第19話 シースー。



 他の都市ではどうか知らないけど、過酷な砂漠に栄えた町なのに都市と言い張る変な町ガーランドでは、外出するならば帽子が必須の地域である。

 可能ならナノマテリアル製で、灼熱の陽射しをキッチリ遮って頭を快適にしてくれる高性能な物が好ましく、例えナノマテリアルが用意出来なくても布製で良いから用意する必要がある。

 砂漠で直射日光を頭に浴び続けると、かなり高確率で体調を崩し、最悪死ぬ。頭部は人間に限らず基本的に生物の急所であり、人間は頭部を熱射に晒され続けて生存出来る程強くない。

 何が言いたいかと言えば、ガーランドで衣服を揃えるならば、帽子がコーディネートの基本であり、服に帽子を合わせるのでは無く、帽子に服を合わせるのがガーランド流なのだ。


「うんみゃぁぁあ〜…………」

「スシうんまぁー!」

「美味しぃいー!」


 超凄腕のベテラン傭兵であるカルボルトさんに連れて来てもらった高級店で、色とりどり、デザインも十人十色な帽子を被った子供が二六人。

 勿論、食事中は帽子も脱ぐが、着ている服は帽子に合わせたコーディネートであり、ガーランドの飲食店では大体みんな帽子を被ってやって来るので、席には帽子を置く為の台が備え付けられてるのが基本だ。ハンガーミートにもちゃんと有った。

 帽子の博覧会みたいになってる大部屋に、次々とオスシが運ばれて来る様はちょっとだけシュール。

 プリカのディアストーカーなんて、あれカッコイイな。僕も欲しい。フィクションブックの探偵物に出て来そうな奴だ。

 エレーツィアのキャスケット帽もカッコイイけど、あれ女性向けのデザインだから僕は無理だな。あれ被るなら女装が居るし、帽子被りたくて女装って意味分からないし。いや帽子に服を合わせるガーランド流ならある意味正しいんだけどさ。

 他にもホンブルク、パナマハット、タム、ウシャンカ、ジェットキャップ、チューリップ、バケット、クルーハット、クルーシュ、カプリーヌ、ブルトン、ガチョウハット、ルーベンス、フロッピー、センタークリース、スナップブリム、サービスキャップ、トーク、カクテルハット、カウボーイ、そしてタクトのハンチング帽、プリカのディアストーカー、エレーツィアのキャスケット帽、中にはウィザードハットも有った。

 これだけ人が居て帽子が一つも被らなかったの凄くない? 注文されたお店、もしかして凄いノリノリで選んだんじゃないの? ウィザードハットの男の子なんて、ファンタジーに出て来る魔法使いのローブみたいなコーディネートだったし。しかも普通にカッコ良くて似合ってるのホント凄い。

 多少は異色というか、ちょっと一般的では無いファッションも混ざってたけど、コーディネートの質で言うなら全員が全員満点で、そんな服を貰った皆もウキウキしながらこのお店に来た。


 そしてスシ。


 超美味しい。凄い、脂が甘くて、身が口の中でとろけたり、コリコリした食感だったり、ムチムチしてたり、噛む程に旨味が出て来て、口の中でライスと良い感じに混ざっては胃の中に消えて行く。

 ソイソースにちょんって付けると、魚の脂が少しだけソイソースに溶け出して、小皿の上に脂が浮く。そうやってソイソースを汚しながら食べ進めていくと、ソイソースに浮いた脂は旨味が溶け出したのだと分かる。付けたソイソースによった段々と旨味が加速して行くのだ。


 なんだこれ、なんだこれは。


「世の中に、こんなに美味しい物があって良いのか……!?」

「しかも、ビックリする事に提供される仕組みが孤児に合ってるって言う……」

「値段を無視するなら、少量ずつ楽しめるオスシは、貧相な食事で胃が小さくなりがちな僕らにはこの上なく助かる仕組み……! 助かり過ぎる!」


 最初からもうちょっとずす楽しむ仕組みが完成してて、せっかくの機会なのだから色々食べたい僕らにはこの上なく嬉しい提供形態だ。


「僕、身が柔らかくて脂が強い奴が好きみたい。マグロのトロとか、ウナギとか」

「天然の生魚をオン・ザ・ライスって聞いてけど、火が通ってるのも有るんだな」

「これ! ハンバーグ乗ってるのも美味しいよ!」

「いやそれも天然物なんだろうけど、この機会にそれ食べるの勿体無くね? ハンバーグは此処じゃ無くても食えるじゃん」

「あ、そっか! お魚食べなきゃ!」

「いや、好きな物を好きな様に食うのが一番だと思うぞ? 流石に連れて来てやる機会なんかもう無いだろうが、せっかくだからって義務で食うより、美味いって思った物を楽しく食った方が良いだろ」

「それに、絶対にこれっきりって訳でも無いですしね。タクトが頑張って稼げばまた来れるよ」

「いやラディアも来いよ。そして割り勘してくれ」

「人数比で言うと僕が大損じゃん。割り勘なら全員で割ってよ」


 美味しい美味しい食べ物で、皆もほっぺがゆるゆるだ。タクトも見た目変わらないけどテンションが凄い上がってる。タクトが無茶苦茶言って来る時は内心がウッキウキな時だよ。

 二五対一で食べて二人で割り勘とか止めてよ。それならもういっそ奢らせてよ。恩返しなら喜んでするからさ、中途半端に割り勘は止めてくれ。


「カルボルトさん、ありがとうございます」

「いや、良いって事よ。予想以上に可愛い姿見せてもらったし、スシ食わせる価値はあったぜ。多分」

「僕の女装ってスシに匹敵するの…………?」


 誰が砂漠のオオトロか。


「…………マジな話し、ウチの団長だったら、女装したお前が接待するって言えば喜んでスシ奢ると思うぞ。月に数回までなら行けると思う」

「僕、段々とカルボルトさんのところの団長さんと会いたく無くなって来ました」

「ちなみに、今更だがウチの団長は女な。女装した可愛い少年が好きなヤベェ奴だ」


 本当にヤベェ奴だった。


「なぁカルボルトさん。今その人呼んだら飛んで来るんじゃないか?」

「多分来ると思うぞ?」

「止めて? 呼ばないで?」

「今日は勘弁してやるが、その内会わせる約束だからな?」

「…………せやった」


 なんて約束をしてしまったんだ僕は…………。


『ラディア、撮影を受け入れれば回避可能』

「お、シリアスか? パイロット借りてて悪ぃな」

『構わない。シリアスはラディアの幸せに貢献する者を止める気が無い。今のラディアは美味なる食事で幸せそうだから、ラディアも嬉しい』

「…………いやぁ、本当に良い相棒じゃねぇの。機兵乗りライダーとして羨ましいぜ」

『カルボルトも、きっとミラージュウルフにとって良い相棒。陽電子脳ブレインボックスが暴走してなかったなら、シリアスとラディアの様な関係に成れていたはず』

「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇの!」


 シリアスがカルボルトさんと仲良くなってるのに仄かなジェラシーを感じつつ、撮影を受け入れれば団長さん回避って言う魅力的な案を採用するか否かに悩む。


「あ、ラディアよ。撮影したらそれを見た団長が絶対に会いたがるから意味無いと思うぜ」

「詰んでるじゃないか」

『ラディアが可憐なのが悪いので、仕方ない』

「女装させたのシリアスなのにぃぃっ!」


 困った事に、シリアスにだけ見せてシリアスに満足させたくても、シリアスが居るのは基本的にハンガーなので個室で見せるとかが難しい。

 それに、何故かシリアスは女装した僕を誰かに披露するのも楽しいみたいなので、やっぱり詰んでいる。


「シリアスはよ、オリジンってだけで機兵乗りライダーの夢なのに、ラディアをこれだけ可愛らしくしちまうって付加価値で、ウチの団長は堪らんと思うぞ。多分ラディアと同じくらいに、シリアスにも会いたがるだろうな」

『シリアスも件の団長とは良き友誼を結べると予想する。同好の士。ラディアと団長の接触は推奨行動』


 シリアスに女友達が出来るのは喜ばしいけど、趣味が一緒って事は被害を受けるの僕って事じゃん。被害が二倍でとても危ない。

 僕は現実逃避する為に、美味しいオオトロを口にする。美味しい。口の中で身がとろけて甘くて旨い脂になる。


「うんみゃぁぁあ…………」


 オスシは美味しい。僕は世界の真理を知った。

 こんなに美味しいなら、頑張ってお金稼ごうって思える。


「…………あ、もしかして海洋都市ならもっと安く食べれる?」

「お、そうだぞ。地元なら庶民でも頑張れば食える程度には値が落ちるぜ」

「マジか! これが庶民も食べれる値段になるのっ!?」

「つっても、高給取りに限るけどな?」


 充分では?

 凄腕でめっちゃ稼いでるだろうカルボルトさんが躊躇うくらいの値段が、そのくらいに落ちるんだから。

 

「よし、死ぬまでには絶対に一回、海洋都市に行こう」

「その時は連れてけ」

「乗機は用意するから自分で頑張って。タクトだけなら考えるけど、全員は流石に無理」

「だよなぁ」

「まっ、好きな都市に行けるのは傭兵の特権だからな。精々楽しめや」


 それから、僕は美味しい美味しいマグロを貪りながら、カルボルトさんにシリアスのカスタマイズを相談する。

 シリアスが僕とカルボルトさんの会話に妬いて、コックピットからコンシールドからキネティックアブソーバーまで、全部羨ましがってる話しをすると、シリアスが『そんな事実は無い。事実無根。シリアスは気にしてなんか無い』と可愛いので、僕はでへでへする。

 そうやってカスタマイズの方向性を伝えれば、カルボルトさんは的確にアドバイスをくれる。

 と言うか、そもそもカルボルトさんがガーランドに居るのは、傭兵団の新人用にデザリアを鹵獲する為らしくて、デザリアのカスタムって話題はタイムリーだった。


「方向性は間違ってねぇな。小形はパルス、中型にプラズマ兵器のチョイスは大正解だ。生体金属心臓ジェネレータのアップデートを優先するのも正しい。俺としちゃ、コックピットのカスタムは完全に後回しを勧めるぜ。金を稼げるようになったら、デザリアその物からアップデートするかも知れねぇんだから、使い回せる武装はともかく、完全に固有のカスタムになりがちなコックピット周りは無駄になる確率が高いだろ」

『…………納得。しょぼん』

「ダメですシリアスがしょぼんするからコックピットカスタムは優先します。人間だってオシャレ着飽きたら捨てたりするんですから、コックピットカスタムが無駄になったからなんだって言うんですか」

「あー、そう言う考えもあるか。…………確かに、現代機ならまだしも、シリアスはオリジンだもんな。着飾って気分が良いってだけでも、モチベ上がるなら有用か」

「ですです」

『無理はしなくて良い。シリアスはラディアの幸せを優先する』

「シリアスの幸せが僕の幸せなのー!」


 取り敢えず、オススメのメーカーを教えて貰って、後でコックピットのカスタムを選ぼう。

 流石に稼ぎの効率とかを考えると、いくら僕でもコックピットを最優先は出来ないけど、なるべく優先はしたいと思う。


「僕的には生体金属心臓ジェネレータ、コックピット、武装、その他装甲や追加兵装って優先度にしたいので、購入するなら生体金属心臓ジェネレータ購入代を稼げる様な繋ぎの武装、生体金属心臓ジェネレータ、コックピットって感じですかね?」

「繋ぎに使う武装次第だな。あんまりしょぼいんじゃ、コックピットの後に武装買うまでが大変だぞ」

「強くて安い繋ぎ武器、何か無いですかね?」

「…………んー、中型を炸薬系にしちまうって手もあるぞ? 後にプラズマ兵器に変えるとしても、今の生体金属心臓ジェネレータでも負担に成らないのはデカい。中型なら威力もまぁ及第点だし。坊主は暫くデザリア狩りで稼ぐんだろうから、持ってく弾薬減らせば重量問題も何とかなるだろ。デザリア相手に山程弾薬使うとも思えねぇし」


 なるほど。炸薬系は候補から完全に外してたな。

 炸薬と言えば大型って思ってたから、高額なプラズマを避けてもパルスに落ち着くと考えた。


「炸薬武装はイニシャルコストも安いし、弾薬も普通の鋼材飛ばすだけだから安いし、繋ぎなら文句無い性能だと思うぞ? 特殊鋼使った高い弾薬を買えば威力にも下駄を履かせれるしよ」

「…………あー、なるほど。パルス弾はパルスで飛ばす為にパルスに反応する特殊鋼が前提ですけど、炸薬式は弾頭が選べるんですね」

「そう言うこったな」


 さすが、現役の凄腕。めっちゃ助かるアドバイスだ。


「流石に小形は炸薬だと、弾頭変えても豆鉄砲過ぎるから論外だから、小型はどうしてもパルスを使いたい所だな」

「……最悪はシザーアームを良い物に変えて、テールに炸薬中型だけで粘れませんかね?」

「それでも良いが、オススメはしねぇぞ? 武装を絞るって事は手札が減るってこった。そう言うのは手札を絞っても結果を出せる奴がやる事で、いくら乗機がオリジンだとしても、ランク一の傭兵がやったらロクな目に合わねぇぞ」

「…………パルス兵器は買わざるを得ないですか」

「俺なら買うね。メイン武装の購入を後回しにしてぇから繋ぎに性能求める訳だろ? なら、後回しにしたメイン武装の購入まで使える武器を選ばなきゃダメだろ。繋ぎ武器なんだから、繋げなきゃよ」


 そりゃそうだ。繋げなかったら繋ぎ武器じゃない。ご尤もだ。


「まっ、問題は何処に武装を積むかだな。パルスをアームに積むのか背部に積むのか、もしくは中型を背部に積んでパルスガトリングでもテールに乗せるか、それによっても選択肢が変わるぞ?」

「…………カルボルトさん的に、オススメはあります?」

「そうだな。……まぁ無難に中型はテールだな。それで、俺なら小型は背部を選ぶ。アームは射撃武装化しなくても、格闘で使えるんだ。なら武器が無かった場所に武器を増やせばその分手数も手札も増えらぁな」


 確かに。

 ふーむ、カスタム案が絞られてきた。

 取り敢えず、おじさんにシリアスの背部にハードポイントを増設して貰って、テールに炸薬中型、背部に小型パルス二門って所か。余裕があったらアームも格闘用の物に換装しよう。作業用だと出せるパワーが低いもんな。

 炸薬中型はなるべく良い物、だけど思いっきり安い物を探そう。炸薬武装の威力が弾薬依存だから、武器本体はそこそこで良い。

 でも背部用の小型パルス兵器は可能な限り良い物を選びたい。パルス兵器は炸薬武装と逆で、威力が本体依存だ。パルスで弾丸を飛ばす訳だから、パルスシステムがショボイと威力もショボイ。


「…………背面ハードポイント増設って幾らかかるのかな」

『………………コンシールド』

「ああああ、そっか普通のハードポイントを増設するとコンシールド加工が面倒に…………、でも今はコンシールドとかやってられないし、ぬぅぅう、やっぱり小型はアームに付けるべき……?」

「まぁ、値段的にはその方が良いかもな。背中にハードポイント作って小型積んで、アームも格闘用に変えるなら、最初から射撃武器内蔵型の格闘用アーム買っちまえば一発だ」


 僕がコンシールドを忘れてたからシリアスがボソッと呟いて、僕の立てかけの計画は一旦崩れた。

 うん、テールに中型炸薬、それでアームに射撃兼用の格闘アーム! これだ!


『ラディア、予算はちゃんと三○○万で考えるべき。ラディアだけのお金で終わらせ様とは、しなくて良い』

「…………プレゼントしたいんだけど?」

『今、無理をする必要が無い。お互いに、安定してから、相手を想って送り合う方が、効率的かつ安全。お互いを喜ばそうと無茶をして、お互いが危険な目に遭うのは本末転倒。シリアスは、その気持ちだけでも充分嬉しい』

「出来た彼女な件について」

「良妻か?」

「僕のシリアスが尊い…………」


 そんな訳で、いきなり生体金属心臓ジェネレータを四段上昇なんて無茶な計画は諦めて、今回は生体金属心臓ジェネレータを一段とキャパも一段、それと炸薬中型テールと射撃内蔵格闘アームにカスタマイズする事になった。そして残りをコックピットのカスタマイズにぶち込む。


「…………この計画なら、最初の計画通り七○万のコックピット行けるのでは?」

『否定。ダメ。三○万まで』

「でも! 足りるよっ!?」

『ダメ。浮いた分はアームのランクを上げるべき。パルス兵器は威力が武器依存』

「せ、せめて五○万!」

『拒否。許しても四○万』

「じゃぁ、四五万……!」

『…………妥協。それ以上は一シギルの予算オーバーも認められない。そして、パルス兵器は充分に高品質な武装を選ぶ事』

「わかった!」


 早速端末でカスタム計画だ。

 生体金属心臓ジェネレータを一段アップグレードして八○万。中型炸薬兵器は汎用の奴は十五万で買えるけど、汎用武装を単体で尻尾に積むと、作業用テールが重さに負けちゃう。デザリアの尻尾ってニードルカノンって言う作業用パイルドライバーで何かをはつる為の尻尾なので、重い物を持ち上げる様には作られてない。だから尻尾丸ごとの換装が必要だ。

 デザリアは地味に人気がある機種らしく、カスタムパーツは割りと豊富。中には尻尾も含めてデザインされてる武装もあるので、それから探す。

 すると四○万シギルで良い感じの炸薬砲テールを発見。この時点で計一二○万。予算が残り一八○万シギル。そこにコックピットに注ぎ込む予定の四五万シギルを引くと、アームパーツに使えるのは一三五万シギルだ。

 一応、シリアスの端末とか服とか銃とか医療キットとか、あとレンタビークル代とかに使ったので、実のところ所持金は三○○万切ってるんだけど、アームパーツを一二○万程度で考えれば余裕がある。

 シリアスをおじさんにカスタムして貰ってる間の生活費も必要なので、完全にギリッギリまで使い切るのはダメだ。死んでしまう。


「…………このアーム良くない? ハサミの外側に小型パルスライフルが付いてて、ハサミの内側には小型パイルバンカーまで付いてる。挟んだらパイルバンカーでガンガン刺せる」

『……良い品だと判断。シリアスもこれを選ぶ』

「基本で九○万。パルスライフルとパイルバンカーのグレード別オプションで更に…………」

「おい坊主、弾薬買う費用も忘れるなよ? 武装買って弾薬買えないっての、初心者傭兵が良くやるミスだからな」

「確かに! 弾薬費残すの考えて無かった!」

『し、シリアスは覚えてた。ちゃんと指摘するつもりだった』


 ふふ、慌てるシリアスが可愛い。

 ほんと可愛い。ちょっと抜けてるところまであるなんて、逆に完璧じゃないか。何処まで可愛ければ済むんだ僕のお嫁さんは。無敵か?


「弾薬費ってどれくらい確保しておけば……?」

「小型パルスなら一発八○○シギルくらいだったか? 中型炸薬弾は弾頭次第だ。最安で四○○シギルか。弾薬費の確保は武装の装填数で考えるのが一般的だな。初仕事の時は仕方ないが、慣れて来たら総装弾数丸一回分は残して置くのが常識だ。そうすれば仕事トチってももう一回は完全武装で仕事出来るからな」


 中型弾頭で小型パルス弾の半分ってやっす。でも最安って事は、中型兵器らしい威力を出したいなら相応の値段のを買えって事だね。

 テールは装填数が十五と少なく、やはり炸薬の分スペースを食うデメリットが効いている。

 アームのパルスライフルはグレードによっても変わるけど、一二○万で買うとして片方で八○発。左右合わせて一六○発装填可能。炸薬も薬莢も無く弾丸のみで小型だから沢山装填出来るね。


「八○○シギルの弾を一六○発で、一二八○○○シギルだね。ギリッギリセーフ」

『一発で一○○○シギル程度の中型炸薬強装弾を十五発で、一五○○○シギル。パルス弾と合わせて計一四三○○○シギル』


 予算が完全にギリッギリだった。


『ラディア、コックピット予算を削って生活費に充てるべき』

「やだー! 普通に生活する分には二○○○シギルもあったら余裕で一ヶ月過ごせるんだから大丈夫だよ! 今までもっと酷い生活してたんだし!」


 シリアスの換装が一ヶ月もかかるとは思えないし、装備換装したら速攻でお金稼げば良いのだ!


「…………いや、別にコックピットカスタマイズを少しだけ待てば良いだけじゃねぇのか? 二、三回でも仕事すりゃぁ余裕で生活水準戻せるだろ。それからコックピット弄れば良いじゃねぇか」

「やだー! 待てない!」

『…………カルボルトに協力要請。ラディアの説得を手伝って欲しい』

「あんま期待するなよ?」


 みんながニコニコとオスシを食べてる間、僕はゴネにゴネて、むしろシリアスから妥協案を引き出した。

 ガーランドの警戒領域でフル武装のフル弾薬が早々必要になるとは思えないので、弾薬の方を削って生活費にしよう。テールには一○発で良いし、アームも五○発ずつくらいで良くない? アームの格闘機能だって有るんだし、むしろ正しく稼ぐには弾薬費は抑える努力をするべきなはず!


『…………妥協。此処ここはシリアスが譲る』

「ごめんね! でも、コックピットさえ弄ったらもう、後は稼ぐだけだし、他のカスタムはシリアスの希望通り進めるからさ」

『そも、ワガママを最初に提案したのはシリアス。なのでラディアは悪くない。しかし、自身を蔑ろにするのは止めて欲しい。非推奨行動』

「うん、わかった。でも、蔑ろにはして無いよ? 充分前の生活よりは楽なんだし」

「まぁ、水の心配が要らないだけで天国だよな」

「ホントにね。それに、仮に寝る場所さえ無くなっても、シリアスのコックピットに居れば暑さも寒さも大丈夫だしさ」


 結局は僕の意見が通り、カスタム計画は固まった。その頃にはみんなもお腹がいっぱいになって、ふにゃふにゃだ。


「さて、良い時間だし、そろそろ締めるか」

「はい。ご馳走様でした!」

「さまでしたー!」

「おいしかったー!」

「楽しかったぁ〜!」


 みんな口々にお礼を言う。最年少の幼い子なんかは、カルボルトさんにヒシッと抱き着いてた。

 歳を重ねた僕らみたいな孤児じゃ無くて、まだ孤児の流儀に染まり切ってない様な歳の子は、もうカルボルトさんが無償で助けてくれた親戚のお兄さんみたいに思えてる。


「おにいしゃんしゅきー!」

「かっこいい〜!」

「おう、ちびっ子達も元気でな。お前ら、今回はラディアとタクトのお陰でこうなったが、何時いつかは自分の稼ぎで食える様になれよ。もしお前らが傭兵になって、もし仕事を一緒にする事があったら、その時はまた一緒に飯でも食おうぜ。…………流石にまたガーランドでスシって訳にゃ行かねぇけどよ」


 これに対しては大体みんな、「傭兵を目指します!」で声が揃う。小さい子は「なうー!」って可愛い。

 えんもたけなわ、楽しい時間は延々に続かなくて、僕らはそろそろ輝かしい時間からスラムに帰らなくては成らない。

 皆が帰り支度を初めて、帽子博覧会が再開される様子を見ながら、僕は改めてカルボルトさんにお礼を言う。


「今日はありがとうございました。今度は、何時いつかは、僕が稼いでご馳走様出来る様に頑張りますね」

「へっ、期待しとくぜ? そん時ゃぁ、ウチの団長も誘ってやってくれよ」

「女装無しで良いなら」

「ははは、そいつァ残念がるだろうな。坊主は本当にソレ似合ってるしよう」


 うるさいやい。女装が似合ってても嬉しくない。

 僕だってちゃんとすれば、タクトみたいなシュッとしたカッコ良さとか、カルボルトさんみたいなキラッとしたカッコ良さも出せるんだい。決してふわっとした可愛さだけの生き物じゃない。

 これは偶然なのだ。ちょっと変な化学反応を起こして似合っちゃっただけで、本当の僕はシリアスに相応しい男らしい傭兵のはずだ。


「シリアスのお願いじゃなきゃ着ませーん!」

『ならば毎日お願いしたい』

「だめー! 本当に心の底から、僕が女装しないと陽電子脳ブレインボックスがストレスで破損するって言うなら毎日着るけど、そうじゃ無いなら制限を設けます! お願い! 設けさせて!」


 具体的には週に一回とか二回とか。シリアスのお願いは無条件で全部受け入れたいけど、僕が生き物で在る以上は限度が有るんだ。女装自体は受け入れたのだから頻度は僕が指定したい。じゃないと僕の何かが壊れてしまう気がする。


『週五を希望』

「多い! 多いよシリアスッ! て言うかメンズの僕はそんなに見たくないッ!? そんなに似合ってない!?」

『…………否定。そう言われると、確かに男性用装束のラディアも見たいと思う。女装のクオリティが異常なだけで、普段のラディアも可愛らしい。ならば、週三から週四希望。週の半分を女の子、半分を男の子で過ごすべき』


 …………あ、僕ってメンズ着てても判定が『可愛らしい』なんだ。そっか。マジか。

 僕はもしかして、『カッコイイ』には成れない生き物なのか。


「…………週一か、多くても週二で。普段から性別を偽ってたら感性が壊れそう」

『……妥協。あえて頻度を下げる事で、女装時の希少価値を底上げすると思えば、それもまた良い。しかし、週一から週二で手を打つ場合、ラディアには更なるクオリティ向上に務めてもらう。具体的には声と仕草を意識して欲しい』

「し、シリアス。君はいったい何処に向かってるの……? いや、僕を何処に向かわせたいの……?」


 そして交渉の結果、週一に決まりました。その代わり全力で女の子しなさいって決まりました。僕が何をしたって言うんだ……。

 ワイワイ騒いで、ガヤガヤしながらお店を辞する。帽子博覧会しながら、タタミやフスマと言う独特な内装を使う店内を歩いて外へ向かう。

 会計はもう済んでいて、カルボルトさんに総額を訊ねてみた。

 一人当たり約三○万シギルだそうだ。変な声出た。

 三○万を、二七人分…………? 八一○万シギルじゃん。


「一人でもバイオマシンのカスタムパーツ並みってヤバく無いですか……?」

「だから最初嫌がっただろうが。天然物の鮮魚はガーランドだと本当に高いんだぞ。しかもこの店の『天然物』って、本来の意味の『天然物』だからな。余計に高いんだ」


 あ、そう言う事か。養殖管理された食材じゃなくて、海で捕獲した野生の食材を使ってるのか。そりゃぁ高いはずだ……。

 しかもガーランドまでの輸送費まで追加したなら、バイオマシンのカスタム代並のお値段でも当然か。保存技術はもう極まってるから問題無いはずだけど、距離に応じて護衛を雇う回数も増えるんだし、その分輸送費は嵩む。

 警戒領域を通れば通る程に輸送費は跳ね上がって行く。それに保存に問題が無くても、その技術にはお金がかかるのだ。

 も、もしかしたら魚を生きたまま連れて来てる可能性だってあるし…………。


「まっ、何時いつか奢ってくれるの、期待してるぜ?」

「…………か、海洋都市で食べませんか?」

「そん時ゃぁ旅費は坊主持ちな?」

「ちくしょう」


 ちゃっかりしてるカルボルトさんに、流石ベテランだなと思いながら、僕らはスラムへと帰る。

 楽しい夢の時間は終わり、でも何時いつかきっと、もっと楽しくなるかも知れない毎日に帰るのだ。


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