第6話 ゴブリン襲来
ゴブリン集団を目視したアルフは卵を足場に空中を駆け巡る。飛んでくる粗雑な矢や投げ槍と魔法を卵に変えながら、同時にそれらの卵で反撃を繰り出していく。
あっという間にゴブリンを
するとその数が一〇〇にも満たないと気付く。
「聞いてたより少ない……嫌な予感がする」
村の方を向いて違和感を覚えた。空が微かに揺れたように見えたのだ。
卵を操作して空へ急ぐ。予感は的中していた。大量の綿毛が夜風にふわふわと舞っている。
それを片っ端から卵にしていくと、ゴブリンが空を飛んでいるのが見えた。いや、正確には大きな蝶に抱えられて村の上空を目指している。
「くそっ、そういうことか」
状況が違えば可愛らしい光景だったかもしれない。
ショタゴブリンというのは丸みを帯びた幼い二頭身の子供のようで、ゴブリン特有の醜悪なコブが一切なく愛らしい見た目なのだ。
しかし中身は通常種のゴブリンより狂暴で頭も随分働くらしい。
きっと前回はこの襲撃方法の試しだったのだ。編成が偏っていたり数が少なかったのはそのためで、教会が破壊できれば儲けものくらいだったのだろう。
「あの蝶、タニア草の綿毛はあの羽根から出てる……あれなんだ」
見たことも聞いたこともない美しい青黒い羽根を持つ蝶の魔物。
もしかすると、山を守るために発生した新種なのだろうか。
「欲しい。けどユトルも欲しい」
とびきり美味しくて尻尾までもふらせてくれる狼獣人など、そういるもんじゃない。
ユトルは嫌がるかもしれないがアルフは欲張りだった。
悩ましいと思いつつも、片っ端から蝶とゴブリンを
「一気にニ〇〇体以上も魔物が増えるなんて嬉しすぎる」
魔物作りが苦手でセンスも皆無なアルフとって、これは逃すことのできない好機であった。
一方、村は大変なことになっていた。
アルフたちが陽動のゴブリンに気を取られている隙に、蝶々襲撃部隊が次々に舞い降りてきたのだ。
幸いグルフナが村人を教会に運び終えていたため、破壊と略奪に巻き込まれることはなかった。
だが、
「なんでこんな固いんですかねぇ」
ゴブリンも蝶もやたらと防御力が高く、攻撃してもぶっ飛んで建物ぶつかるか別のゴブリンにぶつかるかするだけで、すぐに起き上がってくる。
しかもどれだけ打ちのめそうと、「わーっ!」と楽しそうに村を破壊したり、略奪品を一ヶ所に集めていく。
グルフナはせめて教会の聖域や結界に干渉させまいと、攻撃目標をその周辺の魔物だけに変更した。
いっそのこと全力を出せばとも思ったが、後でアルフに文句を言われるに違いないし、面倒だなと躊躇っていた。
「遅くなった!」
そこへユトルが駆け込んできた。爪がボロボロになっており、尻尾も少し焦げている。
「丁度よかったです。じゃあ、タニア草の除去をお願いしますね。僕は外を片付けて来ま――」
ドガンッと凄まじい音がグルフナの声を掻き消した。
土埃の向こうでゴブリンたちが歓声を上げて、次第に祈りの歌へ変わっていった。
「親玉登場ですか。一撃で教会もろとも聖域と結界を破壊すなんて、なかなかやるじゃないですか」
擬態を止め元のネチャネチャした体に戻ったグルフナがわくわくした声になった。だがその体で村人たち覆い、きちんと守ることも忘れていない。
「でも僕に勝てると思ったら大間違いですからね」
ぷつんっと覆いをそのままに切り離して、また美女姿になったグルフナが両腕を槌のように変形させて唸らせた。
その凄まじい一振は衝撃波を生み出し、ゴブリンたちに襲いかかる。
しかし衝撃波は消えた。防がれたのではない。消失したのだ。そして聞こえる間の抜けた楽しげな鼻歌。
「ふんふふ~ん。ふふふ~ん」
「ぐっ、がぁぁ!」
途端にユトルが頭を抱えて蹲った。耐え難い頭痛と吐き気に襲われたのだ。
土埃の中からとてとて何かが近付いてくる。
「ありぇ? グリュフナ君? なにしてりゅの?」
グルフナは愕然とした。
目の前に現れたのがもう一人の主だったのだ。ショタゴブリンと同じようなちんちくりん体型の、美しく鮮やかな葉っぱでできた体には所々齧られた後がある。
「ぐ、お前、どういう――っ!?」
グルフナは声を出したユトルの意識を咄嗟に刈り取り、倒れたその頭にサッと触手を絡み付けた。
「はぁ、そういうことですか……先に
「え、でも、今悪者退治してりゅとこだかりゃ」
「大丈夫です。後は僕がしておくんで。それより久しぶりアルフ様ですよね? 一緒にお風呂入ったらどうですか?」
「ありゅふ様とお風呂!! はわぁ……」
でへっとだらしない顔になったもう一人の主が振り返る。そして、「後はグリュフナ君に従うこと」と言い、体から生やした蔓で環を作ると嬉し気に
「クインのやつ、これを知ってたから迎えを渋ってたんですね」
もう一人の側近に舌打ちをしたグルフナは、こちらの様子を伺うゴブリンと蝶々の前に出た。
「この山と村、略奪品は放棄。そこの蔓の環から主に続け。これよりお前たちは不滅のダンジョン、アルコルトルの魔物とする。先ずはゴブリンから進め」
ゴブリンたちは首を捻ったり顔を見合わせていたが、そのうち理解はできないが言われたからそうする、といった様子で環を潜り始めた。
残った蝶には後で改造必須であると伝えてから環を潜らせた。
「さて、どうしましょうか。僕って直すのは得意じゃないんですよね」
グルフナは村人の処置をしつつアルフの帰りを待つことにした。
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