第51話 お預かり。
『昨日の朝食はシリアスの失敗だった。シリアスは、シリアス自身が魚介のみ摂取し続ける生活を非推奨とした。にも関わらず、朝食に魚介を提供したのはシリアスの落ち度。浮かれていたとも言う。メイドの名折れである』
何故かメイドとしての誇りを持ち始めたシリアスは、僕らが連日連夜オスシを食べてる事実を重く見て、せめて朝食は変えるべきだったと言ってしょんぼりしていた。
あまりにも可愛かったので抱き締めようとしたら、ホログラムをすり抜けて多目的ボット君に激突した。
「…………この多目的ボット君も、ずっと多目的ボット君って呼び方じゃアレかな。なんか名前でも付ける?」
シリアスをすり抜けちゃった恥ずかしさを誤魔化す為に、有意義な提案をしてみせる。この提案をする為にボット君に飛び付いたのですよ。きっとそう。
『では、メイドとセットであるその機器には、シリアスが「バトラ」の名前を贈る』
…………ふむ、あれ? シリアスが激務過ぎない? もっと頑張れよバトラ君。実務しか出来て無いぞ。
「ふぅ、美味しかったよシリアス。シリアスは料理も上手なんだね」
『………………申し訳ない。今日の朝はフードプリンターを使っ--』
「シリアスが用意した時点でそれはシリアスの手料理だから」
『いや、しかし……』
「いいね?」
『…………でも』
「いいね?」
『……了解した』
「……………………しりぁす、まけぅの、はじめて、みた」
それな。多分僕もシリアスに何か勝ったっぽいの初めてな気がする。
ネマと食事を終えた僕は、今日の予定を考える。取り敢えず、ロコロックルさんには滞在計画が出来上がったら教えて欲しいと連絡しといた。
あの人、行き当たりばったり感が僕より酷いから、ちゃんと聞いて置かないと酷いことになりそうだ。
「流石にそう長期間には成らないはずだけどね。だって、単純に一○○日掛かったら僕達の拘束料だけで一○○万シギルになるんだし」
「…………まる、ぞん」
「その通り。居るだけで一日一万シギルは伊達じゃない。積み重なれば大金となる」
市民から見ると一万シギルの時点で超大金なんだけどさ。
「………………じぉ、めたぅ。とりに、いかにゃ?」
「あー、昨日置いて来た奴ね? あれさ、良く考えたら警戒領域に放置した
「…………それも、そだた」
そんな訳で、今日の予定はどうするか。
選択肢は幾つかある。一つはまた盗賊殺しに行く事だ。シャムさえ有れば予想よりも稼げる。
二つ目は観光だ。せっかくサーベイルまで来てるのだから、ガーランドの数倍は有るこの大都市を楽しみ尽くさねば成らない。
三つ目はスーテムファミリーに連絡して、子供達と遊ぶ計画。言うて僕とネマはまだ普通に子供だ。遊んでて良い歳のはずなのだ。だから何も考えずに『うわぁぁぁ! たのすぃぃいふっふぅぅう〜』っと騒いで遊ぶくらいが宜しいはず。でも子供らしさなんて忘れてしまったので、現役で子供やってる相手に混ざって教わるのだ。
うん。僕なんか子供の過ごし方とか知らないし。彼らって普段何やってるの? 狙撃の練習とかしないもんね?
「………………ありぃ、な、は?」
「ふむ、
『疑問。なぜ?』
「火が着いたら帰りたく無くなるじゃん? お仕事で来てるんだから、それダメじゃん?」
シリアスに乗って戦うのが気持ち良くてちんちんがおっきしちゃう様な奴がさ、そんな楽しそうな場所を経験して、お試しプレイで満足する訳無いよね? 絶対本番プレイもヤリたくなる。
シリアスも、あれでしょ? 僕のちんちんがちょいちょい作動してるの、知ってるでしょ? どうせ把握してるでしょ? パイロットのバイタル管理は重要だもんね?
婚約者にちんちん把握されてるのメッチャ恥ずかしい…………。僕だってシリアスの何かセンシティブなアレコレを把握したいな。ナニカ無いかな。
「まぁとにかく、今日の予定を--…………」
そんな時に、お誘いがあった。
『ラディア、端末に着信。メカミナ・スーテムからメール』
「…………ごめん、誰? どの子?」
『スーテム家次女。ラディアに手を振られて赤面していた女児』
「ああ、あの子か」
地味に子供達四人とは端末IDを交換してあったんだけど、僕は相変わらずで名前を知らない。と言うか今回はマジで聞いてない。覚えて無い訳じゃない。
いや、そう言えば一回だけこの子は自分を「メカ」って呼んでたな。なんの事かと思ってたけど、名前だったのか。ポロンちゃんと同じで一人称が自分の名前なのだろう。
その二文字だけ見ると随分ゴツい名前に思えるけど、『メカミナ』から略してメカちゃんなのだと思うと、可愛い印象に変わるので不思議だ。
「なんだろね。開示っと…………」
内容は、『釣りに行きませんか』って書いてある。むしろそれしか書いてない。
ふむ、メカちゃんって六歳くらいの子だったよね? メールに内容を求めるのは酷か。
せめて
でもそれを子供に言うのは無理が有る。むしろネマと違って丁寧な敬語で文が出来てる所を褒めるべきだ。偉いぞメカちゃん。
僕の目の前に居るデコスケ野郎がこのメールを書いたなら、その内容はきっと『
さて、このまま悩んでも仕方ないので、僕はそのままメカちゃんに通話を送る。ふむ、メカちゃんの通信要求待機音が可愛いな。ポップな音がテロテロしてる。
そして三○秒程。メカちゃんに通信が繋がる。
『…………ふぁッ、ふぁぃあ!?』
「あ、メカちゃん? えっと、今大丈夫かな?」
『だっ、だだだだだいじょぶぶぶ』
「……ダメっぽいな? 後で掛け直した方が良い?」
『だだだだぃじょーぶぅぅぅう! びっくりしてるだけなのー!』
元気いっぱいだ。
何故か慌てて、でも何やら嬉しそうなメカちゃんに話しを聞くと、まぁメールの通りに『釣り』と言うレジャーへのお誘いだった。
その文化自体は知ってる。専用の道具を用いてお魚を狩猟する行為であり、今では極一部の都市でレジャースポーツとして親しまれる遊びだ。
僕的には天然物の食材である『生きた魚』を使って遊ぶなんて、勿体無いし恐れ多いと感じる行為だ。でも、ウオナミで食べたオスシの値段を見る限り、養殖物であればお魚の値段は釣りが楽しめるくらいに落ち着いてるのだろう。
「メカちゃんの兄弟やご両親も来るの?」
『えと、あの、ムクとメカだけ…………』
シリアスに視線を送る。『ムクとは?』って意味だ。シリアスは『スーテム家次男。末っ子』と教えてくれた。僕にアンダーベルトの使い方を教えてくれたあの子だな。しゅげぇぇええええじゃ無い方だ。一人称が僕と一緒で「ぼく」な子だ。
「お父様もお母様も、来ないの?」
『……ぅん。えと、ね? チケット、余ってて、そのっ』
事情を聞く。そも、古代文明ならいざ知らず、現代に於いては釣りなんて管理された場所以外では楽しめない。
釣り専用に作られたビルの中だとか、都市外のすぐ側に作られた海上施設だとか、それら特別な場所でしか遊べないのだ。
何故なら海にだって野生のバイオマシンは居る。好き勝手に船を出したりすれば、あっと言う間に死んでしまう。だから管理されて安全を約束された場所で無いと、一般人は入れないのだ。
なので、この海洋都市サーベイルに於いても、フィッシングとは自由気ままに楽しめないのである。
とは言え、大仰に説明して見せても、つまるところチケット制のアミューズメントって事だ。そこまで超高額って訳でも無く、まぁお高くは有るけど大人一二○シギル、子供四○シギルで購入出来るチケットで遊べる値段設定に成ってる。それで、何故かそのチケットが余ってるらしい。
『えと、パパが、会社のあれで、えっと…………』
一所懸命にお話しするメカちゃんの事情を要約すると、まず同じスクールに通う家庭の奥様方が集う『主婦会』なる集団が居るらしくて、その主婦会に参加してる奥様方がちょっとずつ会費を集めて積み立てして、時折こうやって子供達にアミューズメントのチケットなどを揃えて遊びに行く事があるらしい。主婦会、素敵な組織じゃん。
ちなみに何故主婦会って名前なのかと言えば、発端がママ友の集いだかららしい。
「お母様達がチケットを用意してくれたんだね?」
『うんっ♪︎』
で、スーテム家の子供達にも、主婦会が
今回の遊び会はそのままフィッシングレジャー施設で遊ぶイベントで、今日のお昼がそのイベントなのだそうだ。まさかの当日。
でも子供四人でチケット四枚なら余ったりしない。けど、此処でお父様も何やら、別のイベントのチケットを持って来てしまったらしい。
会社の付き合いで貰って来てしまった『バイオマシン見学会』チケット。数は二枚。期日は今日。つまりブッキングしたのだ。
兄と姉が狂乱。僕のせいでバイオマシン好き好きスイッチが入ってた二人は、遊び会など知るかボケと言わんばかりに食い付いた。
「えーと、それでつまり、お兄ちゃんとお姉ちゃんはお父様に連れられて、バイオマシン見学会に行っちゃったと。だからチケットが余った訳だ」
『…………ぅん』
本当はお父様が今日の付き添いをするはずだったのだけど、バイオマシン見学会の方に二人を連れて行っちゃったから、お母様が付き添いを担当せざるを得ない。
しかしお母様は今日、お父様に子供を任せられるはずだったから、予定が入ってしまってる。主婦友達と何やらエステツアー的な物を予約してしまってる。
そこで、お母様は思い出した。つい先日、大人並に頼れて、子供用チケットを使って子供の付き添いが可能な子供傭兵が居たと。
そう、僕である。
ちなみに僕が参加しない場合、残念だけどメカちゃんとムク君は遊び会不参加になる。付き添いが居ないので。
あと追加で事情を補足するなら、親御さん用のチケットは当日に現場購入が決まりらしい。何故なら両親共に付き添うのか、どちらかだけなのか家庭によって違うし、日によっても違うから。決まった数のチケットを用意する方が非効率なので、当日に必要な分だけ自分で買う事になってるそうだ。
「つまり、子供用チケット余ってるから付き添い兼参加者としてどうかって事ね?」
『ぅんっ♪︎』
つまり依頼だな? 仕事は子供達の付き添い役。報酬は遊び会に参加する権利。ってところかな。
チケットは四枚で、上二人がバイオマシン見学会に行ってしまったなら余りも二枚。僕とネマでピッタリなのか。
そう思ってネマを見ると、首を横に振る。…………ネマ?
「…………きょぅ、は。………………おべん、きょー、しゅる」
仕事が無いなら、免許試験の勉強をすると言うネマ。マジか。良い子じゃん。見直したよ。
しかしそうなると、チケットが一枚余るな。シリアスを見ると、シリアスも首を横に振る。
『シリアスはコレでも、推定二○歳。人権が発生してるとは言え、児童用チケットでの入場は不適切。更に言えば、シリアスは擬人化状態で外出する時にバトラの存在が必要不可欠である為、恐らくは遊び会の場に於いて相当に浮く。よって、シリアスの付き添いは非推奨。そもそも、シリアスのコックピットにバトラを入れるのは、些か無理がある』
だそうです。ちくしょう。デートしたかった…………。
だけど、ネマもシリアスも非参加と言うなら、砂蟲からは僕しか行かない感じ? 寂しくない? このお誘い断る?
『否定。シリアスは本機としてラディアの傍に居る。いつも通りシリアスに乗って出掛け、シリアスに乗って帰って来れば良い』
それが本来、僕とシリアスの正しい形なのだから。シリアスがそう言ってる気がして、なんだか胸がポカポカする。
「じゃぁ、ネマはこのままお勉強ね。となると、シャムも走らないから、久しぶりにシリアスに乗って移動だね。…………メカちゃん? チケットが一枚余りそうだけど、僕は参加するよ。迎えに行けば良い?」
一応お子様をお預かりするので、やはりお家に迎えに行った方が良いらしい。
チケットの余りは主婦会に返却して、払い戻して積立金に戻す形になるから気にしなくて良いと言われる。そうやってまた次の遊び会に利用するのだとか。
まぁチケットだの枚数だの言ってるけど、物はデータコードなんだけどね。
「じゃぁ、ネマはお留守番お願いね。一人で大丈夫? お昼の用意出来る?」
「………………むぃ、でも、たんまつ、ある」
ふむ。操作が分からずにフードプリンター等で用意出来なくても、最悪は端末でデリバリーが可能と言いたいのだろう。なるほどね。
僕はネマにお留守番を頼み、お仕事が休みならと服を着替えてからシャムのガレージに移動して、シリアスに乗った。
何回見ても心躍るキャノピーとハッチの開閉を待って中に入り、シートに座る。
セーフティを降ろしてパイロットシステムを立ち上げる。モニター類が全展開して、ホロバイザーが降りて来て、起動シークエンスが全て終わる。
「発進」
『了解』
シャムの後部ハッチも開いて外に出る。契約駐機場は相変わらず風通しが良くて開放的だ。外の様子が良く見える。
スーテムさんの家があるタワーマンションも場所はもう分かってるので、すぐに向かう。
機能的かつ効率的なマシンロードをシャカシャカ進んであっと言う間に到着すると、タワマンの前でメカちゃん達が待っていた。
「ラディア君、ごめんなさいね?」
タワマンの駐機場へ態々乗り入れる事も無いだろうと、僕はシリアスを路駐して降りる。そして、確かアヤカさんだっけ? アヤカさんの元に行くと、早速と今回の事を謝られる。
「いえ、釣りって経験が無いので楽しそうですし、僕もお誘い頂いて嬉しいですよ。それに、チケットを報酬に仕事を依頼されたと思えば、なんの事は有りません」
本心だ。楽しそうな報酬を貰う代わりに、メカちゃん達の付き添いをする。実に内容と報酬が吊り合ってる依頼だろう。ある意味、拘束期間中に受ける依頼としては最適とさえ言えると思う。
「あら、流石は現役の傭兵さんね。ならそう言う事にして貰おうかしら?」
「承りました。傭兵団砂蟲団長ラディアが責任を持って任務を遂行します」
ビシッと傭兵式敬礼をキメる。依頼受託完了。傭兵ラディア、これより任務を遂行する。
なんてね?
僕がビシッとすると、アヤカさんの後ろに居たムク君がお目々をキラキラさせて真似をする。絶妙に出来て無いところがまた子供クオリティで可愛らしい。
メカちゃんは僕を見ると赤くなって照れ照れしてる。人見知りしちゃうお年頃なのかな?
「それにしても、今日は随分とオシャレさんね?」
「ああ、えっと、コーディネートはシリアスがしてくれて…………」
「まぁ! シリアスちゃんが選んでるのっ?」
シリアスの名前が出るとニコニコしちゃうアヤカさんが、路駐してあるシリアスの方を見る。シリアスもアームを少しだけ持ち上げて挨拶をした。
アヤカさんに言われた通り、今日の僕はアレだ、シャラさんに激写されまくった時の服を着てる。ホンブルグハットにジャケット、前ボタンの
オシャレさんと言われたので、シャラさんから習ったオシャレなポーズも取ってみる。するとアヤカさんは「あらあらぁ〜」と言って、メカちゃんは「きゃぅぅうっ……」と更に赤く、ムク君はお目々キラキラ率が上昇してプラズマ砲が撃てそうだ。大丈夫それ? 物理的に光ってない? 僕の気の所為?
「帽子を被ってるのもオシャレねぇ。サソリのマークはシリアスちゃんかしら?」
「…………あっ、そっか。サーベイルなら帽子は必須じゃ無いのか」
「ん? どう言う事かしら?」
僕は聞かれて、ガーランドでは帽子が無いと命に関わる事を説明する。陽射しが頭を焼き続けると、人は割と簡単に死に絶えるのだ。
その癖が有るから今も当たり前に帽子を合わせたファッションに着替えて来たけど、サーベイルでは帽子が無くても過ごせる様だ。
実際、スーテム家の三人は帽子を被って無い。
サーベイルだって陽射しは確かに強いけど、砂漠に比べたら天国だ。程よい熱気が肌を刺す感覚は、砂漠では味わえ無い。だって砂漠で陽射しを浴びようとすると怪我するだけだ。
ナノマテリアル無しでガーランドの陽射しに晒されたら、最低でも火傷をする。
「そんな土地なので、本当に帽子が必須なんですよ」
「た、大変なのね…………」
僕のこのキラキラ大人ファッションの裏に有る切実さに、アヤカさんが頬を引き攣らせた。このホンブルグハットを砂漠で外すとですね? 一時間持たないんですよ。凄いでしょう?
なおかつ、僕の髪って黒だからさ。砂漠だと色素が濃くなりがちだけど、黒は熱を吸収しちゃうので逆効果なのだ。本当なら白が良いけど、白い肌は陽射しのダメージがヤバいって言う、髪と肌の色素がトレードオフなのだ。
「では、お子様をお預かりします」
「任せるわね。それと、ラディア君も楽しんで来てね? それが報酬なんだから」
「勿論ですよ」
砂漠の過酷さを布教したら、僕はメカちゃんとムク君を預かる。丁度二人なので、シリアスの複座と補助席で事足りる。
けど、補助席の方はモニターが無く、目の前が複座の背もたれだ。割と使う機会が多いからそろそろ補助席用のモニターも追加しようかと思うけど、今は無いので、目的地までのマシンドライブを楽しんでもらうなら、複座が良いだろう。
ちなみに、まだ朝の九時で、予定は昼の十二時半だ。まだ時間がギリギリるので、適当にお昼を食べてから向かう予定だ。
「じゃぁ乗ってね。メインシートには間違っても乗らないで。乗ったらその時点でお家に返して、僕は君達からの連絡に二度と反応しないから」
「の、のらにゃい!」
「…………めか、いいこにするぅ」
「うん。それと、一番後ろの補助席は前が良く見えないから、二人ともモニターとか見たいなら一緒に複座に乗ってくれる? メカちゃんが先に乗って、ムク君が膝の上とかさ。座席が大人用だからちょっと工夫すれば二人でも大丈夫だと思うんだ」
シリアスもシャムも、コックピットのメインシートは僕ら子供に合わせた調整がされてる。けど複座は大人も子供も使うので、標準的なサイズとなってる。
そこにメカちゃんが深く座り、股を開けてその隙間にムク君が座れば、まぁ二人一緒に複座も行けるんじゃ無いかと思う。五歳と六歳だし。
そんな訳でチャレンジしてもらい、無事着席。二人ともシリアスのコックピットに感動してるので大人しい。女の子受けもするデザインだし、むしろゴシック&スイートソードは女性向けカスタムパーツメーカーだし、でもゴシックデザインのコックピットはムク君から見てもカッコイイはずだ。
複座のセーフティを降ろすと変な感じになるので、横引きのシートベルトに切り替えて使ってもらう。どうせ都市内ならば危ない事も無い。ゆるっゆるで装着だ。
「あわわわわ…………」
「かっ、かっこいぃ……」
『歓迎。短いマシンドライブだが、楽しんで欲しい』
「しりあすちゃん!」
フットレバーを描こうダッシュカバーに備え付けられた端末ケースから、シリアスの声が二人を歓迎する。
僕はその様子を見ながら、メインシートに座ってセーフティを降ろし、起動シークエンスを始める。被った帽子もメインシート脇に付けた帽子用のフックに掛ける。これは戦闘機動して揺れても帽子が落ちないって言う、地味にハイテクなフックなのだ。
パイロットシステムを立ち上げる、その様子すらメカちゃん達にはワクワクの光景で、パイロットシステムが立ち上がってモニターが映り、画面の端にアヤカさんが映ってるのを見たら元気いっぱいに手を振ってた。向こうからは見えないよ。僕はホロバイザーの端に薄らと後ろの様子を表示してるから見えるけど。
「では、夜にお返ししますので」
『ええ。お願いね』
準備は完了したので、二人を乗せて発進する。
「ふゎぁぁ…………、けんがくかい、いかなくてよかったぁ」
「ほんとだねぇ〜」
今更だけど、スーテム家の子供達は上から順にハナミナちゃん、シュナト君、メカミナちゃん、ムクニト君が名前だ。
上二人、ハナちゃんとシュナ君は今、お父様と一緒にバイオマシン見学会ってイベントに行ってる。
二枚しかないチケットは、…………正確にはお父様の分含めて三枚なのだけど、大人の付き添いが居ないと子供だけじゃ使えないので、実質余りは二枚のチケットは、メカちゃんとムク君が譲る形で利用者が決まったそうだ。お兄ちゃんとお姉ちゃんが行きたそうにしてるから、下が空気を読んだんだね。偉い偉い。
「そんな良い子には、お昼にオスシでも奢ってあげようか」
「「ほんとッ!?」」
「て言うか僕が食べたいからなんだけどさ」
『…………昼食まで、魚に侵食された。シリアスは心配』
「バランス良く食べるから許してよ。数日の偏りなら多分、どうにか出来るでしょ?」
シリアスからマシンドライブのオススメコースなんかを出して貰って、ルート案内に従って走る。後ろの二人も、普段から見るビークル視点では無く、バイオマシンの高さから見るマシンロードの景色に興奮していた。
「しゅごぉーい……」
「シュナ君みたいになってるよ」
「あっ、えへへ……」
発言の七割が「しゅげぇぇええええ!」のシュナ君。その弟であるムク君も、しゅげぇぇええええの素質は有るらしい。
サーベイルでは、ドライブ用のマシンロードなる素敵空間も存在して、海側の外壁近くに在るトンネルに潜れば、ガラス張りの海中トンネルが四○キロ程楽しめた。
様々な海洋生物を下から眺め、海を照らす日に晒される様を見るのは堪らない時間だった。今度絶対にネマを連れて来てやろう。
これは確かにしゅげぇぇええええが出なくても、しゅごぉーい程度ならポロッと出てしまうだろう。
何より、シリアスのコックピットは真上までしっかりと見えてしまうハーフパノラマなので、景色は思う存分楽しめる。
「楽しかった?」
「うんっ! おにーちゃん、ありあとー!」
「しゅてきだったぁ〜」
結構な時間を潰してから、十一時前くらい。僕は今日も今日とてウオナミに行く。昼に来るのは初めてだけど。
「…………あっ、またのご利用、有難う御座います」
「ども。連日すみません。…………ところで、お姉さんって
ウオナミへ来れば、何時ものお姉さんがボックス席まで案内してくれた。この人は何時休んでるの? 僕が来る時毎回居るじゃん。もしかしてウオナミってブラックなの?
「ではごゆっくりどうぞ!」
「はーい。…………じゃぁ、メカちゃんもムク君も、好きな物を好きなだけ食べて良いよ。でも、食べ切れない程取っちゃダメだからね?」
「「はーいっ!」」
席に座った僕は速攻でオオトロを注文。アンダーベルトで受け取ってモグモグしゅる。うんみゃぁあ…………。
二人は最初遠慮してたけど、僕がマジで何も気にせず色々頼むから慣れてしまった。オオトロ、チュウトロ、アカミ、ビンチョウの食べ比べから始まり、ズワイガニやアマエビなんてネタも美味しい。
「ほ、ほんとに、なんでもたべていいの……?」
「おこられない……?」
「少なくとも、僕は怒らないよ? 怖かったら、お昼にオスシ食べた事は家族にも内緒にすると良いよ。ほら、そしたら怒らない僕しか知らないし、怒られ様が無いよね?」
食べながらも、後で親に怒らる事を気にしてるメカちゃんのお口に、チュウトロを放り込んであげた。あむあむしてる。
「デザートとかも好きにして良いから。あ、でもお腹いっぱいに成ってデザート食べられないとか言って泣かないでね? 流石にそれは僕もどうしようも無いし」
アナゴも美味しい。エビ良い。僕、アマエビとクルマエビだとクルマエビの方が好きかな。生のアマエビより、ボイルしたのかな? 火の通ったクルマエビの剥き身を握ったオスシが食べ易かった。
「……ふぅ、食った。大いに食った。少し食休み」
「………………おにゃか、くるしっ」
「たべ、すぎたぁ……」
全員、お腹がポヨンポヨンになるまで食べた。
午後のフィッシングはスポーツらしいけど、この腹具合で大丈夫だろうか? 少し心配だ。
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