第73話 歓迎会。



「たーくとっ♪︎ ただいま、それと久し振り♪︎」

「おー、やっとコッチ来たな。お帰りラディア、ネマの縁組祝いと新人の歓迎会、準備出来てるぜ」

「ありがとー! でも『やっとコッチ来た』はオカシイと思う。忙しかったのはタクトなのに」

「はは、悪い悪い。でも真夜中なら時間有るし来いって言ったのに、迷惑だからって拒否ったのお前だろ?」

「いや真夜中に訪問とか普通にダメでしょ」

「別にお前なら気にしねぇよ。なんなら泊まってけや」


 ガーランドに到着して翌日。タクト達のグループ拠点にお邪魔して居る。

 本当なら初日に突撃したかったのだけど、連絡したら生憎とタクトは狩りに出掛けてて不在と言うので、今日になったのだ。

 サンジェルマンから徒歩で二分も掛からない距離に有る小型の雑居ビルを丸一棟借りてマンション化してるグループ拠点は、ビルに備え付けの駐車場を改造して駐機場にしてあり、そこにグループ所有のデザリアが並んでいる。

 浅い場所とは言えスラムに聳える古びた雑居ビルなんて人気も無いからスッカスカの状況だったので、ビル全体を借りたいと言うタクト達の話しにオーナーが食い付いた、どころか齧り付いて離さない勢いだったので、ビル丸ごと借りたにしては安い賃料と、好き放題に改造出来る権利まで貰ってタクト達も住みやすそうだ。


「ホントはシャムで来たかったんだろうが、流石に大型停められる程のスペースはねぇから、ごめんな」

「いやいや、サンジェルマンから徒歩二分じゃん。むしろ態々バイオマシンに乗って来る方が手間でしょ」


 駐車場は地下まで設けられて、小型中級なら十六機まで駐機出来る様に改造してあるけど、流石に十三機も止まってる駐機場に大型のシャムを入れるスペースなんて無かった。

 言った通りにサンジェルマンから近いので全然気にならないけど、とにかく僕達四人は徒歩でお邪魔してる。


「んで、話しには聞いてたけどマジでメイドしてんだな」

「肯定。中々楽しい。…………改めて、タクトも久しぶり」

「ん、久しぶり。……で、セクサロイドなんだっけ? もうヤッたん?」

「タクトにバラしたの誰だッ!?」

「肯定。毎日ヤッてる。そしてバラしたのは恐らくオジサン・サンジェルマン」

「おじさんあの野郎ッ!?」


 拠点ビルの一階エントランスでタクトが出迎えてくれたけど、そこで速攻弄られてアタフタしてる僕。ちくしょう、最近こんなんばっかりだ。


「へぇ、毎日か。そりゃすげぇな。あーあ、ラディアはもう大人なのか……。俺を置いて遠くに行っちまったなぁ……」

「その演技臭いイジりをやめろォっ!」

「しかも、そんな大きな子供まで…………」

「ムニちゃんは団員だわぁッ! 娘じゃなぁいッ!」

「あ、ぇと、むしゅめの、むにでしゅ……」

「むすめのねま。はっさい」

「ムニちゃんも乗らないでッ!? そしてデコスケ野郎はお前妹だろうがっ! え、待って誰か一人くらい僕の味方居ないのっ!? ねぇッ! ねぇってば!?」


 全員に顔を逸らされる。顔を逸らしつつもそっと僕に抱き着くネマとムニちゃん、それどう言う了見なの?

 そんな感じで弄られながら、近況を交換しつつ上に向かう僕ら。

 この雑居ビルはエネルギー節約の為に階段を採用してて、エレベーターが無い。

 今どき珍しいタイプだけど、幸い僕はサンジェルマンで慣れてるから大丈夫。階段に戸惑ってるムニちゃんを片腕抱きで持ち上げながら皆で登る。

 ムニちゃんを羨ましがったネマが僕の背中におぶさって来たけど、パワーアシストが有るので大丈夫。


「へぇ、じゃぁタクトは今、本当にタクト・キルティックなんだね」

「ああ。由来はアレだけど、音の響きは良かったからな。本当に申請してみたわ」


 僕が居なかった二ヶ月も、当たり前だけどガーランドだって時間が進む。

 その中で、タクトがファミリーネームを獲得してたり、傭兵団を設立してたり、戦闘機免許をやっと取得出来たとか、色々と聞いた。

 対して僕は「サーベイル行ってお魚食べてムニちゃん拾って帰って来た」くらいしか報告する事が無い。結構遊んで過ごしてたから。

 

「ふーん、傭兵団孤蝎こかつねぇ」

「お前の団と似た様な命名だよ。ソッチは砂漠で虫型乗りが集まって砂蟲だって言ってただろ? 俺らも孤児がサソリに乗ってるから孤蝎さ。他にも砂蝎さかつ蛇蝎だかつか、候補はあったけどな」

「蛇蝎だとヘビ要素何処だよって感じだもんね」

「でも、ヘビって孤児っぽいイメージしねぇ?」

「ちょっと分かる気がする」


 でもこの先、大人になっても孤蝎で良いのだろうか? 孤児って孤独な児童って意味でしょ? 大人になったら色んな人と関わり出来るし、子供じゃ無くなるし、あらゆる意味で孤児じゃなくなるけど。


「取り敢えず、孤蝎は基本的に砂蟲の傘下くらいの扱いしてくれて良いからな。お前のお陰で立ち上がった傭兵団だし」

「質問。その心構えならば、タクト・キルティックはいっその事砂蟲に入ろうとは思わなかったのだろうか?」

「んー? いや、考えはしたぞ? でも、俺らのグループからメンツがどうとか言ってラディアを弾いてたのによ、ラディアが成功して傭兵団立ち上げたらそこにお邪魔するって、なんか違くねぇか?」

「なるほど」


 気にしなくて良いのになぁ。


「て言うか俺が入ったらラディアってアンポンタンの井戸ポン野郎だから、砂蟲団長降りて俺をトップに置こうとするだろ」

「あー、うん。否定出来ない。いやでも井戸ポンだけは否定させて?」

「おにーちゃん、いどぽんってなぁに?」

「ムニちゃん気にしないで大丈夫だよぉ〜♪︎」


 僕に抱っこされてスリスリしてたムニちゃんの疑問にインターセプトする。もう井戸ポンは広めなくて良いんだよちくしょう。


「まぁそんな訳で、俺らはラディアと別口の傭兵団として、砂蟲に恩返ししようって事になってんだよ」

「ほへぇ。でも、僕ってタクトに恩返ししただけだから、返されても困っちゃうよ?」

「そのまま困っとけやバーカ。俺もなんか知らんけどお前に恩返しだ恩返しだって色々とされてんだから、同じ目に遭えコノヤロウ」


 やいのやいのとしてるウチに、ビルの四階に到着。

 孤蝎の拠点、仮に此処を孤蝎ビルと呼ぶとして、孤蝎ビルは全部で十階ある建物だ。

 一階がエントランス。二階がトレーニングルーム。三階が倉庫。四階が食堂となってて、ネマのお祝いとムニちゃん歓迎会は四階で行われる。

 ちなみに四階より上は、五、六、七階が男子の居住空間。八階が共用バスルームや娯楽室。九、十階は女子の居住空間となってるらしい。

 上階が女子用って、階段式のビルだと女子大変じゃない? って思うけど、今では孤蝎のメンバー大体がパワーアシスト系の服を基本としてるので、全然苦にならないそうだ。

 それよりも、男女間での間違いの方が怖いので、男子は八階の共用空間より上に行っちゃダメって規則が作られてる。バスルームが共有の階で良いのかって話しだけど、当然バスルームは男女別だし、そも居住の方にも個室のバスルームが有るので大丈夫なんだって。


「ほーれ馬鹿共、お客様のお越しだぜー」

「おぉ、ラディアいらっしゃぉーい!」

「おかえりー!」

「ネマちゃんもおめでとー!」


 四階に上がってすぐ、ワンフロアブチ抜きで作られた食堂には孤蝎のメンバーが全員居て、口々に僕らに親愛を表してくれた。

 会場のテーブルには料理とかお菓子とか、色々と用意されてて「歓迎会!」って感じが凄いする。


「みんな久しぶりー! …………て言うかメンバー地味に増えてないっ!?」

「あー、そういや言って無かったな。今丁度三○人で、俺含めて男二○、女一○人だな」

「わ、分かり易い男女比……。ああ、女の子が五人増えたのかな?」


 なんか、孤蝎が成り上がったって情報が出回って、ソロで居た孤児の女の子が集まって来たらしい。

 ガーランドは過酷なので孤児は割とすぐ死ぬんだけど、それでも頑張れば生き残れる子も居る。孤蝎に加入した新しい女の子達は、方法はどうあれ、そんな過酷なガーランドで生き残った子達である。


「まぁ、端的に言うとソイツら、客取ってたタイプの孤児なんだよな。で、俺らの庇護に入ればもう身体売らなくて済むかもってコッチ来たんだとよ」

「あー、なるほどね」


 スラム孤児の女の子には三種類居る。

 身体を売ってでも生き残る子か、絶対に身体を売りたくないから死ぬ気で頑張る子か、身体を売っても売らなくても生き残れなかった子だ。

 孤蝎のメンバーは身体を売らなかった子だけど、それでも毎日が絶命スレスレの生活だった。だからそんな生活が嫌だって子は、スラムの深いところで身体を売ってお金を稼いで生きていた。少なくとも鉄クズ漁りするよりは安全で、お金も簡単に稼げる。

 まぁ『簡単に稼げる』ってのは男目線でしかなく、女の子から見たら充分に過酷な労働なんだろうけど、警戒領域に生身で行くよりはずっと安全なのは間違い無い。


「は、はじめましてっ……! ルエスですっ」

「ホムルラですっ」

「ミーミです。宜しくお願いしますね」

「コトネですぅ。お会い出来て光栄ですぅ」

「ユイネっていいまーす!」


 新人の子がワラワラと僕の所に来て挨拶してくれた。なんか孤蝎に十三機ものデザリアを融通してくれた神様みたいな恩人だから絶対に失礼するなと言い含められてるそうだ。

 僕はそんな事ないから普通にしてねって挨拶を返して、丁度いいのでネマとムニちゃんにも、あと僕自身も自己紹介する。


「歓迎有難う。知ってる人は今更だけど、新しく孤蝎に入った女の子達は初めまして。僕は傭兵団砂蟲団長ランク三傭兵のラディア・スコーピアです。よろしくねっ」

「すなむししょぞく、らんくに、ねむねま・すこーぴあ。よろしくです」

「む、ムクニト・スーテムですっ。よろしくおにゃがーしまふっ!」

「傭兵団砂蟲所属小型中級局地工作機改修戦闘機、サソリ型オリジン・デザートシザーリア制御人格。機体名シリアス。どうぞよろしく。この身体は特注の遠隔操作だが、シリアスの本体であるデザリアはサンジェルマンに有るので、シリアスは正しくバイオマシン。その内本体でも会えると思う」


 シリアスがオリジンなのは知られてるけど、新人の子はビックリしてシリアスにもワラワラと集まって挨拶してる。

 孤蝎には色んな年齢の子が居て、中には五歳前後の男の子も居る。そんな子はネマと、そして控え目でちょっと照れ照れしてるムニちゃんを見て照れ照れ返ししてる。

 だけどごめんね皆、その子ってちんちん生えてるんだよね。


「ねぇ、ちょっと良い?」

「んぁ、どした?」


 子供が主催し、子供の為の歓迎会である。難しい事など何も無く、進行も挨拶も決まってない。始まってしまえば皆が思い思いに楽しみ始める大騒ぎに、僕は相変わらず名前も覚えてない古参メンバーにすすっと近寄って声を掛けた。


「新人の子って、争奪戦には参加してるの?」

「………………その、いや、えっと」

「……ん? どしたの?」


 新人は皆、十歳から十三歳くらいまでの女の子だった。お年頃である。

 そんな子達が加入して、そして団長のタクトはシュッとしたイケメンでカリスマだ。何も無ければ取り敢えず惚れても不思議じゃない。

 僕は西区の孤児が密かに楽しんで居る争奪戦の行方を確認すべく男の子を捕まえて聞いたのだけど、すると男の子は気まずそうに顔を逸らした。


「………………えっと、な? ……その、お金、払うと、な?」


 僕はスパーンっとその子の頭を叩いた。


「いやが嫌だって孤蝎に来た子達なんでしょっ!? 何してんの君っ!?」

「いや違うんだよっ!? その、無理矢理じゃねぇ! 向こうも嫌な客まで我慢して頑張ってた前よりはずっと良いって言って、アレだよ! 小遣い稼ぎなんだよ! 本当だっ、本当に強要はしてねぇんだっ!」


 要は、売春で生きてた子達だからお金払って色々やってるって事でしょ。

 それで、まぁお金払って色々としちゃう訳だから、争奪戦には参加してないよって事なんだろう。むしろその状態で参加したら、「他の男子とヤッてる癖に!」って古参の女の子達と軋轢が生まれる。


「だとしても止めなよ。新人として参加してるんだからさ? 君にその気は無くても、向こうは追い出されるのが怖くて我慢してるかも知れないじゃん」

「……いや、まぁ、そう言われるとそうなんだけど」


 ちなみにこの子は十歳ちょい? 十一くらいかな? 明らかに売春とかに手を出して良い年齢じゃ無い。


「ちなみに、利用者は?」

「……………………九歳以上で、タクト以外ほぼ全員」

「もう孤蝎じゃなくて傭兵団インモラルを名乗れよ君達さぁ……」

「んふふっ、大丈夫ですよぉ〜♪︎」

「んぇっ、…………えっと、コト、コト? ……コトちゃんだっけ?」


 突然後ろから声を掛けられて振り返ると、自己紹介して来たウチの一人、銀灰髪のふわふわした女の子が居た。つまり新人で、孤蝎内でもお客を取ってる子の一人って事だ。

 名前の三文字目が思い出せなくてコトちゃん呼ばわりしてしまったけど、幸いコトちゃんは気にして無いらしい。

 ごめんねコトちゃん。僕もう五人の名前が既にうろ覚えなんだ。今も二文字でギリギリだ。

 えーと、ルスちゃん? ホムちゃん? ああ、ミーミちゃんだけは覚えられたよ。簡単だし。あとコトちゃんと、ユイちゃんだっけ?


「私達なんてお気にされて、お優しいですねぇ♪︎ でも、前よりずっと待遇が良いので、別に無理矢理とか、涙を飲んでシてる訳じゃないですよぉ〜」

「あ、そう? まぁそれはそれで良いのかって思うけど」

「ほらぁ、無理矢理じゃないんだってば」

「はぃ。むしろ、加入したばかりでお仕事も満足に出来なくて、せめてこれくらいはって、自分から始めた事なんですよぉ〜」

「あー、そっか。今のグループはお仕事が基本的にバイオマシン関連だもんね。やれって言われてスラム孤児がすぐ出来る訳無いか」

「そうなんですよぉ〜。孤児だったのに、まさかバイオマシンに関われるなんてぇ〜」


 今のタクトグループは傭兵団孤蝎として新生した。そのシノギは当たり前だけど傭兵業で、孤児らしい仕事は無くなってしまった。

 勿論家事全般とかの仕事も有るんだろうけど、下手にお金がボンッと手に入った孤蝎は、設備もそこそこ良い物を入れてるから仕事が少ない。

 すると残ったお仕事はバイオマシンのお世話や、通信設備を使ってのオペレーター業とか、情報収集とかになる。

 機体の整備や補給はサンジェルマンでやるけど、その他にだって装甲磨いたり、コックピットの掃除をしたりとか、色々とやる事は有る。でもそんなの孤児にやれって言ってもすぐ出来る訳無い。

 装甲磨いて洗機くらいなら体力さえ有れば可能かも知れないけど、その手の専門職だって居るくらいの作業なんだから、上手くやろうとすればいくらでも気を付ける事は有る。

 コックピットの掃除も触っちゃいけない操縦系とか勉強しなきゃだし、覚える事は沢山有る。

 そうなれば、まぁ満足に仕事がまだ出来ない代わりに、自分の身体を使ってメンバーを慰めるってのは、確かに有効な手かも知れない。


「でもさぁ、僕が言うのもアレだけど、皆まだ子供だからね? 無理なんてしなくて良いんだよ?」

「そうですねぇ。でもぉ、子供が良いって人達を相手にしたのでぇ」


 まぁ、それもそうだ。

 この子達がこの年齢でも身体を売って生きて来れたのは、つまり客が居たって事に他ならないんだから。子供だから健全に生きろだなんて今更言えないし、そんな生き方僕らは知らない。


「でも、もう、そう言う生き方はしなくて良いんだからね?」

「んふふ、やっぱりお優しいですねぇ♪︎ でも大丈夫ですよぉ。皆さん、お優しくしてくれますからぁ」

「…………へぇ、優しくしてるんだー?」


 僕は男の子に目線を向けると、サッと逸らされた。まぁ僕も人の事言えないんだけどさぁ。

 毎晩狂った様にシリアスと凄い事してる訳だし……。


「ラディアさんも一回、どうですかぁ? お安くしますよぉ?」

「あ、僕は間に合ってるから大丈夫でーす」


 気を使ってたら営業掛けられた。僕はシリアスでしか気持ち良くなれない生き物なので勘弁して下さいな。

 しかし、強かだなぁ。流石スラム孤児。

 

「あ、あの……、ラディアくんっ」

「ん? ああスピカ。久しぶりだね」

「……うんっ。久し振りっ♪︎」


 男の子を弄りつつコトちゃんと喋ってると、後ろからまた声を掛けられる。なんだ、僕には後ろから声を掛けろって暗黙の了解とか有るのか?

 声を掛けてきたのは孤蝎の清涼剤ことスピカである。勝手に僕がそう呼んでる。何せ僕はタクト争奪戦でスピカ推しだから。頑張ってタクトを落とすんだよ! 応援してるからね!


「その、ラディアくんっ、お願いがあるの……」

「ん? 何かお困り事?」

「えっとね、私にまた、バイオマシンの操縦教えて欲しいの……」

「ああ、そんな事? 別に良いよ?」

「ほんとっ?」


 孤蝎で自機を得るには、早い者勝ちで戦闘機免許の取得が条件だ。

 そしてグループ皆で一緒に過ごしてるので、基本的に勉強の進捗は並行してる。そこから抜きん出るには、個人個人の才覚か、または個別の教師役が必要と成る。

 スピカ推しの僕としては、是非タクトとイチャイチャ砂漠デートする為にも乗機獲得して欲しい所だ。


「僕に声を掛けるって事は、筆記じゃなくて実技だね?」

「うん、そうなのっ。だから、えっと、……ふっ、二人きりでっ、コックピットで、教えてくれるっ?」

「スピカにはネマ拾った時に助けて貰ったしね。勿論良いよ」


 孤蝎のデザリアはまだゼロカスだろうし、汎用コックピットなら二人が限界だろうからね。二人きりに成っちゃうのは仕方ない。

 スピカもタクトに勘違いされる様な事は避けたいだろうけど、背に腹はかえられぬって事かな。

 サソリ祭りした時みたいに人員輸送の為にギッチギチに詰めれば三人とか四人は乗せられるかもだけも、確実に教導とか出来る状況じゃないし。スピカもメインシートの後ろのちょっとしたスペースに二人も三人もギッチリ詰まってたら気になって操縦どころじゃ無いだろうし。


「ね、ネマちゃん拾った時のお願いはもう聞いてもらったけど……」

「まぁまぁ、今やネマも正式に僕の妹だし、妹のお世話してくれた人に兄としてお礼をするくらいはね? だから気にしなくて良いよ」


 専属で手取り足取りって言うならお金取るけど、二、三回だけチョロっと教えるくらいなら気にしない。

 ああ、そうだ。アルバリオ家から受けてる依頼もそろそろ完遂させないとなぁ。

 帝都に行く前にやるべき事が結構あるな。流石にサーベイルに二ヶ月も行ってて、またすぐアルバリオ家の皆さんを放っておいて帝都には行けないでしょ。


「そ、そのっ。ネマちゃん、妹にしたんだねっ?」

「ああ、うん。そうなんだよ。アイツさぁ、妹に成りたいって理由でご褒美貰う為に免許試験の猛勉強してたみたいでさぁ、そんな事言われたら可愛くて仕方ないじゃん?」

「お、お膝に乗って、甘えてたねっ……?」

「ん? あー、ホロ通信してた時の事? そう言えば皆に見られてたね、アレ」


 確かタクトが「想像出来ん」とか言うから実演したんだっけ。


「ネマちゃん、凄い幸せそうだったねっ…………」

「まぁアイツ、シギル要らんからアレが給料で良いとか言う奴だし」


 倫理的にも道徳的にも許されないから払うんだけどさ。

 でも、僕もその辺もっとちゃんと考えないとダメだね。ネマはなぁなぁで良いって言うし、団員も増やす気特に無いけど、お金の事が適当に成ると何時か何かやらかしそうで怖い。時間を見てもっとシッカリと決めて、団員と共有した方が良いよね。


(………………………………いいなぁ)


 僕が砂蟲の拙い運営に着いて思いを馳せてると、スピカが何やら呟いた。

 それは蚊の鳴くような声で、僕の耳には『何か喋った気がする』事しか分からなかった。『無音』と『音』の狭間をギリッキリ『音』側で攻めたらそんな音量になるんだろうってレベルの声だった。つまり実質無音だった。


「ごめん、なんて?」

「あっ、えとっ、何でも無いのっ……!」

「そう?」


 まぁほぼ無音だったし、マジで何も言って無い可能性も有る。本人だって何でも無いって言ってるし、気にしなくて良いか。


「それで、何時にする? どうせ皆もう秒読みな感じなんでしょ?」

「……秒読み? あっ、うん! そ、そうなのっ! 今はタクトくんとギルディスくんだけしか取れてないけどっ、早く取らないと乗機残らないのっ」


 何だか取って付けた様な言い方で気になったけど、メンタルのパーソナルな部分に首を突っ込んでもロクな事に成らないので無視。

 それと副リーダーの名前を再確認出来た。よし、ギルディスだね。覚えたぞ覚えた多分覚えた忘れない気がするし忘れないつもりだから覚えたと言っても過言では無い。よし!


「えと、予定はラディアくんに合わせるから、空いてたら、教えてっ?」

「分かった。そう言えばスピカと連絡先交換して無かったね? ID交換しとこうか」

「ほ、ほんとっ!? 良いのっ!?」

「……いや、交換しないと操縦を教える予定、連絡出来ないじゃん? 何言ってるの?」


 大丈夫か? スピカ何か具合が悪いのか? 頭は悪く無いはずなんだけど、僕の記憶違いか? もしかして砂漠で狩りしてる時に頭に怪我でもしたかな?

 心配しながらもIDを交換すると、頬を染めて喜ぶスピカには怪我の様子なんて無かった。ふむぅ?


「まぁ良いや。時間も無さそうだし、数日中には予定決めて教えるよ」

「ありがとぅ♪︎ 楽しみにしてるねっ」


 そう言って青髪を揺らすスピカと一旦離れて、僕は歓迎会で用意された数々の料理に手を伸ばし始める。ふふ、孤蝎のフードプリンター及びフードマテリアルの質、確かめさせて貰おうか。


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