第34界 明日に架ける無限大の虹
『圧殺させてもらうでありますよ、異世界人!
天に雄々しく晒される “黄金” の巨体。仰ぎ見る者の尽くを染め上げるように強烈な輝きを放つ異形の天使が顕現する。
立ち向かうのは、生まれの違う世界から集った四人。
地球人、精霊、獣人が二人。人々が日常を楽しむ為の遊園地の広場を侵食する黄金の破壊に対峙していた。
「で、なにか対抗策は?」
「もちろん、ありませんわ!!」
「あの金ピカをブチのめしゃいいんだろ!」
「相変わらず脳筋しかいないと言いたいところですが、私も同意見です。勝つ為に戦いましょう!」
清々しいまでに無策。けれど、だからこそ悩む暇もないほどに鮮烈に時は流れる。
右手に握る〈ウィアルクス〉が金の輝きを収束させて刃と化す。一振りするごとに放たれる衝撃波は、仲間を強くする矛であり守る盾でもある。 “黄金” の天使が怯み、隙が生まれる。
「今ですわ、狼娘!」
「指図すんじゃねぇ、火の玉女ァ!」
「「“
ユイの双銃から走った弾丸が、ホナタの放った暴風の道筋によって加速。紅炎の槍となって天使の外殻を覆う “黄金” に直撃。破壊には至らなくとも、大きなヒビを刻む。
悲鳴のような高音を発して、身をよじる天使。ルゥが大地を蹴り、天使の反撃を避けながら宙に跳ぶ。その右脚に全身の力を溜めて、一気に爆発させる。
「蹴り抜け、“乱・浪・RUN”ッ」
ヒビがはっきりとした亀裂に。そして、砕け散る。万能にして完全。そう謳われた “黄金” は、その完全性を失いつつあった。
『なぜ…、なぜ! 吾輩は完全であるはずだ…、でなければ、この力は成立し得ないッ。歪極まる貴様らごときにぃイイイイイイイイイイイ!!!!』
「言ったろ。確かに一人一人は完全にはなれないかもしれない。けど、不完全だからこそ、みんなで力を合わせたら、よくわかんない物凄い力を発揮できるんだよ!」
苦悶の絶叫をまき散らして迫りくる “黄金” の触腕を斬り弾き、距離を詰める。白い剣に光が収束して長大な刃へと化し、掠った先から触腕を消滅させた。
『来るな…、来るなぁアアアア!?」
〈ウィアルクス〉に一層眩い光の粒子が集い、大きな槍、あるいは剣のようなエネルギーの奔流となる。
「終わりだっああああああああああああ!」
『グぁ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
振り下ろす。全力の一閃を。
最初から完成している
粉々に崩れ去っていく天使の身体。勢い余って地面にスライディングしてしまった俺を見て、苦笑している三人の少女たちに抗議の目を向ける。どうにかなった…。やけにあっけなくて拍子抜けしてしまうくらいに。
(そうだ……。なにかおかしくないか?)
いくら全員の最高火力をぶつけたとはいえ、はいそうですかとすんなり破れるものなのか。“黄金”と呼ばれる完全性は。
「やってしまったね。… “黄金律” は元来、『為すべきを為せ』と、他者を思いやるためのルールなのだがね。この世を回す普遍の善性。しかして、天使の力によってそれは曲げられてしまった。〈ハーゲンティ〉の正義は次元世界にとっての悪と転ずる」
「師匠…? どういう意味だ、それ。俺たちが戦っていたのは、なんだ…?」
悪寒が走る。右手に握ったままの〈ウィアルクス〉が鼓動を打ち、危機を伝えてくる。それに反応するより早く、俺の目には前に飛び出してきたホナタとルゥが映っていた。
『「ぁア。悲しイことだ。ヒトとは、相変らズ愚かだナぁ」』
「っ ――――?」
二人の姿が、消えた。呑まれた。黒く澱みきった漆黒の “黄金” に。
声を上げる間もなく、紅蓮の『炎』をたなびかせて突撃したユイも、地から湧き出た闇の杭に五体を貫かれる。師匠が割り込んで助けてくれなければ俺も同じ道を辿っていた。
「な…。どうして…、なんだよアレっ…」
つい数秒前まで戦っていた黄金煌びやかな殻に包まれたモノではなく、光すら映しこまない暗黒。視えないはずなのに、そこに在ることだけはわかる。そして直視した者を狂わせるには十分すぎる絶対的な
「だから言っているだろう。善性だと。先ほどまでの〈ハーゲンティ〉は、朽木隼牛の正義の心を具現化させてていただけだった。天使の力をシジルの魔力で縛り付ける事で、できていたことだ。しかし、その枷を君たちは破壊してしまった。今あそこにいるのは、正真正銘の天使。天の意志なんていう曖昧なもので勝手に人類を裁定する存在なのだよ」
理解の及ぶ範囲から外れすぎて、もうわけがわからない。いや異世界と繋がっている世界に住んでる時点で何をという話だが、目の前の何かはこれまで以上に規格外が過ぎる。
『「ワガ名は、
「させる、か!」
竦む足を叱咤して、夢中で前に出る。少しでも攻撃をして、何かはわからないが〈ハーゲンティ〉の意図を妨害するつもりで。
『「邪魔ダ」』
「がっ……」
虚空から伸びた暗黒の杭が行く手を阻み、振り回した〈ウィアルクス〉もまるで鈍らになったかのように宙を切る。切っ先も体も重い。先ほどまでの力を失ったかのように、視界が鈍い。どうして…!!
「彼女らがいなくなったからかもしれないねぇ。その剣のことはよくわからないけれど、仲間がいて初めて効果を発揮するのだろう」
「いなくなってなんかない! あいつに捕らわれてるだけだろ…。今すぐに、俺が助ける!」
「いい加減にしたまえよ、馬鹿弟子君」
目の前に立ちはだかる師匠を睨みつける。そんな俺に悲しむような憐れむような表情を向けながら、師匠はゆっくりと首を振る。諦めろと言うように。
……ああ、わかっている。自分でも。この状況で無茶を通せる力なんて持ってないってことは。わがままでしかないって。
「諦めない、諦めたくないなんていうのは、弱者の戯言だよ。本当に強い者は、そうは言わない。学園で出会った力ある者達がそんな弱音を吐いたかい? 否、彼ら彼女らは強者だ。能力という宝を持っている。君のようになにもないやつとは違うんだよ」
言われてみればその通りで、ユイやホナタ、ルゥが俺のように常に限界を超えているところなんて見たことがない。みんなすごく強くて、敵に立ち向かうことに慣れていて、俺みたいに手探りの感じもほぼない。誰もが、潜り抜けてきた場が違う。量も質も。
「確かにそうだな…。けど、それだけじゃなかったよ」
「へぇ?」
「みんな、当たり前の悩みを持っているんだ。友達と仲良くなれない、もっと強くなりたい…、家の事情に縛られていたり、強すぎる力で逆に寂しさを感じてるやつもいた…! 力だけを振るう謎の異世界人じゃない、みんなも心ある人間だからだ」
弱くない
「立ち向かう勇気なんて元から持ち合わせてない。ただ、前に進み続けないと立ち止まりそうだったから!!」
改めて声を大にして言おう。もう決して挫けないように。
師匠と天思とやらに見せつけるように、右手のピースサインを大きく掲げる。これは弱い俺からの宣戦布告。
平和な未来を邪魔する何もかも、全ての理不尽をひっくり返す。
「全部まとめて、守ってみせるさ。友達も、世界も!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます