第59界 儀典兵騎/フェイルリッター
うっそうと茂る草木に覆い隠された裏山に置かれた『門』、あの世、ヨモツと繋がるゲート。
その向こう側から飛び出すようにして、四人の少年少女が姿を現す。
一真たちだ。
「っはぁ、はぁ! どうして、ここに戻ってきたんだ…?」
「恐らくは黄泉の国の修正力ですね。違法な道からは帰れない、道は一本だけということではないでしょうか?」
「各員、無事。なら、至急追跡、推奨」
「ファイブさんの言う通りですわ。早くあのおバカな会長を成敗しませんと!」
成敗って。どこのご老公さまだよ。
だが急がなければならないのは事実だ。裏山のここからでもわかる勢いと規模で、大量の樹根が眼下の学園や街を侵食している。菊世の仕業だろう。
「カズマっち、みんな! 大丈夫じゃん!?」
下山している時間すらないと焦っていると、そこに思わぬ助け舟が舞い降りた。
「トリリア? どうしてここに」
「学園にヤバい根っこが出てきたと思ったら、カズマっちの剣に染み付いてるあーしの魔力を感じたからじゃんね」
いつの間にそんなことが。というか、その言葉が意味するのは〈ウィアルクス〉が確かに復活し、俺も正しく生き返れたということなのだろう。それは嬉しいことだ。
「ユイ、ルゥ、カナミ、ファイブ。ありがとうな。この恩は忘れない、改めて俺はみんなのこと守るよ」
「なにをおっしゃいますの、カズマさん。わたくし達こそ既に大きな恩をいただいている身ですのよ」
「そうですよ、新辰さん。これからは私たちも新辰さんとともに戦います。そもそも私たちは〈エイリアス〉。貴方よりもずっと強いんですから!」
そう力強く言ってくれるユイとルゥの二人に、続けて頷くカナミとファイブ。
「…そっか。この先には、大変な戦いが待ち受けているかもしれない。―――力を貸してくれ、みんな!」
もちろんだと全員が頷く。
そんな俺たちの背後で爆発音が響く。やはり、もう時間はないらしい。
「急いで学園まで戻って欲しいじゃんね、カズマっち。アタイの魔術で空を飛べるようにするから、ソレでひとっ飛びじゃん!」
「助かるトリリア。じゃあ行こう!」
ふわっと体が浮き上がる感覚とともに、視界が上昇し、ほどなくして俺たちは空中にいた。トリリアにサポートしてもらって学園に向かうと、そこは想像以上に酷い有り様だった。
燃え盛る炎がひび割れたアスファルトから噴き上がり、学園の生徒もそうでない一般市民も等しく『根』から逃げ惑っている。異能のあるなしでは太刀打ちできるレベルではない、文字通りの天変地異が迫ってきているのだ。
「ユイ、ルゥ、カナミは各自で樹を撃破。トリリアは俺と一緒に上空から状況を把握しよう。まだここは学園の外周部だ。混乱は中まで広がっているだろうからな」
「了解ですわ!」
「わかりました!」
「あいよォ!」
散開する三人を見送って、引き続きトリリアと共に飛行して奥に進む。
ところどころ襲いかかってくる樹を防ぎつつ、たどり着いた学園正門付近で、思わぬ人物に出くわした。
「みんなこっちだよ! 急いで逃げて!」
「慌てないで、さっさと行きなさい!」
「友里!? テッサ!?」
桃色の竜巻と真紅の一撃が、樹の根を一蹴する。撃ち漏らされた根を〈ウィアルクス〉で切り裂き、二人に並び立つ。
「来てくれたんだね、カズくんっ」
「よく来たわね! 加勢なさい!」
「二人ともどうしてここに?」
「突然ヘンな根っこが現れたから、皆んなを避難させていたの!」
なるほど。少し話せていない間に、友里の中では心境の変化があったらしい。しかも良い方向に。そして見る限り、それはテッサのおかげでもあるのだろう。
「ありがとうな、テッサ」
「な、なにを急にお礼なんて言ってるのかしらこの地球人はっ」
「はいはい、テッサちゃんは照れてないでねー。今はこれをどうにかするよ!」
そうだ。原因をどうにかすれば、自ずとこの現象も収まるはず。
「この樹の根は生徒会長が呼び出しているものなんだ。二人とも、あの人を見かけていないか?」
「生徒会長さんが…? ううん、見てないよっ。けど、生徒会の人たちが中央校舎に向かうのは見かけたかも」
「なるほどな…。サンキュー、友里! テッサと一緒に引き続きここを頼めるか?」
「もちろんだよっ!」
元気のいい返事に感謝しつつ、わずかな手がかりではあるが、トリリアと共に〈ユニベルシア〉中央校舎に急行した。
「うげ。メンゴ、カズマっち! ここから先は魔力っつーか力の波が渦巻いてて飛行魔法は使えないじゃんね…。なんなら、ウチもここまでかも!」
トリリアがそう言うほどなのか…。魔力を視ることができない俺では窺い知れないけれど、それほどの事が校舎内で起こっているのだろうか。
入り口付近の見張りを頼んで、俺一人で中へ突入する。幸い、中央校舎内はほとんど荒れた様子もなく楽に進めた。しかし人の気配はどこにもない。
「みんな避難したのなら良いんだけどな…。ん?」
何気なく前を通り過ぎようとした一室。たまたま滑らせて視線が捉えたのは、ギョッとするような光景だった。
「なっ……なんだアレ」
中央に据えられた巨大立方体型のオブジェクト。その内から次々に姿を表す巨大な機械兵士。人間の身の丈を悠に越えるサイズだ。というか、ソレは兵器なのだろうか。動きこそぎこちないものの、各種個性があるかのように室内に整列している。
「おんやおや、客人ですかあ?」
「しまっ…ぐ…」
覗き込む姿勢だったせいで後ろに立たれた気配に気づかなかった。
生徒会のメンバーなのだろうか、腕章を着けた屈強な、角が生えているところを見るに鬼族の大男に部屋の中へ蹴り込まれる。
「これはこれは、貴重な地球人殿じゃあないですか。ようこそ、新辰一真君」
「あんたは…」
声をかけてきた女性には見覚えがあった。ふんわりタレ目の奥の妖しい眼光。小柄なのにハッキリしたボディライン。以前、生徒会長室ですれ違ったことがある。確か。
「生徒会書記の…
「ほう。よく覚えていてくれましたねえ、一真君。それでなんの御用ですう?」
「しらばっくれるなよ。そのデカい立方体はなんなんだ? それと、生徒会長の居場所を知っているなら教えてくれ」
「ふっふふふ。知ってどうするのですかあ?」
小雪書記は、明らかにとぼけている。間違いない。会長と彼らはグルだ。
「…そっちがその気なら、こっちも遠慮はしないぞ。時間がないんだ」
「この状況でなにをする、とお?」
「こうするんだよ!!」
這いつくばった姿勢から『加速』のスキルで前に飛び出す。狙いは立方体。
発生源を潰して、まずはここでの企みを止める!
「ザンネンねえ」
「!?」
だが突き出した白剣〈ウィアルクス〉は、一ミリも表面を傷つけることなく空を切った。反動を殺さずに転がるしかできない俺に対し、小雪書記がタレ目の奥の光を輝かせながら、その掌の内にムチを呼び出した。
どういう理屈か異能かわからないが、走り出した俺の体は立方体とは真逆の方へ向いていた。
「ふふふふふ! この子たち、
「あの人?」
疑問を解く暇も与えられない。
小雪と鬼族の男、さらに複数の機械兵士が迫り来る。まずはこの場を脱さなければ。
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