第23話 実は死んでたあのお方
魔法関連ギルド――
それは【世界の人々が魔法の恩恵をあまねく享受できるように】という理念のもとに設立された、冒険者ギルドと同じく国家を越えた中立組織とされている。
魔法関連ギルドと冒険者ギルドはその役目も組織体系もほぼ同じであり、互いのギルドカードにも互換性を持たせている。一般的に魔法職は前者に、それ以外は後者に所属するという認識だが別にそうしなければいけないという決まりはない。
また、魔法関連ギルドの本部はそれ自体が
ちなみに、どちらのギルドでも登録をすると通貨について次のような表を渡されるのだが、一般常識なので結構な確率で受け取りを拒まれるという。
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魔法関連ギルド:世界系通貨一覧
※魔物名等は俗称。①~③は10枚、④~⑧は100枚で大◯◯貨となる
①
②
③
④
⑤
※一般流通は⑤まで。下記は主にSランク依頼以上の報酬または王侯貴族や国家間取引等で使用。
⑥
⑦
⑧
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冒険者ギルド:共通系通貨一覧
※魔物名等は俗称①~③は10枚、④~⑧は100枚で大◯◯貨となる
①
②
③
④
⑤
※一般流通は⑤まで。下記は主にSランク依頼以上の報酬または王侯貴族や国家間取引等で使用。
⑥
⑦
⑧
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これら二種に加え、魔法王国のクランバイア通貨、商業ギルドの本部を持つ浮遊大陸に存在するセイアッド帝国のオルゲルタ通貨が世界四大通貨に数えられ、なんとどの国でも普通に使えてしまう。
どの国でも簡単に各ギルドで両替できることもそうだが、共通系と世界系は各種ギルドカードでやり取りできる仮想通貨の一面があること、他の二種類はレアコイン目的で収集する者が非常に多いこともその要因らしい。
と、ここまでは世間一般の話。
魔法関連ギルド、その真の姿はクランバイア魔法王国の秘密諜報機関である。
本当の本部はもちろん魔法王国の王宮に存在し、各ギルドのマスターは姿と名前を偽った引退後の大臣や大領主たち。中には王家に連なる血脈の者も含まれるらしい。
それらの者たちは皆、磨き抜いた老獪さを遺憾なく発揮し今日も世界中で暗殺に諜報、魔法技術の収集にと様々な方面で暗躍している。
この事実は副ギルドマスター以下の職員や一般人はおろか、魔法王国の上級貴族ですら知らない者も多い。
これらは魔法王国の元王子であり、かなり特殊な状態にあるアルフだからこそ知っている情報で、本来なら知り得た時点で暗殺対象にされる可能性が極めて高い。
さて、そんな本当は怖いヤバさ極まるギルドで副ギルドマスターを務めているアルフの娘、ウンディーネ族のコピアは激怒していた。必ず、邪智暴虐の父をぶん殴らねばならぬと。
「朝からずっと探してたのよ!」
「コルキス! 久しぶりじゃないか! 相変わらず透き通ってて――」
「コピアよ!!」
「わ、わかってるさ」
「あと久しぶりじゃないわ! 先月も来たでしょ! 同じ理由で! ったくどういうつもりよ!」
抱き締めようと立ち上がったのに、ソファに突き飛ばされ、おまけに顔面に水までかけられたアルフは呆然としてしまった。
反抗期の最中でもこんなことされなかったのに。
「や、やあコピア。そんなに怒ってどうしたの?」
代わりにニールがへらっと笑って妹を宥めようとする。が、なんの意味もなかった。
とんでもない形相で睨まれてしまい、たじたじになるだけ。
「クオーディ侯爵様の乗った船が沈没したのよ! いつもの海域で! 魔物に! 襲われて!!」
「あ、ああ……そういうこと」
「どうしてああいうことするのよ! 私の仕事が増えて迷惑だって言ったでしょ!」
だいたい理解したニールとは違い、はてな顔のアルフに怒りのままばっしゃばっしゃと水をぶつけるコピアだったが「お水お水~」とか「びしょ濡れのありゅふ様もかっこいいね~」とか喜び踊るアドイードを見た途端、恐ろしく冷静になった。
本人は意識していないが、このストーカーの踊りや歌は何かしらの効果が発動するのだ。
今回は幸運にも鎮静効果だったらしい。
「ふんふふ~ん――っ!?」
しかしアドイードはすぐに止まった。そしてアルフとコピアを交互に何度か見ると、とてとて歩いてコピアの前に立った。
「おまえありゅふ様の目を見りゅなんてどういうつもり? アドイードのありゅふ様だよ。なんで? ゆーわく? 浮気始めりゅの?」
ただ父を睨んでいただけのコピアに絡み始めたアドイードをアルフが後ろから抱き抱えて制止する。
予期せぬバックハグにアドイードの情緒はまた一変。幸せ一杯の表情で鼻唄を歌い始めた。
それを大切な子供たちに聞かせぬよう、アルフはそっとアドイードの口と鼻を手で塞ぎ、コピアの出した水を卵にして服とソファから水分を抜くと、そのまま座り直して話し始めた。
「クオーディ侯爵閣下は不幸な事故で海の藻屑になったんだよ。仕方ないだろ? フェグナリア島から魔法王国方面の沖は海の魔物の巣窟なんだから」
「いつもはそんなことないじゃない。またあの卵を使ったんでしょ。知ってるのよ、侯爵が父さんの卵を買い占めたって」
あの卵とはアルフの偽卵のこと。
本来の効果は魔法や魔力、魔素以外のものを卵にするというものだが、卵に絵付けしてちょっとした効果を付与することもできる。
「……だって子供たちに酷いことしてたし」
「だからって殺していいわけじゃないでしょ」
「なんでだよ。コピアだって水腐れ虫がいたら問答無用で殺すだろ? 同じじゃないか。むしろ水魔法の大家で有名なクオーディ家当主を水たっぷりの海で魔物と遭遇させてるぶん俺の方が良心的だ」
とかなんとか言っているが、誘き寄せられる魔物としてまず設定したのがSランクの
アルフは権力にものを言わせて理不尽なことをする奴が大嫌いなのだ。但し、自分は除く……。
また、それとは別にクオーディ侯爵がカーバンクルの額石コレクターだったことも大きな理由だった。
あのじゃらじゃらと身に付けていた宝石はすべてカーバンクルの額石で、ラモルとモルテ一家を襲った冒険者崩れの雇い主が彼だとアルフは突き止めていた。グルフナに調べさせて。
そもそも今回はあの絵付け効果が正しく作用するためには相応の恨みの念が必要だったわけで、それはつまり侯爵が
そうでなければもっとささやかな魔物が誘き寄せられていたはずなのだ。
せいぜい毛根をフジツボやカメノテなんかに変え、水に近付く度にそれらが一斉に毛穴から飛び出すようになる呪いを得意とする海小坊主一〇〇体くらいに襲われる程度。
日頃の行いは大事だぞ、とアルフは締めくくった。
「ま、まあいんじゃない?」
コピアの怒りが再燃しそうな空気を察したニールが二人に割って入った。
「は? なんでよ? ニールだってこれからクレーム処理とか調査報告をしなきゃいけなくなるのに」
「それはそうだけど、遅かれ早かれあの侯爵は処刑されてたと思うんだ」
「だからなんでよ」
「あの侯爵ね、何を思ったのか少し前に兄さんを雇ったんだよ。キール兄さんを」
キール兄さんを雇った。
それを聞いた瞬間、コピアとアルフは驚愕の表情になった。
そして納得した。
クソがつくほどの問題児を世界中から集めて煮詰め、そのエキスを濃縮に濃縮したようなあの前代未聞の馬鹿を雇い入れれば、それはもう破滅まっしぐらであると。
おそらくクオーディ侯爵が
「父さんに言いたいことは山ほどあるけど、今日は帰るわ。キール兄さんの入島禁止を徹底しなくちゃ。無職になった兄さんは絶対父さんに泣きついてくるもの」
出口、とコピアに言われるままアルフは蔓で輪を作り、向こう側を
「あ、じゃあ僕も――」
「ニールはまだいいだろ。二人同時に帰ったら寂しい」
ニールはハッと思い出した。
足枷のように絡み付く蔓、これから訪れる父のウザ絡み、そして殺意漲るだろうアドイードの嫉妬に絶望するのだった。
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