第50話 マンハント。



「こんにちわー☆ お届け物でーす♪︎」


 苦悶、悲鳴、断末魔。

 血飛沫で彩られた阿鼻叫喚の地獄絵図。


「古式ゆかしい代引きシステムでプラズマ弾の速達でーす☆」


 午前十一時。サーベイルから一二○○キロ離れた場所にて、お仕事を探してウロウロしていた方々に、僕はとても暖かい超高温の贈り物を届けに来た。そう、スキュラのプラズマ弾である。


「代引き手数料は頂きません! 品代もお安いですよ! なんとアナタ方のちっぽけで下らない無価値な命だけで結構です! 正にソウルドアウトッ!? あぁ、なんてお買い得なんでしょうッ!?」


 耳の中まで汚れそうな、酷くさわる汚い鳴き声を聞きながら駆除作業。

 対人殺戮用マンイーター連筒機関砲ガトリングM9942ハイスキュラを、都市外に巣食う害獣へ向かって掃射する。

 一度コンシールドブラスターを展開後、中にあるスキュラも展開した後にコンシールドブラスターを格納して使ってる。別にコンシールドブラスターは仕舞う必要無いんだけど、使わない装備を出しっぱなしにするのもなんか嫌なので。

 それに、スキュラだけ展開してるシリアスは、なんかこう、頭にアリの触角っぽい物がぴょこんって生えてるみたいで可愛いのだ。

 その可愛い頭の飾り物は、秒間五○発ものプラズマ弾を吐き出す死神の鎌だけどね。


「さぁさぁ受け取って受け取って! 遠慮は要らないから!」


 さて、朝七時にサーベイルを出てから四時間も走り、現在もクソみたいな台詞を吐きながら人間を殺しまくってる僕だけど、別にサイコパスになった訳じゃないんだ。

 サーベイルと取り引きしてる様々な都市の位置を確認し、そこからサーベイルへと向かうルートを幾つも並べ、盗賊達の活動領域と被りそうなポイントをマークして、バンザイアタック狙いのクレイジーがたむろってそうな可能性がある場所に殴り込んでるだけだ。

 結果はドンピシャで、二○人入る装甲ビークルを五台も用意してた三桁あまりのクレイジー達を見付けて、何やら昼間っから酒盛りしてる所をシリアスで強襲した。

 やっぱ凄いなクレイジーは。警戒領域の中で酒盛りとか、どんな神経してれば楽しめるんだ?


『降伏するぅぅうッッ! 攻撃を止めてくれぇぇええッ!?』

「はーいイヤでぇ〜す」


 外部マイクが拾う声に返答して、僕はトリガーを引き続ける。

 だって君らの駆除依頼中なんだもん。降伏させてもお金貰えないし。

 未だに機体も無くバンザイアタックしてるクレイジーに賞金が着いてるとも思えないし、殺害一択だよね。殺しても賞金着いてるなら貰えるんだし。


「怨むなら、奪う事を選んだ自分を怨みなよ。奪うから奪われるんだ」


 昨日、サーベイルの色々を楽しんだ後に傭兵ギルドのサイトページを漁って依頼を探すと、討伐では無くて駆除依頼を見付けた。

 駆除対象一匹に着き五○シギルが貰えるお仕事だ。つまり今三桁殺したので大体五○○○シギルの稼ぎ。

 じ、地味に美味しい。アレか、護衛任務のお小遣い稼ぎってコレの事か。確かにお小遣い稼ぎだわ。

 でも諸々で約四○万シギル程使ったマンイーターの元を取るには、何人殺せば良いんだろう?

 二○○人殺して一万だから、八○○○人殺せば良い? 大虐殺じゃん。


「ふぅ、殲滅完了」

『発言の割にメンタルは落ち着いていた』

「まぁ、楽しそうに殺したけど、楽しくは無かったし?」


 バイオマシンよりも大きな木々が立ち並ぶ森と、広大で危険な丘の境目。

 そこで通り掛かる獲物を待ってたのか、ガチで酒盛りしてたクレイジーなのか分からない駆除対象を見付けて皆殺しにした僕は、シリアスにそう言った。

 どうせならウキウキで人殺してるクソガキに殺される方が、奴らも後悔するかなって思ってそうしたけどね? 別にゴミを殺しても楽しくないよ。

 だって、ゴミクズをクズカゴに入れて楽しい? 遠くから「ヘイ! シュート!」って遊ぶなら楽しいかもだけど、至近距離でだしなぁ。


「まぁ、スキュラの使用感は良好だね。コレなら輸送任務の復路も安心だ。やっぱり、僕は自分の手でライフル撃つより、機体に乗って射撃する方が得意だったね」

『普通は逆。大多数は、機体を操るより自分の体を操る方が楽だと考える』


 そうかな? 機体で狙うなら、武器が重くて持つ手がブレるとか、姿勢を気にして確認するとか、発砲時の衝撃をどうするか計算するとか、そう言うの全部無くて楽じゃない?

 まぁ良いや。試し撃ちの目的は完了したので、後はお金を稼いで帰りますか。


「乗機持ちの賊は居ないのかな。一番美味しい獲物なんだけど…………」


 僕は気が付いたんだ。

 盗賊が乗ってる機体って、コックピットだけを吹っ飛ばせば陽電子脳ブレインボックス生体金属心臓ジェネレータも無事で機体を丸々頂ける、超絶美味しい獲物である事を。

 コックピットを修理したなら、そのまま中古の機体として売りに出せちゃうのだ。二機ずつ潰してニコイチ鹵獲するよりずっと楽で多く稼げる。

 はぁ、僕はまた良いシノギを見付けてしまった様だね。

 こんなに美味しいなら他の傭兵もやりそうだけど、普通こんな場所を通るのはロコロックルさんみたいな無茶をする商人の護衛だから、潰した機体を回収する暇など無い。

 護衛を受けずに専門でやるとしても、それなら盗賊機を鹵獲して運ぶダングと、盗賊機を潰せる戦闘員。最低でも二名必要だ。すると人数が増える毎に報酬が減るので美味しさも減る。

 しかも、普通のダングは小型二機か中型下級を一機までしか格納出来ないので、少し狩ったらまた、こんなクソ遠い場所から都市に帰らざるを得ないのだ。時間効率が悪い。

 そんな訳で、小型なら四機、中型でも二機積めるシャムのアドバンテージが凄いのだ。買って良かった。コレならクレイジー狩りつつ乗機持ちも狩って、野良に遭遇したらそっちも狩れる。

 完全に殺してしまった機体だったら、一つのハンガーにバンバン山積みに放り込めるから数狩れるし。シリアスが陽電子脳ブレインボックスを抜いて保護装置に入れてくれた本当に本体の方は気を使わなくて済む。なんならバラしてから片隅に詰めておけば良い。


『…………らでぃあ。せんさーに、かん』

「〝さん〟を付けろよデコスケ野郎。ポイント頂戴」

『……でこすけ、おくるっ』


 シャムがキャッチした反応をコッチに送ってもらい、マップにリンクしてマークする。

 あっは二機も居るぅ♡


 駆け付けて殺した。


 ウェポンドッグが二機も手に入った。しかもコックピットも潰さずに済んだ。最高か。

 コンシールドブラスターを足元に撃って牽制しつつ、近付いて組み付いてコックピットへグラムスター突き付けてから「このパルス砲を撃たれたく無ければ降りろ」って誠心誠意お願いすると、汚いオジサンが機体をタダでくれるんだ。めっちゃ優しい。

 ちなみに汚いオジサン二人は機体から降りた後にプラズマ弾を撃って殺した。降りたら撃たないのはパルス砲であって、プラズマ弾は約束して無い。僕は嘘を吐いてない。


「中古だと、二○○万くらいで売れる?」

『売り手次第。しかし、少なくとも価格暴落デザリアよりは高値』

「…………ロコロックルさんに投げるか?」


 待機してたネマを呼んで、鹵獲機体をシャムに入れる。シリアスのシザーアームで掴んでズリズリ運ぶのだ。


「あー、あの、お父様のお名前なんだっけ。ザオス?」

『質問。それはザルイオ・スーテムの事だろうか?』

「あっ、そうそう、それ、イオさんだ。…………え、イオさん達の姓ってスーテムなの? なんでシリアスが知ってるの?」

『おもてなし中に、アヤカ・スーテムへ確認した。アヤカ・スーテムはラディアの言う「お母様」の事』

「…………そう言えば、帰り際にめっちゃ仲良くなってるなぁとは思ったわ」


 まぁ良いや。イオさん憧れてるって言うし、一機くらい上げちゃう? 無償譲渡はあんまり良い行為とは言えないかもだけど、その分バイオマシン系の経済が回るから良いよね。どうせイオさんどハマりしてパーツガンガン買う人になる。僕には分かる。

 それとも、このまま僕がこの二機を所有しちゃう?

 ああ、陽電子脳ブレインボックスだけ売り払って、おじさんに機体をオーバーホールして貰って、機体の情報もクリーンアップした後にポロンちゃんにプレゼントも良いな。ライドボックスの中の子を積み替えよう。

 あー、でも、要らないかな? 別に僕が上げなくても、アズロンさんが普通に買うか。あの人達が機体買ってないのは、お金が無い訳じゃ無いもんな。


「まぁ、良いか。シャムに積んでおける数まではキープ出来るし、その時考えよう」

『否定。ロコロックル・カーペルクが復路分に買い付ける積荷を忘れてる。契約は補給品を積む場所以外は全て貸し出す形で締結済み』

「…………わーい忘れてたぁー☆」


 ちくしょうシャムに積んで置けない! しかもロコロックルさんが帰る期日までに売り捌けないなら、積んで帰れないんだから廃棄すら選択肢に入りやがりますねっ!?

 そうなったらマジでイオさん達にあげよう。マジで。捨てるよりはずっとマシ。


『心配しなくても、最悪は傭兵ギルドに卸して丸投げすれば良い。損はしない上に、ランク査定まで大幅なプラス』

「ああ! それでも良いね! ランク上げないとバーニア買えないし!」


 早く、早く僕にバーニアセットを買わせておくれ。ブースターとスラスターが恋しくなっちゃうふひひひひ。


『…………てぃ、あん。いぬの、せなか、はいで、のこす』

『思案。試算、理解。シリアスはネマの提案を支持する』

「なんて?」


 今もセンサーを見ながら、あちこち索敵して駆除対象を探してるんだけど、それでもちょっと気の抜けた感じになってる。

 ネマまシャムのコックピットから会話に参加して、何やら提案した。シリアスが推すけど僕は良く分かってない。


『ウェポンドッグの背部ユニットは汎用武装。ハードポイントを増設すれば容易に換装可能である為、残しておく事をネマは推奨している』

「その心は?」

『ネマが戦闘機免許を取得時、既に武装が手元に有ればシャムの武装化が幾分か楽になる上に、プラズマ兵器なので火力は及第点。そして使わなかったとしても汎用武装なので売却も楽。時を選ばずに売れる品である』

「…………ふむ。残しておけば後で使えるかも知れないし、使わなくてもその時に売れば良いから、今は残して置こうって事ね。ふむ、補給品置き場でスペース足りる?」

『最悪は、武装その物をある程度バラして収納性を上げる所存』


 そう言う事になった。

 シリアスが二機のウェポンドッグから四基の中型プラズマブラスターを剥ぎ取り、僕らが帰りにも使える補給品スペースに詰め込み始めた。


『らでぃあ。せんさー……、に、かん、あり』

「〝さん〟を付けろよデコスケ野郎。数はー?」

『いちが、ふたつ』


 二機じゃ無くて、一機が二つね。なるほど。

 つまり偶然カチ合った野良の二機かもって事だね? 勿論バラけてるだけの盗賊って可能性も有るけど。

 でも奴ら、基本的に戦術の『せ』の字すら知らないアホばかりだったからなぁ。本気でダムの一味が一番質が良かった。


「稼ぎ的には、なるべく格闘で仕留めたいけど」

『肯定。しかし、拘り過ぎて被害を受けるのは許容外』

「そうだね。この先は、武装の強さだけじゃなくて、費用対効果も考えて選ばないとだね」


 まさかのエキドナ復帰か? 下取りに出したから手元に無いけど。

 でも弾薬費気にするならやっぱり炸薬砲は選択肢に入るんだよねぇ。


『選択肢を増やす為、やはりランクの上昇は必須。販売制限を取り払う必要が有る』

「そだね。うん、やっぱりこの鹵獲ウェポンドッグはギルドに売ろう。税金分安くなるけど、その分ランクアップが早くなる」


 カルボルトさんにも教わったけど、アレよりも詳しく、今一度ランクの区分をおおさらいしよう。


 ランクゼロ。見習いの仮登録。

 ランク一、ピカピカ初心者。

 ランク二 脱初心者、駆け出し。

 ランク三。脱駆け出し、一人前の駆け出し。

 ランク四。一人前。

 ランク五。凄い一人前。ベテランの領域。

 ランク六。完全にベテラン。一流。

 ランク七。超ベテラン。

 ランク八。現人神。崇めろ。

 ランク九。神。奉れ。


 こんな感じか。傭兵全体で言うとランク四から五が一番多いとカルボルトさんから聞いてたけど、多分ランク四が一番多いんだろうね。豪遊系傭兵が多そうなイメージだ。

 ランク査定の大きな基準は納税額だ。厳密には他にも有るけど、月々にどれくらい納税する傭兵がどのくらいのランクかって言う目安がある。


 ランクゼロ。○シギル。

 ランク一、○~一○○万。

 ランク二 一○○万~五○○万。

 ランク三。五○○万~一○○○万。

 ランク四。一○○○万~二○○○万。

 ランク五。二○○○万~五○○○万。

 ランク六。五○○○万~一億。

 ランク七。一億~五億。

 ランク八。五億~二○億。

 ランク九。二○億~…………。


 こうだったはず。

 勘違いしちゃダメなのは、これが月々の稼ぎじゃなく、月々の納税額の指標って事だ。

 つまり、ランク八のライキティさんは月々に五億以上もギルドに納税してて、実際の稼ぎはもっとずっと多い傭兵って事だね。そりゃ現人神扱いされるわ。

 ちなみに、ランクアップは一ヶ月で納税出来た額によって上昇するけど、ランクダウンは年間の納税額を月割りして計算される。要するにランクが高い人はセカセカ働かなくても、一回ドドンと鬼稼ぎすればランクが保てる。

 ライキティさんで言えば月五億の一年だから六○億だね。コレを一年の間に納税出来るほど稼げば良い。

 こんな図式だから、ランク初級はラッキーパンチで上がる事があっても、上に行くと平均的な稼ぎが物を言う様に成るのだ。ラッキーパンチで五○○○万も一億も稼げて堪るか。額の母数が違うんじゃい。


「稼ぎ的には、僕ってランク三から四くらいが妥当なのかな? 納税してたらそのくらいだよね?」

『肯定。オジサン・サンジェルマンの闇店舗に流し過ぎた分で査定に乗って無いだけ』


 上に行くなら稼ぐ必要がある。けど稼ぐとなるとガーランドでは難しい。端的に、大きく稼ぐ気なら戦争に行くか、高ランク警戒領域にいくか、二つに一つだから。

 でも僕、流石に最強のパイロットとかを目指してる訳じゃないし、そんな月に数億も納税出来ちゃう様な鬼稼ぎもちょっと嫌だな。気が付いたら条件を満たしてるくらいなら良いけど、ランク維持の為にあくせく働き続ける生活は嫌だ。

 なので、充分な装備が買えるランク四を目指して、当面の生活はランク四を意識しないでも維持出来る形にする。うん、僕の目標はコレだ。

 勿論、楽に維持出来そうならもっと上を目指して、もっとヤバい装備買っても良いけど、当面はランク四をボーダーにする。


「…………て言うか、装備を買った後ならランク落ちしても良いのでは?」

『指摘。かなりグレーなラインである。武装許可は有るので帝国法的には問題無い。しかし、ギルド憲章的には装備狙いの一時ランクアップはグレーゾーン。もし実行するならば、最初の一年はランクを維持し、積極的な活動を行ったデータを残すべき』


 助かる。助かり過ぎる。

 ギルド憲章とか二割も覚えて無いので、と言うかアレを頭に入れ切ってる傭兵とか存在しないと思うが、全部を把握してくれてるシリアスの存在が心強い。

 取り敢えず、ネマが見付けた二機を狩る。野良だった。

 野生のバイオマシンはウェポンシステムが使えないので、射撃武器が確定で使えない。だから近付いて殴り合うのがとても楽。弾薬費節約し易いのは良いゾ〜!

 この辺はウェポンドッグの領域らしく、野良もウェポンドッグだった。生体金属心臓ジェネレータをブチ抜いてシャムに積む。

 シャムの中ではシリアスが遠隔操作してるボットが動き出して、積んだ犬の陽電子脳ブレインボックスを引っこ抜いて保全する。

 信じられる? これ、僕を乗せて戦闘しながらの遠隔操作なんだよ?


『愉悦。稼ぎは中々』

「だね。完全な状態の鹵獲機が二機。ウェポンドッグの陽電子脳ブレインボックス二個と、二機分の生体金属ジオメタル。うーん、中々だ。まだ時間に余裕、有るよね?」

『肯定。シャムのフルスロットルで四時間の距離。単純に帰還予定の四時間前に切り上げれば良い』


 と言う訳で、僕らは更に狩る。

 駆除依頼も続けるし、完全鹵獲はもう一機分くらい狙いたい。ハンガーは四つあって、積んだ生体金属ジオメタルがちょっと、いや大分? いやいやちょっとだけ、ちょっとだけハミ出して来てるけど、シリアスが乗る分を除けば鹵獲機を三機積めるんだ。

 いや、本当は二機で止めて余ったハンガーに生体金属ジオメタルを山積みにするのが良いのだけど…………。寄せて詰めたら入りそうじゃん? 行けそうじゃん?


『否定。下手な積み方をして荷が壊れると損害になる。生体金属ジオメタルの山が崩れて鹵獲機が破壊されたら丸損する』


 はい。我慢しました。

 無理矢理詰め込もうぜ! って提案する僕に、シリアスが「めっ!」ってしてくれた。胸がキュンキュン。

 あ、前方に野生のクレイジー発見。駆除します。


「今思うと、生身で警戒領域に入って鉄クズ集めしてた僕も、やっぱり結構なクレイジーだったね。浅い所とは言え、こんな危ない領域で活動してたとは…………」


 プラズマガトリングで人間を挽肉にしながら考える。僕達って凄い事してたんだな。


『そのお陰で出会えた。シリアスはラディアのクレイジーに感謝する』


 や、止めてくれっ。シリアスにそんな事を言われちゃったら、クレイジーボーイの称号が少し愛おしくなるじゃん。ヤダヤダ僕はクレイジーボーイなんて嫌なのだぁー!

 僕はイヤンイヤンと首を振りながら、なんかダムが言ってた村っぽい場所まで見付けてしまって、仕方ないので虐殺を始めた。


「シリアス、一応スキャニングお願い。攫われた人とか居たら避けるから」

『了解。……完了。この村は殲滅して良い。純度一○○%の盗賊』


 皆殺した。

 ハイスキュラを『ジョラァァァァァァッッ……!』みたいな射撃音で掃射して、恐らく質の悪い建築用レプリケーターで作ったらしい家屋ごとブッ壊してぶっ殺した。

 老いも若きも、この村で産まれただろう子供すら居たけど、仲良く揃って皆殺しだ。だってこのガキが育ったら立派な盗賊に成るんだよ? 殺しとくに決まってるじゃん。外部マイクが『ヒトデナシぃぃい!』とか言う鳴き声を拾うけど、耳障りな鳴き声の獣だな。人で無い者にヒトデナシとか言われてもちょっと面白いだけだよ。

 オーバードライブ食らって無くて、犯罪データが無い相手でも、帝国市民権を持たず、戸籍情報ゼロで、死亡処理もされて無い。そんな完全なイリーガル判定の相手ならば、盗賊扱いで殺して良い。法的にそうなってるのだ。

 現代に産まれて戸籍無しの死亡届無し。そんな状態で都市の外、それも警戒領域に居る奴なんて盗賊の子孫で間違いない。獣の子は獣として扱われる。

 ちなみに不法滞在者はどうなの? って聞かれたら、どうでも無いとしか言えない。確かに不法滞在者も戸籍無いけど、『居ない事になってる』奴が盗賊と間違われて殺されても仕方ないし。

 帝国が不法滞在者に保証してくれるのは、『まぁ生きてても、ええんちゃう?』って言う緩い生存権と、誘拐、強姦等の尊厳を著しく踏み躙る犯罪被害にあった場合に『めっちゃ報復しといたるからな。安心して死んどいてや』って言う微かな司法権くらいだ。

 尊厳が踏み躙られる類の殺しじゃないなら、殺されても仕方ないって判定なのだ。ただ、殺した相手に『そう言う事をする奴』ってデータが残るだけ。尊厳だけは一応守ってくれるだけ優しいとさえ言える。

 そんな状態なのに、もしかしたら傭兵から憂さ晴らしに狙撃の的とかにされる可能性だって有ったのに、殺されても盗賊判定なのに、それでも警戒領域で鉄クズ集めしてた僕は、確かにクレイジーボーイだった。今自覚した。当時の僕は間違い無くクレイジーだし、タクトもグループの子も皆クレイジーだった。


「キルスコアは?」

『先の酒盛り組と合わせて、現在三二○人』

「駆除の報酬は一万と六○○○シギル?」


 結構殺したな。明らかに保育園的な感じの所にスキュラを掃射するのは、流石に辟易したもんな。

 なに普通に文化的な暮らししてんだよコイツら。

 なんで盗賊村の癖に保育園とか有るんだよ。なに子供集めて預かってんだよ。ハンバーグにしちゃったじゃん。


「まぁ気にしてないんだけど」

『流石にメンタルが平常過ぎる。ラディア、本当に大丈夫なのか』

「うん。なんと言うか、マジで僕、コイツらを獣か虫程度にしか思ってないからさ。岩を踏んだら下に居た虫が全部潰れたくらいの気持ち悪さしか感じてないよ」


 森の中にひっそりとあった盗賊村、殲滅完了。

 ついでに二機、綺麗な状態のウェポンドッグを見付けた。うふふふふ。

 ああそうか。ウェポンドッグの出る警戒領域だから、陽電子脳ブレインボックスさえ準備すれば機体を用意出来るのか。移乗攻撃バンザイなクレイジーだもんね。野生のバイオマシンに飛び掛って揃えてるのか。ふふ、僕もシリアスとの初めての共闘は同じ事したし、ゼロから全てを得るにはそれしか無いよね。なるほどなぁ。

 盗賊の癖にどうやって戦闘機を買ってるのか気になったけど、そう言う事なのか。むふふふ。


「ねぇ、これさ、此処に一旦生体金属ジオメタルを全部降ろして、機体だけ持って帰らない? 生体金属ジオメタルは明日にでも回収しようよ」

『格納中の二機、見付けた二機、計四機を全て持って帰るなら、シリアスがシャムに乗れない。つまり、シリアスの最高速で帰投時間を計算する必要がある。現在時間は既にその帰投のボーダーラインである』

「日を跨いだらマズイかな?」

『ロコロックル・カーペルクに一日以上連絡が取れない状況は、契約的に望ましく無い』


 と、言う訳で。時間がギリギリに成るとの事で帰ります。

 ふーむ。小型とは言え戦闘機を四機も鹵獲出来たの美味し過ぎる。幾らで売れる? 直ぐに売らず、一旦はフルメンテして新品同様にしてから売る? どっちの方が高い?

 僕はそんな風に悩みながら、サーベイルに帰るのだった。


 そして本日の稼ぎ、総額六九○万シギル也。


 結局、適当な正規店でそのまま、ギルド売り指定の売却をしたらその額になった。二機からは武器を剥いだとは言え、中古でも二○○万くらいするウェポンドッグが中々買い叩かれた形になる。余計に持ってた陽電子脳ブレインボックスが程良く嵩増ししてくれてこの値段だ。結構な金額を税金で抜かれた。

 ランク四は月に一○○○万シギルの納税が目安なので、この調子で仕事を続ければ余裕で行けるだろうけど、明確に稼ぎか減るとモニョるなぁ。

 でもまぁ、一日で約七○○万稼いだのは美味しい方だと思う。これで文句を言うと市民に怒られるな。うん、やっぱ鹵獲機体の売却は稼げるねぇ。


「夜はどうする? 何食べる?」

「………………うおなみ、ぃこ?」


 帰った時点でもう夜だ。僕はネマに意見を聞いて、ネマはオスシが食べたいと言う。コレは、あれか? オスシとアクアパッツァを交互に重ねて往くのか?

 馬鹿な事を考えつつ、僕らはまた格安オスシを食べに行く。

 既に一回行き、そして武器屋程の難易度も無い場所などネマに鼻歌フンフンさんである。あっと言う間に到着した。

 ビルに入って、流石に飲食店では多目的ボット君がお邪魔だろうって事でシリアスは来れなくて僕が寂しいけど、ネマと二人でウオナミへ直行。


「……い、いらっしゃいませっ。二名様ですか?」

「あ、お姉さんだ。連日でごめんなさい。はい、今日も二名です」


 ウオナミへ行くと、昨日案内してくれたお姉さんが出て来た。

 昨日の今日なので素早い対応をしてくれるお姉さんに、悪戯心が湧いて「今日は七○○万シギル稼いで来ましたよ」って囁いたら、お姉さんは「ぴゃっ!?」って鳴いていた。


「そ、それはもう、当店で食べる必要も無いのでは……?」

「そりゃ勿論、その内は天然も食べに行きますけどね? 自信持って下さいよ。ウオナミさんのオスシは凄く美味しいですから」


 僕の所見では、ウオナミの養殖物を一○○点だとするなら、天然物が一五○点くらいだと思ってる事をお姉さんに伝える。


「確かに天然物が美味しいですよ。でも、コスパ考えたらウオナミさんが最強じゃないですかね? 充分に美味しいオスシが一シギルから五シギルとかで食べれるんですから。普通こっち選びません?」

「…………ウチって、そんなに美味しいんですね?」

「美味しいですよ?」


 何故店員さんがそこで疑問形なのか。

 ああいや、僕はまだサーベイルでの天然物を食べて無いな。朝のシャケも養殖らしいし。

 もしかしたら、ガーランドで食べた天然物よりも美味しい可能性だって有るな。


「サーベイルで食べれる天然物を楽しんだら、その味もお姉さんに教えに来ますね」

「えっ、あ、ありがとう、…………ございます?」


 そんなこんな、ボックス席に到着。さぁ、おしゅしの時間だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る