第35界 天に遍く星々
走る。奔る。足を前に。止まらない、立ち止まらない。
次々に足場を奪っていく暗黒の柱をかいくぐり、できる限り近づく。弱点もどう戦えばいいかも掴めないが、そんなことは関係ない。
重くなった〈ウィアルクス〉を強引に振りかぶり、闇の瘴気を斬りつける。ダメージは入っていない。刃が通らないし、そもそも意味があるかもわからない。
「『無駄…、無意味ダ』」
対峙しているとよくわかる。天思〈ハーゲンティ〉が放つ底知れぬ昏い圧を。人が持っているような儚い思いではなく、まさに
けど、それがどうした。
「負けるわけにはいかないんだよ…!」
「『ムダ、ダ。人の子ヨ』」
爆風が押し寄せる。闇溜まりが足元に流れ込む。鋭利なエネルギーの槍が降り注ぐ。苛烈極まるそれらの攻撃を体に受けても、足を止めたりしない。一歩ずつ、一歩ずつ、確実に〈ハーゲンティ〉との距離を埋めていく。
「『貴様…。ナゼ、だ。どこから、ソンな力が。ココで倒れテも、誰も文句ナド言うまイ…』」
「俺だけの力じゃないからな。これは、俺の仲間がくれた想いだ…! だから、返してもらうぞ。仲間を…友達を!!」
「『ッっ』」
錆びついた機械音とともに〈ウィアルクス〉がガントレットとなって前腕を覆う。筋があげる悲鳴を無視して、強張った五指を突き出す。
いつの間にかすぐ前に在った天思の躰に、指が触れる。どこまでも底がなさそうな暗黒のその先。かすかに反応がある。暖かい陽だまりにも似た柔らかくて優しいこれは。
『SKILL, remind. CHAIN to victory. ――――Go your way!』
「う、ぉおおおおおおおおおおおおお!!」
〈ウィアルクス〉のいつもと少し違う電子音声も、こちらを応援しているようで。何かに触れてる掌を全身全霊で引き抜くと、周囲を覆い隠していた暗黒を散らすように、閃光が吹き荒れた。力が抜けたように、〈ハーゲンティ〉が片膝をつく。
「『なん、ダ、これハ』」
「言っただろ。俺の仲間の想いを返してもらうって。暗黒よりもずっと強い、魂の輝きの力でおまえを倒す!!」
「『馬鹿馬鹿シイ…。我ガ暗闇こそ、真理…。人ノ世に根付く、正義といウ名の悪意…。絶対ノ理、ダ……』」
確かに。正義なんて言葉は曖昧で、脆くて、一方的で、悪とすら呼べるかもしれない。けど、俺が戦うのはそういうものためじゃあない。
「俺は仲間のために、友達のために戦う。みんなが笑える世界の為にな!!」
「『愚かナ…。絶対的な真理ノ為にコソ、全テの命が存在しテイルの堕』」
「そんなもんで、世界が救えるのか? 違うだろ。正しくてたって、間違ってたって、世界の中で今を懸命に生きてるやつらが救うのが世界だ! だから、それをおまえなんかに邪魔させない。絶対に!!」
強く固く握りしめる、右拳を。掴み取った光が拳から腕に、腕から体全体に満ちていく。溢れんばかりの活力のおかげで、立ち上がれる。
――― そうですわ。炎のように華麗に勝ちなさい!
――― 嵐みてぇにぶっ飛ばせ!!
――― 駆け跳ねましょう、光差す未来へ!
「ああ。行こう、みんなッ!!」
其れは、絆を鍛え上げ、あらゆる困難を切り裂く為に少年が手にした剣。使い手が乗り越えるべき壁に出会った時に、そのための力を出力する聖剣。不完全の積み重ねで、いつか至る完全無欠の結末を呼び込むための希望。
だから。一真が手にしたのは、――― 拳に纏ったのは、白銀の中に虹光の矢じりが輝く
「天の星は遍く可能性…。一が集いて全を超える。明日に繋げ、無限大の虹を!
再び宿った白光を下地に数多の色彩が宿り、荒れ狂う “虹” の奔流を拳にまとう。繰り出した全身全霊の一撃は真っすぐに天思〈ハーゲンティ〉を射抜き、その身を覆う澱んだ闇ごと内から焼き切った。
「『ば、カ、na、ァあぁ、aaaaaaa、!』」
捉えどころのなかった暗闇に亀裂が入り、次々に爆ぜ散っていく。最後の悪あがきだろうか。こちらに伸ばされた触腕も届かず、塵と化す。
暗黒に染まっていた空間から、捕らわれていたユイたちと〈ハーゲンティ〉を身に宿していた隼牛が姿を見せる。隼牛は気絶しているが、ユイたちはボロボロながら意識を保っているし、無事なようだ。
「みんなのおかげで、なんとかなったよ」
「当然ですわ。勝っていなければ、わたくしが燃やしているところですわよ」
「また強くなったじゃねえか、カズマ。今度タイマンで手合わせしようぜ!」
「二人とも、みんなヘトヘトなんですから少しは遠慮しましょうよ…」
「ハッ、テメェもカズマと遊びてぇクセによー。この発情ウサギ」
「なにを言ってくれちゃってるんですかこのバカ姫様は!?」
ユイ、ホナタ、ルゥのまったくブレない様子に苦笑する。こういうたわいない会話を永遠に続けたいと、そう思ってしまう一真であった。
琉香は、そんな馬鹿弟子と少女たちの騒ぎあいを見つめながら、独りごちる。
「まったく。若さや愚かさというのはいいもんだねぇ。そういえば、僕たちもああだったっけね。なぁ……、
彼女も、今だけそうして、亡き戦友に思いを馳せるのだった。
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