第60界 駆けつけた緑の稲妻

 轟音。


 全身を打ち据えた激しい衝撃と共に、中央校舎の廊下を転がる。


「くっ……!」

「ほおらほら、ちゃんと逃げないと死んでしまいますよお?」


 なんてことを言いつつも攻撃してきているのは、小雪書記本人ではない。機械とは思えない軽やかさで進撃してくる機械兵士たちだった。


 儀典兵騎フェイルリッターといったか。レーザーの剣や銃で攻撃してくる姿はさながら映画に出てくる敵役のドロイドのようだが、実際の威力はそんな生半可な物ではない。


 コンクリートの壁など容易く破砕するだけの攻撃が雨あられと降り注ぐ。


 かわすことも難しいそれらの攻撃を〈ウィアルクス〉で弾き、落とし、逸らす。それでも限界はあって疲労とダメージが蓄積し、吹き飛ばされる。


「くっ、スキル発動!『加速』『炎』『光輝』!」

《accept. SKILL,『RAPID』『BRAZE』『SHINING』… SKILL UNION》

「へえ」


 光を内包した紅蓮の刃を高速で振るう。レーザーにはレーザー。熱線の応酬で数体の儀典兵騎を斬り倒す。焼け石に水だとしても、反撃としては十分。


 その隙に中央校舎の上階へひた走る。とにかく開けた場所に出なければ、集中砲火を浴びてお終いに、


「無駄ですよお。『和津螺場』」

「なっ……」


 トンッと背中を何かに押される気配。またもや先ほどまで走っていた方向とは違う方向に体が引っ張られ、姿勢を崩す。


 間違いなく小雪書記の能力によるものだろうが、カラクリはわからない。そして考えているうちにも、急に姿を見せた鋼鉄の拳に打ち据えられた。


 どうにか身を捻ってダメージを抑え、槍モードに変えた〈ウィアルクス〉で襲ってきた機械兵を貫いて倒す。


「はぁ…はぁ…。キリがない…!」

「ふふふふ。粘りますねえ、一真君」

「なあ、小雪書記。こんなことはやめてくれ。外の状況はあんただってわかっているんだろ!」

「もちろおん。でも、それがどうかしましたかあ?」


 駄目か。わかっていてこの事態を黙認しているのなら、やはりぶん殴ってでも止めるしかない。


「なんにしても、どこに逃げようとも捉えて見せますよお?」

「だったら!」

《SKILL accepted. 『SHINING』》


 弓モードに変えた〈ウィアルクス〉から、光の矢を複数本放ち撹乱しつつ、前にダッシュ。剣モードに戻して、潜り込む。


「『和津螺場』」

「くっ!?」


 まただ。剣が当たる直前で、またあらぬ方角に体が滑った、いや引っ張られた…?


 これが彼女の力の中身か!


「さあさあ、さあ。存分に踊ってくださいねえ? 四肢が疲れて潰れるまで!」


 再度切り込む。同じく小雪書記が能力の発動を呟く。しかし同じ手は食らわない。


「断ち切れ、《ウィアルクス》!」

「!」

《accept. SKILL CANCELER, activated.》


 テッサの『支配』のように漠然とした空間の話ではなく今のこの一点であれば、攻撃の中でも無効化できる。見えない『場』の歪みを白剣で切り裂くと、そのまま返す刀で小雪書記に叩き込んだ。


「む、むむっ。厄介ですねええ」


 ムチで刃を滑らせて避けられるが、問題ない。攻略法が分かったのならあとは。


「攻めるのみ!」

「生意気ですねえ、ただの地球人の分際でえ! さっさと諦めてください!」


 複数の儀典兵騎フェイルリッターに一気に囲まれる。『場』の操作でワープされてきたのか。便利な能力だし、とても厄介だ。


 それにしても、小雪書記の反応はなんとも懐かしい。


 思えば、俺はいつだってただの地球人だった。けれど、このウィアルクスと、多くの友達や仲間に助けられてきた。


 だから。


「なにがあっても諦めないし、負けない!」

「よく言ったぜカズマァ!」


 剣を握る手に力を込め格好をつけたところで、元気溢れる叫び声が轟いた。と同時に、新緑の閃光が視界を横切り、取り囲んでいた儀典兵騎が派手に吹き飛んだ。


「だ、誰ですかあ?」

「ヘヘッ、誰かつったらよォ。名乗るほどのモンでもねえ! ってのがお約束だったっけか?」


 猛スピードで飛来した張本人―――、ホナタは、そう啖呵を切りながらしゅたっと着地して見せた。


「ホナタ!」

「へへっ、待たせちまったなカズマ! 話は来る途中で魔女っ娘に聞いたぜ。会長をぶっ飛ばしに行くんだろ?」

「あぁ、こんな事は止めさせないといけないんだ。力を貸してくれ、ホナタ」

「ったりまえだ。ここは任せろ!」


 本当に頼もしい。


 俺は先を急ごう、外の被害も拡大している。勘だけれど、菊世会長はこの近くはいると思う。学園を見捨てて、そのままにはしないはずだ。


 彼女には彼女の考えがあって、それは〈ユニベルシア〉のためでもあるはずなのだから。


「そうだろ、会長…!」

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