第11話 ダンジョンの手に入れた穏やかな朝

 かつて厄災のダンジョンが王子として過ごした、世界で最も魔法が発達した国、クランバイア魔法王国。

 古より脈々と続く圧倒的な魔法の力により、一〇〇年前の大厄災は存在しなかったかのようにすっかり復興していた。


 その王都から南へ遥かうん万キロ――


「っぷはぁ~! いい天気だ! お仕置き明けにもってこいだな!」


 万を超える数多の島々からなるウルユルト群島国。

 その中でも比較的新しく発見されたフェグナリアと呼ばれる島の田舎町にある魔卵屋の前で、アルフは清々しい朝陽を浴びながら、全身で喜びを噛み締めていた。


 先日迎え入れたカーバンクル兄妹も店から出てきて、アルフの真似をしている。

 彼らはアルフの体内ダンジョンにある森の朽ちた神殿エリア、通称モクク地区でグルフナに鍛えられながら暮らしているのだが、今日は初めてお店の手伝いをすることになっていた。


「ふぅ……」


 眩い太陽に目を細めたアルフは次の瞬間、一心不乱に空気を吸ったり吐いたりモグモグし始めた。

 これは大気に混ざる魔素を朝食代わりに食べているだけなのだが、他者からはたいそう奇妙な行動に写る。

 ついでに言えばたまに見せるうっとりした表情も気味が悪い。

 しかしすれ違う島民たちは慣れたもので「おはよう」とか「今日もしっかり見た目詐欺やってんな」とか「今回のお仕置きプレイは笑えたぞ」なんて声をかけてくる。

 アルフはそれらに笑顔で手を振り返す。

 中にはカーバンクル兄妹を見て「珍しいペットだな」なんて勘違い発言をする者もいた。

 カーバンクルは魔法王国の固有種で、しかも幻と言われるほどの希少種なのだ。

 魔力の源たる魔素を生み出す魔物、幸運の象徴、なんて信仰している村もあるくらいの。


 だがこのウルユルト郡島国においてその知名度はかなり低い。

 例え名前を知っていても本当のカーバンクルの姿は知らないはずなので、やはりわからないだろう。

 魔法王国の陰謀によりカーバンクルといえば、黄色のつるつる肌で、丸みを帯びた長い耳を持ち二足歩行で赤い額の石から破壊光線を出す「ぐー」と鳴く魔物とされている。


 それでなくとも、気温と湿度の高いこの国では、アルフの連れているもふもふが過ぎるカーバンクルのような魔物より、貝殻ぼうしというペンギンの雛型の魔物や、コドモシードラゴンなんていう魔物の方が涼しげで可愛いとか格好いいと言うものがほとんどだ。


「さてと、久々の店番、頑張るぞ~」


 ちょっぴり腹の膨れたアルフは、大きく伸びをしてから卵を産む鶏が実る果樹フォレストチキンの管理を任せている契約農家を目指して歩き始めた。

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