第24話 約束の履行。
「ほれ、出来たぞ」
「流石おじさん、仕事が早い。早過ぎる」
「あんまり、男に向かって早い早いと言うもんじゃねぇぜ」
「唐突な下ネタ」
二度目のオスシ会から、明けてお昼。
ライキティさんから送られて来たリストを見て、シリアスと精査し、選んだ物を連絡して代金を支払い、そしてすぐ整備屋サンジェルマンに送られて来た中古パーツ。
また僕とシリアスの所持金が危険域だけど、これでもう本当に、暫くはカスタムの必要が無くなった。
「交換してたアクチュエータも一応使ったまま、新しい脚部機関に入れ替え完了。工賃は一三○○○シギルってとこだな」
そう、選んだのは結局、脚部系だった。
と言うか、それしか選択肢が無かった。
「他だと高過ぎて中古でも買えなかったり、今使ってるパーツよりグレードが低かったりで、脚しか無かった」
「そんなもんだろ」
求めてた中型プラズマ砲やパルス砲もあったんだけど、グレードが高過ぎて買えなかった。なんだよ中古で一○○万とか二○○万シギルって。どんだけハイグレードな武器なんだ。超強そう。
あとは、永久旅団の新人さん達の交換品も多くて、ゼロカスタムに毛が生えた程度のパーツとか超要らなかった。なので、まだコッチもゼロカスタム仕様である脚部系しか選択肢が残ってなかったのだ。
幸い、ゼロカスタムに毛が生えた程度のパーツでも、オジサンさんから融通して貰ったアクチュエータと組み合わせれば、まぁまぁの性能に成るそうで、早速おじさんに換装をお願いしたのだ。
「よし、早速稼いで来ます」
「勤勉だなぁ。傭兵なんて、仕事したら金が無くなるまで遊ぶって馬鹿野郎も少なくねぇのに」
「そんな事してたらお金貯まらないじゃないですか」
『非効率の極み』
支払いをしてから、僕はシリアスに乗り込む。
シリアスのお顔を覆うキャノピー装甲が後方に向かってガシャッと引き、内部のハッチがプシュゥっと開いてタラップを展開。
相変わらずカッコよ過ぎるギミックに興奮しつつ、タラップを通ってコックピットに入り、メインシートに座ってロッドを降ろす。
キャノピーとハッチが閉まってモニターが稼働する。システムが立ち上がってシリアスと僕がコックピットを通じて一つになる。
毎回、この感じが堪らない。あはー☆ って気分だ。
「じゃぁ、行ってきまーす」
「おう、気を付けてなぁ」
ペダルを踏んでシリアスを前に。
整備屋サンジェルマンから出入りするのも慣れつつあり、メインストリートまでの移動もスムーズだ。
整備屋のゲートを出て、スラムの粗末なマシンロードを通り、煌びやかな中心部と危険な砂漠を繋ぐメインストリートへ。
「今日は、タクトの所に寄ろうか」
『了解。約束の履行?』
「そう。これから約束全部を熟すまで、毎日一人か二人ずつくらい、お仕事に連れてくのはどうかな? バイオマシンの動きを知れば、タクト達も永久旅団のお仕事に活かせるかも知れないし」
そんな訳で、西ゲート手前で曲がってパルスシールド沿いに動く。このスペースを使って移動するのはあまり良くないのだけど、タクトの拠点に行くなら此処を通るしか無いのだ。あと僕の住処も同じだ。
て言うかマジで僕、自分の住処に一度も帰って無いな。留守にし過ぎて、誰か知らない人とか住み着いて無いかな。ちょっと不安になって来た。
「…………住処潰して、正式にお家建てようかな」
『質問。外周区である必要性』
「都市部だと、寂しいじゃん?」
お金さえちゃんと払えば、外周区でもちゃんとした家が建てられる。家なんてどうせ、レプリケート技術を使って三次元印刷なんだし、あっという間のはずだ。
将来的にシリアスも、中型以上の戦闘機に成って行く予定なので、中型でも入れるガレージは必須だろう。可能なら大型中級くらいまでの機体を二機は格納出来るガレージを持った家が良い。
「て言うか、シリアスと別空間で過ごすとか嫌だし、オジサンの事務所みたいな形の居住部で良いよね」
『疑問。丸見えで良いのか否か』
「シリアス相手に隠すこと、別に無いし……? お客さんとか、僕相手に来るとは思えないし? シリアスだって僕を女装させたら見える場所で過ごしてた方が良いでしょ?」
『肯定。端末経由で確認出来るとは言え、機体のカメラとセンサーで直接「見る」のは大事だと思える』
要するに、「可愛い僕が見たいでしょ?」って事だ。シリアスだけに見せるなら、僕も別にそこまで抵抗しないよ。
そんな訳で、将来僕が建てる家は、オジサンの整備屋みたいな形にしようと決意する。
まずシリアスが居るハンガーがあって、そこの傍に壁も何も無い居住区が在るのだ。
いや、流石にトイレとかお風呂は個室だし、壁で遮るけどさ。それ以外は寝室も含めてフルオープンで設計しよう。
「何時までもパルスシールド沿いの裏道使う訳にも行かないし、家建てたらマシンロードを通さないとだね」
『外周区なら無許可でも可能。しかし、行政に依頼した方が無難』
「住んでる人に移動してもらう訳だから、トラブル必至だもんね。…………さて、到着。タクトは居るかなー?」
コックピットからは聞こえないが、シリアスに限らずバイオマシンが歩く音は中々騒がしい。どう言う原理なのか距離を開けると途端に聞こえなくなるのだけど、五○メートル程ではまだ普通に聞こえる。
そんな音を鳴らしながら現れるシリアスはスラムでも目立ち、当然ながらタクトグループにもすぐ気付かれる。シリアスに気が付いたメンバーがゾロゾロとバラック風テントから出て来る。
しかし良く見ると、グループの拠点へ残ってるメンバー数が明らか変だ。少ないのでは無く、逆。多い。
「あれー? この時間はシノギに出掛けてるのが大半だろうから、こんなに残ってるのはおかしいな?」
『推測。旅団の仕事で収入が上がった事が何かしらの理由に成っていると予想する』
「なるほど」
外部スピーカーで出て来たメンバーに聞いてみると、その通りらしかった。
タクトが旅団から仕事を貰い、ある程度のメンバーを連れて仕事を熟す。それから稼ぎで安い端末を買い、新しく
その循環で収入は驚く程に上がって、今ではシフトを組んで仕事をしてるらしい。なるほどね。
「タクトは?」
『今は寝てるぞ。夜勤明けなんだ』
「夜勤とか有るんだ?」
『おう。傭兵は二四時間営業だから、夜に仕事をする人の補給作業の手伝いとか、雑用とか、色々有るんだよ』
なるほどねぇ。
僕は取り敢えずその場にシリアスを駐機して、コックピットから出る。
乗降のギミックがカッコイイので、その様子を見たメンバーの男の子達はキラキラした目でシリアスを見つつ、僕を見てちょっとガッカリしてた。なにゆえ?
「今日は、女の子じゃないのか……」
「本格的に僕へどハマりするの止めてッ!? 僕が男なの知ってるでしょッ!?」
「いや、だって可愛いんだもん……」
ぶっ潰すぞコノヤロウ!
なんか、グループの拠点に遊びに来る可愛い女の子的な、タクトグループのアイドル的なポジションにされて不満が募る。
確かにさ、僕はタクト争奪戦に参加してないから、見た目とパラメータで言えば『タクトに持って行かれてない貴重な女の子』かも知れない。けど、その実態は君達も良く知ってる男だからね。止めてよホント。
「今日はどうしたんだ?」
「いや、ほら、シリアスに乗せるって皆と約束したじゃん? それでタクトとか、暇なメンバーを砂漠に連れて行こうかなって」
「マジか!? え、じゃあ俺行く! タクト寝てるし、別に良いだろ!?」
「それはタクトに聞いてくれる? メンバーを勝手に動かす権利は僕に無いし」
名前も知らないけど顔見知りでは有る男の子は、「ちぇー、リーダーに聞いたら俺ら後回しじゃんか」と言って不満ぷーぷーだった。
でも、所属外の僕が勝手にメンバー連れてったら問題でしょ。親しき仲にも礼儀ありだよ。僕はタクトに迷惑なんて掛けたくないし。ぶっちゃけ君達の事どうでも良いからね。名前すら覚えてないからね。
スラム孤児は「ねぇ」とか「お前」とか「君」でやり取りに問題が出ないので、名前を覚えない
「補助席入れると二人乗せられるから、タクトが確定でももう一人連れてけるよ。聞いてみたら?」
「マジかよ先に言えよ! ちょ、リーダー叩き起してくる!」
「あ、ちょ--……」
行ってしまった。叩き起すのは止めて欲しかったのだけど。
「ラディアくん! 今日は男の子なんだね!」
「ああ、…………えっと、そう! プリカ!」
「………………名前忘れてたねー?」
タクトを起こしにテントへ突撃した男の子を見送ると、代わりにプリカがやって来た。ごめんね、君の帽子の方がインパクト強いんだ。ホント、ディアストーカー似合ってるよね。羨ましい。
僕もシリアスにお願いしてディアストーカーのコーディネートして貰おう。
「仕事は順調?」
「うん! これも、きっかけをくれたラディアくんのお陰だね! 有難う!」
「僕はタクトに恩返ししてるだけだから、気にしないでよ。お礼はタクトへどうぞ」
「そうする! ねぇ見て、私も自分の端末持てたの! 嬉しい!」
分かる。自分の端末って嬉しいよね。人に必須のツールだから、やっと人に成れた気がしてさ。
せっかくなのでプリカと連絡先を交換してると、テントからタクトが目を擦りながら出て来た。寝起きである。
「…………寝みぃ」
「えと、アポ無しでごめんね? 良く考えたら通信入れてから来れば良かった……」
「いや、寝てたし。通信要求来ても無視してたかも知んねぇし、仕方ねぇよ。…………おはよ、ラディア」
「うん、おはようタクト」
それから要件を伝え、タクトを乗せて砂漠に行きつつ、操作の基礎を教えながら狩りをするって言えば、タクトは眠い目をかっ開いて興奮する。
「マジかマジかマジか! すぐ用意する!」
「タクトの他にも、もう一人だけ連れて行けるよ。折り畳みの補助席も一つだけ有るから」
「オッケ分かった。すぐ選出するわ」
結果、最初に僕の対応をしてくれた男の子は落選。端末のクジ引きアプリは残酷な乱数を押し付けて来る。
初回はタクト確定で、次回からはタクトもランダム要因になる。つまりタクトだけは毎回抽選に参加出来る。あくまでタクトに対する恩返しだからね。他の子はついでだからね。
タクト以外の一度シリアスに乗れた人は次回から抽選に参加出来ず、希望者が一周した所でひとまず約束は終わりって感じに決まった。
「よ、よろひくおにゃがーしましゅ!」
「噛み噛みやん」
「お、落ち着いてね?」
『精神に負荷を確認。落ち着くと良い。ラディアの操縦は安全。かつ、ガーランド警戒領域での活動で危険に陥る要素は極低確率。既にシリアスの性能は当警戒領域に於いて破格である』
当選したのは、名前も知らない女の子。タクトに聞くと、スピカって名前らしい。青黒い髪色が珍しい女の子だ。
服はカルボルトさんに貰った物を毎日洗って着ているが、高価なナノマテリアルだから全然ヘタらない。でも砂漠のスラムにカクテルドレス風のワンピースは結構浮くよね。本格ドレスじゃなくて長袖だけど。帽子もカクテルハットだし。
「スピカ、落ち着け」
「ひゃい!」
「……………………いや、うん。良いや」
スピカが緊張してる原因の八割は、タクトと同じ回でシリアスに乗れた事が理由だと思われるので、タクトが声を掛けるのは逆効果だ。女の子って事は、当然ながらタクト争奪戦参加者なんだし。
つまり、僕と言うパイロットが運転手を務める異物感がある物の、実質コレはバイオマシンに乗れるアトラクションみたいな物で、要するにデートなのだ。良かったねスピカ。
僕はちょっと微笑ましい気持ちになりながら、さっさとパルスシールド沿いに移動して西ゲートから外に出る。今日はルベラお兄さんが居ない日だったので、挨拶も無くそのまま出る。
「いやぁ、しかしカッコイイな! このコックピット!」
「でっしょ?」
「外観もかなりカッコよくなってるし! これ、全部で幾らかかったんだ?」
タクトもデザリア希望なので、デザリアのカスタムには興味が有るんだろう。僕が値段を告げると「ぴゃっ」て鳴いた。
「よ、四○○万オーバー…………」
「これでも、オマケされまくってコレだからね。正規の値段でカスタムしてたら、もっと行ったと思う」
「マジかー」
「マジだー」
「ほぇぇ…………」
スピカもほうけた声を出した所で、狩場に到着する迄にバイオマシンの基礎を教える。
「シリアス、タクトのモニターに機体のモニタリングとコックピットのモデリングデータを出してあげて。スピカも聞く? 端末持ってる?」
「あ、私はまだ端末無いでしゅ……」
「俺の貸してやるよ。シリアス、俺の端末にアクセスして良いからよろしくな」
『了解した』
補助席にはディスプレイ無いからね。折り畳み式で普段は仕舞ってある座席用の画面なんか準備して無いし。
タクトの席にはちゃんと外の様子が見れるモニターがあり、そこの端にでも機体の全容と、メインシート周りのモデリングデータを表示する。
「さて、始めるね。まず、バイオマシンを動かす時に一番重要な操縦系って、なんだと思う?」
「あ? そりゃ、その、手に持つレバーとかじゃないのか? 引き金あるし、武装を撃つのに使うんだろ?」
タクトの言う通り、武装を使うにはアクショングリップを操作する必要がある。乗り手が居るバイオマシンの特権なので、ある意味一番重要かも知れない。でもそれだと四○点くらいしかあげられない。勿論一○○満点での四○点だ。
「正解は、フットレバー。ペダルとも言うけど、この足元にある操縦系だね」
「そうなのか?」
「うん。正直な話し、都市内でバイオマシンを動かすだけなら、アクショングリップもスロットルレバーも要らないんだよ。フットレバーの操作だけで事足りるから」
バイオマシンのコックピットには、最低でも必ず六個のフットレバーが有る。例外は一つも無い。どの古代文明産の機体でも、変わらず六個以上のフットレバーが存在する。
「このフットレバーの扱いさえ習熟すれば、都市内で機体を動かすのは問題無いんだ。聞いた話だと、バイオマシンの免許にも種類があって、輸送機しか乗れない免許と戦闘機に乗れる免許が有るらしいんだよね。僕は当然後者だけど、都市内で使うだけなら前者で良い。それで、輸送機免許ならフットレバーの扱いだけで免許取得可能なんだ」
「マジかよ」
「僕はシリアスのお陰で、知らぬ間に免許取れる状態だったから、免許の種類とか知らなかったけどさ」
機体を歩かせる要素は全てフットレバーに集約されてる。アクショングリップやスロットルの扱いが杜撰でも、フットレバーの扱いが及第点なら輸送機免許は取れるんだ。
逆に、アクショングリップをどれだけ巧みに扱えても、フットレバーの操作がゴミだと免許は取れない。
「機体を歩かせるのは全ての基本だからね。何より重要なのがフットレバーなんだよ」
「ほぇー……、地味だけど大事なんだな」
「うん。やっぱり、武器を使えるアクショングリップの方がイメージ強いけど、優先度はフットレバーなんだよね。歩かせる事も出来ないと、危ない時に逃げる事さえ出来ないからさ」
「…………でもよ、シリアスのフットレバーって、なんか多くね?」
そう。シリアスの現在装備してるコックピットブロックは、フットレバーが十二個もある。かなり多い。
「これはまぁ、基本操作外の色々が追加されてるだけだよ。基本は六個の操作を覚えれば良い」
「そうなのか」
「うん。まず、中心の六個、左右で三個ずつのペダルを覚えてね」
覚えるだけなら結構簡単だ。中心の二つ、右が右脚の前進で、左が左脚の前進を司る操作系だ。これを両方踏むと、両脚に前進が入力されて真っ直ぐ進める。
曲がりたい時は右だけ、左だけ、もしくは強弱を付けて踏む。
「右を踏むと右だけが進むから左に曲がる。左を踏むと左だけが進むから右に曲がるよ」
「踏んだ方と反対に曲がるのか」
「そう。それで、前進の隣にあるフットレバーは後退を操作出来るから、右前進と左後退を同時に踏めば、左回りにその場で旋回運動をするね」
「そんな操作方法なんだな」
「ただ動かすだけなら凄い簡単だよ。でも、戦闘する為の繊細な挙動になると、そう簡単じゃ無いから気を付けてね。簡単操作でも奥が深いから」
「おう。覚えとくぜ。…………それで、最後のフットレバーは?」
「ああ、これは横移動用のフットレバーだよ。六個の内の一番外側は、右を踏むと右にスライド移動、左なら左に移動するよ。これは一個踏めばそれだけでそっちに移動する。あと、右横移動を踏みながら左前進を踏むと、斜め前に移動出来る。他の組み合わせも基本一緒」
これがバイオマシンの基本操作の、基礎の基礎だ。これが出来ないとなんにも出来ない。
「あ、片方の前進と後退を揃って同時に押すとブレーキね。右と左で、前進も後退もちゃんと同時に踏むと、その場で止まる急停止操作になる」
「地味に重要」
「止まれないと事故るからねぇ。右か左だけでブレーキすると、また違う挙動になるけど、そう言うのは戦闘機動で使う奴だから今は良いや」
「気になるけどな」
「まずは基礎だよ。下手に戦闘機動を覚えるとそっちばっか練習して、基礎が出来ない永遠の素人になっちゃうよ?」
「それはすげぇ嫌だ」
とは言え、今教えた内容をしっかりと練習して、十全に機体を動かせる様になれば、それだけで輸送機免許は取れてしまう。勿論、筆記試験と面談に通ればだけど。
「ちなみに、このコックピットに付いてる大量のフットレバーは、戦闘機動に使うジャンプとか、簡易反転とか、シザーアームのパワー操作とか、色々な役割が有るよ」
「フットレバーの操作でもアームに作用するのか?」
「物によるね。ぶっちゃけ、コンソールで操作系のコンフィグ設定をすれば好きに変えられるよ。アクショングリップで前進操作とかも一応出来る。…………まぁやる人居ないと思うけど」
鹵獲した機体も初期設定はフットレバー機動な訳で、つまりフットレバー操作で機動制御をするのは、古代文明の視点からでもそうするに足る理由があるって事だ。人体工学とかも現代より遥かに凄かっただろう古代文明でそう作られてたのに、わざわざ変える必要なんて無い。よほど変な拘りが無ければ、普通はフットレバーで機動制御するはすだ。
「さて、次はアクショングリップとスロットルの基礎ね。これが出来たら戦闘機免許も取れるよ。偵察機も工作機も、射撃武装が積んであると戦闘機免許じゃないと乗れないから注意してね」
「おう。…………シールドダングみたいなデカい機体を輸送機免許で乗れて、アンシークとかデザリアが戦闘機免許なの、ちょっとモニョるよな」
「ダングだって武装したら戦闘機免許が要るからね? 旅団の人事を担当してる人に聞いたんだけど、昔には超長距離砲撃特化のシールドダングが暴れる戦争があったらしくて、旅団の戦闘員もめちゃくちゃ殺されたって言ってたよ」
「マジかよ…………」
グドランさんがしみじみと言ってたから、相当な数殺されたんじゃないかな。
いくらミラージュウルフが強襲用機体でも、単機駆けしないと突破出来なかったった時点でヤバ過ぎる。単機駆けって控えめに言って捨て駒運用の自爆特攻みたいなモンだからね。
「アクショングリップの操作は、まぁめちゃくちゃ難しいよ。一気に操作難易度上がるから」
「そうなのか? フットレバーの操作聞いてたら、そっちも簡単なのかと思ったけど」
「まさかまさか。戦闘機免許がわざわざ分けられる事に納得するくらいには違うよ」
僕はロクデナシの父から叩き込まれてるけど、普通に考えたら子供に覚えさせる難易度じゃ無い。
「アクショングリップはカスタム品だとめちゃくちゃ種類が有るから、その操作の違いも面倒なんだけど、今は基礎だから汎用コックピットの純正品基準で教えるね」
「頼むわ」
「と言っても、口頭で説明するなら凄いアッサリなんだよね。実際にやるのが超難しいだけで」
アクショングリップは引き金、つまりトリガーが重要な操作系になる。
レバーアクションで武装の照準を行って、トリガーで攻撃を入力する。コレだけなら、まぁ照準の感覚が難しいけど、それだけだ。
「問題は、武装の切り替え。シリアスがゼロカスタムだったとしても、シザーアーム二つにテールウェポン一つ、計三つの武器があったでしょ? 作業用なんだけどさ」
「…………なるほど。このコックピットでもアクショングリップは二つ、汎用コックピットなら一つだもんな? 武装の数と操作系の数が合ってない」
「そう言う事。だからアクショングリップに付いてるボタンで武装の切り替えをしながら、アクショングリップが対応する武器を切り替えて操作するんだ。武器が増える程に頭がこんがらがるし、対応武器を纏める操作とかもあって、慣れないとマジで混乱するよ」
ゼロカスタムのデザリアでも三つある武装だけど、対応出来る武器以外はフリーにして置くとか無駄の極み。だからボタン操作で『左右のアームを同期して同じアクショングリップで動かすモード』とか、『テールと右アームだけ同期して動かすモード』とか、色々な設定を切り替えて使う必要がある。
「……うわぁ、三つだけでそれかよ」
「うん。超大変だよ。汎用コックピットならアームだけでも二つの武器を一つのアクショングリップで操作するし、アーム同時操作、右とテール、左とテール、テールのみ、両アームとテール全部同期、つまり七種類の操作を切り替える訳だね」
勿論、右アームとテールとか、左アームとテールなんて操作方法は使う予定が無いって言うなら、コンソール弄ってコンフィグ設定から消しても良いし、武装を増やした時もそれは同じだ。
「他にも、シザーアームの格闘攻撃にアクショングリップを同期するのか、それともアームの射撃武器を使うのか、それでも操作が変わるからね。本当に大変だよ。しかもそれを戦闘中に、敵の動きを見ながら対応するわけだから」
「…………そりゃぁ、傭兵が高額を稼げる訳だよ。予想の百倍大変そうだわ。超専門職じゃん」
「そりゃそうだよ。それに、だからコレ、カスタムコックピットのアクショングリップにこんな馬鹿みたいな数のボタンが付いてて大変そうに見えるけど、むしろコレって対応範囲が増えてるから楽になってるんだよ。レバーの親指を置く所にあるマイクロスティックとか、第二のアクショングリップとして動かせるから、このレバータイプだと、頑張ればアーム二つとテールの照準を別々に出来るし」
「マジかよ。…………いやそれはそれで大変じゃね?」
「そりゃぁね? 普通は武装を全同期して一斉射とか、そんな使い方が普通だもん。砲門三つを別々に照準する場合とか結構レアケースじゃない?」
「じゃぁ意味無くね?」
「いやいや、『出来ない』のと『出来るけどやらない』は意味が違うよ。必要になった時に、あの時にちゃんとカスタムしておけば〜、なんて、後悔しても遅いじゃん? 一人で複数を相手にする場合だって有るんだし」
「…………それもそうか」
「それで、アクショングリップの操作だけでも大変なんだけど、スロットルレバーの操作も覚えないとダメだよ」
スロットルレバーも、アクショングリップと似たような使い方だ。
基本は武器の出力設定をする操作系だけど、移動用のブースターとかスラスターを装備したなら、その操作もスロットルレバーで行う。要はまたボタンで切り替えるのだ。
「クソ程大変じゃねぇか」
「だから言ってるじゃん。大変だよって。汎用コックピットだとアクショングリップ一つにスロットルレバーが一つだから大変だけど、このコックピットだとどっちも左右に二つ着いてるからめっちゃ楽。右と左で別の設定をして置けば切り替えも減るからね。実質的に負担が半分なんだ」
ゴシックローズの操作系は左右にアクショングリップとスロットルレバーが付いてて、例えばシリアスにブースターを増設したなら、左のスロットルをブースターと同期して、右を武装と同期すれば切り替えが要らなくなる。それだけでもかなり楽だ。
汎用コックピットのクソデカスロットルレバーくんも趣があって良かったけど、ゴシックローズのスロットルレバーも程良い小ささで使い易い。
スロットル操作の時にアクショングリップから手を離す必要があるけど、汎用コックピットだと普通はアクショングリップとスロットルレバー一つずつで操作する訳だからね。二つに増えた操作系の一つから手を離すくらい問題無い。問題無い操作を心掛ければ良いのだから大丈夫だ。
手を離してる間だけ、離した方とは反対の握ってる操作系へと必要な同期操作をして置けば良いのだし。
「いや、…………いや大変じゃん。頭がおかしくなるわ」
「まぁ、当たり前だけど教えてすぐに全部覚えろだなんて無茶は言わないよ。乗機を手に入れたら少しずつ覚えれば良いんだし」
「でも、免許無いと乗ったら捕まるだろ?」
「都市の中ならね? 外なら大丈夫だから、傭兵団では都市外で実機練習とかするみたいだね。それと、傭兵ギルドもそうだし、免許取得が出来る施設で申請すれば、有料で練習用の実機を使わせてくれるらしいよ。ギルドの五階にある試験用の実機がそれ」
「…………うわぁ、マジかよ。練習の為にまたあの地獄のエレベーター参加するのかよ」
いや、別に僕が外にデザリアを用意すれば良いんじゃないかな?
都市への乗り入れだけ誰かに手伝ってもらったりさ。もしくは、現役の傭兵に依頼を出して、機体を借りつつ操作を教えてもらうとか。
「方法は沢山あるよ?」
「…………やっぱり、楽をしたいなら金か」
「そりゃそうだよ。
「違いねぇや」
空気になってるスピカにも、ちゃんと覚えたかを確認しつつ、僕は狩場に到着して狩りを始めるのだった。
「じゃぁ、実演も兼ねて戦うから、モデリングデータと僕の動きを良く見ててね」
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