第48界 いざゴーストバスターへ
「テッサの兄さん…!?」
「そうそう。ちなみに僕も三年生さ。妹と歳が離れすぎているとはいえ驚きすぎだぞ、新辰くん。しかし…いやはやテッサがご執心なのも頷ける。なかなかいいよ君」
金髪不良感のあるクリムゾは愉快そうに笑っている。それを横で不機嫌そうに睨んでるグレ子、もといグレゴリア。
なんだか愉快なコンビ感が否めない二人だが、クリムゾからもただならぬ気配が漂っている。普段滅多に絡まない上級生ということもあって、なんだかやりにくいな。
「さてと。あと数人のメンバーがまだ来ていないようだけど、顔合わせも済んだところで実力を確認するとしようか」
「実力? また戦おうっていうんですか」
「いやいや。そんな不毛なことはしないさ。予行演習とでもいうのかな、学園の裏山付近で最近、悪霊の目撃報告があってね。それをまずは倒しておこうということさ」
なんと。〈ユニベルシア〉の外に全然出ていないから知らなかった。思えば、こんな超常が集まる場所が存在しているということは、周囲への影響もそれなりにあるのかもしれない。
「ウダウダやってねえで、早くその悪霊とかいうのをぶっ倒しに行こうぜ」
「待ちなさい狼女。先輩方、わたくしたち異世界人が学園の外に出ても大丈夫ですの? こちらの為政者がうるさいのではなくて?」
ユイの懸念も当然だ。変に目立って、印象が悪くなるのは困る。ただでさえ、この前の〈ラーティティア〉での天使戦で世間の目がこちらに向いているわけだし。
「その心配はないよ、精霊族のお嬢さん。裏山や周囲の街の一部は、この学園が管理しているからね。ご家族が住われているエリアと同じさ。さぁ行こうか」
そういえば、この学園の敷地ってかなりの広さがあるんだっけか。一般の街も含まれているってのは初耳だけど、さすがの規模だな。
「ふむ…もうすぐ着くよ。皆、準備をしてくれ」
「え、けどまだ入り口じゃ…」
「思っていた以上に活性化しているようだね。ほら、来るよ」
クリムゾがそう告げると、雑木林の隅々から黒い靄のような霊体が大量に噴き出した。一体一体が、核のような物を持っているらしく、それを囲うように不定形の負のオーラが蠢いている。
「〈ウィアルクス〉!」
「燃やし尽くしなさい、精霊術・火牙!!」
俺とユイが切り込む。吹き散らされた靄を、横合いから突っ込んできたホナタの嵐を纏った爪が更に切り刻む。だが倒すには至らない。依然として、悪霊は負のオーラ全開で襲いかかってくる。
「だぁからヨォ、やるなら初手全力だっつってんだろォがあ!!」
グレゴリアの両腕に激しいエネルギーの火花が咲く。空間を震わせているのは超圧縮された純粋魔力。魔族が持つ特性、体内での魔力生成を使った絶技。
「
勢いよく爆ぜた雷の奔流が渦を巻くように周囲に放たれ、霊体を核ごと破壊し尽くした。霊を構築するエネルギー体が焦げる匂いが充満する中、クリムゾも涼やかな笑みを崩さずに自身の腕を指揮者のように振るう。
「僕も本気をお見せしよう。少しだけ、ね。――― 来たまえ、我が『
空間が歪み、クリムゾの背後から巨大な紅の機械爪が現れる。トリリアの操る『箒』と同種の武器だろうか。それにしても質量の圧の桁が違う。
「薙ぎ払え、“魔心戴王” ミヒャーネッシュ=ケーニッヒ」
縦横無尽に繰り出された大爪が霊体を次々に握りつぶし、切り裂いていく。グレゴリアに勝るとも劣らない、圧倒的なパワーだ。
「ふむ。まずはこんなものかな」
「す、すごいですわね…」
「だぁからよォ、言ってんだろうがヒヨッコども。初手全力だァ。小手調べなんざできる実力もねぇんだからナ」
「ぐ…」
そう言われても仕方がない。納得できるだけの力量差がある。さすが上級生といったところか。
「新辰くん。君なら、彼女らの力を底上げすることができるはずだ。やって見せてくれ」
「底上げ?」
「テッサの力を借り受けているだろう、君は?」
クリムゾの言う通りだ。〈ウィアルクス〉に宿っているみんなの力の中には、テッサの『契約』も含まれている。だとすれば、あの力も使えるのだろうか。
などと考えている間にも、森の奥から一層数を増やした悪霊が湧き出てきた。考えている暇はないらしい。
異能の発動をイメージし、〈ウィアルクス〉を通して実行する。
――― スキル『契約』、発動。
「
〈ウィアルクス〉の柄から光の軌跡が伸び、二人の体に吸い込まれる。テッサの持つ強制力を借り受けて発動する強化術を受けたことで、身体能力や異能が大幅に強化されるのだ。
「行きますわよ、お望み通り全力全開ですわ!」
「駆け抜けるぜ!!」
出力が跳ね上がった紅蓮と新緑が、炎と嵐の螺旋となって霊体の群れを呑み込んだ。大爆発とともに森の入り口が切り開かれる。
「なんだよこれ……」
うっそうと生い茂っていた草木が消えた跡には、巨大なアーチ状の『門』が屹立していた。しかもただの建築物ではない。
純粋な物体というよりも、不可視のエネルギーの膜を帯びて、この世ならざる雰囲気を持っている。明らかに地球の物じゃない。
「あらら。これはこれは。やぶ蛇というか、嫌なものを引き当ててしまったか…?」
「これが何か知っているんですか、先輩」
「ああ。僕らの世界では当たり前に現れる物さ。地球でお目にかかるとはね」
その名を、意味がわかる者なら卒倒しそうな情報を、クリムゾはさらっと、こともなげに口にした。
「〈クリプト=ポルタ〉。あの世とこの世を繋げるもの。ある種、〈オービス=ポルタ〉と対をなす『門』といったところだな」
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