第80話 魔都バルフェにて

 最も古い王家の一つが統治する魔国バルフェディア。


 豊かな自然と大木を生かしたままくり貫きそのまま住居とする伝統的な家々が訪れる者を歓迎する。近年は数多の新発明により目覚ましい発展を遂げており、その様はまさに飛ぶ大魔鳥ガルーダを落とす勢いであった。


 王国のやや西寄りに位置する魔都バルフェには、数日前から続々と世界各国の要人が集結していた。


 数日後、十二歳を迎えた王族や貴族の子らのお披露目会が催されるのだ。このお披露目会に招待されることは世界中の尊き者にとって憧れでもあった。


 古くから続く魔国バルフェディアには世界規模で有名ないくつかの伝承があり、その一つにこのようなものがある。


【十二歳のお披露目会には宝石の瞳を持った愛の使者が紛れ込んでいる。もしも愛の使者と恋に落ちたなら、目眩くロマンスに心は踊り、生涯の幸福が約束されるだろう】


 これはおよそ五千年ほど前に締結された、ここネダラケンガ大陸に住まうすべてのものに適用されるに決まり事が記されたネダラケンガ大陸大憲章に記された伝説の一部でもある。


 政略結婚が当たり前の王族や貴族の社会。

 誰しも一度は燃え上がるような恋に溺れ、胸を掻き乱す甘い夢に包まれたいと願うのだ。

 夢見勝ちな幼少のみぎりであればなおのことである。


 主催者である魔王バルフェドロの元には、世界中からお披露目会に参加したいという文が山のように届く。

 故に他国からの参加者は、王族以外抽選という形式で招待者が決定される。


「ああ、くそっ! どうして俺たちがあんなことを!」


 この国の兵士長でありアルフの息子、魔法少女マゴちゃんの使い手のクリスが、魔都から離れた岩石地帯で魔法をぶち放っていた。


 魔法の反動で揺れるフリルスカートがクリスの太ももを撫でていく。クリスはストレスが溜まると、よく魔法少女になるのだ。


「どうしたもんかな」


 クリスは押し寄せる要人のうちリペボルナ氷国の伯爵令嬢、テリリナ・リリカ・リリーの護衛を任されている。

 ただ、当然ながらテリリナは信頼のおけるリペボルナの護衛を使う。


 爪弾き気味だったクリスたちは、テリリナの使いっ走りに任命され、ここ数日、ほぼ休みなく魔都を駆けずり回ってっていた。


 テリリナの我が儘は相当なもので、欲しいものが手に入らなければ癇癪をおこし、辺り一面を氷漬けにしてしまう。

 今日も今日とて魔法王国で流行りの魔石風かき氷が食べたいと癇癪をおこした。

 必ず明日までに用意しろとのお達しだ。


「親父に頼めば即解決なんだが……」


 クリスはアルフの付きまとい行為を嫌い、拘束期間の長いこの護衛任務に志願していた。


 クリスの頭についた大きなリボンに、先日相棒となったばかりの欲望の精霊のタインがそっと体を押し当ててくる。

 クリスの放ったいくつもの魔法をすべてコインにストックし、周囲に被害を出さないようにしていた賢い使い魔だ。


「そう、だよな。仕事なんだから私情を持ち込むべきじゃないよな」


 主のみに聞こえるタインの嗜める声にクリスが小さく息を吐く。


「心底面倒だけど親父に頼んでみる」


 クリスは発動中の魔法少女マゴちゃん固有スキルを解除して兵士姿に戻ると、とぼとぼと歩きだした。


 同じ頃、クリスと同じように辟易した様子のシャーリーが魔都バルフェに辿り着いた。


 シャーリーはアルフのかまちょ攻撃から逃れる為、弟のテッドと共に冒険者ギルドにあった長期護衛の依頼を引き受けていた。


 護衛対象は魔国バルフェディアの仮想敵国である、隣国ポルオース神国のメロル男爵一家。

 何故か急に実家に住みたくなるまでシャーリーが生活していた領を治める貧乏下級貴族だ。


 人の良い男爵だが商才は皆無であり、バグった金銭感覚のままに浪費を繰り返すため、えげつない借金を背負っている。

 その事実はポルオース国内だけにとどまらず、周辺国でも一般市民が没落までのカウントダウンを酒の肴にするくらいには有名な貴族だったりする。

 

 ただ、シャーリーはこの男爵に好意的だった。悪い人ではないのだ。決して馬鹿でもない。ちょっと浮世離れしているだけなのだ。


 メロル男爵は見目麗しい息子が伝承にある愛の使者と恋に落ちれば没落を避けられると信じ、何年も前から魔王バルフェドロへ手紙を出し続け、ついに念願叶った。


 それを独自の情報網で知ったシャーリーは、自分の逃避先の確保と同時に領主の役に立てると喜び、男爵邸に飛び込んだのである。


 しかし、何もかもが想定の範囲外だった。


 男爵の浮世離れした性格と奥方の奇行のせいで、ここまでの道のりは困難を極め、ことあるごとに取り調べと身分確認。

 そこで判明する仮想敵国の貴族という事実。

 そんな警戒が高まる中、突如要らぬ正義を語りだし険悪な空気を作る大天才の御子息。

 加えてこの一家はテッドの義賊活動に賛同し、見境なく義を唱え突進するポンコツでもあった。


 シャーリーは真っ昼間にもかかわらず、今すぐ暖かいベッドで眠りに付きたい欲求を我慢しつつ入都手続きを終え、みすぼらしい馬車の御者台に戻ると自作の違法すれすれハイポーションをグビグビと呷った。


 それから馬車の上を覗き込み、固有スキルで作り出したミミックドールと戯れているテッドを睨むことも忘れない。


「それでメロル様。今夜の宿はどちらになるのでしょうか?」


 そういえば、とシャーリーは馬車の中で正義に反する領主裁判ごっこなる遊びをしていたメロル男爵に声をかけた。


 それはちょうどシャーリーが固有スキルのアドイード流蔓術を用いて作り出した蔓馬ヴァインホースを動かしたのと同時で、メロル男爵はバランスを崩しながら、すっとんきょうな声で返事をしてきた。


「宿? バルフェに到着したあとの宿はバルフェドロ王が用意してくれてるんじゃなかったっけ?」


 シャーリーは心が折れるかと思った。しかし、大きく深呼吸することでなんとか堪えることができた。


「メロル様、大変申し上げ難いのですが、宿の用意がされているのは侯爵様以上のお方に限られるはずです……」

「ああそうなんだ。いやいや驚きだね。う~ん、じゃあこの道を進んで最初の宿にしよう。でも宿泊費はないから庭か厩舎を借りようか」

「まぁ厩舎に泊まるのですか? 私、一度でいいから干し草のベッドで眠ってみたかったのです」


 傍聴人兼弁護人役をしていた奥方が妙に喜んでいる。


「あ、あの……エリック様もよろしいのですか?」


 シャーリーは裁判官になりきっている息子に賭けることにした。拒否してくれ! と強く願う。


「ぬ? ああ、かまわないさ。我が家には金がない。それは周知の事実だ。それに考えもある」

「そうですか……では、最初の宿で交渉しましょう」


 賭けに負けたシャーリーは、涙を堪えながら手綱を握る手に力を込めるのだった。




~~~~後書き~~~~


『クリスたちのステータス』


【種族】人間【性別】男【職業】兵隊長【先天属性】風/欲

【年 齢】24歳――竜巻マロングラッセ味

【レベル】31―――無味

【体 力】997――無味

【攻撃力】1322―無味

【防御力】1201―無味

【素早さ】781――無味

【精神力】3029―無味

【魔 力】311――春風ポップンキャンディいちご味

【通常スキル(無味)】

 号令/威圧/下級槍術/下級体術/下級棒術/下級盾術

 中級馬術/分裂歩行/回転反射/強制脱毛/早食い

【通常スキル(味付)】

 三連撃―――――――トリコロールパンケーキトカゲ味

 アルフ流剣術――――四つ葉夢幻シェイク味

 クイックスラッシュ―ネジまきイワナの炭火焼き味

【固有スキル(無味)】

 三属性吸収/ダブルソード/タインコイン(新)

【固有スキル(味付)】

 欲しがりさん――――カツオサンマピーマン味(新+)

 魔法少女マゴちゃん―ねるねるねるるケミカル味

 ハイキューティー――カマトトパフェ味

【適正魔法】

 人形魔法――パルル冬風生き人形パフェ味(新+)

 下級風魔法―つけまつ毛兎のカトラーチャ味(新+)

【異常固定】

 アルコルトルの呪い(new)

 死の女神アニタの吐息(new)

 命の女神タニアの吐息(new)


□シャーリー=コルキス・ロシティヌア

【種族】ハーフエルフ【性別】女【職業】冒険者/薬師【先天属性】植物/毒

【年 齢】33―――お寝坊マンドラゴラ味

【レベル】21―――無味

【体 力】399――無味

【攻撃力】238――無味

【防御力】332――無味

【素早さ】812――無味

【精神力】5019―海ぶどうヒトデのサラダ味

【魔 力】3261―空色チューリップマフィン味

【通常スキル(無味)】

 調薬/調合/抽出/薬草鑑定

【通常スキル(味付)】

 毒の知識―――――トロピケミカルフグ刺し味(味+)

 植物の知識――――ネジマキザリガニマメ味(味+)

 アドイード流蔓術―釘バナナシェイク味

【固有スキル(無味)】

 -

【固有スキル(味付)】

 長寿――――――――リボンプラム味

 精霊視―――――――万華鏡ゼリー味

 魔法の知識―――――生グリモアオイスター味(味+)

 アドイード召喚―――ジェラシージェラートペアルック味

 アンバーミスト――――片翼どんぐり味

 エルフェンアロー―――グリーンウィスプ煎餅味

 シルバニヤニヤハット―血祭ショコラウサギ串焼味(味↑)

 ピーターバニーショー―ビアトリクスコンポタ味(味↑)

【適正魔法】

 上級植物魔法―上植物魔石ピザ味

 上級毒魔法――上毒魔石コロッケ味

 中級水魔法――塩茹で中水魔石味

 中級風魔法――蒸かし中風魔石味

【異常固定】

 アルコルトルの呪い(new)

 死の女神アニタの吐息(new)

 命の女神タニアの吐息(new)


□テッド=コルキス・ロシティヌア

【種族】ハーフリング【性別】男【職業】義賊/シャインキャスター【先天属性】光

【年 齢】29歳

【レベル】87―――無味

【体 力】987――マトラゴールデンソイル味

【攻撃力】22―――無味

【防御力】67―――無味

【素早さ】1010―無味

【精神力】3498―無味

【魔 力】2775―陽光サンドイッチ味

【通常スキル(無味)】

 遮断/侵入/高速詠唱/魔道具作成/消費魔力減

 流用的グルフナ流杖術/ハイクイック

【通常スキル(味付)】

 剥ぎ取り―――――泥棒猫の浮気肉じゃが味(味+)

 ダブルマジック――ツインバードカツバーガー味

 マジックウォール―アボカドサラマンダー唐揚げ味

【固有スキル(無味)】

 光属性無効/正義の心

【固有スキル(無味)】

 巨乳好き―――――濃厚牛頭ミルクパンナコッタ味(味+)

 デイナイフ――――お昼寝竜のうろこチップス味(味+)

 グルフナ召喚―――シャインサップティー味

 ミミックドール――ソラクジラキャンディー味(味↑)

 テッドフィールド―リリスパイパインパイ味(味↑)

【適正魔法】

 中級光魔法―ネダラ光球ライチ味

 下級土魔法―無味

【異常固定】

 アルコルトルの呪い(new)

 死の女神アニタの吐息(new)

 命の女神タニアの吐息(new)

 憧れの大空(new)


~~~~~~~~~


今回も読んでくださってありがとうございます!

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