第12話 新事実。



 端末を手に入れ、最愛のシリアスと念願の『会話』が可能になった僕は、タクトそっちのけでシリアスとイチャイチャしながら食事に向かった。

 僕はまだマトモに端末を操作出来ないので、シリアスに手伝ってもらってお店を調べて、凄く面白そうなお店を見付けてそこへ行く。

 お店の名前は『ハンガーミート』で、店名で散々悩まされた僕らにとっては、凄いストレートな店名で逆に新鮮だった。

 このお店、なんと名前の通りに『ハンガーの中で焼肉を食べる店』なのだ。


此処ここが、ハンガーミート! 最高の食事処!」

「お前にとってはそうなんだろな」

『この発想は祖国にも無かった。興味深い』


 端末の画面をウェアラブル端末に表示する事でシリアスとリアルタイムのコミュニケーションを実現した僕は、もうテンションが上がって上がって仕方ない。

 ちょっと普段使いが面倒なゴツめのゴーグル型ウェアラブル端末を選んじゃったの後悔してるけど、普段用の奴はまた今度買い行こう。

 傭兵用を意識して頑丈そうなの買っちゃったから、お店でゴーグル付けっぱなしは変な感じするんだよね。

 でもゴーグル外すと、一々端末の画面に視線を運ばないとシリアスとお話し出来無いし、暫くはこれで我慢しよう。

 タクトの眼鏡型を借りれれば良いんだけど、都市回線でダウンロードして来たアプリケーションを使ったチャット画面は、タクトのウェアラブル端末にも表示されてるのだ。タクトも普通にシリアスへ話しかけるからね。

 だから、僕がタクトの借りるとタクトがシリアスとお話し出来なくなるし、僕の貸したら今度はタクトがゴーグル装着のまま焼肉を食べる羽目になる。

 なので、仕方ない。仕方ないのだ。


何時いつまで井戸ポンしてんだよ。ほら、中に入れよ」

「僕のお口モニュモニュを井戸ポンって呼ぶの止めて?」

『イドポンの詳細求む』

「やめてっ!?」

「お、なんだ。愛機に隠し事か? そりゃ行かんよなぁ。俺がちゃんと教えといてやるから」


 タクトがイキイキと端末に何かを打ち込んでいる。邪魔出来ない様にテキストで送るつもりか。大声で邪魔する計画がゼロ秒で頓挫した。

 僕が奢りまくった事への報復のつもりだろうか。良いのかい、タクト? そんな事をすると、天然物のお肉をご馳走しちゃうぞ……?


「送信」

『把握』

「なんか、シリアスとタクトが変な方向に仲良くなってる」

「そんな事ないぞ」

『そんな事ない』

「ほらぁっ! 僕ヤキモチ妬いちゃうぞ!」


 騒ぐのも疲れたので、やっとハンガーミートに入る。

 店舗コンセプトから分かる通り、店構えはバイオマシンを格納する大型のハンガーそのもので、お店にはこのままバイオマシンで乗り込む形になる。

 で、乗り入れたバイオマシンで座席となるハンガーに乗機を駐機して、そのまま降機。降りたらハンガーに備え付けられてる人間用のテーブルに座って食事をする。そんな形態のお店だ。

 面白いのが、テーブルに備え付けられてるコントロールパネルの操作で座席の昇降が出来る事と、ハンガーの床がターンテーブルになってて、バイオマシンを好きな角度に回せる事。ターンテーブルもコントロールパネルで操作する。

 つまり、座席ブロックを好きな高さに設定して、好きな角度から愛機を眺めて、その風景を楽しみつつ焼肉を食べれるのだ。

 注文もコントロールパネルで済ませて、注文したお肉はドローンが運んで来る。会計は座席から電子決済か、現金払いがしたいならコントロールパネルで職員を呼んで手渡しで支払う。

 店内は入店したバイオマシンが歩き回る仕様上、使用するハンガーから生身で出る事は禁止となってる。他の利用客のバイオマシンに踏み潰されるからね。

 呼び出す職員もハンガーの壁や床から専用通路を通って現れるので、突飛なコンセプトの割に安全性にとても気を使ってる様に見える。


「だけど、何より評価したいのは、客が食事してる間に、頼めばバイオマシンに補給もしてくれる事だよね」


 ハンガーにシリアスを入れて姿勢を整え、降機したら席に座って、早速コントロールを操作して座席ブロックの高度をシリアスの目線と合わせる。

 シリアスもうにうにと座りポジションを直しつつ、僕らのテーブルの方に顔を向けながらギリギリまで近付く。こうして食事の準備は完璧に完了した。後は注文するだけだ。


「つまりは、シリアスと一緒に飯食えるって事な」

「その通り!」


 バイオマシンは生体金属ジオメタルを食べて生きている。

 僕は今日まで知らなかったんだけど、バイオマシンって死んでる生体金属ジオメタルと生きてる生体金属ジオメタルじゃ、生成出来るエネルギーに差があるんだって。

 生きてる生体金属ジオメタルを摂取した時の生成量を百とした時、死んだ生体金属ジオメタルを食べた時の生成量はたったの二○。二割だ。生体金属ジオメタルにも種類があるので、物によっては三割行く事もあるけど、大体そのくらいらしい。

 それで、だけど、ちゃんとした場所でバイオマシンの補給をするならば、更に話しが変わったりする。

 と言うのも、バイオマシンに食べさせる為の調整がされた専用の生体金属ジオメタルなんて物も有るらしく、それは生成量が百以上。質によっては数百とか千とか行くらしい。通称フードメタル。

 で、このお店はフードメタルも各種取り揃えていて、注文するとハンガーに運んで来てくれる。


「シリアスはどれ食べたい? 僕流石に鉄の味は分からないから、シリアスが決めて?」


 テーブルから取り外し可能なタブレット端末型のコントロールパネルを取って、店のラインナップから注文可能なフードメタル一覧を表示してシリアスに見せる。


『……祖国の補給鋼と似た組成かどうか不明。判断材料が希薄。費用対効果で決めるべき』


 美味しい物を食べて欲しいのに、シリアスはそんな事を言う。要はどのフードメタルも食べないと味なんて分からないんだから、予想で頼むくらいなら価格とエネルギー効率で選べって言ってるのだ。


「でも、美味しい方が良くない? その補給鋼って言うのは、味とかどうだったの?」

『申し訳ないが分からない。データとして知っているが、シリアスは生産後にすぐ砂漠へ出された。よって、祖国の補給鋼を摂取した経験が無い』

「…………そうだった。ごめんね。僕は本当にデリカシーが無い」

『気にしなくて良い。シリアスは現状を気に入っている』

「すげぇ。ちょっと硬いが本当のカップルみてぇだぞ」

「でへへぇ……。でしょぉー?」

『シリアスはラディアを幸せにする』

「…………なんでだろう。なんか、普通に羨ましくなって来たわ。俺も恋人欲しい。幸せにして欲しい」


 タクトはグループの女の子居るじゃん。タクト争奪戦してる子達が。

 あの、こう、良い感じにお行儀良くドロドロしてる絶妙な闘争が、えも言えない楽しさを醸し出してるんだよね。

 タクトは気が付いてないけど、タクトのグループに居る男の子達は皆知ってて、でも女の子総取りしてる形のタクトに怒ったりしてない。女の子達の争いを見てるから。

 あんな感じで狙われるなら、俺は良いや。みたいな、そんな感じで争奪戦を観戦してる。みんな結構楽しんでる。


「んー、て言うか当たり前だけどフードメタル高いねぇ」

「そりゃ生体金属ジオメタルなんだから当たり前だろ。それも、製品としてちゃんと整ってる生体金属ジオメタルなんだろ?」

「ああ、そっか。生きてる生体金属ジオメタルの方が高いっておじさんも言ってたし、当たり前か。……おじさんからもっとお金貰ってくれば良かったな」

『金額が気になるなら、シリアスは無くても大丈夫。エネルギー残量にはまだ余裕がある』

「はいダメー。シリアスと一緒に食べたくて此処に来たのにシリアスだけご飯抜きと意味分かんないよ。流石に最高グレードの奴とかは無理だけど、ちゃんと持ち合わせで足りるからシリアスと食べよ?」

「て言うかお前が高いとか言ったからシリアスが気にしたんだろ。気を付けろよ彼氏さん」

「…………ああ、ホントだ。あああー、僕は本当にデリカシーが無いなぁ、嫌んなるぅ」

『大丈夫。シリアスは気にしてない』

「彼女が良い女過ぎる件について。…………いやマジで良い奴じゃん。なんだよ、俺だってシリアスみたいな女の子居たらめっちゃ付き合いたいわ。しかもラディアにとっては今のシリアスがそのまま好みなんだろ? クソがよっ。つまり理想の彼女じゃん。世の中不公平だ。俺にも可愛い彼女をくれよ」

『タクト、伴侶は貰うものでは無く出会うもの』

「ぐうの音もでねぇ!」


 結局、僕はシリアスの案に押されて費用対効果が一番高いフードメタルを選んで、残りのお金で食べ放題プランを注文した。

 頼んだフードメタルは三五○○シギルのセットパックで、エネルギー効率三○○パーのフードメタルだそうだ。

 バイオマシンは戦闘機動をしなければエネルギー消費が極端に少ないとは言え、今のシリアスは何やかんやあって残量が二割ちょいだ。このフードメタルでどれくらい回復するのか、ちょっと楽しみでもある。

 ちなみに、食べ放題プランは一人四○シギルだ。大変リーズナブルだと思う。

 フードマテリアルから生成したお肉なら食べ放題でも四○シギルだとかなり高いんだけど、このお店で出してるのは最低で培養肉らしい。

 培養肉って言うのは、天然物の遺伝子を利用したお肉のクローンと言うか、食肉その物を専用の装置で培養して育てるのだ。

 天然物に比べたら質は何段も落ちるけど、フードマテリアル産と比べたら完全無欠に本物のお肉であり、美味しいし高い。


「タクト、別途料金がかかるけど…………」

「天然物は要らんぞ。お前が注文しても俺は手を付けない」

「むぅ、今日は世話になるって言ったのにぃ」

「いや世話になってるだろ。俺これ、一銭も払わずに培養肉食べれるんだぞ? これで世話になってなかったら何なんだよ」


 まぁ良いや。ぱぱっと注文してドローンを待とう。

 シリアスの方はもうフードメタルが届いた様で、フードメタルが入った箱の位置が気に入らなかったシリアスが自分で運び直して元のポジションに戻り、フードメタルを一つシザーアームで摘んで見せてくれた。


「おお、なんか、なに? でっかいタブレット錠剤?」

「どっちかって言うとペレット飼料って奴じゃないか? フードマテリアル用の養殖虫の飼料見た事あるけど、こんな感じだったぞ」


 シリアスが掲げるのは、もしそれが空洞なら僕らくらいの子供がすっぽり入りそうな、鉄の塊だった。当たり前なんだけど。

 形は円柱をちょっとだけ潰して平たくした様な形状で、シリアス曰く『摘み易い』んだそうだ。

 色は鈍色の表面に薄らと虹色が浮いている。ガンメタリックとはちょっと違う、なにか湿った様な印象を受ける色合いだった。


『実食』


 -サクリ。


「…………え、それ食べて今の音?」

「鉄の音じゃねぇ」


 ペレットを一つだけ口に運んだシリアスは、口腔部をガシュって開放して摘んだペレットを半分齧った。すると予想外に小気味良い音がしてビックリする。

 なに、鉄を齧ってサクリ? いやスナック菓子かよ。


『悪くない』

「悪くないんだ。…………え、食感はどんな感じ? 音の通りだった?」

『音の通り……。いや、分からない。サクッとはしていた。それと何か、繊維を断ち切る様な感触もあった。そして中心部はしっかりと鉄の硬さがあった様に思う。総評として、「分からない」になる』

「…………そ、そうか。つまり不思議な食感だった訳だな?」

『肯定』


 シリアスが右ガチガチをしながらタクトに肯定した。

 うーん、まぁバイオマシンに自我が無いのが当たり前な現代に於いて、バイオマシンの為に味や食感を優先して作ったとは思えないから、多分あれは生体金属ジオメタルのエネルギー変換効率を引き上げる処理をした結果、どうしても発生してしまう何か何だろうね。それをオリジンのシリアスが食べた結果、意外性のある食感として認識されただけで。


「美味しい? 不味くはないんだよね?」

『悪くない。不味いとは思わない。シリアスは人間が不味いと表現する感覚についてデータでしか知らない。しかし、少なくともシリアスはこの補給鋼を摂取して苦痛に思う事は無い。よって、不味くは無い。つまり、「悪くない」になる』

「……なるほど」

「その弁で行くなら、美味しいって感覚も分からないって事か? 上も下も無いから、悪くないで留まるって?」

『肯定。人間とのコミュニケーション用に入力されたデータとして理解は出来る。が、経験が伴わないので判断が付かない。本来、兵器に味覚は必要無い』

「…………なんか、悲しくなっちゃうね。古代人さんは、シリアス達とご飯食べたりとか、したく無かったのかな」

「さっきシリアスが『この発想は祖国にも無かった』って言ってだろ。つまりそう言う事なんだろうさ」

『気にしなくて良い。これから先、永遠に知る事が無い概念とは思わない。機体の改修如何によっては、シリアスも正しく味覚を感じる機能を手に入れる可能性もある。その時は共に喜びたいと思う』

「……うわぁ。もう、なんか、もうっ! ラディアお前! 本当に良い愛機じゃんかもう! くそっ、めっちゃ羨ましい……! オリジンってだけでも羨ましいのに、中身も最高とか羨まし過ぎて禿げるっ!」

「でへ、でへへ……」


 シリアスしゅき〜……。

 そっかぁ、そうだよね。フードマテリアルを調理するのに味を判断する機械も存在するんだから、シリアスだってその内一緒に食事が取れたりもするよね。


『それに、シリアスは現代人がとある勘違いをしている可能性があると認識している。現代人は、シリアス達が生体金属ジオメタルしか食べれないと考えているのでは無いかと、疑問を抱いている』


 ……………………なんだって?


「…………は? え、はっ?」

「……それって、つまり?」


 生体金属ジオメタルしか食べれないのが、勘違いって事は?


「シリアス、もしかして、お肉とか食べれるの…………?」

『肯定。シリアスは有機物の摂取も可能。エネルギー効率は極低効率に留まるが、陽電子脳ブレインボックスに多少の好影響を与える事もあり、低頻度の極小量でも、可能なら定期的な摂取が推奨される』


 なんか、凄いこと聞いた気がする。

 これって機兵乗りライダーの常識だったりするんだろうか? 僕が知らないだけ? 確かに僕はまだバイオマシンに着いての知識が足りない自覚はあるけども。

 もし、もしコレが現代で誰も知らない事実だった場合、国の研究者さんとかに教えたら大変な事になるんじゃ……?


「それって、逆に食べないと何か不具合が有るのか?」

『否定。有機物の摂取が無くても、陽電子脳ブレインボックスに問題は生じない。ただ、有機物を摂取すると陽電子脳ブレインボックスの性能が徐々に成長する。とりわけ動物性タンパク質の摂取が推奨される』


 そんな驚きの事実を知ったところで、僕らの席にもやっとお肉が届いた。

 やけに遅かったなと思ったら、お肉を持って来たドローンに機材トラブルで一時的に運搬が遅れたとメッセージが表示された。そしてお詫びのメッセージと共に、食べ放題プランには無いお肉がちょこっと追加されてた。謝罪のサービス品らしい。


「えっと、じゃぁシリアスも、お肉食べる? あーんってする? やっぱり焼いた方が良い? それとも生肉の方が良かったりする?」

『否定。気持ちは受け取る。しかし、スキャニングの結果、その肉を摂取しても陽電子脳ブレインボックスに影響が無いと判明。未だ現代に対する理解に乏しいが、その食肉は何かしらの低品質な模造品では無いかと推測する』

「あ、うん。培養肉って言う、お肉のクローンみたいな物らしいよ?」

『把握。追加で質問を。先程タクトが発言した「天然物」に関する詳細が欲しい』

「天然物ってのは、ちゃんと牛とか豚とか、育てた生き物を捌いて出す肉の事だ。家畜なのに天然物ってのも微妙な区分だが、現代ではイミテーションじゃない肉だから天然って意味で使われてる」

『把握。シリアスが摂取して陽電子脳ブレインボックスに影響を与える有機物は、現代人で言うところの天然物に相当する食物に限定されると予想される。陽電子脳ブレインボックスを成長させる為に必要な要素の内に、多様なDNAマップやゲノムの精査、獲得も重要であり、イミテーションや模造品として変質して劣化した有機物では目的に適わないと推測する』


 世界中の研究者や学者さん達も、まさか焼肉屋でこんな事実が発覚してるとは夢にも思うまい。

 いやもしかしたら既出の情報なのかも知れないけど、これは何となく新情報だと思うなぁ。

 だって、もしコレが既に知られてる情報なら、天然物の肉も出せるこのお店で、バイオマシン用のラインナップに天然肉が無い理由を説明出来ない。

 シリアスが推奨するとまで言う重要な要素なのに、こんなにクソ高いフードメタルまで揃える意識の高い最奥区近辺の店で、それをやらない理由が無い。

 つまり、ならば知らないのだ。知らないからバイオマシンにお肉を出さない。それが自然な考え方だ。


「それはそれとして、お肉を食べてゲノムとか読める機能は着いてるのに、味覚は付けなかった古代人さんに文句は言いたい」

「それな」

『同意。祖国の技術力ならば比較的容易にそれを出来たと思われる。そうであれば今頃はラディアと共に食事を喜べた。シリアスも祖国に対して遺憾の意を表明したい』

「…………どうしようタクト、僕もう胸がきゅんきゅんして苦しい」

「だんだん普通に羨ましく思えてくんの、俺毒され過ぎな。……なんかちょっと俺もシリアスが可愛く見えきたの、マジ震えて来るぜ」


 タクトが着々と僕マインドに侵食されてるらしい。やったぜ。


「ちゃんとタクトに乗機を用意するからね…………。ガチ恋してね…………」

「止めろ止めろ止めろ止めろ」

『ダブルデート推奨』

「シリアスお前もかっ!」


 そんなこんな、お腹いっぱい食べて食休み。

 食べ放題プランは二時間あったけど、孤児の貧相な胃袋なんてすぐ埋まる。というかこれ、食べ放題じゃなくて個別に頼んだ方が安かったかも知れない。

 シリアスのペレット全部食べて、現在エネルギーが八割まで回復したそうだ。


「うぇえ、流石に凄くないか? シリアスもチマチマ食ってたが、あれ精々二十粒くらいだったろ? それで八割?」

「元が二割ちょいだったから、回復量は六割だね」

『シリアスの機種、現代人がデザートシザーリアと呼ぶ機体のキャパシティが小さいから、相対的に回復量が多く見えと言う見方もある。このフードメタルと呼称される補給鋼は、祖国の補給鋼と比べても変換効率は精々が並。つまり普通』

「つまりシリアスは少食女子?」

「お前取り敢えず嫁を可愛い感じにしないと死ぬ病気なのか?」

「うんっ!」

「返事が元気」

『シリアスは少食女子』

「そして乗っかる早さ。いやシリアスお前結構お茶目って言うか、硬い喋りの割には性格がフランクだな?」

『……シリアス、褒められた? 貶された?』

「どっちかって言うと、褒めた?」

「少なくとも貶した意図はねぇよ。事実をそのまま口にしただけだが、まぁ褒め言葉かな? 要は付き合いやすい性格だよなって事だから」

『把握。シリアスはお茶目』


 シリアスの可愛さが留まる事を知らない。

 間違い無く世界で一番可愛いお茶目さんだ。


「でも、そうか。確かにもっとグレードの高いフードメタルが幾つも有るんだから、少なくともそれでキャパが溢れない機体も居るって事だよな。そうすると、シリアスは本当に少食って事になるのか」

「あー、なるほど。確かに」

『基本的に、キャパシティは多い方が有利。なので、シリアスも後にエネルギータンクを改善したい。目指せ、大食い女子』

「あ、そうだ。おじさんとシリアスのカスタムについて相談もしなきゃだよ。あとシリアスの修理の見積り書、受け取るの忘れてた。結局幾らだったんだろう?」

『シリアスに施された修繕は装甲の交換と研磨、装甲自己回復補助と歪んだ頭部パーツの交換に喪ったキャノピーの追加。作業量から推測してもそう高額になるとは考え難い』

「…………そうなの? なんか、今聞いた感じだと凄い色々やって貰ったみたいに聞こえるけど」

『基本的にボット任せで八割方が終わる程度の軽作業で、専門技術が使われたのはほんの一部だった。交換したパーツとキャノピーも、シリアスが持ち込んだ僚機からの持ち出しであり、パーツ代はかかってない。つまり費用はほぼ工賃のみ。活動領域流通通貨シギルに着いての現段階に於ける理解力で判断しても、一万シギル請求されたらボッタくりと断言出来る。よって支払いは余裕』


 …………おお、僕、奥さんにお財布握られてる。なんだろう、ちょっと嬉しい。


「出来た嫁さんじゃん」

「でしょ!」

『シリアスは良妻』

「自分で稼いで自分を治してラディア食わせて兵士からも守って、ラディア、お前ヒモじゃん」

「…………ッッ!? ほ、ホントだっ!? どうしようっ、それは嫌だっ!?」

『シリアス、ラディア養う。養いたい』

「嬉しいけどなんかちょっと嫌だー! 僕も稼いでシリアスのパーツとかフードメタルとか買いたいぃー!」


 和気藹々わきあいあい。楽しくはしゃいで食休みで疲れる始末。

 そんな僕らは良い時間になったので、取り敢えずお会計。

 端末買って電子決済が可能になったけど、口座がまだ無いのでニコニコ現金払いだ。店員さんを呼び付けて残った所持金の大部分を支払った。もう所持金がスッカラカンだ。


「……………………あの、すいません」

「はい?」

「もしかして、お客様の機体って……?」

「あ、はい。オリジンです」


 会計に来た女性の店員さんが大興奮してちょっと騒ぎになったけど、取り敢えずお店を辞する。

 あの店員さんさんは無類のバイオマシン好きであり、本物のオリジンとかもう、出会えたら嘔吐するレベルのバイオマシンマニアらしかった。サインとか求められたけど、自分のサインの書き方とか分からないので次回来店時まで待ってもらう事に。

 お店にはお客の安全管理の為に様子を確認出来るシステムがあって、店員さんはそれで自由に動きまくるシリアスを見てもしかしてって思ってたそうだ。会計の時に現金払いで呼び出しが入った時は他の店員を押し退けてやって来たって言ってた。

 それで意を決して聞いたら大当たりで大興奮。宥めるの大変だった…………。


「タクト、ちょっとごめんね。所持金かなりスッカラカンだから、口座開設したら一旦スラムに戻っておじさんの所に行くね」

「ああ、分かった。アイツも怪我が痛いだろうけど、そもそもナノマシン拾うとか望み薄だったしな。買って貰えるだけ御の字なんだ。ゆっくりで良いぜ」

「ほんとごめんねー」


 口座を作れる場所は都市役所、銀行、各種ギルドのどれかであり、それぞれ金利とか規約とかサービス内容とか色々違うそうだけど、面倒なので傭兵ギルドで済ませる。

 傭兵登録してライセンスを発行したなら、凄い簡単な手続きで口座を開設出来るので、ぱぱっと済ませてしまおう。

 またメインストリートに乗ってマシンロードを移動して、傭兵ギルドへ。

 ガーランドは都市のど真ん中に聳える行政の中枢から順に、最奥区、上級区、中央区、外周区の四区分と、東西南北の区切りが四つあり、計十六の区画が存在する。僕らが良く西区とか中心部とか呼ぶのは通名であり、正確には最奥東区とか、中央南区とかが正しい。つまり僕らが棲み着いてるのは外周西区と呼ぶのが正式な呼称だ。

 で、僕らがさっきまで居た買い物したり食事した区画は最奥西区で、今は中央西区に向かってる。目指す傭兵ギルドがそこにあるから。

 ガーランドには傭兵ギルドが二つあり、その内の一つが中央西区、もう一つは外周東区にある。ゲートがある方向にそれぞれ一つずつある訳だ。

 中央西区の傭兵ギルドは主に警戒区域で狩人をしてる傭兵が利用するギルドで、外周東区にある傭兵ギルドは都市外から輸送の護衛とかで来た傭兵が利用してる。

 なぜ西側のギルドは中央区にあるのかと言えば、警戒区域から産出された生体金属ジオメタルを買い取った後にスムーズな売却をする為だ。ガーランドに構える生体金属ジオメタル産業系の企業は大体が中央区に有るので、外周区で買い取ってから中央区に運ぶよりは、最初から傭兵がバイオマシンに乗ったまま中央まで売りに来てくれた方が楽なのだ。

 都市の中での物資移動にだって多少の輸送費は掛かるのだから。最初から中央区で買い取ればその分の輸送費を節約出来るし、傭兵にとっても言うほどの手間じゃない。

 それで、東の方は何故外周区なのかと言えば、護衛依頼は基本的に『都市までの護衛』であり、都市に入った後は責任が都市に移る。だから都市の入口で手続きするのが一番手っ取り早く効率が良いんだ。この都市まで護衛で来て入口で解散。そしてギルドで今度はガーランドから出る護衛依頼を受けてさっさと帰る。そんな素早い仕事でぱぱっと稼ぐ傭兵も多く、外周区にギルドがある。

 西区と違って東区は都市の玄関としての面があるので、外周区も比較的綺麗で賑わってる。むしろ何故そこにスラムが発生したのかってレベルで外周区がちゃんと『町』である。

 まぁその代わり、外から来た荒くれ者の傭兵もバンバン外周を出歩いてるので、慣れてないと簡単にトラブる。綺麗な東区か汚い西区か、善し悪しだ。


「…………まぁ、今日の朝におじさんから聞いた受け売りも、ちょっと入ってるけど」


 後ちょっとで傭兵ギルドってところで、僕はシートの後ろにしがみついてるタクトにウンチクを語る。あと数分で傭兵ギルドだ。そこは流石に有名なので、端末が無くても場所は分かる。


「へぇ、いや、面白かったわ。町の作りってそうなってんだな。流石スラムの情報屋」

「……ねぇ、その情報屋って、僕のこと? 情報の売り買いとかした事無いんだけど。基本的に町の人って僕の話し聞いてくれないし」

「あぁ、いや、あくまで通り名だろ。お前の情報って正確だし細かいし、痒いところに手が届くって結構評判なんだぞ」

「…………初めて聞いたんだけど。皆、マトモに僕の話し聞いてくれないくせに、情報だけ使ってたんだ。ふーん」


 やっぱスラムはクソだな。おじさんとタクト以外信用出来ない。

 僕の言葉の一言でも気に入らないとすぐに殴ったり、酒瓶投げて来たりする癖に。一回頭に酒瓶クリンヒットして死ぬところだったんだからな。

 確かあの時も助けてくれたのって、タクトだったっけ? おじさんの所に担ぎこんでくれて、おじさんが仕方なさそうに治療してくれた。ナノマシンとかは流石に使ってくれなかったけど、ナノマテリアル系の止血薬と血管保護剤のお陰で助かったんだ。ナノマテリアルってすげぇー。

 多分あれ、ほっといたら脳内出血か出血量かで死んでたと思う。

 あー、ほんとスラムは命懸けだよ。殺しは一応忌避されてるのに、割と簡単に殺されそうになるの本当にクソ。


「もう二度とスラムで知らない人に情報なんて吐かないからな」

「いや、て言うか、お前もう金持ってんだからスラム出りゃ良いじゃん。もう部屋とか借りれる立場なんだろ?」

「そうだけど、なんか寂しくない? おじさんもタクトもスラムに居るのに、僕だけ外周区から出るの? なんか嫌だよ?」


 僕この町で名前知ってるの、タクトとおじさんだけだよ? …………ああ、今日もう一人増えたんだっけ。

 あれ、なんだっけ。ラベルさんだっけ? あれ? 逆? 違う?


「…………タクト、赤髪のお兄さんの名前覚えてる?」

「ルベラって名乗ってなかったか? …………え、お前さっきの今で忘れたのか?」

「……えへっ。僕、人の名前覚えるの苦手みたい」


 さて、ルベラお兄さんの名前を再確認した所で傭兵ギルドに到着!

 駐機場の入場ゲートは何処どこだろな? いや、傭兵ギルドなんて来る人は大体バイオマシン乗ってるんだし、その辺のバイオマシンのお尻を追いかければ良いでしょ。


「そだ。タクトも傭兵登録する?」

「んぁ? え、まだ乗機無いぞ? ラディアがその内用意してくれるってのは助かるが、今すぐは無理だろ」

「なんか、登録するだけなら乗機無しでも大丈夫みたいだよ?」

「マジで?」

「マジでー」


 さてさて、目の前の小型下級のアリ型偵察機アンシークを追い掛けてたらドンピシャで傭兵ギルドの駐機場へどん。

 さぁ乗り込もう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る