第26話 無意味に欲しくなる経験。



「はいコレ」


 お店に来た僕は、取り敢えずセルクさんの案内で店内を物色した。

 中は広く、いや広過ぎる空間で、そして置いてある商品もデカ過ぎた。

 僕のイメージだと、コックピットに設置出来る周辺アクセサリーとかを置いてる店だと思ってたんだけど、その実態はバイオマシンに取り付ける周辺機器も豊富に置いてあり、勿論ちゃんとコックピットの中に置く様なアイテムも扱ってるんだけど、どっちかって言うと「これ、周辺アクセサリー? いやカスタムパーツじゃね?」って規格の商品が多かった。

 駐機場も広く、大型から小型まで専用ハンガーも充実してて、店舗で買ったアイテムはすぐにハンガーの愛機に装備して貰えるシステムになってる。勿論、信用する技師以外には任せたくないって人も居るので、望めば買った物を指定する整備屋とかに送ってくれるサービスもある。


「なんですか、これ」


 そんな店で、僕は取り敢えず最初のイメージ通りの品物を望み、セルクさんはコックピット用のアクセサリーが並ぶ場所に案内してくれた。

 そこでオススメされたのは、謎の物体。

 見た目は、手の平に収まる大きさの、平たいスティックだ。幅は一センチ半、長さは五センチ弱、厚みは八ミリくらいかな? 光沢がある濃紺の棒だ。


「これはね、エフェクトランチャーって言うの」


 セルクさんは「どうだ!」と言わんばかりに鼻からムフーっと息を吐くが、申し訳ないけどそうじゃない。


「あの、名称じゃなくて、出来れば用途を…………」

「あ、そうだよね! ごめんごめん……♪︎」


 テヘって笑うセルクさんは、お茶目な人だなぁって感想が出て来る呑気な人だった。

 この呑気さが、グループの男子に人気なのだろうか。


「これはねぇ、コンソールソケットに挿して使うアイテムなんだけど、コレのシステムを走らせると、ウェポンシステムが反応する度に対応した効果音を鳴らしてくれるの!」

「…………つまり、シリアスのシザーアームが挟めば、ズシャーとか、ギャリィーンとか鳴る訳ですか」

「そう! 射撃すればズキューン! とかバキューン! って!」


 な、なんて無駄を極めたアイテムなんだ……。僕は戦慄する。

 確かにコックピットの中って、外部マイクが拾う音を取捨選択して、必要な物も調整したりするから、戦闘音ってそこまで大きく聞こえないんだよね。歩行時のキネティックアブソーバーが出す衝撃変換音も消えるし、昨日撃った小型パルス砲は勿論、中型炸薬砲だって気にならない程度に落とされてた。完全に音を消すと逆に、射撃不良とかに気付けないから危ないんだけど、外部マイクは丁度良い音量にして調整してからコックピットに出力してくれる。

 それを、自分で重ねちゃうのか。遊びで、好きな音に。


「正直ちょっと面白いなって思うのが悔しいジョークグッズですね」

「ね! 私も最初は下らなっ! って思ったけど、後々からじわじわ効いて来るセンスだよね!」

「知ってから、数ヶ月くらい後に気が付いたら買ってそうなの怖い……」


 しかもこれ、価格が一二○○シギルとか地味に高いぞ。中級市民の月収の三割越えってヤバいでしょ。


「高額な賃貸ならコレだけでも代金出せちゃいますよね」

「そうだね! 市民向けの物件ならそう!」


 ちなみに、傭兵向けの物件はガレージ付きなのでもっと高くなる。大型機体を整備出来る立派なハンガー付きの物件とか、下手したら一万でも収まらず、一○万から一○○万単位の家賃を請求されるそうだ。設備の質によって値段は変わる。

 デザリア一機分のガレージで良いなら、一万から五万くらいで済むらしい。集合住宅ならって但し書きが着くけど。

 暴走してる古代遺跡のせいで土地が足りない現代で、立派なガレージ付きの一軒家とかそれこそ一○○万シギル単位で掛かるだろうし、購入するならもっとする。

 でも、集合住宅なら集合住宅で利点も有って、ハンガーを管理する専用の人員とかも居るアパートメントやマンションも有って、一々仕事終わりに整備屋に寄らなくても良くなる。

 まぁ僕はシリアスを任せるならおじさんが良いけど。


「他にはね、これ!」

「…………これは?」

「エフェクトランチャーの亜種! 攻撃を受けるとアハーンとか、ウフーンって効果音が鳴る!」

「馬鹿なの!? これ作ってるメーカーは馬鹿なの!? て言うか一つに纏めろよ!」


 なんで別売りしてんのっ!? そんな大したデータ容量じゃ無いだろっ!?


「こー言うのもあるよー?」

「次は、なんですか? 今度はフンヌラバーとでも言うんですか?」

「…………………………なんで分かったの?」

「まさかの正解ッ!?」


 このお店は、コメディアンの突っ込み力を鍛える施設か何かなの? だとしたら大成功だと思うよ。

 オチを先取りされたセルクさんが、ちょっとしょんぼりして可愛い。けど落ち込まれると困るので、他のオススメを聞く事で機嫌を治してもらった。


「同じメーカーで、こう言うのもあるよー?」

「なんでそんなに…………。もしかして、大手メーカーなんですか?」

「割とね!」


 次に見せられたのは、やっぱりエフェクトランチャーの亜種だった。

 今度はウェポンシステムに反応して、コックピット内にホログラムでエフェクトを散らす装置で、火花が散ったり、花弁が散ったり、色々とエフェクトを選べる商品だ。

 ………………ぶっちゃけちょっと欲しくなった。


「これね、実は私も使ってる!」

「マジですか」

「お花が散ったり、プリズムが散ったりするの綺麗だよ!」

「…………まぁ、効果音よりはだいぶ良いですよね。ハートとか、天使の羽根とか散ったらシリアスに似合いそう」

『疑問。視界を潰して戦闘に支障が出る可能性を示唆する』


 途中、端末を倒して僕をモニタリングしてるシリアスから指摘が入る。

 でも、セルクさんによると大丈夫らしい。流石に戦闘の邪魔をしたら命に関わるから、その辺は気を使われてるそうだ。

 最大でも気が散るだけで、視界に影響が無いように調整されてるらしい。


「いや、気が散るだけでも危ないのでは?」

「それはもう、その程度の集中力ならコックピットにアクセサリーとか乗せるなって話しじゃない? ほら、商品の注意書きにも書いてあるし」

「なになに…………·、エフェクトを散らす商品ですので、気が散らされても仕様通り…………、って煩いわ! 別に上手くないからなッ!?」

「おほぉ〜、ラディアくん突っ込むねぇ〜」

「セルクさんも、態とこの手の商品を選んでません?」


 それから、セルクさんの案内で店内を回る。

 恐ろしいのは、店内で見掛ける商品の実に三割がエフェクトランチャーを出してるメーカーだった事だ。シェア三割とか超大手じゃん。

 機体に組み込むタイプの大型商品には、射撃時に砲門からエフェクトを散らす装置や、格闘時に超カッコイイエフェクトが迸る装置とかも有った。勿論、威力に変化は無い。


「くそ、攻撃エフェクトが散る奴は素直にカッコイイ……!」

「だよね!」


 パルス砲やプラズマ砲は、物凄く安全に気を使ってる装備なので、使用時に火花が散ったりは絶対にしない。けど、あえてそれを散らせる事でカッコ付ける装置とか、めっちゃカッコイイ。

 射撃前にアーク放電のエフェクトを発生させるとかセンスが良過ぎる……!

 最初にクソ商品を見せられたからイメージ悪いけど、普通に良品も多いぞこのメーカー……!?


「くっ、欲しい……!」

「…………買っちゃお?」


 セルクさんがニチャァって笑う。ちくしょう、この人あれだ、自分のお気に入りのメーカーを紹介して僕を沼に落とす気だッ!


「……は、八万シギルって地味に高い!」

「まぁ、砲門に取り付けて砲撃に耐えられる剛性を持たせるからねぇ。高品質じゃないと、そもそもこんなジョークグッズは作れないんだよ」


 そりゃそうか。馬鹿みたいな商品でも、実戦に使うんだもんね。

 炸薬砲撃ったら衝撃でホログラム発生器がぶっ壊れたとか、そんな低品質な品だったら話しに成らない。

 そうか、このメーカーはジョークに本気なんだな。


「後々ぉ〜、こんなのもあるよー?」

「そろそろメーカー名を覚える気に成りました。えっと、ハッピーハースタル?」

「略してハピハ!」


 次に見せられたハピハ製品は、まぁまた似た様なエフェクトジョークグッズだ。

 攻撃にエフェクトを発生させる装置なのは間違い無いんだけど、コックピット内にも専用マイク内蔵のコンソールユニットをコンソールソケットに挿して置いて、パイロットが「うぉぉぉおおおお!」とか叫ぶとチャージエフェクトを出してくれるって言う物だ。


「これ、さっきまでのウェポンエフェクターと揃って結構人気なんだよ! 剣闘士系の傭兵にバカ売れ!」

「ああ、なるほど。魅せる仕事だから、この手の見た目に影響が出る製品はそのまま人気に直結するんですね」

「その通り! ネットでも観戦出来るし、客層は千差万別! だから分かり易く派手で、万人受けするアクションを手軽に演出可能な装置は、剣闘士に取って凄い重要なの! 観客視点でも、選手が決死の叫びと共にチャージエフェクトからの大逆転とか、盛り上がると思わない?」


 いやぁ、なるほど。店内三割シェアの超大手には人気の理由がちゃんとあったんだな。

 ちゃんとガッチリ捕まえてる客層が居るからこそのシェア三割なのか。


「最近は、ネットワークを利用したVRバトルも人気だけど、やっぱり実機の対戦は他の追随を許さない迫力が有るからね!」

「…………VRバトルって、なんですか?」

「ゆ? 知らない?」


 どうでも良いけど、セルクさんの「ゆ?」って可愛いな。

 VRバトルは、文字通りのVR空間内で行うバイオマシンの模擬戦だった。

 基本的にはVRモジュールを実機のコックピットに入れて参加するんだけど、VRバトルしかしない人も居て、そう言った人にはコックピットと陽電子脳ブレインボックスだけで組まれたゲーム専用のバイオマシンも有るらしい。なんだそれ。


「…………え、頭蓋骨と脳みそだけでバイオマシン組むとか冒涜的過ぎません? バイオマシンを馬鹿にしてらっしゃる?」

「あー、ラディアくんもそのタイプかー」

「えと、まぁ、人気が出てるって事は、僕の意見は異端なんでしょうけど……」

「うんやー? ラディアくんは古代機乗者オリジンホルダーだし、オリジンと関わってたらバイオマシンが生き物だって意識が強いだろうし、仕方ないと思うなー?」

「ああ、うん。そうですね。普通の人とってはバイオマシンって、自我の無い機械って意識が普通ですもんね。…………はぁ、やるせない」


 この店にも、VRバトル専用の簡易バイオマシン、通称ライドボックスって奴が売られてるらしい。

 機体を動かす程の出力が必要無いので、生体金属心臓ジェネレータすら要らない。陽電子脳ブレインボックスを生かす為のエネルギーパックを切らさなければずっと使えるし、ネットの中では機体も自由に乗れる。免許も要らないし、ライドボックス自体がかなり安いので、小金持ちな市民にも人気なんだとか。

 当然、エネルギーパックを切らせば陽電子脳ブレインボックスは死ぬし、買ったライドボックスに使われてる陽電子脳ブレインボックスに対応した機体にしか乗れない。

 けど、陽電子脳ブレインボックスと規格が合ってるなら、ネットの中限定で好きなだけ機体を弄って強化出来る。勿論、そのVRバトルを運営してる媒体が出してる方針に則ってパーツデータを購入する必要は有るらしいけど、本物を買うよりずっと安いし、機兵乗りライダーの経験が手頃に出来るからヤバい人気の製品らしい。


「…………僕が売った子達も、ライドボックスに使われたりしてるのかな」


 そう思うと、やるせない。


「ラディアくんラディアくん、考え方を変えると良いよ?」

「…………と、良いますと?」

「ライドボックスに成った子は、戦場に出て死ぬ事は無い! ……でしょ?」


 …………………………確かに。

 そうか、うん。考え方次第か。

 ネットで戦ってれば、どれだけヘマを打っても死なないし、無限に戦闘経験が積めるし、ある意味で陽電子脳ブレインボックスに取って理想的な環境か。


「それに、ライドボックスで戦ってネット配信で稼いで、それで機体を買うって成った人は、殆どの場合はライドボックスの陽電子脳ブレインボックスを機体に積むらしいよ! 愛着が有るし、一緒に戦った戦友だからってね!」

「…………お、おぉ。それは、なんか、良いですね。それを聞いたら、なんか、ライドボックスに対する隔意かくいが殆ど無くなりました」


 ああ良かった。僕が売った子達も、安全に戦闘経験が積めて、それから強くなって人気の配信者になれば、ちゃんとした機体を手に入れる事も叶うのか。本当に良かった。


「と言うか、ネット配信とかで稼げるんですか?」

「まぁ、市場のターゲットが市民だから、傭兵業と比べちゃダメだよ? でも、本当に人気の配信者は、大物剣闘士に迫るくらいの人気が有るんだってさ。支持者フォロワーの数だけ稼げるから、ファンを増やせば数年でバイオマシンを買えちゃう人も居るくらいの稼ぎだってさ」


 それを聞くと、凄い興味が出て来た。

 VRバトルか。実機でも行けるんだよね? シリアスに積めるかな?


「あ、ラディアくんがVRバトルやるなら、ディアラちゃんで始めると良いよ!」

「なんでッ!?」

「だから、人気を集めたら稼げるって言ったでしょー? 対戦の内容は、コックピットの中も映されるからね! 可愛い女の子が戦ってたら、そりゃ人気も出るって物だよ!」

『肯定。肯定する。シリアスは肯定する。是非やるべき。今すぐモジュールを買うべき。むしろシリアスが代金を出すので購入は確定』


 ほらぁ! またシリアスが乗り気になっちゃったじゃん!

 もう、どうしてこう、…………待って? 僕の女装に纏わる問題って、大体が旅団の人が原因じゃない?

 根本の原因がカルボルトさんだし、ライキティさんも女装の僕に会いたいってオスシ会が催されたし、今もセルクさんの発案で僕がネットアイドル剣闘士化する羽目になりそうだし。


「…………永久旅団、良い人達だなって思ったけど、余計な事しかしない気がしてきた」

「なんでぇッ!?」


 なんでって、そのたわわな胸に聞いてみて下さいよ。

 取り敢えず、シリアスが死ぬ程乗り気なので、購入が確定した。

 ついでに、ライドボックスで始めるなら機体のデータは購入製だけど、実機で始めるなら実機の装備や装置がそのまま使えるそうなので、ウェポンエフェクターとエフェクトランチャーも購入決定。

 シリアスが本気で僕の人気を集める気で戦慄するしか無い……。


「んふふー。ラディアくんがディアラちゃんで始めたら、私も応援するからね!」

『視覚的にも映えるコックピットカスタムは、この時の為にあった。ラディアの先見の明には脱帽する』

「違うからねッ!? て言うか砂漠で脱帽しちゃダメだよ! 陽射しが危ないから!」

『質問。コックピット内は何処まで映されるのか』

「ん? 状況によって変わるよ? 記録用のAIがカメラアングルを決定きめてるから、その時その時で一番映える角度で撮られるかな」

『把握。追加で質問。全体像は撮られるのか』

「その場合もあるね!」

『把握した。シリアスは早急に、ラディアのネットバトル用衣装のデザイン作業に入る』

「…………シリアスが、かつて無い程にヤル気を出してる」


 そうして、実機用VRモジュール五万。ウェポンエフェクター七万を三種類で二一万。ホログラムエフェクトランチャー五○○○シギル。更にはボイスチェンジモジュール五○○シギル。その他諸々色々、お金が使われ…………。

 計、三三万と五五○○シギル。三三万ってなんだよ。もうカスタムパーツ買えるじゃん。


「し、シリアス? ボイスチェンジモジュール、要る?」

『肯定。音声も好意を向けられる重要なファクターだと判断。重要度で言えばエフェクター類よりも上』


 マジかよ。いや、うん。逆に考えよう。

 僕の声がきっと、ボイスチェンジモジュールを使わないとダメなくらいに男らしいから必要なんだよきっと。うん。

 つまり、シリアスは僕の男らしさを理解して、それをサポートする為に--……。


「--ラディアくんはそのままでも声可愛いけど、どうせならちゃんと女の子らしい声の方が良いもんね!」

「ちくしょうッッ……! 逃げ場くらい残してよ!」

「なんで私怒られたッ!?」


 僕の声は可愛くて、男らしく無いらしい。ちくしょう。現実は何時だって無慈悲なのだ。

 しかもシリアス、もうVRバトルのアカウントをネットで作って作業を始めてるらしい。ヤル気に満ち過ぎてる。


『ラディア、良く聞いて欲しい』

「…………どしたの?」

『確かに、VRバトルはシリアスの趣味が多分に内包されてる事実は認める。しかし、ラディアにも無視出来ない利点が存在する』


 ほう? 女装させられて、ネットに配信されて、もしかしたらタクトやおじさんにバレて笑われるかも知れないこの計画に、僕の利点が?

 ふむふむ。これがタクトの弁だったらじゃなくてを付けて殴る所だけど、他ならないシリアスがそう言うなら、話しを聞こうか。


「続けて?」

『続ける。シリアスが現在調べた所によると、実機によるVRバトル参加は実機の装備と性能がベースとなる。これは間違い無い』

「だよね。だからエフェクター三つにランチャーまで買ったんだもんね」

『しかし、VR空間内であれば、実機でもデータ購入をしたパーツを使用出来る。つまり、実パーツを購入する費用の数百分の一から、数千分の一の値段で、高額な装備の実体験と練習が可能』


 ………………………………ほう? た、確かに?

 なるほど。ふむ、なるほどね?

 つまり、こう言う事か。例えばお金が無くて炸薬砲で妥協したウェポンテールのテールウェポンをプラズマ砲に変えたり、背中にコンシールド加工をしたり、データの中でのみ、色々と訳か。


『しかも、ラディアは対人戦に興味があったはず。それを安全に体験出来る』

「…………ふむ。もう八割方説得されてるけど、続けて?」

『つまり、ラディアは対人戦を経験しつつ、シリアスを今後どの様にカスタムするのかを体験し、実験しつつ、配信が当たれば小銭まで稼げる。此処まで利点が揃って、やらない理由が無い』

「……でも、小銭稼ぐったって、その時間を使って狩りに行った方が稼げるし、何倍も早くお金を稼げるよ?」

『肯定。しかし、無休で稼ぎ続ける訳にも行かない。その休日の時間を使う選択肢としては、最上級の活動だと判断出来る。しかも、狩りで資金を稼ぐにしても、ハズレ装備を買って時間と資金を無駄にする確率を思えば、休日に後々の装備を確認しながら小銭を稼ぎ、対人戦の練習まで出来るVRバトルは、この上ない選択だと判断する』


 うん、反論が出て来ない…………。

 使い心地も知らずにパーツを買って失敗するなら、VRバトルでパーツデータを市民価格で買って試す方がずっと有意義だ。


「ちなみに、VRバトルに出て来るカスタムパーツや武装、装置なんかは、基本的に全部実在の物だよ。メーカーが宣伝がてら出資してるし。確かにライドボックスでの参加者が七割を占めるけど、三割は実機で参加してる傭兵だからね。傭兵に宣伝する為に精密なパーツデータを提供してるはずだよ」

「マジか…………。て言うか、傭兵も結構やってるんですね」

「そりゃぁ、手っ取り早く名を売れるし? 傭兵って有名になってナンボな所あるからさ?」


 セルクさんによれば、市民の支持って地味に重要らしい。

 市民の支持イコールその傭兵の信用とも言えるので、中にはランク六の傭兵とランク五の傭兵が仕事を取り合って、VRバトルで有名だったランク五の方に仕事が回されたってケースも有るらしい。


「ああ、そうそう。ラディアくんは、傭兵ギルドでやけに人が多いなって思わなかった?」

「え? えぇ、思いましたね。西区の半分は東の利用者だってカルボルトさんに聞きましたけど、もう半分は徒歩傭兵ウォーカーなのかなって思ってました」

「それも間違いじゃ無いんだけど、正確にはライドボックスでVRバトルしてる、半機兵乗りセミライダー徒歩傭兵ウォーカーが大半ってのが正しいかな」

「……せみ、らいだー?」


 なんだその中途半端な機兵乗りライダーは。


「ライドボックスってね? 陽電子脳ブレインボックスを使ってるのは間違い無いでしょ? だからある意味で、法的には立派なバイオマシンでもあるの。だから、マシンコード発行出来ちゃうんだよね」

「マジかッ!?」


 そう言えば、バイオマシンの本体は陽電子脳ブレインボックスなのか。でも輸送機免許と戦闘機免許が別れてる事から推測するに、免許の規制は機体その物にかかるんだ。だから、免許が無くてもライドボックスは乗れるけど、陽電子脳ブレインボックスが使われてるから法的にはバイオマシンであると。

 ああ、つまり、ライドボックスが免許の必要な乗機とは言え無くても、法的にはバイオマシンだから乗機持ちとして機兵乗りライダー登録が出来ちゃうのか。


「意味分かんないですね」

「そうだねぇ。でも、時代なのかな? 傭兵ギルドにもちゃんと、VRバトラー用の依頼とかも来るんだよ?」

「…………えぇ、乗機として動けないのに、どんな仕事をするんですか?」

「もちろん、バイオマシンの操縦訓練とか、戦闘指南とかがメインだよ」

「え、いや、でも、傭兵登録しててもライドボックス乗りだったら、依頼者と立場、殆ど一緒ですよね?」

「そうなんだけどね。やっぱり現役の傭兵ってネームバリューは強いみたいなんだ。それにほら、依頼者からすると、実機で参加してる傭兵が依頼受けてくれるかも知れないじゃない?」

「ああ、言われてみれば確かに…………」


 あの地獄みたいなエレベーターホールは、そんな下らない理由と実態で形成されてるのかと思うと、こう、言い知れないイライラが募るね?


「ちなみに、ライドボックスに乗ってる半機兵乗りセミライダー? でしたっけ。その人達ってギルドになんの用事で?」

「あぁ〜、あれはねぇ。……ほら、傭兵の一口納税って有るじゃない? あれでチマチマと受付嬢の気を引いてるのが六割、半機兵乗りセミライダー用の依頼を受付嬢自ら斡旋して貰いたいお馬鹿さんが二割、半機兵乗りセミライダーから機兵乗りライダーに成るのに、初めて買う機体を受付嬢に相談してる困ったちゃんが一割、なんか良く分からない理由で受付嬢に会いに行ってるのが一割かな」

「死ねよッッ……!」


 良し分かった、僕VRバトラーになる。そして馬鹿共を全員ぶっ殺してやる。

 マトモな奴が一割も居ないってどういう事なのさ!? 一番マシなのが機体選び手伝って貰ってる人だけど、それも受付嬢である必要無いし!


「ベテランに聞けやぁッッ……!?」

「ほんとにねぇ。困っちゃうね?」


 そんな、そんな下らない理由で僕とタクトはエレベーターに地獄を垣間見たのかッ!? マジで許さんからなVRバトラー共が!


「最低でも、ガーランドからアクセスしてるVRバトラーは皆殺しにします。絶対に」

「頑張ってね☆ でもその時のラディアくん、ディアラちゃんのはずだから、相手も喜んじゃうかもね?」

「……………………せやったぁ」


 僕も、シリアスに出会う前に相手の立場だったら、可愛い女の子が対戦相手なら舞い上がるかも知れないわ。ボコボコにしても「はぁ、また戦いたいな」とか思うかも知れないわ。

 現実は何時だって無慈悲で、ままならない。


「さて、もう結構時間使ったし、お昼でも行こうか? お姉さん奢っちゃうゾ☆」

「あ、良いんですか? ご馳走になりまーす」

「うんうん、素直な子はお姉さん好きだゾ!」


 買う物買って、僕はシリアスをおじさんに以外にベタベタされたくないからサンジェルマンに送って貰い、お昼もお店選んで良いと言われたので、安定のハンガーミートだ。

 ハンガーミートは複数の機体で訪れても、専用のハンガーに通してくれるので問題無い。シリアスとコルナスも仲良く並んで同じハンガーに入れた。

 何気にシリアスとちゃんとコミュニケーションを取って会話する旅団の人は初めてだったので、セルクさんにも楽しんで貰えたし、セルクさんとシリアスが仲良くなった。


「あ、あの! サインお願いします!」

「…………あ、忘れてた」


 そして、僕は前に約束した通りに、店員さんにサインをせがまれて困るのだった。

 サインの練習なんてしてねぇ……!


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