第38話 ダンジョンは外出したい
一日目~三日目は冒険者が押し寄せてきたことに大喜びで、アルフとアドイードは嬉々として彼らを食べていたし頑張っていた。
しかし、四日目にして面倒臭くなった。そして五日目の今日、ぶちギレた。
普段はいくら移動式ダンジョン屋の宣伝しても、
なぜならアルフの謎の拘りで、設置する入口はやたら分かりにくい場所だし、例え見つけたとしても基本的に稼ぎを独占したがる冒険者は、他の冒険者にその場所を教えたりしないからだ。
だが今回は違う。
アルフが勢いで移動式ダンジョン屋の入口をバラしたせいで、一般市民から上級貴族の私兵や魔法学校の全生徒や教員までやって来る。
さらにはここが王都ゆえに、クランバイア中央魔法騎士団や宮廷魔法師団、その他様々な地位の者の私兵まで訪れる始末。
いくら勝手に卵がわき出てくるとはいえ、まったくといっていいほど供給が追い付いていなかった。おまけにそれらはアルコルトルとの同一視されないために、すべて孵化させる必要があるのだ。
アルフは常時ミステリーエッグ発動し、自動供給される卵を引き寄せては孵化。同時にグルフナやクインたち魔物の魔力を元に
出てきたものはアドイードやフェグナリア島近隣の祭りに行かなかった魔物たちにばらまいてもらう。
一応、アドイードと共有のダンジョンスキルに、撒き餌作成というものがある。
こちらもお宝的なものを作れるのだが、魔物に所持させたり宝箱に入れなければ消えてしまう仕様。なにより個数制限がある。今の状況ではほぼ意味がなかった。
移動式ダンジョン屋のうりは、決められた階層までは安全かつガラクタからお宝まで様々なものが手に入ること。
拾えるものなんてなかったとか、きっとものが少なくなったから強制退場させられたんだとか、一度でもそのような噂が立てばこれまで築き上げてきたイメージは崩壊。今のように血眼になって入口を探してもらえなくなる。
謂わば彼らはご当地グルメなのだ。
そんなことになれば遠出のお楽しみが少なくなってしまう。それは絶対に嫌だ。
そう考えて必死に卵を作りまくったアルフだったが、昼夜問わず数千もの人々が出たり入ったり。
食事も睡眠もまともにとれないアルフのイライラは限界に達した。アドイードもだ。グルフナもクインも手伝っていた魔物たちもそうだ。
ついに皆がぶちギレして喚き散らしながらの大喧嘩。結果、王都に設置した入口をヒント付きで毎日移動させることとなった。
そのお陰で新たな人の増加は抑えられらたが、未だ中にはまあまあの人数がいる。
一般市民と冒険者はいい。
安全が保証されなくなる深部塔の上下それぞれ一〇階まで赴くことはなく、
属性によってはわりと習得が難しい魔法にも関わらず、ほとんどの人が使えているのはさすが魔法大国といえる。
厄介なのは中央魔法騎士団と宮廷魔法師団の連中。それから一部の私兵たち。
指定階層以外は普通のダンジョンと同じで簡単に死ぬ、と周知しているのも関わらず、ずかずかと深部を目指していく。
特に中央魔法騎士団と宮廷魔法師団は、その確かな実力で既にそれぞれ上層四〇階、下層四五階にまで進んでいる。
そこまで行くとリターンスペルでは脱出できないし、魔物もそこそこ以上の強さが多くなってくる。まあ今は数が少ないのだが、そのせいもあって進みが早いのだろう。
これが彼らでなければアルフも無視して全滅するのを眺めていたはずだ。絶望するような腹痛に備え、トイレにて。
同じアルコルトルに挑むのでも、移動式ダンジョン屋として利用するか、そうでないかで適用される決まりが異なる。
移動式ダンジョン屋として利用する者は死にかけても、よっぽど美味しくない限り救済しない。いや、しない方が良い。
実はダンジョンには、必ず一定数のヒトを殺さなければならないという決まりがある。死の女神アニタがそう定めているのだ。
逆に
ダンジョンに安全地帯や帰還装置が設けられていたり、専用の脱出魔法があるのはその為だ。
アルフはとある契約によりこの双子の女神にどうしても頭が上がらない。
だから他のダンジョンよりも、特に気を遣って二柱の神の顔色を伺わなければいけないのだ。決してどちらも怒らせるわけにはいかないのだから。
食欲を優先しているだけに思えるアルフとアドイードだが、
「浅はかなことしたかなぁ」
アルフが困っているのは、両団を仕切っているのが魔法王国の双子の王子だからだった。
第一王子である中央魔法騎士団を率いるヴァロと、宮廷魔法師団を率いる第二王子のミシア。
共にハイエルフの血を僅かに受け継いでおり、少々長めの耳と灰色の瞳。ヴァロは白髪で黒い片翼を持ちミシアは黒髪で白い片翼をもっている。
アルフは二人を殺したくない。
一応とはいえ、血の繋がりのある彼らを殺すと例の契約に引っ掛かり色々不味いことになるからだ。
それに今でも密かにクランバイア王室と繋がりもある。その証拠にアルフは二人の名付け親だったりもする。
本当は嫌だったのに、アルフがダンジョンだと知っている数少ない存在、無駄に長生きな元国王の弟にせがまれ脅され、かつて仲のよかった氷を司る特級精霊の名を贈ることになった。
確か今年で十九歳になるヴァロとミシア。仲は良いが対抗心も強く、どちらがより深部へ行けるか競っているらしい。
「ほんともう帰ってくれよ。面倒だし、そろそろ観光も再開したいのに」
アルフが畑に囲まれた家の食糧庫で不貞腐れている。これまでの飢を取り戻すかのように、溜まりにたまったご飯を貪りながら。
ちなみに
アルフとアドイードの特殊な鑑定でのみ分かる、ステータスに表示された食材や料理などの形で。
「アドイードに任せて!」
同じくご飯を貪り食っていたアドイードが立ち上がった。
「駄目だ」
「じゃあ僕が!」
「もっと駄目だ」
アルフはアドイードとグルフナの立候補を退けた。
というのも既に二人は思いつきで行動し大失敗しているのだ。
アドイードは宮廷魔法師団の魔力を直に食べ尽くし、行動不能に陥らせた。アルフが魔物たちに手を出すなと指示しなければ、今頃、全員仲良くあの世行きだっただろう。
おまけにアルフがミシアの魔力を即座に回復していなければ、対処に困る秘密の固有スキルが発動していたはずだ。
一方グルフナは普通に出向いて行き戦った。が、中央魔法騎士団の強さに興奮したグルフナは我を忘れて本気を出しそうになった。
これまたアルフが
何故わざわざクインにお願いしたかというと、アルフは王子二人に顔が割れているし、アドイードは美味しかった
どちらの団も何日か怪我の治癒と魔力の回復を要する被害だけで済んだのは奇跡的だった。
普通であれば撤退待ったなしだろうが、王子二人はちょっと馬鹿なのか回復もそこそこに探索を続けている。
「はぁ、仕方ない。俺が行く――ん?」
姿を見せたくなかったのに、と溜め息を吐いたアルフだったが、両団を映した映像を見てあることを思い出し、にちぁっと悪どい顔になった。
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