第59話 メディカルチェックしたい。
……………………しゅ、しゅごかったぁ〜。
骨抜き。骨抜きである。これが骨抜きかって自分で腑に落ち、更にこれが腑に落ちるって感覚なのかと納得しちゃうくらいには骨抜きにされた。
もう朝から、腰が抜けてて立てません。足がプルプルしてる。
大人になっちゃった夜が明けて朝なんだけど、本当に、本当に足がプルプルしてて歩けない。
「シリアス、助けて…………」
「…………嘆息。ふぅ、やれやれ。ラディアはシリアスが居ないとダメ。でもそこが可愛い」
「か、可愛いは止めてよ……。それに、シリアスが居ないとダメなのはその通りなんだけど、この足の原因にそう言われるのは少し納得行かない……」
「疑問。気持ち良く、無かっただろうか?」
「あ、いや、それはもう、凄く凄かったけど…………」
そりゃもう、語彙力が死に過ぎて「凄く凄かった」とか言っちゃうくらいには、骨抜きだもん。
あー、絶対トドメ刺されたよ。歪んだ性癖にトドメ刺された。十歳の
せ、責任取って一生一緒に居てね? あと、その、今夜もその、ごにょごにょ…………。
そんな事を考えてると、シリアスはまたふわっと僕をお姫様抱っこする。ひゃんっ。
「し、シリアス…………?」
「運ぶ。じっとしてると良い」
ふ、ふぁぁぁぁあああッッ……!
だ、誰か助けてくれ! このままじゃ、このままじゃメスになる! 女の子になっちゃう! シリアスの嫁になるぅぅ!
なんでこんなに可愛いのに行動がイケメンなのッ!? 堕ちちゃうじゃん! 僕堕ちちゃうじゃん! メス堕ちは嫌だァァァッ!?
「………………に、にぃ、たん? ねぇたん?」
「ね、ネマ、おはよう」
「おはようネマ」
僕のお部屋から、シリアスが僕をお姫様抱っこで運び出す瞬間を、妹に目撃された。兄としての威厳はもう維持出来ないだろう。くすんっ。
「……な、なん、で? ねぇちゃ、にぃたん、もって?」
「昨夜は一緒に過ごした為。ネマには一晩、寂しい思いをさせた。申し訳ない」
「う、ううん。……えと、ねぇたん、さわ、れる?」
「あ、そっちか。そうだよね」
ネマがビックリしてるのは、僕がお姫様抱っこされてる事じゃなくて、シリアスが実態を持ってる事の方か。
「シリアスは動かせる身体を買ったので、この通り」
「…………はゎ」
リビングの椅子に僕を座らせたシリアスは、次にネマの頭を優しく撫でた。するとネマは目を細めて気持ち良さそうにして、そしてシリアスに恐る恐る抱き着いた。
触られて、自分でも触れて、本当にシリアスがそこに居ると理解したネマは、お目々をキラキラさせてシリアスに抱き着いて「……ねぇたん♡ ねぇ、たんっ♡」とスリスリしてる。可愛い。
暫くスリスリしたら満足したのか、今度は僕のところに来た。そして椅子に座る僕の膝の上に跨り、ぎゅーって抱き着いてスリスリする。甘える性格の猫かな?
「…………えへへぇ♡ にぃたん、ねぇたん♡ しゅきぃ」
自分の努力で手に入れた兄と、触れる様になった頼もしい姉。
最強の存在を二つも手に入れたネマは、もう幸せの絶頂と言わんばかりにニコニコ笑顔だ。眠そうな顔が消え去るくらいにニコニコだ。
僕らの様子を見たシリアスは、バトラに下拵えをさせてた朝食を代わり、料理を始めた。メイド服とはつまりエプロンなので、お料理に最適な衣装と言える。
更にそれ見たネマが、「………お、てつだぃ、しゅる!」と珍しく少し大きな声を出し、僕の膝から飛び降りてキッチンへ。
お料理してるシリアスの後ろ姿に、ネマが並ぶ。すると二人とも金髪なので、本当の姉妹に見える。
二人とも無表情系美少女だし、金髪サラサラだし、片やふりふりのエプロンドレスで、片やふりふりのゴシックロリータだ。顔の造形だって二人とも、神が用意した『美』の答えってレベルの美少女だし、本当にもう、姉妹に見える。
……………………え、もしかして本当に姉妹では?
ネマって逆にオリジンなのでは? 今ってセクサロイドで動いてたりする? ネマも昨夜のシリアスがした色々な事が出来ちゃうのか?
僕は混乱した。物凄く混乱してる。
待て待て僕。て言うかネマが仮にセクサロイドだったとして、なんだと言うのか。妹やぞ。昨夜の経験が凄過ぎたからって頭沸騰しすぎだぞ僕。
「あ、ネマ。今日こそは病院行くからね。昨日はVRバトルに熱中してごめん」
「…………んー、ん。いい、のっ」
そして朝食。今日はトーフハンバーグなる物がメインで、付け合せの野菜とサラダにスープ。あとは主食だけど、僕の舌は最近のオスシ行脚でライスの口に成りつつある。なのでライスで食べる。ネマもそうするみたいだ。
ふむ、見た目は朝からガッツリしてるね。
「これは、トーフから水分を抜いて潰し、繋ぎや少量の肉と混ぜて焼き上げた料理。見た目よりも重く無く、程良く栄養が有り、油も少なく、そして食べ応えがある」
「トーフ…………。あの真っ白で四角い意味不明なペーストブロックか。こんな事も出来るんだね、アレ」
「これはフードマテリアル製だが、天然素材で作るトーフは主原料に豆を用いる食材で、その加工には海水から作られる『にがり』が凝固剤として必要であり、穿った見方をするなら実は海の食材と言える。なので、魚介程では無いが、これもサーベイルに相応しい朝食だと判断する」
「なるほど」
食べてみた。美味しい。
確かに見た目より重く無い。肉々しい見た目だけど、口当たりが柔らかくて、肉を食べたる感が有るのにあっさりしてる。肉の旨味も感じながら、豆の滋養も強い。
ふむ、これは良いな。やるじゃんトーフ。見直したよ。
「トーフは、その風味を楽しむ物だと前に説明したが、その食感も大きな魅力であり、料理の材料として用いられる場合は専ら、その食感が大きな役割を果たしている。そして味が極薄く、風味も繊細である為、逆に使用した料理の持ち味を壊し難いので重宝する」
「ほほう。壊れ易いから、逆にいっそ壊しちゃえば元の料理とぶつからないって事かな」
「勿論、壊すと言っても消え去る訳でも無い。良く味わえば風味も感じられる為、確かな舌を持つ者ならば更に料理が楽しめる」
トーフ、奥深いじゃないか。本当に見直したよ。
意味不明な極薄味のレーション擬きとか思っててごめんね。君は立派な食材だったのか。
さて、料理を食べ終わったので今日のタスクを熟そう。
まず端末で病院を調べて、良さげなトコを探してメディカルチェックを予約。当日予約が余裕で通るので大都市は良いよねぇ。
もちろんネマの血縁化施術も同時に依頼してる。僕のDNAマップも必要なんだろうし、一緒に受ける。どんな施術なんだろうね?
ちょっと調べると、まず僕の血を採取して、それを専用の機器に入れて施術用のナノマシンを二種類生成する。
片方は骨髄注射でネマの骨髄に注射して、残った方のナノマシンは錠剤にして処方される。そんな形らしい。
僕のDNAを参照したナノマシンがまずネマの骨髄の中で色々と作業をして、ネマの身体を作り替える準備をするそうだ。その後に錠剤のナノマシンを服用して、骨髄に入ったナノマシンと一緒にネマのDNAを少しだけ変更する。
DNAなんて言う生物の根幹を大きく変更すると、生命として破綻したりするので超危ないが、人物判定する様な表面的なDNA配列だけを狙って変えるらしい。詳しくは知らない。
例えるなら、人間を示す
そうすると、後に分裂する細胞とかが変更されたDNA由来に変わる。らしい?
人の細胞が自然と代謝で入れ替わる時に、分裂して生まれた新しい細胞が僕との近縁になり、兄妹に成れる。
人の古い細胞が代謝され、新しい細胞に全身が置き換わる期間は、確か三ヶ月前後だったかな? それが過ぎれば、ネマの身体を構成する全細胞が僕と限りなく近しい血縁関係を持ってる物に置き換わる。
この施術だけで一六○万シギルもするメチャクチャ高価な施術だけど、まぁお高い分だけ安全なのだ。何せDNAを弄るなんて生物としての暴挙をやろうとしてるんだ。安全性は確保したい。
どっかの宗教団体が「神への冒涜!」とか言って騒ぎそうなとんでもない事だけど、技術的に可能なのだから問題無い。と言うかこの世に神なんか居ない。居るのはシリアスと言う名の天使だけさ。
「ほい、予約入れたよ。これでネマは、数ヵ月が過ぎる頃には完全なる僕の妹に成ってる訳だ」
「…………ゅんっ♪︎ うれ、しぃ」
「まったく。〝です〟を付けろよデコスケ野郎。……いや、妹なら敬語要らないのが普通かな? もうデコスケ野郎止める?」
「……………………………………………………ゅん」
「シリアスに振られた時の僕みたいな顔をしないでよ。罪悪感がヤバいじゃん」
「質問。シリアスはラディアを袖にした事など無いが、なぜ類似していると分かる?」
「その時はきっと、僕もこんな顔をしながら自死するから。経験しなくても分かる。と言うか経験したら死ぬ」
「そんな未来は無いので、二度とその様な事を口に出しては成らない。次に言えば、ラディアは今夜も、昨夜の様に『にゃぁ、にゃぁ♡』と鳴く事に成る」
「止めてッ!?」
ホントに止めてッ!?
た、確かに激し過ぎて、我慢出来なくて勝手に出た声がそれだけどさッ!?
だって仕方ないじゃん! 僕、初めてだもん! あんなにテクニカルな事されたら素人の僕なんてにゃーにゃー言うしか無いもん!
セクサロイドなんて、そう言う事する為の身体なんだからさ! お口もお手々も下も、全部凄いんだから! ちょっとシリアスにイジメられたら「にゃんっ♡」てなるもん!
「て言うかネマの前では本当に止めて!?」
「む、確かに。情操教育に良くないと判断。謝罪する」
うん、多分シリアスも、ちょっと浮かれてるんだろう。
お金を掛けたって言うのは、それだけ繊細に日常の様々な事を人間目線で楽しむ為なんだと思うし。
バイオマシンに生まれたシリアスが、こうやって人間としてそこに居る。それは本来有り得ない事とすら言えるんだから、シリアスだって戸惑ったり浮かれたりしちゃうよね。
「………………? にぃちゃ、にゃぁ?」
「止めて。本当に止めて。ネマ、それを言われると僕、悲しくて泣いちゃうかも…………」
「にっ--……!? い、いわな、よ? ねま、いわない」
ギリギリ嘘泣きと言えるかも知れ無いガチ泣き一歩手前でよよよっと泣き真似をすると、良い子のネマはすぐ止めてくれた。そしてシリアスをじーっと見るとサッと視線を逸らす。物凄く人間っぽい仕草だ。
「…………あ、じゃぁさ、もしかしてシリアス、もうバトラ無くても外に出れる?」
「ん、肯定。都市回線領域内であれば何処へでも。都市外でも、シリアスの本体が発信出来るローカル通信領域内であれば活動可能。今日からシリアスは基本的に、常にラディアの傍に寄り添い、コックピットでもシリアス自身の複座に同乗する所存」
ま、マジかよ。
僕ってば、最愛の奥さんに乗りながら最愛の奥さんとタンデムデート出来ちゃうの? ちょっと意味分からない絵面だけど、それ大丈夫? 幸せ過ぎて僕が死なない?
やっぱり致死率二倍で大変危険なのでシリアスの良妻具合は用法用量を守って正しくお使いになれば今夜も死ぬ程イチャイチャしながら幸せハメハメして愛してくれるかな? もうシリアス無しの夜とか無理なんだけど。
……………………はっ!? 待てよ、そしたらネマが一緒に寝れなくて甘えられないじゃん!? ネマ拗ねるぞ!? 二日連続は拗ねるぞ!?
た、対策をせねば。どうしよう早急に何かを考えねば…………!
「……ね、ネマ。その、昨日は一緒に寝れなくて、寂しかった?」
「…………ゅん。でも、だいじょ、ぶ」
ネマは「ねま、よいこ、だから」と言ってほにゃっと笑う。可愛い。健気。ああ僕の妹可愛いんじゃぁ。
さてどうしよう。一日置きにする? でも僕、一日もシリアスとのごにょごにょを我慢出来る?
「………………にぃちゃ、あの、ね?」
「ん、どしたの?」
僕が悩んでると、ネマが僕の袖を引く。控えな仕草が可愛い。
ああもう、妹に成った途端に全部の行動が可愛く見える。僕の頭は現金過ぎる。
「にぃちゃと、ねぇたん。…………えっち、してた?」
「なんですとぉッ!?」
どうやって誤魔化そうかと悩んでたら、既にバレてる件について。
嘘じゃんなんで? 個室は完全防音だから音とか聞こえないはずだし、部屋のロックはシリアスが掌握してたから覗きも無理なはず。
シリアス自身が「話し合い」だと誤魔化してたから、シリアスから漏れた訳でも無い。
なにより、元箱入り娘で八歳のネマが、何故そんな知識をって言う疑問も有る。とにかく混乱する。
どうする? どうやってこのピンチを乗り越える?
「質問。ネマは、どうやってその判断を?」
「……ぇと、ね? ねま、すてられ、る、まえに、ぱぱ、まま、ねまの、ねてる、よこで、………………してた」
父親ぁぁぁぁぁああああッッ! ブッ殺すぞテメェ!
純粋無垢なネマをクソみたいなガバガバセキュリティで汚してんじゃねぇよ! しかも挙句ネマを捨ててるし! マジで死ね! いや僕が殺してやる! 何処だ出て来い! 此処に直れ! ブラスターで頭吹っ飛ばしてやる!
「…………だ、だから、ねま、おとこの、ひとと、おんな、の、ひと、…………いろいろ、する、しって、ゅ」
「落胆。ラディア、情操教育が手遅れだった件について。シリアスは今後どうすれば良いか相談したい」
「そ、そうだよね。えっと、どうしよう?」
マジでやってくれやがったよクソ親父コノヤロウ。絶対に許さんからな。
「……………………あの、ね。だか、ら、ねま、おくすり、のむ、よ
?」
「…………わっつ?」
「疑問。どう言う意味だろうか」
「だ、だから、………えっと、ね?」
アタフタしてる僕とシリアスを
調整剤は基本的に『狙った時間通りに目覚める為の薬』だけど、中には『狙った時間通りに目覚めるまでは絶対に起きない』って薬もある。
余裕で犯罪に使えちゃいそうな薬だけど、都市管理システムの元ではお酒に混ぜて女性をお持ち帰り…………、なんて下衆な真似は出来ない。購入した服用者以外に薬を盛ろうとした時点で兵士が駆け付けてくる。
さて。で、ネマはその中でも、『服用後三○分後に睡眠導入効果が始まり、その後六時間は絶対に目覚めず、八時間後に確定起床』って効果をデザインされてる調整剤が市販されてるのを、端末で見せてくれた。
要は、コレを飲んでから寝るまでの三○分だけ甘えるから、その後に自分が寝たら好きなだけハメハメして良いって提案だ。だから一緒に寝させて? って言う。
い、いじらしい…………! 可愛い! 健気!
いや、この提案を聞いてまず「可愛い!」って思う僕は、やっぱり頭オカシイのかな。
「………………だめ?」
「えと、…………どうする?」
「熟考。……しかし答えは出ない。情操教育的にはアウト。しかし、既に全バレしている現状、どっちもどっち」
結局、ネマの上目遣いうるうる攻撃に僕もシリアスも陥落した。
ネマは毎日僕達と一緒に寝る権限を得て、しかも寝る前の三○分は僕に甘える時間をしっかり確保して見せた。そして僕らはその横でネマが絶対に起きない状況で気持ち良い事をする。
……………………なんだこれ?
いやもう、僕にも分からない。妹の横でお嫁さんとハメハメするの? それどんなプレイ?
「…………それ、より、びょーぃん、いこ?」
うん。そうだね。
僕はなんか、居た堪れない空気に内心
予約時間まではまだそこそこ、残ってる。でもやる事も無いので、病院の駐機場にでも待機する事になった。
移動中は、珍しく別行動。ネマは一人コックピットに。僕らはリビングに居る。居た堪れないから。
「ば、バレてた…………」
「苦笑。ネマはシリアス達が思うよりも、ずっと賢い子だった」
「しかも気を遣われた……!」
「仕方ない。少々歪だが、これがシリアス達の家族の形だと判断する」
戦争と比べられて置き去りにされた僕。
恐らく不貞の発覚を恐れて捨てられたネマ。
時間と文明に置いて行かれたシリアス。
思えば僕らは、全員似た者同士なのかもね。
これが僕らの形だと言われたら、僕も苦笑しながらも納得するしか無い。
シリアスに幸せを見た僕。僕とシリアスに喪った家族愛をもう一度夢見るネマ。シリアスは僕達に何を見てるのかは分からないけど、多分その心は大きく違わないはず。
今回の事も、僕とシリアスの関係が家族で育む愛の一つなら、ネマはそれを邪魔したく無いんだろう。だけど自分も家族愛が欲しくて、だから折衷案で『起きない様にするから近くに置いて』なんだろう。
「…………もういっそ、居住区画を新しくする? ネマの個室、僕のと一緒にしちゃう?」
「それも良い。シリアスの身体を新しくする時に、シャムも一緒にスイートソードへ任せてしまうのも手である」
ああ、それも良いね。
スイートソードにシャムの規格を送って、専用パーツを一式作って貰ってガーランドへ送って貰おう。それでおじさんにお願いして全換装するのだ。
シャムはダングで、ダングはスイートソードの売れ線だけど、でもシャムは特注機であり、フレームからサイズアップしてる特殊規格の機体だ。装甲すらダングの専用装甲へ換装出来ない。
元々硬い装甲だし、注文した時点でオプションから装甲のグレードアップもしてる。だから装甲の交換も早々必要無いけど、もし必要に成ったら汎用装甲を使うか特注するしか無い。
ウチのシャムはそんなダングなので、予めスイートソードに規格を送っておかないとパーツが合わなくなる。
「メディカルチェック終わったら、ネマにもシャムのオーダーを考えて貰おうか。やっぱりフラワーシリーズを選ぶのかな?」
「同調。恐らくはそう。しかし、スイートソードのシリーズは相当多いので、他の可能性もゼロでは無い」
ゴシックソードはそもそも、女性向けのパーツを作ってるメーカーだからなぁ。改修後に居住区画までパステルカラーのレディースメイドだったらちょっと困るな。
内装だけはモダンが良い。僕は住む場所の趣味がおじさん寄りなので、システマチックな現代風よりレトロチックなモダンが良い。モダンでシックな内装が良いんじゃぁ。
「うん。ネマと相談しよう」
「ネマは良い子なので、供用空間にも趣味を出したいとは言わないと思われる」
ホントそう。ネマはデコスケ野郎だけど、歳の割に賢い。そして気遣いも出来る。多分捨てられる前の生活が影響してるのかな?
納得すれば子供の様に駄々を捏ねる事も無く、今思えばだからこそ僕ともやって来れた気がする。
本当に歳相応でワガママだったら、今頃放り出してた可能性もゼロじゃないし。少なくともスーテム家の、…………なんだっけ、スナ君? 違う、シュナ君だ。シュナ君くらいワガママだったら三日で放り出してた自信がある。
「あ、そうだ。次の
僕は思い出した様に端末からメールを送る。相手はムク君。
現代では殆どのスクールで週休三日を採用してて、
ごく一部のスクールに例外は有るけど、帝国は大体そんな体制で教育してる。
「次はネマも釣りに来るかな?」
「否定。恐らくは来ない。ネマは一人に成れる時間があればVRバトルに潜って腕を磨いてる。しっかりとラディアのバディで在れる実力を目指して、日々研鑽してる」
ホント良い子。ネマが良い子過ぎる。僕のネマに対する評価はほんの数日でガラッと変わってる。
そもそも、僕は最初からネマに対して、頑なに敬語を使わない事を「小生意気な子供だなぁ」って思うだけだった。それ以外に不満は特に無かったんだ。
出会った時点でバイオマシンをある程度動かせて、免許は無かったけどアクショングリップの操作すらギリギリ及第点。しかも基本的には言う事を素直に聞く。不満なんて有る訳無かった。
そこに、本当に妹に成ったから態度が馴れ馴れしくても問題無いって現状が付加されると、後はもう高評価しか残らなかったんだ。
小生意気って評価が「甘えん坊な妹」に変わったから、唯一のマイナス評価が綺麗に消えて、プラスしか残らない。
その上で、今シリアスが言った様に努力を惜しまない性格が更に高評価を稼ぐ。八歳にして仕事に対する姿勢がストイック。褒めるしか無い。
ロコロックルさんじゃないけど、他の豪遊派傭兵に見せて上げたいねって感じだ。
「…………ほんと、良い拾い物だったね」
「肯定。ラディアは『タケノコが生えてた』と言うが、実際は金鉱山が生えてた様なもの」
「ほんそれ」
今は亡き僕の
良い子で可愛い妹に成り、仕事はストイックでワガママも言わない八歳児。そして狙撃の才能はシリアスが認める程で、苦手なクロスレンジさえ上手く切り抜け様とする頭とセンスが有る。
……………………え、有能過ぎ無い?
待って、考えれば考える程有能過ぎ無い? なんでネマの親はネマを捨てたの? こんなの、天然物のアレキサンドライト並にヤバい鬼才じゃん?
イミテーションのアレキサンドライトはゴミみたいな値段で買えるけど、天然物のアレキサンドライトはたった数カラットで何十万シギルもする。そのくらい稀少な鉱物だ。
ネマの才能って、そのレベルで希少じゃない? 気質とか含めても、こんなに有能な傭兵の卵とか、他に絶対居ないでしょ。
「……病院行ったらさ、反応速度強化手術とかも受けてみる? ネマが受けたら絶対にヤバいよね?」
「肯定。しかし非推奨。能力強化系の施術は、術後も薬剤投与が必要になる。幼いネマには負担が大きい。それより、今からもっと上を見据えた訓練を施した方が有益。伊達にゴールデンエイジじゃない」
ゴールデンエイジって言うのは、簡単に言うと『幼少期のめっちゃ物覚えが良い期間』の事。人間が少しずつ進化する過程でこの期間も少しずつ伸びたり変化したりしたけど、現在だと確か、三歳から七歳が最も伸びるゴールデンエイジのピークで、その後は八歳から十四歳くらいまでゴールデンエイジが続くそうだ。太古の時代ではもっと短い期間だったらしいけど。
まぁつまり、僕も実はまだゴールデンエイジなので、どんどん操縦技術を伸ばして行きたい。
「何回だって言うけど、本当にネマを拾ったのは幸運だったね。狙撃の天才って時点でダングに乗る為に産まれて来た様な物だし。ダングのパイロット探してる時にネマを拾ったのは、激運が過ぎる気がする」
「シリアスがラディアの幸せを全て賄うので、ラディアにはもう幸運など要らないが、しかし、激運が過ぎると言う意見には同意する。オジサン・サンジェルマンが言って居た通り、ラディアの運命力は異常。もしや本当に、ラディアはフィクションブックの出身か?」
「違うけど?」
「出来れば出身のフィクションブックを教えて欲しい。ラディアの事をもっと知りたいので、拝読する」
「だから違うってば」
今更だけど、耳朶を打つシリアスの声が、スピーカーからの音声じゃなくてほぼ肉声なのが心地好い。
ものすっっっっごく高いセクサロイドなので、発音システムが人間のそれとほぼ同じになってる。呼吸し、排気する時に声帯に相当する内部パーツが震えて、咽頭共鳴腔やら口腔で響いて『声』になってる。そしてお口の中はとっても気持ち良く成れる作りになってる。僕はにゃんにゃん鳴かされてしまう。
…………ああ、ちょっと変な事を考えたらムラムラして来た!
「し、シリアス………」
「苦笑。ラディアの興奮を確認。…………個室に行く?」
「…………うん」
「ネマには連絡して置く。個室のゲートも掌握して置くので、安心して鳴いて良い」
む、むぅ……。恥ずかしくて顔が暑い。けどめっちゃしたい。ネマが良い子な分、僕は悪い子になったみたいだ。
「…………ラディア」
「な、なに……?」
「幸せにする」
「……………………みゃぁ」
まだリビングなのに、僕はもうその一言で腰が砕けてしまった。
病院は、まだ少し遠い。
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