第22話 息子のお願い
ニールが訪れたこの崖っぷちの家は、アルフの
元はニールとは別の兎獣人の子供の為に作った秘密基地だったが、既に子らは全員独り立ちしており、時たま手入れついでにアルフが使っている。
「……というわけなんだ。どうかな?」
帰省の定番、親による御馳走攻撃を見事平らげたニールがお腹を擦り、少し小さく感じる人参のソファに座り直してアルフにおねだり顔を向ける。
「う~ん、ちょっと面倒臭い」
ニールの話は、フェグナリア島最大の港町ポアテトにある島唯一の冒険者養成所の卒業試験に、アルコルトル探索を課すというものだった。
実は今回の行方不明事件、アルフたちが勝手に始めてしまい大事になっただけで、概ね計画通りだったのだ。
というのも、冒険者養成所トップ成績で卒業したものは
実際は死ぬ寸前で卵になって復元されるのだが、トップ成績に慢心したり、死なないダンジョンとしても有名なアルコルトルに慣れて、他のダンジョンなどを舐めてかかることのないようにとの措置らしい。
ちなみに、卵のお守りはアルフたちにこれの対象であることを認識させるもので、アルコルトルで手に入れた装備品等はトップ成績の御褒美である。
ニールはそれを一部変更を加え、卒業試験の必須項目に追加しようというのだ。
「で、でも年に一回必ずフレッシュな冒険者をたくさん食べられるようになるんだよ?」
「そいつらを回収するのは俺だろ? 面倒臭いんだよなぁ。早起きしなきゃいけないし、魔物たちにも知らせたり、俺の凄さも演出しなきゃだし。それに旨いものを食べて満足してる時に動くのってダルいじゃないか」
そうだろ? と満腹のニールに崖の途中に植わっている
「そ、そんなことない」
と言いつつ動こうとしないニールにアルフは勝ち誇ったような顔を向ける。
「ア、アドイードはどうかな? 毎年必ず父さんと美味しいもの探ししたり、お出かけできるんだよ?」
「ふぁ……そりぇいいね」
狙いどおり、アルフの膝の上でジュースを飲んでいたアドイードが目をキラキラさせた。
それを見たニールはニヤリとアルフに視線を戻す。
乗り気になったアドイードを止めることは非常に難しいのだ。
しかしアルフにはそうでもなかった。
「いいやよくないぞ。それをするってことは俺とアドイードの二人っきりの時間が減るってことなんだぞ」
「ふぁっ!? そりぇはよくないね」
むむむっと眉間に皺を寄せるアドイードに、アルフは続ける。
「俺はアドイードとの二人きりの時間が何よりも大切なのに、アドイードはそうじゃないのか? だとしたら俺は悲しい」
「はわわわ。泣かないでアリュフ様。アドイードも同じ気持ちだよ」
膝に立ってアルフの頭をよしよしするアドイードの陰から、またも勝ち誇ったような顔を覗かせるアルフを見て、ニールはとっておきを披露することにした。
「試験官はルトルさんにもお願いする予定なんだけ――」
「やる!」
「ふぇ!?」
食い気味の即答。
しかもルトル君と一緒なんてヤダヤダとごねるアドイードを自ら説得し始めた。
ニールは最初から勝ちにきていたのだ。
帰省するが最後、なりふり構わず何日も足止めを企てる面倒な父のいる実家へ赴くのだから。
もちろんルトルが承諾するとは思えない。でもお願いはする。だから嘘はついていないのだ。
「それじゃあ僕はそろそろ……え、なにアドイード?」
立ち上がったニールの足にアドイードから伸びる蔓が巻き付いた。
「ニーリュは悪い子だね。アリュフ様とアドイードの時間を減りゃすなんてお尻ぺんぺんだよ」
これは予想外だった。
なんだかんだでアドイードもルトルと喧嘩……といか勝負するのが好きだとニールは思っていた。なぜなら絶対に怪我をさせないし、勝負の後は何がなんでも一緒にお風呂に入ろうとすりるのだから。
頬っぺたをぷくぷくに膨らませたアドイードが、別の蔓を鞭のように床に打ち付けた。
途端にニールが青ざめ震えだす。
アルフの子供たちにとってお尻ぺんぺんは最悪の罰。
どれだけごめんなさいをしても、尻が無くなったのではと思うほどべしべし叩かれる。
しかもアドイードのはアルフのそれと違い、リアルに尻が無くなる。一点集中で防御したとしても一撃で持っていかれる可能性大なのだ。
だからアルフの子供たちは防御、こと尻の防御に関しては鉄壁と言えるほどの素晴らしい技術を身に付けている。
悪戯に生き人形を巻き込むとか、怪我や命に関わる悪戯といったことをしない限り発動しない罰ではあったものの、その恐怖は今でもしっかり染み付いているらしく、ニールは既に涙目になっていた。
「こらアドイード。八つ当たりはよせ」
「違うよ。せーとーなお仕置きだよ」
「はぁ。今日はぎゅってしながら一緒に寝てやるから機嫌直せ」
「……明日もだよ」
「わかったわかった」
どんな罠を張り巡らせたとしても必ず寝室に忍び込んでくるのだからいつもと変わらない気もするが、アドイードはとても嬉しそうに蔓を納め、早く寝ようとアルフの手を引っ張り始めた。
「父さん……」
その様子を感謝の涙を流し拝むニールだったが、今度はアルフから伸びる蔓が足に巻き付いることに気付いてガックシと肩を落とした。
ニールが帰宅できるのは数週間後になるだろう。そう、思われたとき――
「やっと見つけた! 朝から探し回ってたのよもう!」
また一人、アルフの子供がやって来た。
彼女の胸には冒険者ギルドに次ぐ世界的なギルド、魔法関連ギルドの紋章が光っていた。
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