第68話 なっとるやろがい。
「え、お前ら今日が初仕事なのッ!?」
僕は何故か、本当に何故か分からないけど、盗賊三人と一緒にバスタイム中だ。
コイツら、こんな豪華なバスルームとか使い方分からんとか言い始めて、でも臭いままリビングに居て欲しくないから、仕方なく一緒に入ってるのだ。
なんで盗賊と裸の付き合いしなきゃなんねぇんだマジで意味分からん。
それで、流石に大人三人と僕じゃ幾らシャムの設備でも些か狭いので、全員でシャワー浴びるって頭の悪い行動は控えて、二人はバスタブでお湯に浸かりながら、二人はシャワーを交代で使いながら体を洗う形になった。
そこで色々聞いたのだけど、驚く事にコイツら、処女らしい。
この場合の処女って言うのは勿論女の子があは〜んな体験をして無いって意味じゃなくて、殺しの経験が無いって意味だ。
それどころか、どんな形であれオーバードライブも食らった事が無いらしく、コイツらを帝国法に当て嵌めると不法滞在者と殆ど変わらない存在と言える。
それでも法的には盗賊なんだけど、でも盗賊じゃ無いとも言い張れる微妙な存在だ。
「……えっ、じゃぁ、乗ってた機体はどうしたの? どっから調達したの?」
「へい。それがですね、あっしら盗賊にも、まぁ色々と分担が有るもんで」
聞けば、盗賊の村やブラックマーケットな街にも、狩人を生業としてる人間が居るそうだ。
まぁ考えたら当たり前か。幾ら盗賊なんて人種でも、現代の規格で生きてるならライフラインには
じゃないと水道系の循環濾過すら使えない。井戸を掘っても良いけど、その井戸を掘る為の機材を動かすにもエネルギーが要る。
勿論エネルギーパックを闇商人から買っても良いけど、足元を見まくってくる闇商人を相手に生活必需品を減らせるなら減らした方が良い。エネルギーパックは決して安くは無い生活必需品だ。
幾ら馬鹿過ぎる盗賊とは言え、そのくらいの損得計算は出来たらしい。
そして、そこに目を付けた闇商人が居た。と言うか今の闇商人はそれがトレンドだと言う。
あ、ちなみにコイツら捕虜になったら突然、喋り方が三下っぽくなった。盗賊は上下関係に煩いらしい。
「つまり、盗賊から
「そうでさぁ。最近じゃ、あっしら盗賊が仕事をし易い様に、
「はぁっ!?
「や、やっぱりアレ、ヤバい代物で?」
「当たり前だろッ!? 完全な軍用品だぞ!? 高ランク傭兵だって買えないガチガチの規制品でご禁制だぞっ!?」
傭兵すらも一括りに『民間』と定義するなら、民間人はすべからく『歩兵でバイオマシンにダメージを与える必要』なんて無い。全く無い。
バイオマシンに対抗するのは
それでもそんな物が生まれたのは、軍事行動の為だ。
バイオマシンは高い。物凄く高い。最低価格帯の小型下級のアンシークやホワイトフットだって一○○万を超える値段なのだ。国が軍備に用いるには些か成らず高額なオモチャと言える。
それでも国の国力を思えば一兵卒に至るまで機体を用意出来るのだけど、だからってペーペーの雑兵にまで用意しられない。用意出来るけど、ケツの青い新兵に用意したって簡単に機体を潰して帰って来るだけだ。それだけで軍の維持費が爆増する。
それに、維持費を気にしないとしても、やはりバイオマシンを動かして戦果を上げるには相応の才能が要る。戦えない兵士にバイオマシンなんて与えても意味が無い。
そこで生まれたのが
個人携行用のロケット砲等が一番分かり易いだろうか。バイオマシン程のエネルギー原が無いなら、炸薬を使った発射装置がやはり安上がりなのだ。
弾頭にたっぷりと
人の身で、バイオマシンに乗らず、もはや金属の完成系とまで言える
でもそれは、戦争にしか使われてない。
当たり前だ。考えるまでも無い。
市民は安全な都市の中で暮らし、一度も都市外に出ずに生涯を終える者すら要るのに、そんな物を持たせてどうするのか。
傭兵だって、基本的に自分のバイオマシンを持ってる
仮に、
闇商人の存在を無視しても、自分の機体が欲しい
移乗攻撃で無理やりゲートをこじ開けて乗り込むのが精々だったバンザイアタックなクレイジーが、バイオマシンにダメージを与えられる兵器を手にしたらどうなるのか。スクールに通った事の無い僕ですら分かる。
「だから、国は
「そ、そこまでの品なんすね。……で、あっしらはその
「だからこの辺の警戒領域だと、盗賊が当たり前の顔してバンバン戦闘機乗ってるのか……」
「まぁ、その
「ああ、うん。バレて人生終わらせられたんだな。多分ソイツ、そこらの盗賊より悲惨な目に遭ってると思うよ」
ああ良かった。アホは速攻捕まったらしい。そりゃそうだよね。
だってソイツ、つまり盗賊全体の質を上げようとしちゃったんだよ? 都市外に
そんなの、もう害獣扱いどころか、魔王扱いだよ。人類の怨敵扱いされて、一等ヤバい目に遭うに決まってる。
多分、現代で発展したDNA干渉施術って、その手のアホを使って実験して来た技術だと思うんだよね。じゃないとDNAの何処までなら弄って大丈夫なのかなんて、分かりっこない。
「多分その闇商人、今頃は体の根幹DNAを弄られて、生きたままモンスター化してるんじゃ無いかな? 人間なのにDNAを豚とかに変えられた奴がどうなるかとか、考えるだけでも恐ろしくない?」
「…………ひぃっ」
「ちょ、あの、子分脅かすの勘弁してつかぁさいや」
「いや、脅しじゃないよ? この特注ダングを操縦してる女の子も最近、DNA干渉施術受けたけど、そう言うのって今でこそ安全だけど、じゃぁ何処から安全じゃ無いのかって、どうやって調べたと思うの?」
「……が、ガチですかい?」
「だと思うよ? 噂レベルだけど、盗賊くらいじゃまだそこまでの非人道的な事はされないそうだから」
「さ、参考までに、盗賊なら何処までやられるんすかね?」
「やっぱり噂レベルだけどね、人体強化手術のモルモットとか、新型義手義足義体に少しずつ体を変えていってのアンドロイド化とか、まだギリギリ『特殊な扱いを受けた人類っぽい物』として死ねるらしいよ。投薬実験のモルモットにされても、遺体はまだ人の形だし」
それを聞いた子分二人は真っ青になってガチガチ震えている。おかしいな、バスルームの中はほっかほかだよ?
「基本的に、帝国は法に煩いけど結構優しいんだよ。盗賊も獣扱いされるって言っても、死んだ後の尊厳までは踏み躙られない。遺体は人の形をして、死んだら丁重に扱われるそうだよ」
「……でも、例の闇商人はそうじゃないと」
「そりゃね。都市外の害獣を軒並みレベルアップさせて、ファンタジー作品の魔王みたいな事したんだよ? 人類の怨敵が、人として死ねると思う?」
「………………奴も、あっしら盗賊にとっちゃぁ、荷を運んで来てくれた恩人なんですがねぇ」
「いや知らないよ。そのせいで何人の無辜の民が死んだと思うのさ。下手したら今頃もう、ガチで四足歩行の獣とかに変身してても僕は驚かないよ。しかもそしたら、今度は『じゃぁ人から獣になった存在はどっちの特性を持つのか』とか言って、人に効く毒と獣に効く毒を交互に投与されたり、絶対マトモな死に方しないだろうね」
「凄惨っすなぁ」
他人事だけど、君らも危ない立場だったんだからね?
て言うか、マジでコイツらどうしよう。ただでさえ面倒なのに、まさかの処女かよ…………。
「で、君らどうする? 本当に処女って言うなら、まだギリギリ、ギリッギリで人として生きれるけど。シリアスにもシャムにも、君達と盗賊行為も記録されて無いし。僕の警告で襲って来たりして無いから、マジで犯罪記録が今のところ無いんだよね」
「…………どうしたら、良いっすかね」
「ダムと同じ所に行きたいって言うなら、まぁ捕まるのが一番だと思うけど。処女なら多少の温情で、本当にダムの所に行けるかもだし」
僕は湯船に浸かりながらポカポカの頭で考える。
マジで面倒臭い拾い物したなぁ。なんで処女なんだよ殺しとけよぉ。扱い面倒臭いだろぉがぁ…………。
洗い終わってバスタブとシャワーを交代して、順繰りポカポカになってく盗賊を眺めながら、僕はあまりにも微妙な立場の三人の処遇に悩む。マジでどうしようコイツら。
「…………そう言えば、やけにダムを慕ってるみたいだけど、何かあったの?」
「そうですなぁ。ダム兄貴は、あっしらの面倒を見てくれてたヒーローでして」
世の中、盗賊の子は盗賊だ。
盗賊村で生まれた子供は、将来も盗賊に成るしかない。だって都市で戸籍を得る方法が無いから。
いや、正確には凄く簡単な方法が有るんだけどね? でも現実的じゃ無い。
戸籍が無いだけで犯罪記録が無い子供なんだから、闇商人に都市まで運んで貰って、不法滞在者に成るか、闇商人から端末を手に入れて傭兵になれば良い。そうすれば足抜け出来る。
けど、都市外から戸籍の無い子供を連れ帰る商人とか、どう考えてもヤベェ奴である。流石に即タイホとは成らないし、上手くすれば切り抜けられるけど、そんなリスクを負いたい闇商人とか居る訳無い。
だからやっぱり、盗賊の子は盗賊なのだ。
ダムを始め、この三人もそうやって産まれた盗賊らしい。別に盗賊がやりたい訳じゃ無いけど、盗賊として仕事をしないと生きて行けない。盗賊の村で「足抜けしたい!」とか言ったら殺される。だって足抜けして都市側に行くって事は、傭兵になって自分達を殺す存在になるかも知れない卵なのだから、今の内に割っとくに限る。
そんな環境だから、嫌でも盗賊やって馴染んで行く奴も少なく無いんだとか。
「へぇ……。まぁ考えたら当然では有るのかな。傭兵からドロップアウトしたアホも多いんだろうけど、盗賊が外で人の営みをするなら当然、子供も産まれるし育ちもするよね」
前に盗賊村の保育園だか幼稚園っぽい場所で、フレッシュミートのハンバーグ作った事あるから知ってるけども。
「そこで、まぁ、あっしらはそこから更に、村から口減らしでブラックマーケットに売られたガキでして」
「……あー、話しが見えたぞ。確かダム達はこの辺のブラックマーケットを拠点にしてたから、そこで接点があったんだね? それで、色々と酷使されてる君達を目に掛けてたとか」
「そうでさぁ」
「なんだよダムぅ。ちょっと良い奴じゃんかぁ。もうちっとマシな人生送ってくれたら、また違う人生もあっただろうにさぁ……」
「…………兄ぃは、あっしらにとって、本当に良い兄貴分でした」
「そっかぁ。そんな経験してたから、ダムは最後、もう盗賊なんて絶えた方が良いとか言ってたのかぁ……」
「あ、兄ぃが、そんな事を…………?」
くそう。そんなバックボーン知りとう無かったぁ。
あの時は「なんかクズが良い感じの雰囲気出して黄昏てるなぁ」とか思ってたけど、そもそも盗賊家業に否定的だったんだなぁアイツぅ。
そりゃそんな人生なら、最後の最後に受ける仕打ちがプラズマ砲乱射とかやってられないよなぁ。必死に降伏するよなぁ。
まぁそれでも、アイツだって山程殺してる極悪人だから、別に今更胸が痛むとか無いけど。
「むぅ、しかし、そうかぁ。君達はじゃぁ、ダムの忘れ形見みたいなもんなのかぁ」
「あ、あの、いや、兄ぃはまだ、死んで無いんすよね?」
「それは流石に知らない。死亡が前提の投薬実験とかも有ると思うし、僕は無責任に断言したく無い。て言うか忘れてるかもだけど、何回も言うけど盗賊って害獣扱いだからね? 普通は最後殺すからね?」
僕も、捕まるよりプラズマ砲で消し飛ばされた方が幸せだよって勧めた事は伝えとく。僕だって、盗賊は容赦無く殺すし、この話しを聞いた今でも普通に殺せるけど、だからって無用に苦しんで死ねオラあはは〜とか別に思わないのだよ。
ぶっちゃけダムが殺した人々もどうでも良いし。面識が無い人が何処かで死のうと僕には関係無い。こちとら目の前の事で精一杯な十歳児やぞ。
「そろそろ
「うっす」
「スッキリしやした!」
バスルームを出て、脱衣所で綺麗に畳まれた服に着替える。
薄汚れてた三人の服もピッカピカになってて、でもコレ畳まれてるのはシリアスだね? 流石に洗濯機が洗い物出して畳んでくれる機能なんて無い。いや、ある奴は有るだろうけど、ウチの洗濯機はただ洗浄機能がピカイチなだけだ。
「ふ、服がパリッとしてまさぁ」
「ダムも最後は、そんな服を着て収容されたよ」
綺麗になったのでリビングに戻ると、緊張感の解けた子供達がはしゃいでた。
リビングにホログラムで展開されてる画面は、ネマのコックピットと連動して居て、今も狩りの真っ最中。
『にぃちゃ、でた?』
「ああ、ネマ。お疲れ様。バスルーム出たよ」
リビングの様子もモニターしてたらしいネマの声が聞こえる。コックピットの音声をリビングに伝えるスピーカーからだ。
ネマの声で僕達に気が付いた子供達がわらわらと集まって来て、最初のビビり具合はどうしたのかってレベルで盗賊三人にも群がる。
子供の無邪気さとは残酷なもので、「ねぇねぇ、おじちゃん、ひところしたの? わるいひとなの?」とか聞かれてて、言葉のナイフがザックザク刺さってる様子だ。
『にぃちゃ、へんなこと、されてない?』
「されてないよ。ギロチン有るから大丈夫だって」
『おしり、だいじょーぶ?』
「なんの心配をしてるのかな君はッ!?」
僕がバスルームで三人から慰み者にされてないかって!? 馬鹿野郎!
もう、久しぶりにデコスケ野郎だなお前は!
僕は今晩、シリアスに凄い事されるらしいから、バスルームで男を相手に「アー!」とかしてる暇無いの!
『それで、どーするの?』
「んー。なんか、もう、良いかなって思ってる。コイツら処女らしくて、まだギリギリで人なんだよね。まぁブラックマーケットで盗賊の手伝いをしてた時点で黒っちゃぁ黒なんだけど、白とも言い張れるグレーって言うか……」
『そなの?』
「うん。流石に機体は貰うけど、なんなら都市に掛け合って一時入都させて貰ってから、端末でも買ってあげて
『…………にぃちゃ、ひとこと、よい?』
「ん?」
どうしようか悩んだ結果を伝えると、ネマが戸惑いながら言った。
『そうは、ならんやろ……?』
「なっとるやろがい」
反射で答えてしまった。
『あのね、にーたん。とーぞくは、めんきょもってないよ?』
「あ、せやった」
『…………にーたん、すごくあたまいいのに、たまにすごくばかになるの、なんで?』
「……や、止めろっ、憐れむなッ」
『でも、……そこがにーたんの、かぁいいところ』
「止めろぉー! シリアスみたいな事を言うなぁー!」
「質問。シリアスがどうしたのか」
き、聞いてよシリアス。ネマがシリアスみたいな事を言うんだ。
僕はシリアスに甘えた。此処とばかりに甘えた。
「ラディアが可愛いのは事実なので、仕方ない」
『だよね。にーたんかぁいいもん』
「止めてくれぇ! 子供達の前でその方向に僕を弄るの止めてくれぇ!」
盗賊に飽きた子供達がコッチに来て、「おにーちゃん、かわいいの?」「かっこよくない? さっきのかっこよかったよね?」「でも、ちょっとかわいいかも……」とか言うの止めろぉ! 最後のはナナちゃんだなっ!?
取り敢えず、場を誤魔化す為にも僕はキッチンに行ってフードプリンターを起動した。そして食事を盗賊含めて全員分の食事を用意する。
朝から来てるし、移動に四時間使って、それからそこそこ時間使ってるしね、そろそろお昼だよ。
「ほらー、お昼だよー。皆テーブルに着いてー」
元気良くお返事する子供達に、シリアスと一緒に配膳する。それから盗賊達にも、「これはダムが捕虜になって初日に食べたのと同じメニューだよ」と言って料理を置いた。
聞いた盗賊三人は震える手でカトラリーを手にして、少しずつ食べ始めた。やがて「うめぇ、うめぇよぉ……」と泣き出して、心配した子供達が「おじちゃん、だいじょーぶ? どこかいたいの?」とか聞いてる。荒んだ心には子供の無垢さが良く刺さるらしい。余計に泣いてた。
子供達も三人から話しを聞いて、まだ悪い事をして無いギリギリ盗賊未満だと分かったらしく、遠慮が無くなってる。
「さて、三人とも食べながら聞いて欲しい」
僕も料理を食べながら、まったりと切り出す。ネマに仕事させっぱなしでお休みするのはアレなので、仕事はせねば。
「取り敢えず、ダムとの縁も有るし、三人がやり直したいって言うなら多少の援助をする事にした。なので、ダムの後を追いたいか、人としてやり直すか、今決めて欲しい。一応言っとくと、ダムはもし奇跡的に出所が叶ったら、傭兵に成りたいって言ってたよ。だから態々後を追わなくても、ダムが帰って来る場所を作っといてやる方が、ダムの為じゃ無いかなって思うよ。あくまで僕の意見だけど」
「…………少しだけ、時間を頂けやすか?」
「それくらいは待つよ」
顔を寄せあって相談する三人。
悩んでるのは、親分一人がダムの後を追って、残り二人が人としてやり直す案と、三人全員でやり直す案の
個人的には、別に後を追われたってダムも大して嬉しくないと思うんだよね。仲間が増えたって刑期が分散出来るシステムじゃないし。
処女のまま捕まって大した罪も無いのにモルモット刑を経験しに来た弟分とか、僕だったら「お前何しに来たの!?」って成る。
刑期半分持ってってくれるならまだしも、大して罪状の無い奴が隣で「フレー! フレー! ア、ニ、キ〜♪︎」とかやってたら、控えに言って殺したくなると思う。なんなら「頑張れ頑張れア、ニ、キ〜☆」とか言った時点で首を刎ねる。罪状と刑期加算されても良いから殺させろと、看守か研究員か分からないけど頼み込むと思う。
そんな事を伝えると、兄貴分のスキンヘッドが非常に微妙な顔をした。ちょっと想像しちゃったらしい。
「…………そう、っすなぁ。あっしが兄ぃを追い掛けても、まだ黒くないあっしじゃぁ、冷やかしにしかなりやせんか」
「だと、思うよ? 僕はダムじゃ無いから断言は出来ないし、もしかしたら喜ぶかも知れないけど、逆に、君達が知ってるダムは、地獄に弟分が追って来て喜ぶ男なの? 気に掛けてた弟分が、自分のせいで地獄に落ちて来て、有難うって言う男なの?」
そう言うと、親分スキンヘッドの腹は決まったらしい。
「……決めやした。お世話に成りたいと思いやす」
「しゃす!」
「おなしゃすっ!」
どうでも良いけど、この場面で「おなしゃす!」って言われるとメチャクチャ巫山戯てる感じするよね。まぁ言葉を知らないんだろうけど。僕だって敬語とか色々、見て盗んで覚えたからなぁ。こう言うのって日常で覚えた人からすると「え、こんな簡単な事も出来ないの?」って思うけど、知らないとマジで出来ないもんだからね。
だって習わないと、「止めろ」と「止めて下さい」にどれ程の違いが有るか分からないんだよ。
だから、盗賊基準でこの歳まで生きて来た三人は、人としてやり直すに当たって、まぁまぁ苦労するだろうね。
「まぁ、分かったよ。で、追加で聞くけど三人はどうしたい? 僕ってサーベイルの傭兵じゃなくて、ガーランドの傭兵なんだよね。今は輸送任務の関係でお邪魔してるけど、もう数日したらガーランドに帰っちゃうんだ」
「……えっ、お、おにーちゃん、もうかえっちゃうの?」
スキンヘッド三人衆に今後の事を聞こうとすると、近くに居たムク君とメカちゃんがショックを受けてた。
え、いや、僕がガーランドの傭兵だって知ってるよね? 最初に会った時に話したじゃん?
「や、やだぁ、おにーちゃん、かえっちゃやだぁ……」
「め、メカも、やだなぁ……」
「えと、いや、嫌だと言われても僕、困っちゃうなぁ……」
「こらメカ、ムク、
「だ、だって……」
僕にひしっと抱き着くムク君がメチャクチャ可愛い。こんな弟欲しかった。マジで。ネマとセットで甘やかしたい。
アヤカさんが「今は大事な話してるから余計に邪魔しちゃダメよ! ほらコッチ来なさい!」と言って二人を引っ張って行ってくれた。助かる。
「んで、どうする? 数日しか面倒みれないけど、どうしたい?」
「…………あの、そのガーランドってとこまで、着いて行っちゃぁ、ダメですかい?」
「……………………え、着いて来るの?」
流石に予想外。
確かに、まぁ、半端に面倒見られるくらいなら、ガーランドまで着いて来るのがコイツら的には最適解か。
完全にサーベイルで放逐するつもりだったから、ちょっと面食らっちゃった。
「うーん、まぁ僕的には別に良いかなって思うけど、何回も言うけど仕事なんだよね。だからクライアント次第かな? 元盗賊を三人一緒に乗せて良いですかって聞いて、色良い返事が帰って来ると思う?」
「…………まぁ、無いでしょうなぁ」
いや、確かに普通は無いけど、ぶっちゃけロコロックルさんならワンチャン有るんだよね。あの人かなりチョロいから。
本当に商人やってて良いの? ってレベルでチョロいから、心配に成るくらいだよ。おじさんが僕に紹介する時、何回も「あいつ、馬鹿なんだよなぁ」って念押ししたのは伊達じゃない。
ロコロックルさんが商人やれてる理由の八割が豪運で、二割が人脈だから。商才とか微塵も無い。
断言する。ロコロックルさんは商売が凄い下手。
こんな長期滞在に成るなら、まず僕に拘束費の事を相談するべきだし、僕に言われるまで値切る気も無かった時点でだいぶアレだよ。
確かに傭兵に対して値切りってかなりヤバい行為だけど、それも結局は物にもよる。
他に一切何も仕事をするなってレベルの拘束なら値切りとか有り得ないけど、今の僕が受けてる待遇くらいなら全然値切って大丈夫だ。だって割と普通に仕事出来てるし。なんなら長期滞在だっんだから一度拘束を完全に切って、僕だけでも一時的にガーランドに返しても良かった。
行きはデザリアの値崩れの影響が波及する前に売り抜けようと必死で急いだけど、帰りは別に急いで無いんだから、仕入れが終わってから長距離通信で僕を呼んでまったり帰れば良かったんだ。
その辺に気が回って無い時点で、ロコロックルさんは間違い無く商売が下手。
今回の事も、ちょろっと事情を話せば人が良いあの人は多分頷く。ワンチャン有るどころか割と行けそうな相手だ。
多分、激運豪運の連続で、本気でヤバい経験とか無いんだろうなって思う。『良い人』で居れるくらいの経験しかして来なかったんだと思う。
パーティで交わしてた新しい商談も、要は僕って言うラッキージョーカーのお陰でありつけたんだし。あの人何もしてないからね。相手の何とかって商人と罵り合いコントしてただけだからね。そんな状態で新しい商談が舞い込むとか、激運以外になんと呼べば良いのか。
「まぁ、一応クライアントに聞いてみるよ」
「お願いしやす」
「…………そう言えば、まだ名前も聞いてなかったね」
僕って名前覚えるの苦手だから、そもそも聞かない癖が有る。
継続して関わらない相手だとマジで聞かずに終わる事もしばしば。でもガーランドまで着いて来るかも知れないなら、聞いといた方が良いだろう。
「それですが、…………新しい名前を頂けやせんかね」
「…………は? え、僕に?」
「お願いしやす」
なんでも、生まれ変わったつもりでやり直すから、名前も新しくしたいと言う。盗賊として名乗ってた名前なんかもう要らないと。
「え、でも僕、凄い適当に付けるよ? 良いの?」
「お願いしやす」
「じゃぁ、ポチで」
親分を指さして言うと、苦虫を味わって咀嚼した様な顔をされた。
「うん、いや、流石に冗談だよ。…………んー、そうだな。親分から順に、ガロ、ベル、ラコで」
勿論由来とか無い。完全に音の響きと呼びやすさで決めた。
でも思いの外気に入ったのか、三人とも喜んでる。
「ああ、なら僕も名乗って無かったっけ?」
「いえ、ローカル通信で名乗ってやしたよ。ラディアの兄貴ですよね」
あー、そうだった。傭兵団砂蟲のーって名乗ってたわ。
「ちなみに、ダムからは『ラーさん』って呼ばれてたね。ネマは何故か『ネマの姐さん』なのに。…………やっぱアイツちょっと僕の事舐めてた?」
「否定。少なくともネマよりは恐れてた」
「あ、そう?」
アイツやっぱシメとくべきだっかなって思ったら、シリアスに否定された。
「目の前で次々と同業を磨り潰して往くラディアを、元盗賊ダムロは相当に恐れてた。こっそりネマへ、ラディアを怒らせない為に絶対に止めた方が良い言動など無いかを質問していた」
「マジかよ全然知らなかった。…………それ、ネマはなんて答えたの?」
「ネマは、『ラディアの前で、シリアスやそれに関連する物を馬鹿にした瞬間、即座に死ぬと思え。それ以外は割と寛容なので大体セーフ』と答えてた」
「何それめっちゃ正しい」
確かにあの時のダムの立場で、僕の前でシリアスをほんの少しでも悪く言ってたなら、その時点で殺してたね。間違い無い。絶対殺してた。
そして、それ以外なら大体セーフもまぁ合ってる。僕はあの時ほぼダムの事がどうでも良かったので、余程舐めた態度を取らなければ大体セーフだった。
それこそテーブルに足乗せて僕を見下しながら命令系で喋って来るとか、そのくらい舐めた態度じゃきゃセーフだった。突然「ラーさん! 背中流しますよ!」とか言ってバスルームに突撃して来ても、「うわなんだコイツ。………でもまぁ、最後の数日だしな。好きにさせてやるか」って思って背中くらい流させて、それで僕も奴の背中くらい流してやったと思う。
うん。そうだなぁ。ネマはあの時から、僕を良く見てたんだなぁ。
「でも、そんなに恐れられる事ある? 盗賊殺すって傭兵なら普通の事でしょ?」
「肯定。しかし否定。元盗賊ダムロが何より恐れたのは、十歳の身空で感情の揺れすらなく淡々と盗賊を殺して回れるラディアの精神性。十歳にしてそこまで完成してしまってる精神構造をこそ恐れてた」
「…………あの、僕のメンタルをバケモノ呼ばわりするの止めて貰えません? 法で獣と決まってる存在殺してるだけなのに」
「まさに、それ。普通は、例え法がそう定めて居ようと、人は人に変わりない。なのに完全に割り切ってしまえるその精神構造を、元盗賊ダムロは恐れてた」
「そんなに変な事かなぁ……?」
「シリアスはそんなラディアも誇らしく思うが、一般的には異常と言われる類の事。例え傭兵であっても殺しを忌避してマンハントに手を出さない者が相当数存在するのが何よりの証明」
…………そっか。僕のメンタルってモンスターだったのか。マジか。
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