第54界 深く暗きあの世にて
暗闇。底すら知れない圧倒的な虚が口を開けていた。
「ここが…ヨモツ…」
「見てるだけで寒気がしてくる…。さすがあの世ってとこかねぇ」
「二人とも大丈夫ですか? 魂護のお守りを渡しているとはいえ、生きてる人間が根ノ国に足を踏み入れるのは本来禁じられています。くれぐれも無茶はしないでくださいね?」
ユイとカナミは、マイヨの助けを借りて、〈ユニベルシア〉の学園敷地内に設けられている幽霊族専用のポータルに来ていた。まだ入り口だというのに、既に背筋が凍るようだ。死後の世界の無慈悲さが伝わってくる。
「覚悟はできていますわ」
「あいつを助けるためだからねぇ。問題ないさ」
「担任として受け持つ生徒を救うことができるのならいくらでも力を貸します。ですが、こちらと向こうの常識は大きく違う。お気を付けて」
マイヨが心配そうな表情を見せる。ユイは柔らかく微笑むと、右手でピースサインを作ってみせた。
一真がよくやるハンドサインだ。誰かを安心させるために、己の決意を示すための形。
「必ず、三人で戻ってきますわ」
そうしてポータルをくぐって、ユイとカナミはどこまで続くとも知れない真っ暗な奈落を
肌寒かったのは最初だけ。
じきに、暖かいとは言わないまでも、充分に活動できるだけの気温がある階層まで来ることができた。
「先生のお話によれば、ここからがヨモツ本来の土地なのですわよね?」
「あぁ、そのはずさ。なんか思ってたのと違って、ウチも拍子抜けだがねぇ」
ジトっとしてはいるが、住んでいるモノが霊体なだけで地上と大きな差はないのかもしれない。少し歩けば、店や家屋が並ぶ場所に出た。村のようで、人の営みがあることに少しホッとしたユイであった。
「さて…。ここからカズマさんを探さないとなのですわよね」
「とんでもなく広いが、地底世界っていうのかねぇ。これは骨が折れそうだ…ぁ?」
「どうしましたの………ぉ?」
二人は揃いも揃って、気の抜けた変な声とともに立ち止まった。
それもそのはずだ。
彼女らが今探している新辰一真その人が、目の前の広場で子どもたちの霊に混ざって和気藹々と遊んでいたのだから。
「「はぁああああああ!?」」
◯●◯●◯●◯
ユイとカナミが絶叫しているその頃。
ほぼ反対側の空間で、ルゥとファイブもまた叫びたくなるような事態に直面していた。
「脅威、更新…。粘着、的…」
「いつまでこうしていれば…!」
周囲の壁を這う木の根から無尽蔵に湧き出てくる異形の虫、いや蟲。
アリのようにもハチのようにも見えるソレらが、二人の命を狙って攻撃を繰り返してきていた。
「最大火力…、それで突破、可能」
「なら、チャージする時間を稼ぎます!」
「了解…!」
ファイブの両腕から紫電が散り、量子空間から引き出されたパーツが巨大なキャノン砲を組み上げた。
「ハァッ!!」
ルゥが放った蹴りによる衝撃波で、蟲の大群が巻き上げられる。
「チャージ完了。〈量子武装〉“マキナフォトンレイン”」
細分化された幾条ものビームが、敵の集団を囲むように降り注いだ。硬い表皮を貫かれ、蟲たちが焼き払われていく。
掃討し終わるのに、そう時間はかからなかった。
「ふぅ、なんとかなりました」
「肯定。先へ、進行続行」
「ですね。一体どこにいるのかもわからないですし、地上ではハロウインの準備も進んでいるでしょうから。間に合うといいのですが…」
死者の霊を鎮め祀るためのお祭り、ハロウイン。本番までに一真の魂を見つけ出さなければ、蘇生させることも難しくなる。少なくとも、ファイブの解析ではそう出ていた。
「反応、この近辺から。恐らく、もう間も無く到着」
「了解です。っと、ぇ!?」
木の根に覆われた洞窟を抜けたその先には、小さいながらも多くの家屋が立ち並ぶ村があった。
そしてどういうわけか、ルゥとファイブが目にしたのは、そんな家屋で子ども達と戯れるユイとカナミの姿であった。
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