第25話 サソリ狩りのチビ助。
タクトにバイオマシンの操縦を教えてから数日、僕は此処のところ毎日砂漠に出てはデザリア狩りをしていた。
その度にタクトグループの誰か二人を乗せて、その度に操縦の授業をする。
何回も教え続けたからか、段々と授業も効率的になって来た。
「…………ッッおらぁっ!」
『笑止、この程度は余裕』
「すげぇぇええ……!」
「かっけぇええ!」
可能なら索敵範囲ギリギリからの狙撃でダメージを与えた後に格闘戦へ移行するのだけど、偶に砂の中から突然エンカウントするデザリアも居て、急にセンサーへ現れる反応にちょっと慌てたりもしつつ、僕は順調に狩りを進めている。
パイルバンカーの機能が使えないニードルカノンを叩き付ける様に襲って来るデザリアのテールをアームで挟み、そのまま内蔵されたパイルバンカーを機動してデザリアのテールを叩き折る。
そしてフリーのアームでシリアスの脚を圧し折ろうとして来るデザリアの背面に、炸薬砲を叩き込んで殺す。なるべく使いたく無いんだけど、仕方ない。
「…………シリアス、スキャニング」
『了解。…………ダメ、どっちも逝った』
「くそぉぉあ、殺しちゃったし稼ぎも減ったぁ……、僚機さんは殺したくないのにぃ……」
デザリア狩りで重要なのは、
バイオマシンは
一つでも一○万シギルで売れる重要な飯の種なのに、突然の格闘戦だったからどっちも破壊してしまった。超勿体ない。この機体はもう
しかも、一気に乱暴に殺したから、損壊部の
何より、
ちくしょう。
「いや、でも数万はするんだろ?」
「ひぇぇ、俺らの稼ぎ何年分だよ……」
「いやいや、旅団のお仕事って結構稼げるでしょ? 何年分は言い過ぎじゃ無い?」
「馬鹿野郎。まだ端末持ってない奴は
「まぁそれでも非正規雇用の俺らにもちゃんとお金出してくれる分、凄い待遇良いけどな」
今日も今日とて、名前も知らない顔見知りと、名前も顔も知らなかったタクトグループの新入りさんを乗せて、僕は砂漠に居る。
二人によれば、旅団のお仕事はかなりホワイティだそうだ。
「しっかし、バイオマシン動かすのって此処まで大変なんだなぁ。俺、お前のこと運が良いだけの奴だって思ってたけど、考えを改めるわ」
「そうだよな。仮に俺らがオリジンを仲間に出来ても、ロクに動かせなかったわ」
「いやー、でも運が良いのは間違いないよ。僕、シリアスに出会えて一生分の幸運を使っちゃったからさ」
『その分、シリアスがラディアを幸せにするので、問題無い。ラディアにはもう、幸運など要らない。シリアスが全て賄う』
「でへへへへへへへぇ…………」
幸せぇ…………。
「めっちゃ羨ましい。やっぱめっちゃ羨ましいぞチクショウ」
「あー俺も乗機欲しい…………」
「僕はタクトにしか用意しないけどさ、タクトにさえ用意すれば、後はタクトが稼いでみんなの乗機買うでしょ。タクトに頼まれたら鹵獲も手伝うし」
「はぁー、ディアラちゃんはタクトしゅきしゅきで仕方ないなぁー!」
「…………降ろすよ? 此処から歩いて帰る? 僕は止めないよ?」
「ごめんなさいッ! ユルシテ!」
女装して無い僕をディアラ呼びとかギルティだ。ギルティ過ぎる。本気でコックピットの外に放り出すぞ。
此処は警戒領域でもそこそこ奥の方なので、徒歩で帰るとか悪夢だし。野良デザリアに襲われずに帰れると良いね☆
「…………はぁ、炸薬砲まで使ったのに、両核損壊かぁ。ツイてないなぁ」
「あー、弾薬費か」
「うん。今撃った弾一発で、一○○○シギルもするんだよね」
「…………聞きたくなかったなぁ。今の攻撃だけで何日分の仕事が飛ぶんだよ俺ら」
「めっちゃ頑張って一日に二○シギル貰えるから、二ヶ月半分くらいだゾ。無休でも一ヶ月強だな」
「つまり炸薬式二ヶ月半砲…………」
「なにそのネーミング」
しかし、登録
一ヶ月が三○日前後で、週休二日で働く市民が二○日勤務する一般的な勤務形態だと、月に約三○○○シギル。これが中級市民の平均月収だ。
下級市民や上級市民でまた違うけど、大体の都市に於いて一番層が厚いのは中級市民なので、比較としてよく使われる。
そうすると、非正規雇用の孤児が日に二○シギルも貰った場合、月に四○○シギル貰える事になる。無休なら六○○シギルだ。
子供のお小遣いにしてはかなり多いと言える。だってその子供を七人も集めたら中級市民の月収に追い付くのだ。何回も言うが非正規雇用でそれだけくれるのだ。めちゃくちゃ良心的と言える。
「しかも、飯出るし。水も貰えるし。最高だよな」
「ホントだよ。水と飯が欲しくて仕事してるのに、仕事したら金とは別に水も飯もくれるんだから、金が丸々浮くもんな」
「ボスはセルクさん?」
「ん? セル…………? ああ! セルリルクさんの事な! そうそう!」
「めっちゃ気にかけてくれる良い人だよな。めっちゃ可愛いし。ニコニコしてるし」
「でも三十路過ぎなんだよな?」
「バッカお前、アンチエイドなんだから実質若いだろうが。変な事言うとセルリルクさんにチクるからな」
「やめろぉぉおッ!?」
セルクさんは
でも、セルクさんなら年齢の事を言っても「そんな事言っちゃ、めっ、だぞ?」とか言って許してくれそう。だからって侮辱して良い理由にはならないけど。
「…………て言うか、あの人も
「そうだね。ブリッツキャットって機体に乗ってるよ。凄い綺麗な機体だったよ。名前はコルナスだって」
「あー、いいな。自分の機体の名前とか、もうそれだけで羨ましい」
「良いよなぁ。俺も、『これが俺の○○だぜ』みたいな事言ってみてぇ……」
めっちゃ分かる。僕も、僕のシリアスって言う度に内心凄いモニョモニョしてるし。
分かりみを感じながら、仕留めた獲物をシリアスの背中に乗せて移動を開始。背面に武器を積み始めたらコレも出来なくなるから気を付けないと…………。
「なぁ、ラディアはどうやってシリアスの名前決めたんだ? 俺らも何時か自分の機体にカッコイイ名前付けたいから、参考に教えてくれよ」
「ふぇ、僕?」
『便乗。シリアスも気になる。シリアスは何故シリアスなのか』
次の獲物を探しながら、僕はシリアスの名前の由来を聞かれる。大した理由じゃ無いんだけどなぁ。
「えっと、まずね、僕の父がね、名前をライディウスって言って、二つ名がヴィクトリウスって言って、機体の名前がサディウスなんだ。それで、名前の最後が『ス』で揃うのが、父流なのかなって思って、それでシリアスの『ス』が決まったの」
「ほうほう」
「そっか、お前の親父も傭兵なんだっけ」
「それでね、頭の三文字は、すんごく普通に『デザートシザーリア』から三文字取って、シリア。それにスを合わせてシリアス」
語り終えると、微妙な顔をされた。なんでや、納得出来ん。
「いや、なんか、もっと大層な由来とか有るのかと…………」
「オリジンなのに……」
「煩いなぁ! イイじゃん! 音の響きはカッコよくて綺麗で可愛いじゃん! それに、大事なのは由来よりも名前に積み重ねた歴史なんだよ! つまり僕とシリアスが歩むこれからの人生が大事なの!」
『肯定。なかなかの名言だと判断する』
褒められて照れる。でへへ。
僕はシリアスに獲物を乗せながらセンサーを注視する。何処を見てても視界に計器系が表示される状態を維持してくれるホロバイザーは便利だぁ。端末用のウェアラブル端末を機体に同期すれば要らない設備なんだけどさ。
乗せてる獲物は次の獲物を見付けて狙撃後、その場に降ろしてから狙撃した獲物と戦う予定だ。降ろしてる間に別のデザリアに食われるかも知れないけど、その場合は食い付いたデザリアも狩るのでどっちにしろ美味しい。
「それに、大層な由来とか考えて名前付けてたら、シリアスの名前って今頃エンジェルとかだからねっ!? もしくはプリティとか! ピュアキュートとか!」
「…………無いわぁ」
「なんだよプリティって」
「なんでや! シリアス可愛いやろッ!?」
「いや、めっちゃカッコイイとは思うけど……」
「この刺々しいアームデザインとかで可愛いとかは、ちょっと思わないよな。コックピットの中だけなら分かるけど」
「それな。コックピットはめちゃくちゃカッコイイし、可愛くもあってセンス良いよな。俺も機体があってお金貯めたら、このコックピットが良いわ」
ちくしょう。感性が合わない。
シリアスはこんなに素敵で可愛いのに、その良さが分からないなんて、この二人は人生を九割九分九厘損してるに違いない。なんて勿体無い人生を送ってるんだ。
「まったくぅ…………、ん? ああ、二機目発見。今度は先制出来る」
「おほぉー! 稼ぐぅー!」
「マジ
センサー範囲ギリギリ、砂から出てるデザリアの
僕は狙撃のセンスがあまり無いっぽいので、命中はするんだけど綺麗に
僕が自信無いからって、シリアスに照準を任せる事はしない。一応はシリアスが狙って僕が引き金を引くって事も可能なんだけど、やらない。
シリアスもほんの少し、数秒だけ時間を使って演算すれば、かなり高精度な狙撃が出来る。けど、シリアスは元々戦闘用じゃなく工作機に積まれてた
古代文明レベルの技術で作られた
この先、何処かで容量の大きな
もし、もし仮に、古代文明の生産施設の設備を使って完全に空の
「喰らえ、八○○シギル砲!」
「こっちは完璧な二ヶ月砲や……」
「二○シギルを一ヶ月二○日働いて四○○シギル! 二ヶ月で八○○シギル! 俺らでも二ヶ月働けば買える弾なんだな!」
「機体ねぇけどな!」
「それな!」
「ごめんちょっと戦闘機動に入るから黙ってて? 舌噛むよ?」
「「あいあいさー!」」
狙撃は成功して、だけどやっぱり
吶喊して、迎撃に振るわれるアームを黒いアームで掴み取り、速攻で内蔵パイルバンカーで破壊する。工作機の装甲って本当に柔らかいな……。
「ごめん、
パイロットが居ないと武装が使えないって言うのは、あくまでウェポンシステムが使えないって事なので、ただ動いでパーツを叩き付けたり、シザーアームで挟み潰したりは可能だ。つまりちょっとは危ないので、まるで反撃出来ない様にさせて貰う。
「これで、終わりっと……」
ひっくり返ったデザリアのお腹、僕の撃ったパルス砲が当たってボロボロになってる場所にシザーアームを限界まで開いて添える。そしてトリガーを引いて内蔵パイルバンカーを射出した。
なかなか使い勝手が良いこのバトルアームは、弾薬費を節約しながらデザリアの
「うーん、グラディエラ良いゾ〜」
「かっけぇし、強いよな」
「俺らさ、将来的にデザリアに乗る奴も結構居ると思うけど、多分その時って、ラディアのカスタムを丸パクリしそうだよな」
「分かる」
僕も分かる。多分そうなるんじゃ無いかなって思ってる。
だって実際カッコイイし、こうやって実績も見せてるし、選ばない理由って特に無いよね。
オンリーワンが良いってマイナーウェポンを選んで失敗する新人の話しは、オスシ会の時にカルボルトさんに語られたしね。無難でカッコよく実績もある選択が見えてるなら、まぁ僕でも同じ物を選ぶと思う。
いや、僕でも選ぶって言うか、僕が悩んだ末に選んだのがコレなんだし、当たり前か。
「これで幾らの稼ぎなのよ」
「んーと、シリアス?」
『回答。欠損率等を加味して現在の相場と照合すると、二機分合わせて五○万程と予想される』
「うっひょぉ〜」
「圧倒的な稼ぎじゃないか……! 俺も、早く俺も乗機が欲しい……!」
結局、この日は二機しか狩れなかった。
デザリア、本当に出会えないな。めっちゃ隠れよる。
二人を降ろし、また明日乗る人の人選はグループに任せて帰宅。帰る先は当然おじさんの整備屋だ。
マジで僕、自分の住処に帰らないよな。本当に誰か住み着いて無いか心配になって来た。
「ただいまー」
「おーう、おかえり。今日はそれか?」
「うん、二機。一機は砂の中から出て来て遭遇戦になっちゃって、両核損壊しちゃったけど」
「あらら、一○万シギルの損は地味にデケェぞ」
「だよね〜」
売却処理をして、お金をゲット。シリアスと分け合って口座に入れる。
最近のシリアスは、専ら僕の服を買うのが趣味になってる。でも稼ぎと消費が合ってないので、シリアスは貯まって行く一方だと思う。
まぁ僕もなんだけど。趣味無いし。性能に関わる装備は二人で出し合う約束だし、装備も安定したから暫くはずっと貯金だし。
「整備は?」
「お願いします!」
「あいよ。補給もやっとくぜ?」
整備や補給に掛かる費用は、まず僕が出して、後でシリアスが勝手に計算して僕の口座に送金する形になってる。整備と補給も折半だ。二人の命に関わる事だからね。
「ところでラディア、お前、獲物をギルドに降ろさなくて良いのか?」
「ほえ?」
「いや、ウチは儲かるから良いけどよ」
ああ、そう言えば、ランク上げるにはギルドに降ろした方が良いんだっけ? 税金とマージンを持って行かれるから稼ぎは減るけど、ランクが上がればその分優遇が増える。
おじさんを優先する約束はツケ払ってもう無効だし、後はタクトを説得するくらいしかツケ払いの契約は残ってない。
シリアスも未だに、ちょこちょこと整備の手伝いをしてお小遣いを稼いだりしてるけど、それだけだ。
「うーん、まだ良いかなぁ? 元々孤児だし、優遇が少ないの別に不満ないんだよね。だからランクを上げる意義が見い出せないって言うか……」
『装備が整い切ってから上げても問題無いと判断する』
「そうか? 装備の購入にランク制限付けてるメーカーもあるぞ?」
「え、マジ?」
『…………早急に再検討を実行する』
おじさんの助言で結局、僕はギルドに獲物を卸す事になった。ちくしょう。
最低でもランク二、可能なら四まで上げとけっておじさんに言われた。一は当然、二や三の微笑ましい駆け出しレベルじゃ販売出来ない装備もあるらしい。
メーカーよっては「そんなの関係ねぇ!」って売ってくれるらしいけど、て言うか僕の買ったエキドナとグラディエラもその手の装備だったんだけど、選択肢は多い方が良い。
これ、他のメーカーなら最低でもランク三から販売する品だそうだ。
道理で強いし高い訳だよ。
「言っとくが、ランク一で初っ端からコンスタントにデザリアをポンポン狩ってるお前がおかしいんだからな? しかもソロで。普通は、東のギルドで護衛受けてチマチマ稼ぐ事から初めんだよ」
「ああ、そうか。それでお金貯めて、装備買って、狩りに行くのか」
「それも、普通は徒党を組む。パーティバトルって奴だな。そうすりゃ安全だが頭割りで稼ぎも減るから、駆け出しはお前ほど稼いでねぇよ。シリアスに感謝しとけよ?」
それはもう、僕は毎日毎晩毎秒毎瞬、シリアスに感謝して生きてるよ?
僕と出会ってくれてありがとう。僕と一緒に居てくれてありがとう。幸せにしてくれてありがとう。この先の幸せも全部全部、今からずっとありがとうだよ。
でも、そうか。前に砂漠で見た八機のパーティ見た時も思ったけど、八機で一○○万稼いでも頭割りで十二万になっちゃうもんね。弾薬費やフードメタル代なんかの経費を抜いたらもっと減る。
それに、装備が弱いまま狩りに行って、今日みたいな遭遇戦で破損とかしたら、その分も稼ぎが減る。それに中破や大破して長期間修理とか、パイロットが入院とかしたら、その期間は無収入だ。だから装備を更新するか、人を集めるんだ。
安全性をお金で買う。買った安全性でまた稼ぐ。それが傭兵のサイクルであり、僕はシリアスのお陰でそこを一足飛びに駆け上がったんだ。
「…………やはりシリアスは天使ぃぃ」
「もう慣れたわコレ」
『肯定。シリアスはエンジェル』
ついにシリアスもシリアスの天使論を肯定してくれたところで、今日はもうお休みだ。
明日からまた稼ぐ。今度はギルドに卸すから、稼ぎが減るけど。
ああ、それも有るのか。人集めて安全に狩りをして、それを傭兵ギルドに降ろしたらもっと稼ぎが減るじゃないか。駆け出し傭兵ってどれだけギリギリで生きてるのか。
いや、それでも一般市民より何十倍も稼いでるんだけどさ。
ふむぅ、それでランクを上げて、装備を整えて、強くなったらデザリアの警戒領域は卒業なのか。
その時はガーランドを出るか、もしくはデザリアより稼げるシールドダングを狙って狩りに行くか、どっちからしい。アンシークはデザリアより安いし、ガーランド以外でも出るので人気は無いそうだ。鹵獲しても五○万から、高くても八○万らしい。
シールドダングは輸送機だけど、装甲が超硬い機体なので、
それに、シールドダングを鹵獲出来たら、相当な高値で売れるそうだ。現代の輸送機と言えば取り敢えずシールドダングって感じらしいので、需要がヤバイ。
軍も傭兵も民間も買うから、値段が上の方で安定してる。だから鹵獲して売ると状態が悪くても四○○万くらいはするっておじさんが言う。マジか、鹵獲したデザリア四機分かよ。
「でも、ダングの鹵獲は大変だぞ? 装甲がヤバいからダウンさせられねぇ」
「ダングの装甲を抜ける高品質な弾薬を用意したら、その分弾薬費が嵩むのか…………」
「それだけじゃねぇぞ。直線走行なら中型上級の中でもピカイチだからな。武装も無い分、移動に出力全振りしてるダングを追うのは骨なんだよ」
ヤバいなダング。逃げるし硬いのか。考えるだけでも大変だ。
その質量が爆走してると思えば、先回りして足止めとかも命懸けだろうし。体当たりされたら一撃で大破しそうだ。
「その分、綺麗に鹵獲すると凄いぞ。一機で七五○万はする」
「デザリア正規購入の三機分っ!」
鹵獲機換算なら七機半か。どれだけ高難易度なのか良く分かる。
て言うか、もっと大変な奴だと
「下はとにかくしょっぱいし、上は天井知らずなのか……」
「それが傭兵業さ。お前が足を踏み入れた世界だよ」
気が引き締まるね。
そんなお話しを聞いてから、一日が終わった。
翌日、朝から僕の端末に着信。ショートメッセージだ。
「…………あ、セルクさん?」
なんと、お買い物の約束行こうってお誘いだ。やったぜ。
僕は返信してから急いでシャワーを浴びる。そして着替えて、下に降りておじさんに挨拶。
ちなみに、当然着替えたのはメンズだ。シリアスが女装させたい日は朝から端末に指示が入ってるので、何も無い日はメンズを着て良いのだ。良いのだ…………。
「おじさんおはよ!」
「おう。今日は何すんだ?」
「知り合いから買い物に行こうって言われてて、今日はお休み!」
「…………かぁ、あのラディアが、知り合いと買い物か。感慨深ぇなぁ」
何やら感動してるおじさんと一緒に朝食を食べてから、タクトの端末に今日はお休みだと連絡もして、それから待ち合わせ場所に向かった。
今更だけど、僕っておじさんに滞在費とか払わなくて良いのかな……?
シャワーも使えて、朝と夜には天然物の手料理が出て来る。下手なホテルより居心地良いぞ……?
「お待たせしました!」
「お、来たなー? ギルドで噂の新人くん! おはよ、ディアラちゃん!」
「あ、ごめんなさい。メンズの時は出来たらラディアでお願いします……」
「あっ、そうだったね! ごめんごめん!」
待ち合わせ場所は中央西区のギルド近く、店舗敷設型じゃなく単独で運営されてる駐機場だ。生身では中に入れないから、バイオマシン好きでも乗機が無いと中でバイオマシンを見れない場所で、地味に市民の憧れの場所だったりする。
そこで愛機のブリッツキャット『コルナス』と一緒に待っていたのは、待ち合わせ相手のセルクさんだ。今日は私服姿で、白いチュニックにデニムっぽいドレープのスカートを合わせてる。帽子は柔らかそうな印象の、デニムのキャスケット帽かな? キャスケット帽は硬い印象を持ちがちだけど、デザインによっては柔らかいファッションにも合うのか。流石ガーランドファッション。
それより、うん。あの、メンズの時にディアラ呼びは心臓にクるから、止めてください……。僕は、シリアスに相応しい男らしい傭兵になるはずなのに……。
「それより、噂とは?」
「ゆ? 知らない? 最近ソロでバンバン狩りしてる期待の新人が居るって、ギルドで噂になってるんだよ」
タイムリーな噂だなぁ。
今日も緑の髪が日に晒されて可愛らしいセルクさんに言われたのは、稼ぎの効率が最大な代わりに危険も最大なソロ狩りに着いて。
僕は意識してなかったけど、駆け出しでもソロで毎日バンバン砂漠に狩りに行く僕は、結構なクレイジーボーイとして話題になってるそうだ。
何故、あの見た目のシリアスに乗ってて新人だとバレてるか。それは僕がゲートでルベラお兄さんを見付ける度に挨拶してるから、子供の声イコール新人の傭兵って図式らしい。最近見る様になった新しい機体ってのもポイントだ。
「クレイジーボーイですか…………」
「そっ! 人呼んで、サソリ狩りのチビ助だって! チビ助って呼び方のソースは謎! ラディアくんが小さいって、誰から漏れたんだろうね? まぁでも、流石にほぼ毎日は頑張り過ぎかなって、私も思うよ?」
さ、サソリ狩りのチビ助…………。チビ助が無かったらちょっとカッコイイ二つ名なのに。サソリ狩りのラディ助とかに成りませんかね?
いや、でも初心者向けのデザリアを専門に狩ってるって二つ名は、傭兵的に微妙か? デザリアが特産品とは言え、性能はお察しだし。
「うーん、…………でも僕、他にやる事無いから、取り敢えず稼ぎに行こってなるんですよねぇ。お金の使い方、知らないので。毎日でも特に苦じゃ無いんですよ」
僕ら孤児は水さえ買えたら生きて居られたからなぁ。他に使うってなると、やっぱりシリアスのカスタムだし、そうじゃないならカスタム代稼ごってなる。
て言うか、僕ってシリアスの傍に居るのが趣味と言うか、僕のやるべき事と言うか…………。
ぶっちゃけ、シリアスのコックピットに居るだけで幸せだし、フットレバーを蹴ってアクショングリップを握ったら、それだけで僕は超ハッピーなのだ。僕は操縦が好きなのだ。
「そんな訳で、今日はワーカホリックなディアラちゃん、じゃなくてラディアくんに! お姉さんが休日の過ごし方を教えてあげちゃうゾ!」
そんな訳で、セルクさんに案内されて移動だ。
一応ルート情報も貰って、何なら移動もコルナスに同期して良いよって言われたけど、僕は操縦が好きなのでセルフで追います。
目指すは上級南区。そこにバイオマシンの周辺機器を置いてる専門店が有るそうだ。面白い商品も多くて、居るだけで飽きないからオススメだゾって言われた。
「それにしても、サソリ狩りのチビ助かぁ……」
『ラディアは小さくて可愛い。小さい事を気にする理由が疑問』
「あー、うん。人間ってなんか、そんな些細な事を気にしちゃうんだよね」
『シリアスも小型機。お揃い』
「……そう考えると、確かにチビでも良いかなって思うね!?」
僕はチョロかった。
まったく、シリアスは僕の扱いが上手いや。
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