第20話 偽装! 魔卵屋さんのお仕事内容
冒険者ギルドには優秀な新人たちの弔いに集まった者で溢れていた。
努めて明るく振る舞う者や涙するものまで様々だが、中にはタダ酒を目当てにやって来た
まあそんな奴らは屈強なフェグナリア島出身の冒険者たちによって、強烈な一撃と共に放り出されているのだが。
「なにかの間違いってことは……」
老婆が捜索に出ていた冒険者たちに聞いて回っている。
静かに首を振られる度に別の冒険者へすがるように近付く彼女は、駆け出したちの家族で唯一この場へ顔を出したマルクスの祖母。
たった一人残された可愛い孫の訃報を信じられないでいるらしい。
もちろん他の家族もそうだろうが、今は自宅で粛々と葬儀の準備をしているという。
そんな中、ギルドの奥からダークブルーのローブを身に付けた優男が現れた。
いつも元気にピンッとしている兎耳が心なしかへたって見える。
この悔しそうな表情の彼こそ、
彼は付き添うはずだった先輩冒険者、
「すまない。何度も問い合わせたが
「チクショウ!!」
何らかの理由でアルコルトルへ迷いこんだ可能性を考え、最後の希望としていたアルフからの連絡もあてが外れ、拳を机に叩きつけて涙を流し始めたのはデールの師匠。最後までフスアト高原の捜索打ちきりに反対していた男だ。
そんな彼の肩にそっと手を置いた女蜂族もリーシャを可愛がっていた魔術師で、真一文字に閉じた口が震えている。
「おそらく今も必死でアルコルトル内を捜索してくれているのだろう。しかし、あれほどアルコルトルを熟知している彼から未だに報せがないのは……そういうことだ」
「くっ……」
「皆、聞いてくれ! 残念だが
涙を浮かべ捜索の完全終了を告げる彼もまた、行方不明となったグリンの叔父であった。
このような沈鬱な空気にあって不思議そうにしている者がいる。
それはフェグナリア島に来たばかりの者たち。
なんとなく周囲に合わせて黙っているものの、この弔いの集会が不可解で仕方ないのである。
駆け出しだろうがベテランだろうが冒険者は常に死と隣り合わせ。毎日どこかで誰かが死んでいる。
仲間や友人ならいざ知らず、顔見知り程度の駆け出し冒険者が死んだからといって、島中の冒険者がいちいち悲しむなど普通はあり得ない。
だがフェグナリア島において、冒険者の死は日常ではない。なぜなら――
「こんばんは! 魔卵屋アルイードで~す! アルコルトルで冒険者の卵を発見したのでお届けに来ました!」
こうやってアルフが死に瀕した者を回収してくるからだ。特に不滅の
『お、おいグルフナ。お前が起こさなかったせいで大事になってるじゃないか。凄い空気だぞ』
『何言ってるんですか。どう考えてもアルフ様のせいです。だってアドイードの行いはアルフ様の行いなんですから。二人で一つ、ですよね?』
アルフの計画では昼に卵を届けてめでたしめでたしのはずだった。
しかしアドイードによる強制寝坊とグルフナの長過ぎるおやつ休憩のせいでそれは完全に破綻してしまった。
これはボコボコにされるんじゃないかと気が気じゃなかった。
が、その心配は不要だった。
無言の注目を集める中、念話で責任の擦り合いをしつつ四つの卵を並べると、爆発のごとく歓声があがり、先程までとは一変してお祭り騒ぎへと発展していったからだ。
よくやっただの、わかってたぜ、なんて言われ次々に酒を浴びせられるアルフに、喜びの涙でくしゃくしゃになったギルドマスターが両手を広げて駆け寄ってきた。
「お――お、遅いよぉぉ!!」
これを受け入れたらなんか色々うやむやにできそうだな、と思ったアルフだったが、人混みの隙間に見えたテーブルの下に鮮やかな緑色があることに気付いてしまった。
「と、止まれ
ギルドマスターことニールに抱き付かれる寸前、アルフが凄まじい勢いで床にめり込んだ。後頭部からもろに。
なにが起きたか理解できず、再び静かになった冒険者たちと違い、ニールとグルフナには見えていた。
床から伸びた蔓がアルフの首に巻き付き、そのままボキッとへし折りながら床に引き倒した、と。
「ありゅふ様はすぐ浮気すりゅ……あぎっ!」
テーブルの下から出てきたアドイードは拗ねた表情でアルフを見下ろし、自分の首にも蔓を巻くとすぐアルフの横にめり込んだ。
その行為を見て「ああ」と納得した者たちから、どんちゃん騒ぎに戻っていく。
この二人がこういう状態になっているのはアトゥールに住んでいれば、よく見かける光景なのだ。
確かつい先日も、若者の頬を触って誘惑しただのしてないだのと騒いだ挙げ句、すべての関節を破壊され、その上で徹底的に痛め付けられた右腕がよく見える状態で、店先の屋根に逆さでぶら下がり、夕方頃まで白目を剥いて揺れていた。
「馬鹿二人は放っといて孵化させちゃいましょう。確か孵卵機がある部屋って奥でしたよね」
「う、うん……」
ニールは卵を浮かせ柔らかい床と化した主の上を歩くグルフナに戸惑うも、いつものことだしまあいいかと思い、孵卵機のある室へ案内していく。
その後ろには老婆と
数分後、卵から出てきた無傷の
また、アルフたちもニールによって魔卵屋まで送り届けられた。
ちなみにアルフが意識を取り戻したのは翌朝で、満足顔で
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます