第7話 隠蔽はお手のもの
翌朝、アルフは教会でユトルに縋りついていた。
「しつこいな、お前なんか知らないって言ってるだろ!」
「思い出せ。ユトルならできる、絶対思い出せる……」
しかし鬱陶しいと突き飛ばされてしまい、目に涙を浮かべてこれでもかと悲しげな顔でお願いだと呟いて、またユトルに近付いていく。
「ごめんなさい、私たちもあなたが誰かわからないんです」
それを見ていたルァンシーや他の村たちも皆困り顔で、なんなら一秒でも早く出ていって欲しそうな空気を発している。
――昨夜、全速力で戻ってきたアルフが見たのは破壊された村。教会まで崩れていたことに肝を冷やしたが、入口だった場所でのほほんと自分からくすねた卵を食べていたグルフナを発見して駆け寄ると、今すぐ村を復元してくれと言ってきた。アルフのせいだから、と。
意味がわからないと反論しても、復元が終われば話すとしか言わず、渋々復元することに。
まあ破壊されたところは戻そうと思っていたのだから良いのだけれど、どうにも釈然としなかった。
できるが得意なわけではない復元が終わったのは明け方で、グルフナから告げられたことがこれ。
「ぜ~んぶ、もう一人のアルフ様が企んだことでしたよ。詳しいことは聞いてませんが、悪者退治とか言ってたんで、大方ゴブリンたちに言いくるめられたんでしょうね」
嘘くさい、企んでるのはお前だろ、とアルフは思った。だが、グルフナに証拠だと
もう一人の自分、あの子供のころからのストーカーがショタゴブリンたちをこき使い、蝶々を愛でているではないか。
そして冒頭に戻る。
ユトルを叩き起こして今すぐ出発だと言うと、怪訝な顔をされて「誰だお前」と返されたのだ。
それは事件の隠蔽を図ったグルフナのせいだった。村人全員の記憶からアルフのことだけを食べてしまったらしい。
「こうやって毎晩一緒に――」
「おい、お前どういうつもりだ! 俺の尻尾に触んじゃねぇ!」
尻尾をもふろうと後ろに回ったが思いきり突き飛ばされて尻餅をついたアルフ。おもむろに立ち上がると、ふらふらグルフナに近寄って胸ぐらを掴んだ。
「どういうつもりだ!? 俺からユトルを取り上げて楽しいかこの馬鹿
「僕は最初から反対でした。浮気に厳しいアルフ様ですから、ユトルの為にもこれが最善と判断したんですよ」
「それはあっちだろ。ていうかそもそも俺は浮気なんてしてない! ユトルは美味しいごはんで、もふまでくれる最高の癒しなんだ!」
大失言だった。村人たちは困惑の目から疑惑の目に変わり、ひそひそ囁き始める。
「食料ならユトルじゃなくても良いじゃないですか。ヒトは他にもいっぱいいるんですから」
「お、お前っ……」
終わった。
何て言い方しやがると口をパクパクさせたアルフの耳をつんざくような悲鳴が上がり、神官は村人に地下へ避難するよう指示、すぐさま詠唱を始た。
その守りをユトルたち防衛担当ががっちり固め、各々が威嚇してくる。
おろおろ否定する間に展開された結界は、アルフとグルフナを教会から弾き出した。
それでもユトルを諦められないアルフは結界を卵に変えて走っていき、悲鳴と罵声の響く中でユトルの腕を掴んだ。
「離せくそ魔物!!」
ボロボロだった爪もアルフが真っ先に復元していたお陰で元通りになっていた。
脇腹から喉元までざっくり切り裂かれ血が吹き出る。
それでもアルフはユトルの手を離さず一緒に行こうと訴える。
ユトルは返り血を拭い今度はしつこく離れないアルフの腕の腱を切り裂いた。
だらっと落ちかけた手首を払いのけ、もう一撃。
他の者たちも攻撃に加わりアルフの身体中に剣代わりの燭台や十字架を突き刺していく。
やはりそれでもアルフは防御も反撃もしないで、一緒に行こうと訴え続けていた。
「はいはい。もう諦めましょう。あんなに嫌がってるんですから連れてったら逆に可哀想ですよ」
くたびれた神官を引きずりながら現れたグルフナに、なにが逆だと思ったアルフだったが、切り裂かれた喉のせいで声が出せなかった。
「それと皆さん、こんなのでも一応僕の主なんでこれ以上攻撃したら全員殺しますから」
アルフを囲む村人を魔力放出の衝撃だけで弾き飛ばし神官を放り投げたグルフナは、ズタズタになったアルフを連れて教会から出ていった。
その後、村には国から衛兵が派遣されたり特級神官の常駐が決まったりとばたばたしていたが、数ヵ月もすると落ち着きを取り戻し、迫りくる冬の支度に事件の記憶はいっそう薄れていった。
ちなみに、どうしても諦められなかったアルフがこっそり村を訪れたのだが、既にユトルは村にはおらず、その行方はわからなかった。
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あとがき
□不滅のアルコルトル□
【種 別】不明
【性 格】寂しがり/構いたがり/食いしん坊/ナルシスト
無邪気/純粋/能天気/食いしん坊/浮気嫌い
【階 級】★★★
【場 所】ウルユルト群島国フェグナリア島
【属 性】植物/他不明
【外 観】元魔法王国王子型及びドリィアド族型
【内 部】遺跡群及び植物等集合体型巨壁囲繞迷宮
【生還率】100%
【探索率】4%
【踏破数】1回
【踏破者】ルトル・アトゥール
コルキス・ウィルベオ・クランバイア
【冒険者ギルド及び魔法関連ギルドによる特記事項】
探索等級:G~(但し条件付き)
固有変化:内部構造変化/補助者ランダム選出/他不明
特殊制限:死亡不可/補助者への攻撃/他不明
帰還魔法:巨壁内は全属性使用可能/深部塔は不明
帰還装置:昇降機型…ガズズⅣ番工場跡/デッサ階段など
魔法陣型…廃神殿ルル/眠る魔女の家など
木聖域型…エルテス広場/廃駅ゴュ木鐘前など
最高到達:アルファドの隠れ庭園
安全地帯:囲繞巨壁…小人の寝室/デナ崩橋/緑温泉など
固有産物:迷宮の卵/迷宮青果/槌樹液/脱け殻人形など
非推奨行為:閑所以外での排泄/畑等侵入/人形遊びなど
【私の知ってるダンジョン雑学通信より抜粋】
①一〇〇年前、突如魔法王国で発生した種別不明のダンジョンである。
②元となったのは当時の魔法王国の王子たちとされているが真偽不明。実は種違いの王子と緑色の子供ともささやかれているがこれも同様である。
③ダンジョンにも関わらず自由に動き回ることができる。
④およそ三〇年前、ウルユルト群島国のとある海域に自らの島を作り出し、今はヒトに紛れて暮らしているらしい。
⑤内部は遺跡、神殿、民家、魔導工場などの崩れかけた建築物とそれを呑み込まんとるす森を主とした自然の無秩序な融合体で、それらが深部の歪な塔とその周囲を囲む巨大な壁を形作っている。ちなみに、塔と壁は橋で繋がっていたり、隠された転移装置で行き来できるらしいが、あまりに巨大で内部も異常なほど入り組んでいる壁であるため、それらを発見することはまず不可能と思われる。また、塔も巨大であり、場所によっては壁が地平線に隠れてしまうという。
⑥かつて魔法王国では厄災のダンジョンと恐れられていたが、現在はどういうわけか人々の記憶から消え去っている。最深部近くにある赤黒く血の滴る卵が安置された闇色の神殿には恐ろしい魔物と、とある一族が棲み着いているらしい。
⑦不滅のダンジョンの由来は、ダンジョン自体が決して消滅しないことと、ダンジョン内ではどんな存在であっても死ぬことが許されないことにあるが、これも真偽不明。
⑧とある公国を丸ごと呑み込んだという噂もある。
⑨
□ルァンシー□
【種族】人間【性別】女【職業】ソンビ避け職人【先天属性】火
【年 齢】17歳
【レベル】13――無味
【体 力】32――無味
【攻撃力】45――無味
【防御力】31――無味
【素早さ】21――無味
【精神力】22――無味
【魔 力】11――生焼けカルビ味
【通常スキル】
山歩き―――――無味
草抜き―――――無味
死体封じ――――死臭火炎ニラレバ味
【固有スキル】
怪力――――――無味
【適正魔法】
無し
□エミリー□
【種族】人間【性別】女【職業】切り株手入れ人【先天属性】土
【年 齢】19歳
【レベル】9―――無味
【体 力】46――うす塩目玉焼き味
【攻撃力】15――無味
【防御力】10――無味
【素早さ】11――無味
【精神力】30――無味
【魔 力】8―――かちかち土パン味
【通常スキル】
山歩き―――――無味
切り株手入れ――無味
【固有スキル】
無し
【適正魔法】
無し
□ブラコ□
【種族】蛇獣人-アスキュラピアン族【性別】女【職業】カメリエーラ【先天属性】水
【年 齢】20歳
【レベル】17――無味
【体 力】79――無味
【攻撃力】23――無味
【防御力】12――無味
【素早さ】51――無味
【精神力】20――無味
【魔 力】17――泥水チップス味
【通常スキル】
半獣化―――――無味
山歩き―――――無味
お色気配膳―――無味
【固有スキル】
魅惑のたわわ――濃厚水晶ミルクプリン味
鱗強化―――――無味
【適正魔法】
無し
□ユトル□
【種族】狼獣人-血狼族【性別】男【職業】牙吼士【先天属性】風/光
【年 齢】25歳
【レベル】25――無味
【体 力】211―光大蒜香るジューシー唐揚げ味
【攻撃力】103―無味
【防御力】98――無味
【素早さ】188―ヴィントヴルスト味
【精神力】52――無味
【魔 力】99――風光る血樹竜ステーキ味
【通常スキル】
咆哮――――――享楽トリュフ味
光爪――――――無味
風牙――――――無味
獣化――――――無味
半獣化―――――無味
牙影衝―――――牙きのこの嫉妬餡掛けサラダ味
山の知識――――無味
【固有スキル】
もふ尻尾――――無味
ウルフィラッド―オレンジブラッドワイン味
【適正魔法】
初級風魔法―――そよ風の刺身味
□タニア草□
【分類】蘇り草
【分布】リンゲッタ王国北西部ジカガ山/プルロ古戦場など
【原産】タニアの聖域
【属性】命/植物
【希少】☆☆☆☆☆☆
【価格】リンゲッタ銅貨6枚/1本
【植物図鑑抜粋】
命の女神タニアの息吹が変じた植物とされており、死者を蘇らせる秘薬の原料と言い伝えられているタンポポに似た一年草。しかし実際はそのような効果はなく、死者をゾンビ化させたり、生者に綿毛を寄生させグールに変じさせる植物である。草自体がゾンビ避けの原料となるが完成品はとてつもなく臭く、ゾンビでなくとも寄り付かないだろう。珍しい植物だが需要は低い。花言葉は必ずまた会いに行く、君の側をはなれない、死んでも平気、愛で食い殺す。
□
【形状】角眼鹿型【食用】可【危険度】C
【進化率】☆☆☆☆【変異率】☆☆☆☆
【先天属性】
必発:土
偶発:風/水/氷/火/影/毒
【適正魔法】
必発:土
偶発:風/水/氷/火
【魔力結晶体】
石化させた獲物を捕食中のみ角の一部に発生
【棲息地情報】
メッケル岩石地帯/その他岩山や植物の多い洞窟など
【魔物図鑑抜粋】
角にも目がある中型の鹿魔物。大きさは成体で2~7メートルほど。目で見たものを石化する能力があり、四つそれぞれで石の種類が異なるらしい。基本的に自身が石化させたものしか食べないが、宝石や魔石、魔力結晶体及び魔核はその限りではない。石化させた蛇が大好物。比較的進化も変異もしやすい魔物であるため、育成できれば楽しいかもしれない。ただ、魔物全般に言えることだが、ヒト種に懐くことは極稀である。眼球は石化治癒薬の主原料になるが、角の方は杖やロッドに加工されることが多い。装備し続ければ石化の魔法を修得しやすくなるという噂もあるが真相は不明。肉の味は、先天属性が一致していないと美味しいと感じられない。一般六属性(火/水/風/土/氷/雷)のうち雷属性のみ発現しないため、同属性の者が好んで食することないだろう。
□ゴブリン□
【形状】緑色亜人型【食用】不可【危険度】F
【進化率】☆☆☆【変異率】☆☆☆☆☆
【先天属性】
必発:土
偶発:火/水/風/氷/雷
【適正魔法】
必発:-
偶発:土/火/水/風/氷/雷
【魔力結晶体】
交尾中または食事中にのみ発生
【棲息地情報】
世界中の森や洞窟など
【魔物図鑑抜粋】
人間の成人男性の半分ほどの大きさで、体にいくつもコブを持つ集団生活をする魔物。知能はそこまで高くないが、繁殖が絡むと幾分か上昇する。繁殖にはヒト種の腹を利用する。男女どちらでも構わないが、比較的女を好む傾向にある。また粗雑ながらも道具や家屋を作成し独自の社会性を持つとされる。人里近くにも集落を形成することもあり、昔から討伐の依頼が絶えない魔物でもある。
□ショタゴブリン□
【形状】緑色幼児型【食用】不可【危険度】C
【進化率】☆【変異率】☆☆☆☆☆☆☆
【先天属性】
必発:植物/土
偶発:火/水/風/氷/雷/毒/光/影/無
【適正魔法】
必発:-
偶発:植物/土/火/水/風/氷/雷/毒/光/影/無
【魔力結晶体】
ワクワクしているまたはウキウキしている時に複数発生
【棲息地情報】
イータカリル島/ボラバ山脈/エデスタッツ樹海など
【魔物図鑑抜粋】
ゴブリンが進化した上位種であり、とても可愛らしい見た目をしている魔物。繁殖本能が著しく低下した変わりに能力と変異率が大幅に上昇している。好奇心旺盛で悪戯好きだが、自らの力を理解しておらず、興味の対象を悪気なく殺したり破壊することがよくある。また、それらを反省することもない。ヒト種に対して敵対心を露にすることは珍しいが、良い感情は持っていないらしい。自分より強い緑色のものに従う習性があり、それに対しては素直で無邪気な一面を見せる。しかし睡眠や食事を犠牲にするような行為を強いた場合、コミュニティを形成している全個体が発狂状態となり、手がつけられなくなるという。
□モルフォタニア蝶□
【形 状】大蝶々型【食 用】不可【危険度】B
【進化率】☆
【変異率】☆
【先天属性】
必発:風/植物/光/命
偶発:火/土/氷/水/影/無
【適正魔法】
必発:植物/光
偶発:火/土/氷/水/影/無
【魔力結晶体】
睡眠中の個体にのみ発生
【棲息地情報】
不滅のアルコルトル
【魔物図鑑抜粋】
新種の魔物であり詳しい生体は不明。何らかの芋虫型魔物がタニア草を食べて育った結果ではないかと推測さるが、調査中である。わかっていることは、燐粉がタニア草の種子に変化すること、一部のショタゴブリンと共生関係にあるらしいこと、大変美しいこと、だけである。
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