第4話 ダンジョンは食欲に正直

 あの日から、アルフは開拓村の防衛担当として過ごしていた。


 ただルァンシーの家ではなく、同じく防衛担当のユトルという狼獣人の家で厄介になっている。

 ルァンシーの父、グラシスが結婚前の男女が一つ屋根の下などありえないと鬼神の如き表情で反対したからだった。


 皆で村へ戻り村長や風と死それぞれの神官に紹介されたり村民にお礼を言われたりもした。

 やっと落ち着いたところへルァンシーや他の女の子たちが押し掛けてきて、雑な生活をする独身男の家なんかに住まず私の家へ来いときゃいきゃい騒いぐも、アルフはユトルの家で過ごすと返事した。


 ダンジョンは人を喰らう。アルフも漏れなくその通りなのだが、他ダンジョンと決定的に違うところがあり、美味しいものは殺さず何度も食べたいという考えがそれだ。

 ユトルの魔力は抜群に美味しい。こっそり食べた村の誰よりも。だからいつでもユトルを食べられるように側を離れたくないらしい。


 ちなみに手っ取り早く食べるには自分ダンジョンの中に引きずり込むか、開拓村ごとユルトの家を浸食・・すればいい。

 しかし現在アルフは帰宅禁止中。そんなことをしても食べに帰れないので、魔力や体力などを卵に変えて食べている。それにこっちの方が美味しく食べられるのだ。


「大丈夫か? 顔色悪いぞ」


 なんて回復ポーションを差し出したり、飲み物に混ぜたりして食らったそれらを回復させながら。

 それにユトルの家は一人暮らしにしては部屋数が多かった。作りは簡素だが広間の他に個室が五つと物置部屋まである。狭いルァンシー家に比べ、アルフ自分一人増えるくらいなんの問題もないと思った。


 また、あの臭い枕で寝るのが嫌だったというのもある。一応あれはゾンビ避けなるこの村の特産品らしい。

 当然ユトルの家にもあった。ただ、嗅覚の敏感なユトルは普段使いせず、臭いが漏れないよう厳重にしまっていた。


 アルフは気が合うなとユトルに笑いかけていたという。


 それからもう一つ、アルフは重度の狼フェチなのだ。

 そんなわけで二人があまりにも行動を共にするため、今ではアルフとユトルがデキているなんて噂でもちきりだった。


「見てくれアルフ。今日もグラシスからヘビウサギとパン芋虫がこんなに。毎晩毎晩、なんだか悪いな――って、おい。ん、尻尾は……駄目だって、言ってるだろ」


 グラシスから両手いっぱいに食材を受け取ってきたユトルを見るや否や、今日もアルフは魅惑の尻尾をもふもふする。


 初めは所構わず好きな部分をもふっていたが、耐えきれなくなったユトルにもふ禁止を言い渡され、その夜の真剣な話し合いで、もふるのは頭にある狼耳だけ。それも自宅で誰も見ていない時に限るとされた。


 しかしアルフは必ず尻尾をもふる。

 初めての尻尾はブラコと心に決めていたユトルだったが、否定しつつも今ではもうすっかりアルフに許していた。

 本当はグラシスが狩ってくるのはヘビウサギだけで、パン芋虫は両手が塞がるようにわざわざ自分で狩っているのだから。噂はほぼ真実であった。


「でもほら、こうしないと卵が作れないんだ。味も落ちるし」


 アルフはユトルに自分が移動するダンジョンだと伝えていた。それほどユトルが気に入っている。

 ユトルもまた、二人だけの秘密に酔いしれていた。


「嘘つけ。ゴブリンを倒す時は何も触ってなかったじゃないか」

「一番美味しく食べる方法がこうなんだよ」


 ぽんっぽんっ、と尻尾柄や牙模様の卵がアルフの近くに作られていき、体から伸びた不思議な蔓草を使って口に運ぶ。


「旨い、本っ当にユトルは旨いなぁ」


 肩に顎を乗せ、ヒト耳・・・の横でアルフが感嘆するせいでぞくぞくしてしまう。

 こうなったアルフは、しばらくもふるのも食べるのも止めない。

 ユトルは食材をテーブルに置くと寝室へ行き、先日アルフの作った卵から出てきた・・・・ふかふかなベッドに横たわった。


「腹が減ってるのは俺もなんだからな」

「わかってるって」


 アルフはいつものようにユトルを食べていく。噂を確認すべく、毎晩覗きに来る村の連中に決してばれないよう、室内を蔓草で覆い隠して。

 しかし今日は妙だった。カサカサと背後に蔓の動きを感じたのだ。


「うわっ、やっぱりヤってる」


 バッと振り返った先には蝙蝠羽の美女が立っていた。

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