行しか行えない獣は人じゃない』と決まってる。

 つまり、今のコイツは帝国法的に言うと、正しく獣なのだ。人じゃない。噛み付いてきた犬なのだ。


『い、嫌だァ、死にたくねぇ…………』

「えぇ、えええぇぇえ、ガチ泣きですやん。萎えるわぁ……」


 とうとうローカル通信の先でグシュグシュ泣き始めた盗賊のアホに、僕はもうテンションが留まるところを知らずに落ちて行く。

 あのさぁ。殺し合いをするならさぁ、もっとこう、有るじゃん? 覚悟とかさぁ。


「…………はぁ。もう良いや。えーと、賊さん? 投降は認めても良いけど、先の警告で伝えた通り今は護衛任務中なの。だから、クライアントが『嫌だ殺せ』って言ったら殺すしか無いんだけど、それは諦めてね」

『……あっ、あぁ、頼むっ、それで良いから、聞いてくれっ、死にたくねぇッ』


 良くフィクションブックで『こんな奴、殺す価値も無い』とか言って殺すの止めるシーン有るけど、今まさにそんな感じ。

 いや、僕ってそのシーンを見ると、「いや、殺す価値は無いけど、生かす価値はもっと無いよね?」って思う派だったんだよね。流石フィクションのキャラは気高いなぁって薄ら寒い目で見てた。

 しかし、事実は違ったんだね。今理解した。アレって正確には、『存在が下らな過ぎて殺すのに使う僅かばかりの労力すら贅沢』って事なんだね。ビックリしたよ。あのシーンはフィクションじゃ無かったのか…………。

 だって、僕は今確かに、このアホを殺すのに必要な『トリガーを引く』って動作に使う小数点以下のカロリーが惜しいもん。そんなカロリー消費さえ、羽虫殺すのに大型プラズマ砲使うくらいの贅沢に思える。それにコイツが死んだって記憶する脳のキャパも勿体ない気がして来た。

 そうか、これが『殺す価値も無い』なのか。確かに費用対効果が最悪だ。僕のカロリーを使って成すのがこのゴミの殺害。ああ、確かに無為だ。凄いなコイツ、死がゼロどころかマイナスって一周まわってプラスじゃね?


「ロコロックルさーん」


 僕は元々ローカルで繋がってて聞いて居ただろうクライアント、ロコロックルさんにお伺いする。


「どうします?」

『…………うーん、どうしようねぇ。困ったねぇ』

「僕はどっちでも良いですよ」

『私としても殺してしまいたいんだが、投降して無抵抗になった者を、自分の身可愛さから君に殺させる事への忌避感がね、凄いんだ』

「気にしなくて良いのになぁ」

『済まないね。これも性分なんだよ』


 僕とロコロックルさんは、それから三分くらいずっと、一緒に『困ったねぇ』を繰り返して居た。


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