第16話 積立金。
「ほれ、現金を自分で入金しに行くか、支払いを振込に変えるか、どっちが良い?」
「振込でおなしゃす」
傭兵ギルドを出て、今度は完全に正しく免許を持ってシリアスに乗り、マシンロードをガショガショ歩いてスラムに帰って来た僕。それとタクト。
整備屋サンジェルマンに帰って来ておじさんに諸々を報告すると、何でも無い様に「ん、おめでとさん」って言ってくれた。もうちょっと劇的に祝われたかった気もするけど、この気の無い感じこそがおじさんっぽくて、コレはコレで良い気がする。
それで、鹵獲機の売却金を受け取る段になって、残りを現金払いから振込に変えるか、全部このまま現金で受け取って自分の手で入金しに行くか、好きに選べと言われた。
ノータイムで振込に変更をお願いする。僕の口座はギルドで開設したので、入金はギルドで行うのだ。
…………またギルドに行くとか、冗談じゃない。少なくとも今日はもう嫌だ。行く必要が出て来ても、最低でも日にちを明けたい。
「はは、その様子だとギルドの洗礼は受けたみたいだな」
「知ってたなら教えてくれても良かったのに……」
「知らずに食らった方が鮮烈だろうが。そう言うのはな、強くキツく頭に焼き付けとくもんだぜ? 教訓としても重要だが、歳食ってから想い出とするにもその方が良い」
含蓄が有るお言葉だった。
僕もこのまま大人になって、傭兵として成功して行くなら、未来の僕が誰かに、「俺のガキの頃は〜」なんて語りもするのか。そんな未来が来たら良いな。
確かに、それなら多少はインパクトの強い思い出として記憶してた方が、面白オカシク語れるだろう。
「ちなみに、現金を入金したいだけなら別にギルドに行かなくても良いんだぞ? 銀行系の企業に行って口座連携するばそっちでも振り込める。まぁ、殆どの傭兵はギルドで入金するがな」
「…………受付嬢に、経済力を見せ付けたいからですね?」
「おお、その辺の事情も誰かに聞いたのか? 大体はその通りだな。あとは、別の企業や行政系から入金すると手数料が掛かるからな、そのちょっとした節約って理由も有るだろうさ」
なるほど。勉強になる。
僕は今日だけで、いったいどれ程賢くなったのか。情報は大切にしてたけど、まだまだ知らない事がいっぱいだ。
「んじゃ、まぁ俺も仕事を終わらせるかね。ラディア、一旦全額受け取ってから、修理費を払うのと、修理費を天引きした額を受け取るの、どっちが良い?」
「どう違うんですか?」
「最終的に変わらんが、どんな些細な物でも金の移動は都市に見られてるからな。受け取る金額は少しでも多い方が印象に残せるぞ。キッチリ三○○万受け取るのと、二九九万受け取るんじゃ、字面で見るインパクト違うだろ?」
そう言う小さな事を気にして、積み重ねてランクを上げて行く傭兵も少なくないらしい。
「どっちの方が、おじさんは楽ですか?」
「そりゃ天引きした方が手間も無いだろ」
「じゃぁそっちでお願いします」
「あいよ。じゃぁコレが渡しそびれてた見積書と、領収書と、まぁ色々だな。ペーパーで受け取るか? 端末に送るか?」
「端末でお願いします」
「おう。ちなみに、一応、口頭で修理費を伝えると六四○○シギルだ」
これで、今回の取引が正式に終わる。
僕とシリアスが売った鹵獲機のお金を全額受け取って、それから修理費用もちゃんと払って、おじさんの整備屋としての仕事が、正しく終わりを迎える。
修理費もシリアスが予想した通りに一万を下回った。安いのか高いのか分からないけど、シリアスによると簡単な作業らしい仕事だけで、一般市民の月収の二倍も掛かるんだから、やっぱり高いんだろう。
戦争経済が古代文明遺産と結び付いて進化した、特殊な流れを持つ傭兵経済はやはり、お金の流れが乱暴だ。同じ町に、同じ都市に生きてるのに別の流通と言うか、前提とかが完全に違ってる様に思える。
「ああ、それと…………。ほれ、俺からの贈りもんだ。まぁ俺の負担ゼロなんだが」
「………………ふぇ?」
そして、最後の最後に、おじさんからもう一回、口座に振込された。
三○○万から現金で貰った二万シギルを引いて、更に修理費の六四○○シギルも抜いて、口座の残高は二九七万と三六○○シギルのはずだった。
けど、おじさんから再び入金されて、残高が三○○万と九四八○シギルになってる。
つまり、何故かおじさんから三万と五八八○シギルも振り込まれたって事だ。
「…………おじさん、これは?」
「積立金だよ。お前の金だ」
つみたてきん。………………って何?
「お前からボッてた
………………………………はぁ?
え、なんっ、なに? 僕のお金? 貯金?
「まぁ、勝手に貯金なんざキレるのも分かるが、デカい額の金ってのは…………」
「ち、ちがっ……」
あー、涙腺が緩む。
違う。怒ってなんか無い。逆だ、感動して、嬉しくて、幸せで、泣きそうなんだ。
だって僕、買い叩かれてた分は納得してたのに。それが、買い叩いてた訳じゃなくて、僕用の貯金に回してる分だったの?
「ぼ、僕…………、別に、少し安くても、それは、迷惑料だと思ってっ」
「あー、泣くな。泣くな止めろ、そう言うの苦手なんだよ。止め止め、ほれ、泣くなって」
ああ、ああ涙が止まらない。こんな、不意打ちだ。ズルい。
「だって…………!」
「あー馬鹿野郎! 泣くなって! テメェの金をテメェに返しただけだろうが!」
だって、こんなお金、大金だ。僕は下げられた買取額に納得してたのに、おじさんだって、僕から取りたくて取ってる訳じゃないってのは知ってたから。
僕はスラムの嫌われ者だ。誰も僕の話しを聞いてくれない。そんな僕が出入りをして、僕から
そんなに多くは無かったみたいだけど、僕のせいで損害が出てたんだ。それでも僕から買い取ってくれて、お金を払ってくれた。だから、その損益分を少しでも回収する為に、仕方なく僕から余計に利益を持って行ってるんだと思ってた。
なのに、なのに…………。
「おじ、おじさんっ…………」
「もう泣くなっておい! ガキに泣かれんのマジで苦手なんだよ!」
ああ、ああおじさん。おじさんはやっぱり良い人だ。この都市で一番信用出来る立派な大人だ。
もう、シリアスに出会ってから僕の涙腺はぶっ壊れてる。幸せに耐えられない。僕こそが砂漠のオアシスだってくらいに水分が出てしまう。
おじさんは、僕が
「ありがとぅ…………! おじさっ、ありがどぉぉぉッ……!」
「わーった、わーったから! 俺が悪かったから! 泣くなって!」
「だってぇ……」
無理。無理過ぎる。こんなの泣く。
ああ、僕は幸せ者だ。シリアスが居て、タクトが居て、おじさんが居る。
全然違う、不幸じゃなかった。こんなに親身になってくれる人が居て、不幸な訳が無かった。
「おじ、おじさんっ、だいすきぃ……!」
「あーもう! そんな喜ぶな! お前の金だってんだよ! ちょっと目端の効くガキを助けて、後々の常連にしてやろうって言う俺の経営戦略だよ! ほれ、実際に三○○万なんてデカい商談が出来る奴になっただろ? 俺の見る目があったってだけの話しだから、泣くなって!」
それってつまり、僕に期待してくれてたって事でしょ? 余計泣くに決まってるじゃん。
「なぁ、俺のは?」
「あ? テメェのはねぇよ。お前らから買い取る時はほぼ規定通りの金渡してただろうが」
「ちょっとはボッてただろ!」
「それは普通にボッてたんだよバーカ」
「ちくしょう! おいラディア! こいつ全然良い人じゃねぇぞ!」
いや良い人だよ。何言ってるのタクト。
こんなに立派で優しい人格者、他に居ないよ。少なくともこの都市には。
「くそぅっ、俺らは成り上がれねぇって思われてたんだなっ」
「つーか、お前らはラディアが成り上がったら自動的に助かると思ってたしよ。実際そうなってんだろ? どうせ、ラディアがそのうちお前に乗機を用意するとか言ってんだろ?」
「大正解だよ馬鹿野郎! くそっ!」
「ほれ。ラディア助けとけばお前らも助かるじゃねぇか。そんでお前が稼げる様になったら、お前んとこのガキ共もそのうち乗機持ちだろ? ほーら、ラディアを助けるだけでウチのお得意さんが何人も増えるな? なんつー費用対効果だ。俺は自分の商才が恐ろしいぜ……」
「くそっ、別に
「お? 俺は別に構わねぇぜ? 乗機持ちの孤児なんて美味しい獲物っつぅ自覚がねぇなら、スラムで他の整備屋でも行って、盛大にボッタくられると良いんじゃねぇか? ん?」
止めなよタクト。おじさんが僕らをイジめる気が無い時点で、どうやっても整備屋サンジェルマンを利用するのが一番になっちゃうんだし、言い合いで勝てる訳ないじゃん。
「ふふ、タクトとおじさんは仲良しだね」
「
「節穴か?」
「酷い」
気持ちが落ち着いたので、涙を引っ込める。それから思い出して、僕は腰のホルスターを外しておじさんに返す。
「おじさん、貸してくれてありがとう。使いやすかったよ」
「使ったのかよ」
「うん。
「良くやった。殺したか?」
「うんっ!」
「へ、そうか。じゃぁコイツも、キラーの仲間入りってこったな」
おじさんはレトロ好きで、それと拳銃コレクターでもある。
キラーって言うのは、現代の法律に於いて『民間人が手に入れられるグレードの内の、人を殺した記録のある銃』を表すコレクター用語で、それだけで価値が上がるらしい。
現代だと一般人が一般人を撃つ機会なんて、ほぼ無いし。軍や貴族なんて立場の人達ならまだしも、民間用の銃で人を殺した経験のある実機は、それだけで希少価値が生まれる。
「ほーれタクト、分かるか? 俺はラディアに銃を貸しただけで、ラディアの安全に寄与しつつ、ラディアに恩を売れて、しかもこうやってコレクションがキラーになって資産価値まで上がる。たった一手をラディアに打つだけで利益しかねぇんだ。こんなガキに目を付けた自分の商才が怖過ぎるぜ…………」
「稼いだなら還元しろよな」
「するぜ? ラディアにな」
「クソが!」
やっぱり仲良しだ。
て言うかおじさん、撃つの躊躇うなって勧めてたり、オリジンの権利を教えてくれたりしたのって、あわよくばコレクションがキラー化するのを狙ってたのか。確かに失敗しても損は無くて、成功したらハッキリと得。まさに商才なんだろう。
「特注品がキラーって、高いの?」
「おう。お前が俺に払った修理費の二倍くらいはするんじゃねぇか?」
「うわっ、護身用規格の拳銃でそれは…………」
普通の市販品なら二○○シギルくらいだよね、拳銃って。
「あ、そうだ。おじさん、僕も武装許可貰ったから、銃買いたいんだけど、借りた拳銃って
「お? なんだ、気に入ったのか?」
「うん。撃ち易かった。持ち易いし、ブローバックもカッコよかった」
おじさんは上機嫌でメーカーを教えくれた。既製品も売ってるけど、かなり無茶な要望の特注品でも綺麗に仕上げてくれるメーカーらしくて、自分だけの物が欲しいって人に人気のメーカーとして有名なんだそうだ。
「俺の注文した仕様書とプリセットも送ってやるから、それを元に注文すればレプリケート生産ですぐ届くぞ。もうお前も端末持ってんだから、都市部に行かなくてもネットで注文すればドローンが届けてくれるしな」
「あ、じゃぁ医療用ナノマシンも注文すれば届くのか。また往復するの大変だしね」
「店舗でしか扱ってない品とかも有るから、ネット注文も善し悪しだけどな」
僕は早速ネット注文をした。もう口座に三○○万シギルも入ってるので、ネット決済も可能だ。
でも端末操作がまだ覚束無いので、操作そのものはハンガーに居るシリアスが手伝ってくれた。
「銃は特注と既製の注文完了。タクトのナノマシンも、一五○○シギルの医療キットのセットを予備含めて注文したから、また怪我人が出たら遠慮無く使ってね」
「…………ありがとな。恩に着る」
「脱い……、ダメだ、物理的に恩を着てる状態だった……」
「はは、脱ごうか? もうスラムだし、別に良いぜ?」
それから、普段使い用のオシャレ眼鏡型のウェアラブル端末も注文。それと、一つ思い付いて、僕とタクトが使う端末と同じ物をもう一つ注文した。
「シリアス用の端末も注文した! これでちゃんとシリアスとチャット出来る!」
「ああ、そうな。お前の端末を間借りしてる感じだから、チャットの発言がお前の端末IDだもんな」
「そう! て言うか、人の端末を無許可で外部操作するのって結構な重罪みたいで、幸いまだ僕とルベラお兄さんの端末しかやってないけど、もし知らない人の端末とか外部操作してたらヤバかったみたい。お兄さんは兵士さんだから、オリジンに対応する為って事で融通利いてたけど」
「まぁ、そりゃそうだろ。プライバシーもクソもあったもんじゃねぇし」
これで、シリアスのコックピットにシリアス用の端末を置いておけば、何時でもお話し出来る。
通話しながらだったら、遠くに居ても声が届くから、相互にやり取り出来る。
「今思ったんだが、機体にも通信機能有るよな? 端末からそれに繋ぐって出来ないのか?」
「あー、ダメみたい。シリアスからの操作なら出来るけど、現代技術程度の端末からだと繋げないみたいだよ。機体用の通信領域って、端末用のと違うみたいだし」
シリアスはオリジンなので、シリアスからクラックって形で通信を繋げる事は出来るけど、端末側からは通信領域の規格が違うので無理。
バイオマシンは古代兵器で、その通信には秘匿性が求められる。だから現代人が使う情報端末程度じゃアクセス出来ない高度な通信領域を使ってるんだって。
「あ、でも現代機に対してなら出来るらしいよ。現代用の通信機に積み替えたりしてるから」
「なるほどなぁ。でもオリジンだから通信したいのに、現代機ならセーフって意味ねぇな。パイロットの端末に繋げば良いんだし」
「そだね。まぁ、だからシリアス用の端末を注文したんだけどさ」
そんな雑談をしてると、早速注文の品が届く。
整備屋のハンガー区画のゲートから二機のドローンが入って来た。医療キットパックを二つ持ったドローンと、シリアス用の端末が梱包されたオシャレな箱を持ったドローンだ。
特注の銃はまだ少し時間がかかるみたい。
「はい、タクト。これでグループの子も治るよね」
「おう、ホント恩に着るぜ」
「良いから、早く行ってあげて」
タクトに医療キットパックを二つとも持たせて背中を押す。走り去るタクトを見送ってから、残りの一つも開封してシリアスに持って行く。
「はい、シリアス! シリアスの端末!」
僕がタクトを見送った辺りでおじさんも仕事を再開してて、別のハンガーに入ってるバイオマシンの整備に戻った。相手をしてくれる人が居なくなったので、僕はシリアスのコックピットに入ってキャノピーを閉じた。
「シリアスぅう〜♪︎」
見てる人が居なくなったので、もう僕はシリアスしゅきしゅきアッピルを我慢しなくて良い。
まだ少しつーんってしてるシリアスが可愛くて、シートもハンドルも撫でまくる。
『つーん』
「可愛い!」
ビックリした。シリアスに端末をあげたら、早速使いこなしてる。
チャットじゃなくて音で返事が来て、思わず可愛いと叫んでしまう。
「シリアス、何これ? 声出せたの?」
『テキスト読み上げ機能を持ったアプリケーションをダウンロードした。端末を置くコックピット内に限り、音声による会話が可能』
「凄い! 本当にお喋り出来るようになっちゃった! 声も可愛い!」
シリアス用の端末から、凄く可愛い声が聞こえる。少しだけ合成っぽさは有るけど、違和感が殆ど無い女の子の声だ。
感情の起伏が少ない感じのシリアスでも、優しく柔らかく聞こえる声音で、多分この合成っぽさはわざと残したんだろう。
「ふわぁ、幸せだなぁ。シリアスとお喋りしちゃった」
『幸せにする。その一環』
胸がズキューンてした。しゅき。
ああ、こんなにちゃんと端末を使うなら、ダッシュボックスに仕舞わないで、専用のラックか何か買ってコックピットに吊るせる様にしようか。
「シリアス、コックピットに置く周辺グッズ買お? 端末入れて置くケースとかさ」
『了解。しかし、購入は今で良いのかを検討して欲しい』
「……? ダメなの?」
『機体の改造を行う場合、コックピット内部も変える可能性がある。グッズを今購入して、カスタム後に使えなくなる可能性を指摘する』
「なるほど! 言われたらその通りだね! うーん、じゃぁ先に、シリアスのカスタム計画を立てようか」
『その計画を推奨する。多額の通貨を稼ぎ出したとは言え、無駄遣いは極力控えるべき。生活水準を引き上げる場合は特に。金銭感覚が壊れると修正困難』
「…………しゅ、しゅごい。シリアスが僕の奥さんみたいだ。…………あ、シリアス! 僕とシリアスって結婚出来るんだって! 結婚しよっ!?」
『了解した。ハネムーンはそこの砂漠で構わない』
「やだよ! もっとちゃんと新婚旅行しようよ! いや僕とシリアスが出会った思い出の場所だからある意味適格かも知れないけどさッ!?」
ロマンの欠片も無いプロポーズが秒で受け入れられて、僕はシリアスと婚約した。
五年後に、いや四年とちょっとかな? とにかく数年後に結婚します。
『端末を得て正式に都市回線の通信領域使用権が手に入って助かった。非正規アクセスは気を使う』
「もうやらないでねってギルドに言われちゃった。他人の端末へのアクセスと、都市回線への不正アクセスは、正式にマシンコードを得るまでのオリジン定着期間として誤魔化しとくって言われたよ」
『把握。以後気を付ける』
シリアスが音声会話出来るようになって、普段使い用のウェアラブル端末が割と無駄になったけど、シリアスとカスタム計画を立てるのには結構役に立ったのでセーフとしとこう。
ゴーグルは首に提げて、眼鏡をかけて、ウェアラブル端末にシリアスの端末が表示する情報を共有する。僕の端末の情報はシリアスが勝手に見る。
他人の端末は勝手にアクセスすると怒られるけど、僕とシリアスは他人じゃないし、そもそも『勝手にアクセス』が違法なんであって、僕が許可するなら僕の端末は好きに出来る。
「じゃ、まずはコックピットのカスタムから?」
『そうする。なにせ、シリアスは汎用コックピットだからオシャレじゃない。つーん』
「可愛いっっ! もう、もう! 良いもん! 凄いオシャレで可愛いコックピットにしようね! シリアスにピッタリのやつ!」
『了解。シリアスはラディアのセンスに期待する』
「待って一緒に選ぼうッ!? シリアスのコックピットのカスタムなんだよッ!?」
『否定。シリアスが検索した情報には、人間は伴侶を好きに着飾って良い文化が有ると出た。よって、ラディアはシリアスを好きにカスタマイズするべき。そして、シリアスはラディアを着飾る権利を有する。現在、シリアスはラディアに着せる衣料品を二万パターン程試行している』
「二万ッ!?」
いや、えっ? つまり、なに? こう、お互いにコーディネートし合おうねってこと?
…………死ぬっ。幸せ過ぎて死ぬっ。シリアスの発想と行動が尊く可愛いッ。
『シリアスはラディアに、シギルの使用権を要求する。精査の結果、五パターン程ラディアのコーディネートが決定した。早急にシリアスの口座に送金するべき。口座のIDを送る。早急に送金を。送金を』
「待って待って待って。
『今。ネット申請による開設を行った。オリジンは人権を持つので問題無く開設可能。なので、半分程要求する。早急に送金を要求する』
端末を得た瞬間から、シリアスが凄いアグレッシブになってる。可愛い。積極的な恋人で僕は幸せだ。
取り敢えず、言われた通りに送金する。と言うかこれほぼシリアスのお金だからね。本当ならほぼ全額送金するべきだよ。
僕が本当に自由にして良いのは、おじさんが積立てくれてた三万と五八八○シギルだけだ。
「ごめんねシリアス。本当は自分の稼ぎでプレゼントしたいけど……」
『不要。気にしなくて良い。人間には共有財産と呼ばれる文化が有るとシリアスは知った。これは夫婦の共有財産』
もうずっと胸がキュンキュンしてる。シリアスが好き過ぎて頭が弾けそうだ。
お互いに一五○万程のシギルを口座に入れて、お互いに贈る物をネットで漁る。もちろん僕の方は少し使ってあるからちょっとだけ目減りしてるけど、総額から見ると大した金額じゃない。
「でも、相談はしても良い? シリアスが好まない物とか贈りたく無いからさ。最終的に僕が選ぶにしても、その候補はシリアスとも選びたいな」
『了解した。候補選定はシリアスも手伝う。候補の候補はラディアが選択すると良い。シリアスはラディアのセンスに期待する』
期待が重い……!
『シリアスは、ラディアにオシャレだと思われたい。結局ラディアが好むデザインが優先される』
「もう! そんなに可愛いこと言われたら嬉しくて死んじゃうでしょ!」
『困る。ラディアのバイタルが異常値に推移しない様に生命維持装置の稼働率を引き上げる』
空気中にナノマシンを散布してパイロットの生命活動を助ける装置があるらしくて、シリアスはそれをブン回し始めた。これは砂漠で死にかけた僕を助けた装置らしくて、ハイマッド帝国製の機体なら大体標準装備されてるそうだ。
他国も標準装備だろうけど、流石に他国の軍機の装備とかシリアスも知らないって。
現代機だとオリジンほど上手く扱えないから、物によってはオミットしたり積み替えたりしちゃうらしいけど、シリアスは自分の体の機能を自分で使うだけなので問題無い。
人が管理するよりオリジンが管理した方が良いから、古代文明の機体は
要らないって人は、「俺はやられたりしねぇ!」って言い分らしい。馬鹿なのか。誰だって自分は殺られないって思ってるけど、それでも殺られるから生命維持装置が必要なんじゃないか。
「まぁ良いや。ねぇシリアス、このコンソールシステム良くない? オシャレじゃない?」
『華やか。しかし些か女性向けのデザインだと思われる。ラディアは自分が乗るコックピットだと認識するべき』
「え、僕別に、可愛いコックピットでも嬉しいよ?」
『なら良い』
僕がギルドでミラージュウルフの特殊コックピットを褒めたのが結構気になってるらしいシリアスに、僕はオンリーワンなコックピットを贈る為に色々と調べる。
コックピットブロックからの特注は相応にお金がかかるみたいだけど、それでもその価値があると思う。
僕は、そうやってシリアスとイチャイチャしながら、カルボルトさんから連絡が来るまで時間を潰した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます