第51話 危険で楽しい夢の場所
昨晩、親子と孫にストーカーも水入らずで愉快な夜を過ごしたアルフは今日、朝ごはんを食べるとすぐ
長年整備されず、いつどんな悲劇が起こるかわからない数々のアトラクションが建ち並ぶここは、何故か他と比べて珍しい魔
しかしこの階層は生き人形と同じくらいタチの悪いラット型魔物のカップルが住まう場所でもあり、配下のガチョウ型魔物の夫婦や頭のおかしいコボルト
さらに姫っぽかったり悪い魔女っぽいどこまでも性根の腐った魔物や、狂暴な動物型の魔物も数多く、様々な意味で大変危険な場所である。
だが今はアルフによってすべての魔物は灰の降り注ぐ城の中に隠されていた。
「まてまて~」
その一画にあるガーデンと呼ばれる、幾何学模様だったり何かの印を象った低木が配置されている場所をアドイードが走っていく。アルフとシュノンを追いかけているのだ。
二人で遊ぼうとするアルフたちを追いかけては「ひっつきすぎだよ」とか「アリュフ様はアドイードのなんだかりゃね」と注意していたアドイード。それがいつにまにか追いかけっこになった。
途中でシュノンが喜ぶとアルフも喜ぶと理解したアドイードは、ちょっと面白くないなと思いつつも、アルフのためと割り切り鬼に徹していた。が、それも数分。今はアルフが自分をしっかり見てくれるため、アドイードもずいぶん楽しくなっている。
加えてシュノンを捕まえたら解放を条件に、特別なちゅーをアルフに迫る気でいるらしくヤル気満々だ。
ただ、一気に勝負を決めにかからないなのは、やはり楽しいからなのだろう。
「きゃ~、アルフ君助けて~!」
「こっちだシュノン」
特別なちゅーのことなど知りもせず純粋に楽しんでいるアルフは、浮かべた卵の上を走りながらシュノンに手を差し出す。
「あーーーー! ダメだよ! アリュフ様とお手てつなでいいのはアドイードだけだよ!」
それを阻止すべくアドイードが小さく揺れると、低木がカードの体を持つ兵隊みたくなり二人の邪魔をし始めた。
「きゃっ、痛~い」
「危なっ!? くそっ、なんてことするんだ!」
槍のつもりなんだろうか、低木がアルフに近付こうとしたシュノンを枝でチクチクしている。
そして少し離れた場所のアルフには、アニタホミカという触れただけで上位種のドラゴンをも死に至らしめる猛毒植物のトゲを雨のように浴びせていた。
もちろん不滅のアルフは死なないが、不覚にも頬をカスってしまい動きを止めてしまった。
それを見たシュノンは方向転換すると詠唱しながら走り出した。
「メイルシュトローム!」
アルフの手助けとアドイードの足止めを目的に、海に発生する大渦を再現する中級水魔法を放つ。
アニタホミカのトゲが大渦に飲み込まれていく。
「オーシャンメイズ!」
さらに固有スキルも発動。海水の道を立体迷路のように張り巡らせ人魚の姿に変じると、その中を移動していく。
「わぁ、目が回っちゃいそうだね」
走るよりも格段に早く動き回るシュノンを見たアドイードが少し驚いている。
「ふふっ、植物は海水を嫌うでしょ?」
シュノンの言うとおり、低木の兵士は攻撃を止めて小さくなっていた。
「う~ん、そうでもないよ」
アドイードは体からウネウネした植物を出してシュノンに向けて凄まじい速度で伸ばしてみせた。
「きゃあ!」
「ほりゃね」
アドイードが得意気な顔で海藻に絡めとられたシュノンを見上げている。
特別なちゅーが現実味を帯びてきたと思ったのだろう、アドイードはだらしない顔で海藻を操作してシュノンを地面近くに移動させる。と、同時に海水の立体迷路が消えていく。
「シュノン、今行く……とうっ!」
意識を取り戻したアルフは、乗っている卵を弾くように動かした勢いそのままにジャンプ。アドイードの頭上を越えてシュノンのすぐ前に着地した。
そのままささっと海藻からシュノンを助け出すと、一瞬でそこら中に配置した卵を足場にして逃げ出す。
妙にアクロバティックな動きをしているのは可愛い孫に格好いい姿を見せたいからだった。
「あ、逃げちゃう。まてまて~」
ちゅーがなくなっちゃうと慌ててパタパタ走りだしたアドイードも、こうして見れば幼児体型と相まって愛らしい。だが、しだいにアルフに抱えられたシュノンが羨ましくなったのか顔にやや陰りが差した。
「むぅ、交代だよシュノン」
魔法を発動し、自分とシュノンの場所を入れ換えたアドイードが笑顔でアルフ腕に額を擦り付ける。
「えへへ。アドイード、アリュフ様にお姫様抱っこさりぇちゃったね」
「チッ」
腕の中ではにかむアドイードを反射的に投げ捨てたアルフは、クルッと反転して何が起きたか分からない顔をしているシュノンを目指す。
しかし、アドイードはまたも瞬時に魔法を発動していた。
目にも止まらぬ、とういうより空間をすっ飛ばして再びアルフの胸に
「アドイードを捨てりゅなんてとんでもないよ」
発せられたアドイードの言葉は、まるで呪いかなにかのようにも感じられる。
それは様子を見ていたレノンも同じだったようで、苦笑いしながら相変わらずな父たちから目を反らした。
ちなみにレノンはというと、アルフたちのいるガーデンの先に建つ大きな高級宿の形をした慈悲の部屋でシュローと寛いでいる。
六階のベランダに置かれた花のソファに座り、スベスベオアシス蟹を食べてお酒も楽しんでいるようだ。
二人は娘をアルフに任せて夫婦の時間を満喫しているらしい。
「まさかお義父さんがダンジョンだったなんてなぁ。しかもフェグナリア島のアルコルトルだなんて……」
「黙っててごめんね」
久々のデート気分味わっているレノンは謝っていてもどこか嬉しそうだ。
「びっくりしたけど仕方ないさ。ダンジョンといえば普通は人を食らうってイメージだもんな。お義父さんはそんな感じしないけど」
「確かに父さんは直接ヒトを食べたりしないけど、ダンジョンとしてはぶっちぎりで危険なのよ? 基本的にSランク以上の冒険者向けだもの。この一二五階だって父さんが魔物に言い聞かせてなければ、私たちなんてあっという間に死んじゃうわ」
レノンの説明にシュローは首をかしげた。
「アルコルトルって安全に稼げるダンジョンなんじゃないっけ? 絶対死なないって噂だけど」
「基本的には、ね。父さんの食事ってダンジョン内に入った者の魔力や体力とかなんだけど、美味しい者は何度も食べたいから、死にそうになったら卵にして助けるようにしてるのよ」
レノンはアルフの腹痛の話はしないでおいた。なんとなくその方がいいかなと思ったらしい。
「ははっ。じゃあやっぱりお義父さんは優しいんじゃないか。俺を捉えたダンジョンマスターとは大違いだよ」
「普段は優しいけど怒ると怖いのよ?」
「それは誰にでも言えることだよ」
そう言ってからなにかを誤魔化すようにお酒に口を付けたシュローを見て、暗に私のことを言っているのかと口を開きかけたレノンは、ほんの少しだけ間を置いてからその口を閉じた。
代わりにシュローの肩に頭を置いて甘えてみせる。
その前を自ら偽卵になるという荒業でアドイードの蔓から抜け出したアルフが走っていく。
シュノンを抱え卵を足場に六階の高さを走っているのだ。
「まてま――あっ」
アルフとは違い蔦や樹木で足場を作り追いかけていたアドイードが、ぴたりと止まった。それは丁度レノンとシュローの目の前だった。
「急に止まってどうしたの?」
「あ、リェノンここにいたんだ。あのね、産まりぇたよ」
ドアから交信で
アルフが戻ってくる。しかしなにも言わない。
アドイードの言っていた情緒というもの尊重してみようと思い、ちゃんとアドイードが自分で言うまで待ってあげているのだ。
「アリュフ様、新しい
「そうみたいだな」
追いかけっこと夫婦の時間は終わりを告げ、アルフたちはドアの所へ向かうことにした。
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