第62話 代行依頼。



 衝撃の事実を知った日から、更に一週間が過ぎた。

 その間、僕達は新機体の設計図を引いてみたり、VRバトルで遊んだり、狩りに出てお金を稼いだり、スーテム家の皆さんと交流したり……。

 サーベイルでの活動も、こんな感じである程度はルーチン化してる。

 そろそろネマも僕達への借金を返し終わるし、お金も貯まって来た。双互干渉式増幅心臓デュアル・ジェネレータの基礎理論を売却した三○億シギルはシリアスと折半したので、僕の口座には現在で十七億程入ってる。いざと成ればこのお金で、一口納税を連打してランク四でも五でも行けてしまう。装備の更新に問題は無い。

 新人傭兵としては輝かし過ぎる日常と言えるだろう。


「…………と言うか、良く考えたらもうランク気にしなくて良いのでは?」

「肯定。既にスイートソードに太い伝手が出来たので、スイートソードの製品に不満が無いならランクは必要無く成った」


 そう。結局のところ、ランクによる装備の購入制限ってのはあくまでメーカーの自主規制でしか無く、別に法律で規制しなさいって決まってる訳じゃ無い。メーカーによっては普通にランク制限無く装備を売ってる。

 ただ、高品質で強力な武装を販売してるメーカー程、自主規制してる向きが有る。もしくはその分だけ余計に高額な値付けをされてるか、どっちかだ。

 僕が最初にランクを無視して買えたグラディエラもエキドナも、バイオマシンの武装全体から見るとまぁまぁ弱い方に分類される。グラディエラの方はオプションのグレードにもよるけどね。

 だからつまり、逆を言えばメーカーが売ってくれるならランクなど要らないのだ。僕も別に傭兵ギルドの様々な優遇とか殆ど使ってないし、装備さえ買えるなら本当にランクとか要らない。

 で、双互干渉式増幅心臓デュアル・ジェネレータの理論を売却してスイートソードに太いパイプをゲットした僕は、スイートソードが武装を売ってくれるならばランク制限を無視出来る立場に成った。なのでもう、ランクを気にして正規店に獲物を降ろさなくても良い。


「とは言え、ランクが高いとイコール信用度も高い傭兵って事だから、維持出来る分は維持しようと思うけど」

「ランク四以上なら、月極で定額の引き落とし契約も結べるらしい」

「あ、それ良いね。じゃぁランク四になったら、そのランクを維持出来る分だけ引き落として貰おっか。ギリギリだと他の要素でマイナス引いた時に降格するかもだし、一五○○万シギルくらいかな?」


 VRバトルを利用して様々な装備を試した結果、それらを組み込んで作る新しい機体の設計は随分と進んだ。もうほぼ完成してる状態である。

 ネマのシャムも似た様な感じだ。あとはスイートソードが双互干渉式増幅心臓デュアル・ジェネレータの正式な実用化を終わらせれば、双互干渉式増幅心臓デュアル・ジェネレータを組み込んだ状態の設計図に直してからスイートソードに提出するだけで僕達の作業は終わり。

 そしたらもう、スイートソードの専門家が監修してブラッシュアップした正式版を設計し直して、その注文通りの品を作り上げてガーランドまで届けてくれる。

 それをおじさんに任せて、シリアスとシャムの陽電子脳ブレインボックスの新しい身体に積み替える。


「楽しみだねぇ」

「同意。シリアス達は何故か、新人傭兵に有るまじき速度でポンポンと装備を更新して居るが、流石に機体を丸ごと乗り換えるのは大事おおごと。非常に楽しみ」

「ねま、も。たのしみ」


 自分で設計した訳だけど、我ながら強そうな機体に成った。シャムもシリアスも、もはやデザートシザーリアでもシールドダングでも無い。

 古代文明ハイマッド帝国由来だった二機は、現代文明の機体として生まれ変わるのだ。


「こうなると、サーベイル楽しぃって気持ちが引っ込んで、早くガーランド帰りてぇって気持ちが湧いてくるよね」

「肯定。そも、ロコロックル・カーペルクから滞在予定を告知されて居るので、一時帰投も一応は可能」

「だけど、ロコロックルさんの予定が急に繰り上がる事も考えられるし、傭兵として望ましい行動とは言えないよね。拘束料金返せーって話しに成るし」


 別に返しても良いんだけど、信用問題に成るからね。

 時速三○○キロで走れるシャムが居れば、四日掛かったこの距離も、無茶をするなら一日で走破可能である。本当に無茶をする必要が有るからやらないけど。

 でも二日程掛ければ、割と現実的に都市間を移動出来る。


「忠告。時速三○○キロのスペックは、あくまで最高速。巡航速では無く、最高速をベースに距離計算する時点で『現実的』とは言わない」

「あ、そっか」

「にーたん、しゃむがつかれちゃーよ?」


 うん。最大スペックをベースに考える癖を止めよう。シャムが可哀想だ。

 シャムは現代機で、陽電子脳ブレインボックスは沈静化処理がされてて自我を殆ど失ってる。けど、それでも生きてる事には変わりないし、自我だって消し飛んだ訳でも無い。微かには残ってるんだ。それを馬車馬の如く走らせるのはダメだ。扱い方を改めなくては。


「…………シャム、何時もありがとね。これからもよろしく」


 僕は何となく天井を見上げながら、テーブルをさわさわと撫でて呟いた。沈静化処理で沈んだ心に、届いたら良いな。


「さーてさて、今日はどうしようか。お休みする?」

「じゃぁ、ねま、にぃちゃと、ねーたんと、いっしょにねんねしたぃ」

「賛成。偶には昼間もベッドでぬくぬく休むのも乙だと判断する」

「…………昼間っからこんなに可愛いお嫁さんと妹をベッドに連れ込んで、ひたすらイチャイチャするの? 僕、天罰とか喰らわない?」

「笑止。その様な罰を下す神など、シリアスがグラムスターで吹き飛ばす」

「ねまも、かみさまに、めっ……、て、したげるね」


 そんな訳で三人、リビングから僕のお部屋に。

 セミダブルサイズでしか無いベッドは、いくら子供三人とは言っても手狭である。けど、ネマはこの狭さが好きみたいで、シーツを被ったらすぐに僕とシリアスへ抱き着いた。

 三人でベッドに潜ってイチャイチャする。ふふ、爛れた傭兵生活(健全)だなぁ。


「にぃたん♡ ねぇたん♡ すーき♪︎」

「大変。ラディア、ネマが大変愛らしい」

「ごめん知ってる」


 可愛がる事で僕達は幸せに成り、そして可愛がられたネマも幸せで、幸せなったネマがもっと可愛くなって僕らももっと幸せになる。

 な、何と言う永久機関なのか…………!

 僕は戦慄した。戦慄しながらネマの頭を撫で撫でする。あとシリアスの頭も撫で撫でする。


「…………む。ラディア、通信要求」

「ふぇぇ……、今は何もしたくないのに……」

「ロコロックル・カーペルクから」

「クライアントじゃぁぁあん」


 出ない訳には行かない。ちくしょう、ロコロックルさんめ。もう少し早い通信だったら、ベッドに入る前でもう少しくらいはやる気が出たのに。


「もすもーす。ロコロックルさーん?」

『おや、随分と気が抜けてるね。お休みだったかな?』

「お昼寝しようとベッドに突入してすやぁ……、するところで連絡を頂きましたぁ」

『それは悪い事をしたね』

「いえ、まぁお昼ですからね。この時間に連絡してダメなら何時連絡すりゃ良いんだって話しですもん。ロコロックルさんが悪い訳では無いですよ」


 強いて言うなら、悪いのは『間』だった。間が悪い。そういう事だ。誰も悪くない。


「それで、ご要件は?」

『うん、実はね、前に言ってたパーティに招待出来ないかなと思ってるんだが、どうだろうか?』

「えーと、それはどっちです? お仕事としての護衛案件? それともプライベートでしょうか?」

『………………どちらかと言うと、お仕事だね』

「あら?」


 前に聞いた時は、お仕事として誘う訳じゃ無い的な事を言ってたと思うんだけど。何かあったのかな?

 僕は端末を手に持ちながらリビングに移動する。その後ろからシリアスとネマも着いて来た。ネマは「…………むぅ。あまえてたのに」と少しプンプンしてる。なので頭を撫でて置いた。少し機嫌が治った。


「輸送依頼とは別件で?」

『そうなるね。…………いや、実に下らない話しなんだが、どうか頼むよ』


 聞けば、ロコロックルさんもガーランドから持って来た品物は既に、完全に売り切ったそうだ。まぁ時間を考えれば当たり前か。

 で、今はガーランドに持って行く商材を仕入れてる最中なんだけど、そこでケチが付いてるらしい。

 なんでも、ロコロックルさんと仲の悪い行商系商人が偶然サーベイルに居て、商業ギルドにてお互いの存在を認識してしまったそうだ。

 それで、態々嫌がらせをする程暇でも無いロコロックルさんは距離を置く対応をしたんだけど、相手が絡んで来ると言う。

 僕はあくまで第三者なので、ロコロックルさん一人の言い分から全てを判断する事も無い。無いけど、でもロコロックルさんの性格を考えると大体真実なんだろうなぁ。


「それで?」

『うん。それで、今私が仕入れようとしてる品々に、奴が横から食い付いて来てね。無意味に値を吊り上げて品をかっ攫う気なんだ』

「ほっとけば良いのでは? 勝手に値を上げて嫌がらせしてるんですから、ロコロックルさんがノータッチでも相手が勝手にダメージ負うでしょう?」


 ロコロックルさんの仕入れを邪魔したいが為だけに横槍を入れて来る馬鹿らしいけど、そんなの放って置けば良い。

 その上げた値段分だけソイツは損を重ねるんだから。ロコロックルさんは自滅して行く馬鹿を眺めてれば良いんだ。


『私も普段ならそうしたけどね。そうも行かないんだよ』

「………………あぁ、そこで僕達なのか」

『そう、拘束料金が有るからね。奴に長い間邪魔されるだけで、結構な損害に成ってしまう状況なんだ。……ああ、勿論ラディア君達に文句を言ってる訳じゃ無いよ? 悪いのは奴だからね』

「それなら、拘束料金の契約を変更しますか? 僕達、サーベイルでもかなり稼いだんで、拘束料金は安くしても構いません。値切りに応じますよ」

『本当かい? それは助かるね。……でも、既に確定してる分は流石に下げられないだろう?』

「まぁ、傭兵ギルドが間に噛んでますからね」

『うん。なので、その分は稼がないと行けないんだ。拘束料金の値下げは是非お願いしたいけど、それとは別にちょっと、私を助けてくれないかな』


 で、何で僕達がパーティに参加するのか。

 それは商売敵がロコロックルさんだけじゃ無く、僕らにもヘイトを持ち始めたから。


「…………なにゆえ?」

『分からないよ。ああ、サンジェルマンから私を紹介されたラディア君なら、奴から私の事を聞いてると思う。で、その上で言うが、絡んで来てる相手はつまり、私よりも馬鹿なんだよ』


 ふむ。馬鹿が馬鹿をやる理由は馬鹿だから以外に無いんだな。なので馬鹿よりは馬鹿じゃない僕達にはその理由が理解出来ない。考えるだけ無駄か。


「要は、取り引き先を巻き込んだ娯楽にされたと?」

『その通り』


 ロコロックルさんも拘束料金の支払いが有るから、仕入れを安くして持ち帰り、ガーランドでは高く売りたい。その差額が僕らの報酬に成るんだ。

 そして馬鹿が沈むまで待つのも良くない。値下げするとは言えゼロには成らない。時間をかける程にロコロックルさんは僕らに支払う報酬で稼ぎが無くなる。

 そうなると、値を吊り上げるアホを何とかしないと、ロコロックルさんは困る訳だ。仕入れ先も定期的な取り引きの有る相手ならまだしも、一見さんに近い行商人相手なら、高く買う方に売るだろうし。

 でも馬鹿だって当然、安く買えるなら安い方が良いに決まってる。嫌がらせをしたいけど、破滅したい訳じゃ無いはずだ。

 そこで何故か企画されたのが、取り引き数箇所を巻き込んだパーティである。


「僕達はそのパーティの余興として、相手のお馬鹿さんが連れてる傭兵とマシンバトルを行う訳ですか」

『申し訳ないね。勝った方が品を買うって話しに落ち着いてるんだよ』


 何がどうなるとそんな結論に落ち着くのだろうか。

 僕には細かい事なんか分からないけど、僕に戦えって言うならまぁ、戦うよ。うん。それが傭兵の仕事だし。


「報酬はどうします?」

『うーん。……正直なところ、懐がかなり厳しいんだよね。どうしようか』

「流石に戦闘を含む依頼は値引き出来ませんよ」

『だろうねぇ。…………はぁ、困ったな』


 なんか無いかな。

 相手が傭兵なら余ってる高性能パーツとかを貰ったりして報酬に出来るんだろうけど、ロコロックルさんは商人だしなぁ。お金で解決する職業の人にお金が厳しいと言われたら、何を要求すりゃ良いんだ。


「…………ああ、そうだ。ねぇロコロックルさん。報酬は後払いでも良いですよ」

『本当かい?』

「と言うか、仕事の報酬を『仕事』にしません?」


 僕が思い付いた報酬を提案する。

 内容は簡単で、定期的にガーランド・サーベイル間の行商をして貰って、その時々の積み荷から後払いして貰う形で報酬とする。

 ちょっと曖昧な契約に成るけど、要は僕がガーランドに帰った後も、定期的にサーベイルからお魚をお土産に持って来てねって言う話し。


『そ、そんな事で良いのかい?』

「いえいえ、言う程軽くないですよ。報酬を態と『お土産』ってランクに落とす代わりに、半永久的に要求するので」

『………………あー。なるほど』

「行商の度に僕一人分前後のお土産なんて、大した事は無いでしょう。けど、それが何年も続くなら、僕は最終的にとんでもない利益を得られますね。ゆっくりと、ですけど」

『つまり、僕はラディア君に物凄く細かい分割払いをする様な契約なんだね?』


 まぁ、僕自身なら自分でサーベイル来るけどさ。定期的なお土産を手に入れたら、おじさんが喜ぶと思うんだ。定期便で届けられる養殖や天然の魚介類。

 お料理好きなおじさんなら、きっと喜んでくれる。そしてついでに料理を習おう。僕もシリアスに手料理をご馳走したい。


「どうします? コレなら後払いで受けますよ。ただ長期的に見れば凄まじい額の請求に成りますけどね。今無理して普通に報酬払った方が、額面の上では安上がりです」

『うーん、まぁ、そうだね。その後払いで依頼するなら、実質無限に報酬を支払うって事だもんね』

「その分、一回一回のお支払いがお安く成っておりますが」

『難しい選択を迫って来るねぇ……』


 パッと見は端金に見えるけど実質無限に報酬を要求される後払いか、普通にお高い戦闘依頼の相場を支払って短期的には高いけど長期的には安く済む先払いか。

 我ながら、極端な二択を提示したなぁ。

 ああ、正確には先払いとか後払いって表現も間違いだな。正しくは後日払いか否かだ。報酬は一旦ギルドに預けられるから、ロコロックルさん的には先払いだし、仕事が終わってから精算する僕目線だとどっちにしろ後払いなのだ。

 今回の場合は、ギルドを通さずに受ける形に成るかな? ロコロックルさんが後日払いを選ぶならギルドは良い顔しないし、僕の要求する報酬も条件が曖昧で、ギルド的にも判断が難しい。なら最初からギルドを通さない方が良い。


『うん。決めたよ、後払いでお願いしよう』

「分かりました。じゃぁ確定する前に、色々と詳細を詰めましょうか」


 後日払いが決まったので、詳細を詰める。

 この依頼を分類するなら『決闘代理依頼』になる訳だけど、その決闘だって様々な方式がある。決闘の細かいルールも知らずに受けたら大変な事に成ったりする。

 例えば、実機を使った勝敗生死問わずデッド・オア・アライブルールなのに、それを知らずに決闘代理依頼を受けてそのまま殺されてしまった傭兵なんてのも、歴史には実在する。割と豊富に。

 ラビータでは正式に申請して国が許せば、命懸けの決闘も行えるので、その辺をしっかり確認しないと合法的に殺されてしまう。


「まず日時と会場、それと決闘方式を教えて下さい。可能なら敵のデータも有ると嬉しいんですけど」

『パーティは明日の午後一時。会場はアリーナビルの九階で、ルールはアリーナ公式戦ルールだそうだよ』

「あー、なるほど。アリーナのワンフロアを貸し切ってパーティするんですか。…………酔狂な」


 アリーナのバトルステージはコロシアム風だけど、そのコロシアム風ステージが入ってるのは普通にビルなのだ。

 武器屋レッセルが入ってたビルの様に、バイオマシンが基準の規格で聳える大型施設であり、階層の一つ一つがフロア全部を使ったコロシアムに成ってて、剣闘士は自分のカードが組まれた階層で戦って、その様子を観客に届ける訳だ。

 確かサーベイルのアリーナは地上二○階、地下五階まであって、その内二三階層がバトルステージだったはず。その辺はちょっと調べたんだよね。

 で、アリーナも別に、毎日毎日ずっとアリーナ全てのバトルステージに予定を入れてる訳じゃ無い。と言うか全部埋まる事の方が稀だ。

 なので、お金持ちが相応のお金を出すと階層一つをレンタルして、アリーナのバトルステージを使って決闘したり、今回の様なイベントを開催したり出来る。


「アリーナ公式戦って言うと、実機での戦闘ですね」


 そしてアリーナ公式戦ルールとは、コックピットの破壊と陽電子脳ブレインボックスの破壊以外は大体ルール無用のガチバトルだ。

 対戦者はお互いにアリーナ公式戦専用モジュールを機体に入れてオンラインさせて、互いの機体に対してコックピットと陽電子脳ブレインボックスを狙えない様にロックする。

 このモジュールに入ってるプログラムを走らせると、どんな戦い方をしても基本的にその二点に対しての攻撃が不可能になる最低限の安全システムだ。

 勿論事故も有る。機体が機体の上にのしかかってしまって、コックピットを潰してしまったとか、そう言う場合も有る。

 けど、普通に戦う分にはコックピットに対してはトリガーを引け無いし、そもそもコックピットと陽電子脳ブレインボックスに照準を合わせられ無く成る。 

 その条件下でお互いにガチバトルをして、降参するか、生体金属心臓ジェネレータを壊された方が敗北となる。

 まぁ普通は生体金属心臓ジェネレータを殺られる前に降参出来る様な戦い方がマナーらしく、負ける側も生体金属心臓ジェネレータを壊される前に潔く降参するのが美しいとされてる。でも最後まで絶対にやり抜く剣闘士も居て、それはそれで人気が有るらしい。


「公式戦ルールだと、普通に依頼したらかなり高額な決闘代理依頼に成りますよコレ」

『だよねぇ。はぁ、あの馬鹿が調子に乗って取り引き先に話しを盛りまくったせいで…………』

「まぁ、ロコロックルさんは一時的な負担は少ないから良いじゃないですか。て言うか、今更ですけど僕で良いんです? 普通にもっと強い人を呼んだ方が勝てるのでは?」

『いや、失礼な話だけど、シギルが無い…………』

「さっき悩んでたのなんだったんですか。選択肢無かったんじゃ無いですか」

『実はそうだったんだ。カッコ付けたね。ははっ』


 ははっ、じゃ無いよ。


『それと、パーティに参加する取り引き先の中には、デザリアを売ったところも有ってね? 私の護衛がデザリア乗りだと言ったら是非にと』

「あー、そう言う…………。自分が買った機体と同じ機種が活躍すれば、自慢出来ますもんね。そのパーティで、その時その場で」

『うん。「自分もあの機体を買ったんだよ。凄いだろう?」って事だね』


 お金が集まるとどうしても『見栄』の要素が出て来るからなぁ。


「で、僕の対戦相手はどんな人です?」

『ランク五の傭兵だね』

「…………普通に強いのでは?」

『だから困ってるのさ。ラディア君、助けておくれ』


 ランク五が相手って、セルクさんと同等の傭兵って事じゃん? 強いなぁ……。


「相手の機体は分かります?」

『えーと、…………ごめんね。機種名しか分からなかった。どんな見た目か分からない。アクティブソードとか言う機体らしい』

「あー、オオカミ型だ」

『分かるのかい?』

「まぁ、ちょっと。イヌ型とオオカミ型は大体知ってます」


 父さんがミラージュウルフ乗ってたし、そもそもイヌ系の機体が大好きだと語ってた記憶が有る。そのせいで僕はイヌ系のバイオマシンを無駄に詳しく知ってる。等級を知ったのは最近だけどね。

 アクティブソードは中型中級高速格闘機で、背中と両肩に格闘用ブレードユニットが接続されたフレキシブルアームを一対ずつ装備してる。


「あぁぁ、格闘機かぁぁ…………」

『つ、強いのかい?』

「そうですねぇ、超強い機体ですよ…………。なにせ、戦略級の判定すら着きそうだったミラージュウルフを殺す為に開発された機体なので」


 古代文明で獣型のバイオマシンを多く作ってる国がサンダリア共和国って名前なんだけど、この国がウェポンドッグやクロスレオーネを作った国だ。で、実はミラージュウルフは獣型だけどサンダリア共和国製じゃなくて、ダムドルード皇国って言う別の古代文明国が開発してる。

 ダムドルード皇国も獣型を作る国なんだけど、サンダリア共和国とは方向性が違う機体を作ってる。

 つまり、量産性のサンダリアか、量より質のダムドルードか。ちなみに武器屋レッセルに居たナインテールナットはダムドルードの機体だ。


「で、ダムドルードの少数精鋭を絵に描いた様なつよつよ機体をぶっ殺す為に、サンダリアが力を入れてミラージュウルフのアンチバレットとして開発したのがアクティブソードです。クロスレンジだとレオーネを一方的にボコれるスペックを持ってたはずですよ」

『…………なんでそんな化け物を、ランク五が持ってるんだい?』

「知りませんよそんな事ぉ〜」


 ブレードユニットが届く範囲ならミラージュディスチャージ中のミラージュウルフだろうと確実に殺してやるって言うつよつよ殺意を煮詰めて開発された機体だ。めっちゃ強い。サンダリアの中型では最強スペックだと父さんから聞いた。

 しかもゴリゴリの格闘機ってスペックの癖に、別に射撃が出来ない訳じゃないのがまた…………。


「…………驚嘆。何故そこまで詳しく、古代文明の情報を知っているのか」

「いや、ほら、父さんにね?」

「本当に、ラディアの父親は何者だったのか…………。シリアスは気になって仕方ない」


 古代文明の歴史って、民間施設とかの遺跡を漁って判明した物しか現代人は知り得ないからなぁ。

 確かに、今思うと何故父さんはこんなに古代文明の事に詳しかったんだろう。…………イヌ系機体の情報限定で。


『か、勝てるかい?』

「まぁ、善処はします」


 完全な格闘機ならアウトレンジから射撃でボコれば勝てそうだけど、アクティブソードのブレードユニットって射撃武装付きなんだよなぁ。

 ミラージュウルフみたいな『ハマれば激強』じゃなくて、『無条件でテメェを殺す』って殺意がコンセプトの機体だ。つまり格闘機とか言ってる癖に実質はオールマイティソルジャーだ。


「タッグ戦ならまだ勝てる気がするんだけどなぁ……」


 僕が一人前に出て、攻撃を捨てて防御に徹する。そして後ろのネマが火力担当。この形なら相当戦えると思うんだけど、一対一ワン・オン・ワンなら間違い無く苦戦する。

 しかも対策使用にも、時間が無いと来た。ロコロックルさん、もう少し早く言って欲しかった。


「……シリアス、勝てると思う?」

「不明。…………しかしながら、敢えて宣言しようと思う」


 何気無く聞いたら、儚く微笑むシリアスがこう言った。


「余裕であると」


 ……………………ああ、うん。


「ロコロックルさん、取り敢えず依頼は受けます。今から色々と対策して来るんで、通信はこれで失礼しますね」

『…………あ、ああ。宜しく頼むよ』


 さっきまで不安でいっぱいだった僕の頭は、もう何も心配して無い。

 勝てる。僕もそう思う。

 だってシリアスがそう言った。余裕だと。なら勝てる。相手がどれだけ強機体だろうと、格上の傭兵だろうと、一切関係が無い。

 ロコロックルさんとの通話をブツっと切り、僕はネマの頭をひと撫でしたら立ち上がる。


「シリアス、VRバトル行こう。事此処に至ったら、あとは練度上げるしかないよ」

「了解。オススメはランクマッチより野良マッチ。レートやランクを上げて強者を探すより、最初から無差別で漁る方が早い」


 メイド姿のシリアスも後ろに着いて来て、二人でガレージに向かう。シリアスの本体が座すガレージに。


「質問。シリアスもラディアに、敢えて問う。……勝てるだろうか?」


 意趣返しかな?

 居住区画からガレージに向かう通路で、僕は吹き出しそうに成って答えた。


「余裕だよ。僕とシリアスならね」


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