◼️n界 ニ■◼️ラ◼️ホ◼️◼️の眼
《ユニベルシア》学園内中枢――、《コア・ポルタ》保管室。そこで生徒会長・匂王館菊世は、弟・匂王館薊未と話し合っていた。
計画は順調。このままいけば、想定通り、世界は収束する。願い通りに、全てが変わるだろう。
与えられた使命のためではない。己の願いを叶えるための計画であり、達成まであと一歩である。
「姉さん、そろそろ俺も表立って動くべきかな?」
「そうね…。薊未の
「だよな。それにしても、今回は針の進み方が異常じゃないか? 前よりも、ずっと早く『鍵』が揃ってきている」
菊世は、ふむと顎に手を当てて、確かにと思考を巡らす。今までの“枝葉”だと、このあたりでの『門』の完成度は高くなかった。やはり『鍵』の完成が早過ぎることが原因だろう。
それともう一つ気になるのが、新辰一真の師匠を名乗る女性、石動琉香だ。彼女の動向を探ったところ、どうやら彼女は国連と繋がっているらしい。“外”の情勢を見るに、地球人たちの意見をまとめて扇動しているのは石動琉香らしいこともわかっている。新辰一真との一戦を上手いこと利用されなければいいのだが、というのが心配の種でもある。
「とりあえず、それに関しては今は後回しよ。国連がどう動くのか、見極めないといけないのだから」
「それに関しては、ある程度予測してある。奴らの決起にはもうしばしの猶予があるぞ。軍備が整いきっていないようだ」
「なるほどね…。だとすれば、その前に『門』を起動させましょう」
「楽しみね、薊未。やっと、エンドマークのその先に進めるのよ」
「ああ、姉さん。何度もやり直した甲斐があったというものだな。これで俺たちは…」
いつもは感情を表に出さない薊未が、珍しく感情を抑えきれない様子で、眼光の奥に強い光を宿している。それは、きっと自分も同じだろうと、菊世は扇子を顔の前に広げて、その陰でほくそ笑んだ。
自分たち姉弟の生きる意味が、ようやく果たされようとしているのだから。
――――――――――――――――
同日、同時刻、まさにこのタイミング。《ユニベルシア》学園から遠く離れた孤島。異世界と呼ぶべき学園の“外”。物言わぬいかめしい要塞が立ち竦む島の中心部、巨大な黒鉄の塔の中で、石動琉香は開いていた『眼』を閉じた。
「ふぅん、やっぱりそうなのか。あの学園の下にあるんだね、『門』のコアは」
今までは予想していても確証がなかった。なぜなら、そんな重要なモノをまさか、
「ふふふ、これで攻め込む大義名分ができたねぇ、リモル博士?」
「まったく、今までの苦労が水の泡になりそうなことばかりしてくれて…。琉香は、昔からやることなす事カオスすぎるんだよ」
嬉しそうに肩を震わせる琉香に生暖かい視線を送りながら金髪碧眼の女性、《ユニベルシア》の保険医であるはずのリモルは、ぬるくなったコーヒーを飲み干し、白衣の裾を整え、椅子に腰かけなおした。彼女の本来の居場所はこちらとでも言うかのように、優雅にのんびりと。
「感謝はしているさ。君のおかげで、移動も楽だったしね♪」
実際、彼女が綿密に施していた学園内の仕掛けが働き、琉香は難なく立ち回ることができた。生徒たちにバレることなく忍び込めたし、竜人族のお偉いさんを
「で、その戦利品の解析は進んでいるのかな?」
「まあ、ね。なかなか面白いよアレ。あの少年君の武器と対を成すというか…。君の三本目にするかい?」
「馬鹿弟子の武器…。あの白いヤツとペア? うーん、面白そうだけど、お守り代わりかなぁ。僕の趣味ではなさそうだし」
そもそも。どうして、新辰一真は、あの白い剣を手にできているのだろう。彼にはそういう事はできないはずなのに。初めて出会った日にそれは確かめている。強すぎる想いというのは、それだけで破滅を呼び込むトリガー足りえる。なればこそ、心を統べる術を叩き込んだのだが、逆にああまで愚直さが進化、いや深化しているとは思わなかった。
「まあ、そう気を落とすな琉香。彼のせいで、というかおかげで、異世界攻略の鍵も見出せそうなんだから」
「まったく…。次に会った時こそは、彼の性根を叩き直してあげないと。“諦めない” だなんて、子どもの戯言なんだってね……」
知らず知らず、刀の柄に伸ばしていた右手をそっと抑えて、琉香は部屋の天井を仰ぎ見た。
そうとも。諦めないなんて誰にでもできる。自分にだってできたはずだ。けど、それをしなかったのが大人であるということで。
………。
…やめよう。これ以上考えても仕方がない。
今はただ、来たるべき計画の為に準備を整えよう。学園に封じ込められた偽りの平穏を破壊して、世界の『眼』を開かせる時だ。
(閑話休題)
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