第15話 特別待遇。
面談と講習は、恐ろしい程スムーズに終わった。
「はい、以上になります。何かご質問は?」
「ありません。ありがとうございました」
「いえいえ、ではどうぞ、素敵な傭兵ライフを送って下さいね」
とても平の職員には見えない、他とデザインの違った黒くてビシッと決まってる制服に身を包んだ優しげなお姉さんが、ニコニコ笑ってる。
面談は個室。講習もそのまま同じ部屋で同じお偉いさんっぽい若くて綺麗なお姉さんから受けた。アンチエイドかも知れないけど、『若くて綺麗な』お姉さんで良いのだ。良いったら良いのだ。僕は命が惜しい。
僕と同じ黒髪で、長くて艶々でさらさらな髪のその人に、僕は僕を取り巻く色々を聞かされた。
取り敢えず、僕が下で予想してた事は大体合ってた。僕がシリアスに乗ってガーランドに入った時点で、都市管理システムに追跡されて、監視されてた。
何かヤラかさないか、事件にならないか、慎重で繊細なサポートを実施する為に常に監視し、あらゆる職員をそれとなく近くへ配置し続ける。
配置された職員も、僕とシリアスの事を知らずにそれとなく付けられ、あからさまな態度で僕達のストレスにならない様に気を付けての配慮。
勿論、何か起きたらすぐに近くの職員に連絡が飛んで駆け付けられる程度には、事情を知らなくても何とか出来る配置と采配を徹底して。
僕とタクトが買い物をしてたビルにも、食事をしたハンガーミートにも、専門の私服職員を配置してあったそうだ。
マシンロードの通行記録も取ってあり、僕の操縦も既に精査された後だった。なので実技試験免除。
勿論、シリアスが自分で動いた時とそれ以外で記録を分けてあって、僕が自分で操縦してた時の記録を精査した結果、実技試験は合格判定らしい。
本当は機体の記録に直接アクセスして精査したかったらしいけど、シリアスのシステムは古代文明基準のセキュリティなので干渉出来なくて、仕方ないから都市管理システムのオートスキャンで常時スキャニングを実行、コックピット内の僕とシリアスの動作の統合性を擦り合わせてやっと精査が完了したそうだ。凄い大変だったって笑顔で言われても、知らなかったんだもん。どうしようも無いでしょ。
でも、操縦が上手いって褒められて嬉しかった。一応、シリアスから僕の操縦記録を貰えるならそれも欲しいって言われたので、後でシリアスに聞いて見る。
それから、ずっと監視されてたので、僕の人物判定も既に終わってた。ぶっちゃけ面談要らなかったそうだ。
兵士三人を殺害したところは少しアレだけど、それもオリジン関連の権利を利用した正当な行為だったから咎める事は出来ず、僕がガーランドで過ごした五年の記録を見れば二百点満点の花丸が四重丸くらい貰えるくらいに善良だったそうで、武装関連の申請は全部クリア。
僕の生活も、記録されてたのかぁ…………。
なんか、こう、変な気持ち。
そんなに見てたなら助けてくれよって叫び散らしたい怒りと、僕が僕を汚さない様に頑張って生きて来た四年を都市公認でちゃんと「綺麗だったよ」って認めて貰えた嬉しさが、ごちゃ混ぜになって僕の頭をメチャクチャにする感じ。
あとは、このオリジンの権利に対する正しい知識とか、都市の職員さんが僕をどう思ってるとか、色々聞いて、もう、いっぱいいっぱい。
一番ショッキングな出来事は、シリアスの人権が認められてるから、本気で結婚したければ出来るよって言われた事。
なんか、何故か、僕のガチ告白に情報まで詳細に知られてて、僕は悶絶した。
なんでだよ。誰だよ。僕がシリアスにしたガチ告白なんて誰がバラ蒔いてるんだよ。
あれ知ってるのって、……………………ルベラお兄さんかッッ!?
ギャン泣きしながら全部ブチ撒けたから、ルベラお兄さんは僕のガチ告白を知ってるし、シリアスもなんかテキスト沢山送ってたからそれも有るかも。
マジかよ許さないからなルベラお兄さん。良い人だと思ったのに、いや良い人なんだろうけど、それとコレとは話しが別だ。
………………でも結婚はしたいので、後でシリアスへ正式にプロポーズしたいと思う。
でも、帝国では結婚が許されるのは男女共に十五歳からだそうなので、あと五歳分待たねば。もどかしい。
あとあと、凄い下世話だけど、外部操作が可能なセクサロイドとかも有るって教えて貰った。このお姉さん見た目に反して爆弾をガトリング砲みたいに投げて来るぞ。
本来は遠距離恋愛用で、VRモジュールとか使って遠方の恋人と肌を重ねる為のセクサロイドらしいんだけど、つまりネットワークを介してセクサロイドを動かす技術なので、人の端末にクラックかけられるシリアスなら、そういう事も出来ちゃうだろうって言われた。
………………めっちゃ興味有るので端末に資料を送って貰った。
凄い恥ずかしかった。お姉さんがニマニマしてるんだもん。あらやぁーねぇって顔するんだもん。
でも有用な情報なので貰います。情報は凄い大事だって僕は知ってる。オーダーメイドで好きな見た目に作れるそうなので、シリアスが成りたい自分に成れる様に、どんなグレードでも買えるくらいお金を稼ごうと思います。
…………お値段なんと、最低でも一五○万シギルだそうで。オプションとか色々付けるとバンバン値段が跳ね上がるらしい。くそっ、そんなに僕を誘惑して楽しいかっ……! お姉さんの悪魔め!
「…………失礼します」
「はーい♪︎ また来てね♪︎」
用事が無ければ来ないよ。
僕は明らかに権力の強そうな制服を着たお姉さんに挨拶をして、部屋を出た。
二階で待ってるカルボルトさんとタクトの元に向かう途中、僕の頭を支配してるのはシリアス・in・THE・セクサロイドだ。実に脳内の九割を持って行かれてる。
ええい消えろ僕の煩悩! まだ僕とシリアスはプラトニックなお付き合いをするんだっ! て言うかあくまでシリアスの本体はデザリアなんだから、バイオマシン並に高額なセクサロイドなんか買うよりもシリアス本体のカスタムが先だよッ!
僕はシリアスが好きになったんであって、シリアスが動かせるセクサロイドを好きになる訳じゃないやい!
たとえ触れ合うだけが限界だったとしても、僕はずっとシリアスが好きだし、別に人間規格なんて成らなくてもシリアスは最高に可愛いから問題無い。
そもそも、セクサロイドをどれだけ可愛く美人で色気ムンムンにデザインしたとしても、シリアス本体の可愛さには勝てない。
きっとフルカスタムしても、改修しても、なんなら
シリアスがシリアスで在れば、もうそれだけで可愛いのだ。だって天使なんだから。どれだけ凶悪なボディを手に入れたとしても、中身が天使なんだから実質天使。天の使い。そういう事なんだ。
「だから僕は煩悩に抗おうと思います!」
「お、おう……? なんだ、分からんが、頑張れよ………?」
「…………ああ、井戸ポンか」
「井戸ポン言うな!」
僕はギルドの二階と三階より上を繋ぐ専用エレベーターに乗って帰って来て、待っててくれた二人に宣言した。井戸ポンは止めろ。
専用エレベーターは一階と二階を繋ぐ地獄の混沌エレベーターとは違って、とても空いてた。職員から上に呼ばれた人だけが利用するので、あんな地獄は形成され無い。
「で、どうなった?」
「はい。えっと、武装許可全部通って、免許も既に発行されてます。なんか、オリジンで都市に入った時点で都市システムにトレースされてて、その間の操縦も記録されてるから実技要らないそうです」
「おお、即日どころか即時発行だったのか。流石は
発行された電子ライセンスはもう、情報端末に入ってる。
自由臣民権やら税金やらの公文書も全部もう発行されて端末に入ってるので、僕は今日から立派な帝国自由臣民である。
本当は納税記録が必要なんだけど、オリジンに乗ってるから、…………
ほんと、どれだけ特別待遇を受けるのやら。これで居て、別に皇家から招聘されたりはしないって言うんだから、凄いよね。
僕が帝都まで行って申請すればお城にも上がれるし、皇帝陛下も会ってくれるそうなんだけど、皇家から僕に対して何かを強要してきたりはしないそうだ。
昔はそんな事もあったそうなんだけど、それでオリジンも
可能ならオリジンが持ってる技術や知識を使って帝国の発展に寄与して欲しけど、無理強いはしないよ。でも助けてくれためっちゃ助かるし、その分さらに優遇するよって感じで、帝国のオリジンに対する態度は固まってる。全部お姉さんに聞いた。
国がどれだけオリジンを敬って恐れてるか。
例の一つとして、その昔、現代人ではどうにも成らないけど、オリジンがアクセスすれば動かせる超技術の塊その物って言う、古代文明から産出した遺物がたまに、警戒領域とかで見付かる事がある。
その遺物を動かしたり、遺物の中にあるデータを取れれば、ヤバいくらいの利益が発生して、帝国に限らず周辺諸国の技術力って言うのはそうやって発展して来たそうだ。
それで、何代か前の皇帝陛下がオリジンの叡智と権限を独占したくて、色々と過干渉をした結果…………、オリジンが全員全力で他国に逃げ出して、隣国は次々とオリジンのお陰で新しい超技術が手に入れるのに自国だけ取り残された、なんて事があったらしい。その時はガチで帝国が滅び掛けたと、お姉さんがニコニコ教えてくれた。当時の皇帝が史上最悪の愚帝として有名、らしい? いや僕知らなかったけどね。
隣国と技術に差が開き過ぎて、戦争なんかしたら何も出来ずにボコボコにされるレベルでヤバかった時代を経験して、今の帝国がある。
結局それも、新しく産まれたオリジンに救われて盛り返したって話しなので、ぶっちゃけ皇家はもうオリジンに頭が上がらない。国に存在するだけで人権保証の無条件名誉子爵身分って制度は、そんな経験から発生してる法律だと教えられた。
なんな、凄いなぁ。
そんな訳で、最悪でも国に居てくれたらそれで良い。頼むから他国に行って他国を富ませないで、お願い! って言う理由で、オリジンは凄まじい自由を獲得してる。
国に非協力的なオリジンだろうと、他国に出られた瞬間もう損害だ。愚帝の悪夢再びだ。だから何もしなくて良いから、帝国に居てねってなってる。
「……って事らしいです」
僕は特別に実施された
「ほへぇ、愚帝の歴史は確かに有名だが、詳細ってそんな感じなのか。知らなかったぜ」
「…………下手したら、シリアスってそこらの貴族よりずっと偉いって事か?」
「かも知れない」
勿論、あんまり巫山戯た蛮行を繰り返す様なオリジンは、普通のバイオマシンとして討伐される。だって国から出られたら損害だけど、国に居ても損害なら、じゃぁ殺すよねって言う。
オリジンは確かに普通のバイオマシンよりずっと強いけど、流石に対軍で勝てる程じゃない。国がオリジンに求めてるのは、あくまで古代文明基準で扱える通信領域制御技術とアクセス権限だ。
「でも、それなら国を出そうなオリジンを殺そうって事には成ら無かったのかねぇ?」
「いえ、成ったらしいですよ」
「ほう? どうなったんだ?」
「余程上手く囲んで殺さないと逃げられるそうです。通信領域の扱いが段違いですから、通信で作戦なんて立てたら、包囲作戦なんか内容バレバレで、各個撃破を狙われたらオリジンが勝ちますし」
オリジンは強い。シリアスが同型機を三機も
単純に頭が良いし、戦略が使える。
そしてオリジンのその頭脳がパイロットの技術と噛み合ったなら、オリジンは信じられない程に化けるそうだ。
多分、僕がボロボロのシリアスで僚機さんを倒せた時みたいに、あんなボロボロで死ぬ寸前の状態でも勝てる程に、オリジンはチカラを発揮出来る。
そんな相手に、下手に長距離通信なんかして作戦立てたらボロボロに筒抜けして、バレバレの包囲作戦を各個撃破で突破されるのだ。どうにも成らない。オリジンとパイロットに協力者とか居たら尚更に。
ちなみに国内で暴れて討伐されるタイプのオリジンに関しては、普通にパイロットを暗殺してから、単独でチカラの落ちたオリジンを殺すそうだ。たとえオリジンでもパイロットが居ないと武装は使えないからね。
国外逃亡も同じ方法で殺せないのかって疑問だったけど、そもそも国の横暴から逃げようとするオリジンとパイロットは相応に慎重だから、暴れて討伐される個体と違って簡単にはパイロットを狙わせてくれないそうだ。
最悪、逃亡始めてから亡命を達成するまで、コックピットから降りないって手もある。準備をちゃんとすれば、数ヶ月はコックピット生活も出来てしまう。
排泄物処理ナノマシンとか服用すれば、トイレ行かなくて済むし、風呂は我慢すれば良いし、あとは食料くらいか。怪我はコックピットの生命維持装置と医療キットがあるし。
弾薬の補給とかも、協力者がほんの少し居るだけで解決するし、最悪は全武装をプラズマ系の兵器に換装して置くのも手だ。
「そんなこんなで、結果、マトモなオリジンに対して国はもう、お願いするしか無いそうです」
そんな微妙な関係になると、中には「そんな危ない存在は優遇などせず最初から殺せ!」って人も出て来たそうだけど、そうなると実質的に愚帝の悪夢再びなんだ。だって自分で国からオリジンを消して、他国にはオリジンが居るんだから。
じゃぁ「協力しろ、さもなくば殺す」って態度ならどうなるかって言えば、そんなのオリジンが産まれた瞬間から、オリジンだとバレる前に逃げの一手だよ。
オリジンは明確に自我があって、なんなら現代人より賢いんだから。
パイロットを得て国のスタンスを確認したら、その瞬間逃げるに決まってる。そもそも古代文明所属で現代人と敵対してたのに、善意で仲間になったら脅されるとか冗談じゃない。
「そんな訳で、その他にもなんか色々あって、今のオリジンの権力らしいです」
「なるほどなぁ」
「それと、国に協力するならするで、信じられないくらい優遇されるみたいですよ。遺物関係の成果でも、戦争に行って戦果をあげるでも、とにかく国の利益に寄与するのなら、名誉子爵身分の権利が徐々に上がって、最終的には公爵まで行けるそうです。あと伯爵から上だと年金も出て、望めば名誉爵位じゃなくて本当に貴族になる事も可能だそうです」
本物の貴族になっちゃったら優遇は減るんだけど、それでも他のお貴族様よりは昇爵がスピーディだそうで、なんかもう、……凄いね?
「なぁラディア、そんな昔からオリジンは居たんだろ? じゃぁ昔のオリジンってのはどうなったんだ? バイオマシンはエネルギー枯渇か破壊されなきゃら死なないだろ?」
「あー、うん。昔のオリジンは、大体はもう亡くなってるそうだよ。パイロットが死ぬと、オリジンも死を望むんだって。例外も居るけど、基本的には自死を選ぶって教わったよ」
「…………なんか、切ないな」
そうだよね。
僕が死んだら、シリアスもそう望むのかな。嫌だけど嬉しくて、悲しいのに幸せで、複雑な気分だ。
そんなに僕を愛してくれたのなら、幸せ過ぎて死んじゃうと思う。その時は既に死んでるんだけどさ。でも僕が死んでもシリアスには生きてて欲しいから、やっぱり悲しくて死んじゃう。
つまり致死率が二倍で凄く危ないので、僕は寿命まで生きようと思う。高度延命治療とかもバンバン受けて、五○○歳くらいまで生きようと思う。
「一応、パイロットの子孫の乗機になった機体とか、パイロットに生きろって言われたから生きるけど、悲しくて生きていられないからって沈静化処置を受けて現代機になったオリジンも居たらしいよ」
「馬鹿野郎。悲しくなってるのに追加で攻めるの止めろ」
世の中には、元オリジンだった現代機も、そこそこ存在するらしい。
帝都の傭兵ギルドにも、そんな機体が一機居ると聞いた。ギルドマスターの機体で、ギルドマスターの先祖が乗った元オリジンなんだって。
「…………なんか、バイオマシンってさ、ただこう、カッコイイ、強い、凄い、欲しいって、単純に思ってたけど、もっとちゃんと、考えて接しないとダメなんだなって思った」
「そうだね。沈静化処置を受けてても、生き物である事には変わりないから。オリジンって結局、沈静化処置を受けてなくて、暴走してないだけのバイオマシンだからね。古代文明では当たり前の存在だったんだから」
シリアスも、もし古代文明の時代に生きていたなら、沢山の仲間に囲まてれ、それはもう楽しく幸せに暮らせたかも知れない。
僕は、現代でシリアスに選ばれた存在として、シリアスに選んで貰った乗り手として、シリアスが現代に生まれて良かったって思えるくらいに幸せにする義務があると思う。
「…………はぁぁ、シリアスしゅきぃ」
「オチ付けるのやめーや。今そう言う空気じゃ無かっただろ」
「だって好きなんだもん」
「て言うかお前、今シリアスと喧嘩中じゃなかったか?」
……………………………………あびゃぁっ!?
「そうだった! つーんされてるんだった!」
「なんだ? 喧嘩してんのか?」
「えっと、カルボルトさんとラディアが、ミラージュウルフだっけ? シリアスの前で他の機体を褒めまくっただろ? だからシリアスが拗ねてるんだよ」
「…………なんだそれ。え、なんだそれ。つまり、パイロットが他の機体褒めたから妬いてんのか?」
「そう」
「うわっ、なんだそれ可愛いなっ! ズルいぞ! 俺だって
やはりカルボルトさんは僕の同類か。類友なのか。ダブルデートします?
いやその前に仲直りしないと。どうすれば良いかな。武装許可出たし、素敵なカスタムパーツをプレゼントしたら許してくれないかな?
「ところで、カルボルトさんは結局、ギルドに何の用だったんだ? 俺達は世話になって助かったけど、ずっと俺らに構ってて、良かったのか?」
僕がシリアスへのプレゼントに思いを馳せてると、タクトがそんな事を言い出した。
確かに? カルボルトさんと知り合えて凄い助かったけど、助かり過ぎたけど、カルボルト自身の用事はどうなったんだろう?
端末で済む用事は端末で済ませる派っぽいし、それでもギルドに来たなら、受付に用事があるタイプの何かでしょ? 僕達は助かるけど、自分の用事は片付けなくて良いのかな?
「んぁ? あー、俺の用事か。……まぁ、大した用事じゃねぇから何時でも良いんだけどな。団長が手続きして来いってうるせぇからよ」
「どんな用事なんですか? 聞いても大丈夫ですか?」
「あー、そうだな。隠す事でもねぇし…………」
カルボルトさんは、ギルドにランク更新で来たらしい。
普通の昇級なら端末操作で済むんだけど、高ランクになると面接とか試験とか、色々と面倒な手続きが増えるらしい。
「わぁ、おめでとうございます! カルボルトさんのランクってどのくらい何ですか?」
「めっちゃ高そう」
「まぁ、そう、だなぁ。一応、傭兵のランクがどんな感じで扱われるのかを先に教えてやるよ」
カルボルトさんの授業だと、まずランクゼロが見習い。仮登録だ。
次にランク一、駆け出しのピカピカ初心者。
ランク二から三。傭兵の仕事にある程度慣れて、そこそこ稼げる様になって来た段階。一人前のちょっと手前くらい。
ランク四から五。一定の実績と経験を持った、一人前の傭兵。傭兵で一番層が厚いのはこのランクだそうだ。
そしてランク六。ベテラン。結構凄い。一目置かれる。どんな仕事に着いても、まず蔑ろにはされない。
ベテラン超えてランク七。超ベテラン。一流の傭兵。
更に上がってランク八。もう傭兵の
最後に傭兵の頂点、ランク九。神。現人神どころじゃなくて、ハッキリと傭兵の神。物凄い傭兵で、説明不要って感じの存在。現在帝国に一人だけしか居ない、ある意味オリジンよりレアな存在で、その人の逸話の一つに『クソ難解な依頼をしたら、目の前で一本
しかも秘匿性の高さも求めたら、どうやって依頼を完遂したのか微塵も分からないレベルで仕事内容を秘匿されてて意味不明に質の高い仕事を熟す傭兵神が、ランク九だそうだ。
「まぁ、そんな感じで傭兵のランクはゼロを抜けば九段階あるんだが、俺は今ランク六で、今日手続きして昇級が通ればランク七なんだよ」
「凄い!」
「え、普通にすげぇ。現人神の一歩手前って事じゃん」
「ちなみにウチの団長はランク八な」
「現人神じゃん」
「崇めなきゃ。僕も傭兵になったしご利益あるかな……?」
つまり、カルボルトさんはもう一つランクを上げたら現人神で、カルボルトさんの所属する傭兵団の団長さんは、現在もう現人神で、ランクを上げたら完全な神になると。
つまり神じゃん。
「褒めてくれんのは嬉しいけどよ、なんかコレ自分から言うの自慢してるみてぇでちょっと嫌なんだよな。坊主達が正しくランクを把握する為に超ベテランとか現人神とか説明したけどよ、自分で『俺って超ベテランなんだぜー』とか、ダセェだろ?」
「…………? え、いや? 実際に超ベテランなら、それってただの自己紹介なんじゃないか? 自己紹介してダセェって言われたら、引っ叩いて良いと思う」
「だよね。それだけの実績がある人なんだから、僕も別に良いと思う」
「お前ら良い奴だな」
いや、だって、カルボルトさんはそのランクになるまで、尋常じゃ無い数の仕事を熟して来た訳だし、その経験に見合うだけの尊敬が集まるのは当然じゃないの?
「じゃぁ、僕ら邪魔しない方が……?」
「凄い助かったけど、そろそろ帰った方が良いか?」
「まぁ、俺も試験とか色々あるから時間掛かるしなぁ……。あぁ、でも待て、俺まだオリジンをちゃんと見てねぇ。帰るならせめて端末のID寄越せ。後で連絡するからオリジンに会わせろ」
それで、後でカルボルトさんが食事を奢ってくれる事になった。
連絡先を交換した僕らは、また後で会う約束をして別れる。流石に超ベテランの人をランクゼロと一のペーペーが拘束し続けるのは良くない。
「んじゃ、またな! 終わったらすぐ連絡すっから予定空けとけよ!」
「はーい! ありがとうございましたー!」
「あざしたー!」
カルボルトさん、凄い人だったんだな。
良く考えたら、管理官さんをやり込めたあの口先の滑らかさで、オークションで十五億もする超レア機体を傭兵団から任されてる人なんだから、相応に凄い人なのは気が付くべきだったかな。
そうすると、ミラージュウルフに乗ってた父も、実は本当に凄い傭兵だったりしたのかな?
僕は父の
信憑性はソースはミラージュウルフのサディウス。決して父に対しての信用じゃない。
僕は父を信用して無いけど、サディウスは信じても良い。て言うか息子を砂漠に置き去りにする男なんて信用出来るか。意味分かんないでしょ。最低でも暮し易い都市に置いてくならまだしも、わざわざ過酷な場所で子供を放置して戦争に行くって、随分と高度な
「さて、ラディア? まだこの地獄エレベーターに突撃しなきゃいけないんだが、覚悟は良いか?」
「…………忘れてた。ギルド利用するだけでこれって、過酷過ぎるでしょ傭兵業」
父の所業を思い出してたら、目の前に傭兵業の闇が広がっていた。
これってさ、傭兵と受付嬢が婚活したがってる煽りなんだよね。僕らとばっちりじゃん。
「はぁ、行こうか。
「おい井戸ポン。しっかりしろ」
「井戸ポン言うな!」
ちくしょう。コレ一生言われる奴じゃん。
しかし、良いな。堕天使シリアス、良い。絶対クールビューティだよ。
そんな妄想によって僕は自分の精神を保護しつつ、むさ苦しくて汗臭い男性型有機生物の波に突撃する。
タクトっ、オペレーションGだ!
Gはゲートに張り付こうぜのGね!
「なんで五○人規模で乗れるエレベーター八基もあってこんな混むんだよっ……!」
ギルド二階のエレベーターは八基ある。駐機場一階直通のエレベーターが四基、地下一階の行くエレベーターがもう四基で計八基だ。
タクトの言う通り、なんでこの台数で人捌いてこんなに混むんだろう。流石に変な気がする。
だって、僕もタクトも良く西ゲート使って砂漠行くけど、流石にこんな数の傭兵なんて見ないよ。通る時に見掛けるバイオマシンの入場者って、もっとポツポツしてるもん。半分は東区からの傭兵って聞いたけど、それでも限度が有るよね?
あれか、この内の結構な割合が、実は
徒歩の場合は、バイオマシン入場口の脇に昇降機があって、入口からすぐにフレームデッキに上がってエレベーターへ向かうんだ。
フレームデッキを上手く使ってる気がしなくも無いけど、でもやっぱり階段作った方が良いよ絶対。非効率ぅ〜。
「…………よしっ、乗れた!」
「ハグれんなよ! 俺こっからシリアス無しで帰れる自信ないからなら! 俺、お前みたいに中心部も中央区も殆ど来ないんだから!」
タクトと手を繋いでエレベーターに乗る。鬼のように押し潰されながら数秒で一階へ。降りろ降りろー! 汗臭いんだよっ!
なんでナノマテリアル製の服着ててそんなに汗臭いの!? 孤児の僕らより臭いってヤバいからね!?
「…………はぁ、もうなるべく来たくない」
「同意。でも俺、免許取るならもう一回は来ないとダメなんだよな」
「免許だけなら、別のところでも取れるんじゃないの? 傭兵以外でも
「……なるほど、そうだよな。都市間輸送とかやってる公務員のパイロットとかも居るんだし、傭兵ギルドじゃないと
そう思うけどね。まぁ僕、ついさっきまでバイオマシンに乗るために免許が必要とか知らなかったんだけどさ。
「シリアスただいま会いたかったよぉ〜!」
『つーん』
「まだつーんってしてるの可愛いぃぃい!」
「もう、良いから一回帰ろうぜ? イチャつくだけならコックピットでも出来るだろ?」
エレベーター降りてからフレームデッキを歩いて、シリアスを駐機してるハンガーの昇降機使って降りて、やっと愛機の元に帰って来た僕。
堪らなくてぎゅーってアームに抱き着くけど、すぐにタクトに引き剥がされる。なんでや、ちょっとくらい良いやろ。
「あ、そうだ。武装許可出たから、シリアスに色々買ってあげれるよ! まぁお金稼いだのシリアスなんだけどさ」
『推測、把握。有資格?』
「本当は、シリアスに乗るのに免許とか必要だったんだって! オリジンだから許されてたけど、現代機だったら捕まってた!」
『把握。これから情報収集の優先度を上げるべき。優先タスク』
お話ししながらシリアスに乗る。
現代機だったなら端末とかで操作してキャノピー開ける必要が有るけど、シリアスが自分で開けてくれるから僕らは登って乗るだけだ。
だからキャノピーの開放とかもそうだし、フードメタルの摂取もそう。自分からは何もしない。エネルギーが枯渇しようと自分でご飯も食べないし、パイロットがどれだけ困っててもコックピットを開放しない。
けど、逆に言うと入力さえすればその通りに行動する。コックピットからの操作じゃなくても、連動さえ設定してるなら、端末からも動作の入力は可能なのだ。
基本的なのは、『座る・立つ』『コックピット開閉』『食事』の三つだ。
動作のプリセットを作って登録しておくと、端末の簡単操作でその通りに機体を動かせる。ただプログラム通りにしか行動させられないので、特に食事なんてフードメタルを置く場所を少しズラすだけでも食べるのに失敗する。何も無い場所でモグモグする動作だけを行ってしまう。
そうならない様に、食事なんかは補給専用の場所なんかをしっかりと作って、位置がズレない様に工夫するのが普通らしい。
極論、機体が入るのにギリギリのギリギリしか幅が無い狭い場所とかで食事をさせれば、狭いからこそ位置がズレたりする余裕も無い。
ハンガーミートでは、フードメタルの入ったコンテナが実はドローンで、コントロールパネルから位置操作が可能だったみたい。シリアスは焦れったくて自分で直接動かしてたけど。
「もっと色々、バイオマシンとか、その関連する法律とか、調べないとねぇ」
「知らずに捕まったら世話ねぇもんな」
「今日だって、下手にお金持ってるから傭兵登録より先にシリアスのカスタムする可能性もあったよ。おじさんに行って来いって言われなきゃアウトだったかも。いや、だからおじさんも傭兵登録して来いって言って僕を追い出したのか。仕事柄その手の法律も知ってるだろうし、貸してくれたブラスターも護身用で許されてるギリギリだし」
分かってたならちゃんと教えてよって思わなくも無いけど、兵士さんとか相手ならまだしもスラムだと「自分で調べろ」が基本なので、この場合は僕が悪い。むしろ違反しない様にさり気なく傭兵登録を急ぐ様に誘導してくれた時点で優し過ぎるくらいだ。
武装が許可制とか、少し考えたら分かる事なのに、色々と浮かれてて頭が沸いてた僕が悪い。
「帰りはグルグルしなくて良いのは楽だ」
「ハンガーから出るだけだもんな」
ハンガーから出るタイミングを間違えたらぶつかるし、駐機場をグルグルしてる流れに逆らったら大変な事になるけど、それさえクリア出来るなら帰りは楽だ。
ハンガーからサッと出て、駐機場グルグルの流れに乗って移動して、出口が近付いたら外に出るだけだ。
「さて、一回帰ろうね。口座も手に入ったから、今度こそお金を全額受け取ってから、医療用ナノマシンインジェクター買おう」
「頼んだ」
そうやって傭兵ギルドって言う魔境から脱出を果たした僕らは、取り敢えず一度、スラムに戻るのだった。
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