第27界 学園祭はまだ終わらない (後編)
いよいよ祭が終わる。色々あった学園祭だが、ひとまずはフィナーレ、最終日となった。
俺とユイ、ホナタなどのいつものメンバーは、カナミに呼ばれて闘技場に集まっていた。なんとなく理由は察しがつくけど、乗り気ではない俺だ。
「うーん、これってやっぱり、“決着”をつけようってことだよなぁ」
「十中八九、そうですわね。わたくしは望むところですわよ。不完全燃焼でしたから」
「お前が言うと、ガチだな…」
体から熱気を放つユイから少し距離を取りつつ、傍に立つホナタの闘気 (物理) も感じられて、気後れする。うーん、本当にバトルとなると退かないなぁ、二人とも…。ユイに関しては、バトルロイヤル開始前の“宣言”が脳裏をよぎるし。
「いい機会かもしれません。私たち皆の戦闘技術を確かめることもできますよ」
「だけどさ、ルゥ。バトルロイヤルみたいな乱戦だと、それも難しくないか? 昔、師匠に言われたぞ」
「肯定。故に導出される結論は、チーム対抗戦…」
「ご名答だよ、機人サマ。ウチが提案するのは、まさにそれだ」
闘技場の入り口が重々しく開いて、カナミがハルバードを肩に担ぎながら現れる。事務処理やらで疲れもたまっているだろうに、相変わらずな気合の入りっぷりだ。
「二つのチームに分かれて、まぁ、いうなりゃエキシビジョンマッチってやつだなぁ。そいつをやってもらう感じさ」
「勝ったチームが今回の優勝なのか?」
「ああ。だから、正直おまえさんは参加しない方がいいと思ったんだがなぁ。他のメンツがそれを望んだからよ」
ふむ。となると、俺の立ち位置って自然と決まってくるよな。ここに集められたメンバーで、明らかに俺と同じくここにいる自分を場違いだと言いたげな人間がいる。チーム戦ということは…。
「だから、ウチ、ユイ、ホナタ、ルゥの四名 VS 一真、ファイブ、テッサリア、コスモスの四名での対抗戦とさせてもらうよ」
「おや?」
最後のは聞き慣れない名前だ。誰だろうと見渡すと、隅の方に和装の美人がいた。切れ長の目に、年季の入った雰囲気、肩からは大太刀を提げている。誰かに似ている気がするが、誰だったか…。それに、トーナメントの参加者にあんなやついただろうか?
「初めましてだな。俺はコスモス。
淡白に自己紹介を終えたコスモスは、後は興味無しと言わんばかりに口を閉じた。
うーむ、なかなか無愛想なやつだな。
「さぁて。顔合わせも済んだことだし、いっちょお始めようか。ウチらの決勝戦を!」
「そうだな…。本来の形とは違うけど、しっかりフィナーレを迎えようぜ」
「ああ。というわけで、特設会場に変形!!」
「へ?」
指をパチンと鳴らすカナミ。すると、闘技場全体が揺れだし、周囲の観客席が大きく変形して、開けたフィールドとなった。
どうやら、これが特設会場らしい。
「頑張って~、ユイちゃ~ん!」
「さぁて、成長を見せてもらおうかホナタ!」
周りにいるのは、ユイの姉のイチさんや、ホナタの親父さんのネメアム王など、多くの大人たちや、《ユニベルシア》の学生たちだ。種族や年齢の垣根を越えて、大勢がこのエキシビジョンマッチを観に来てくれたらしい。大いに盛り上がっているそちらに応えるように、準備は整う。
祭りの最後を締めくくるバトルが始まる。
開幕の一撃は、ホナタ。雄たけびと同時に繰り出される暴風がフィールドを奔り、上手いこと分断されかけるが。
「〈量子武装〉展開。“マキナアイギス”」
「チッ、よくわかんねぇ防ぎ方で!」
「どいてなさい、狼娘。わたくしがぶち抜きますわ!」
「なら、ウチも!」
ファイブが起動させた不可視の盾が暴風を散らし、そこを好機と見て、ユイの火弾、カナミの水流刃が飛んでくる。
それを、俺の〈ウィアルクス〉が発動した能力無効で打ち消す。示し合わせたわけではないのに、コスモスが脇を駆け抜けて、目にも止まらぬ速さで大太刀を叩き込む。カナミが、さすがの反応速度で大太刀をいなしたが、体勢を崩す。
僅かに空いた空間を、テッサが呼んだコウモリの大群が強引に薙ぎ払い、仕切り直し。
「さすがに容赦がないな、お前ら…!」
「当然ですわ。まだまだ、こんなものではありませんわよ! おいでなさい、霊従器 《阿吽》!」
ユイの双銃が弾丸に込められた熱を解放する。複数の火線が降り注ぎ、場が一瞬で灼熱地獄に。そんな炎の壁を潜り抜けて、レーザービームのように飛来するのは。
「蹴り抜きます…!!」
「ルゥか! なら、こっちも!」
《accept. SKILL,『RAPID』》
『跳躍』の力同士がぶつかり、衝撃波が巻き起こる。強力な蹴りと斬撃が拮抗し、数秒遅れて弾き合う。後ずさったところに、予知したように構えていたコスモスが背中を支えてくれる。即席のチームながら連携できているのは、彼女(彼?)の為せる技だろう。入れ替わりで、ファイブと共にコスモスの攻撃が、ユイたちのチームにダメージを刻んでいく。防ごうとも、ランキングバトル形式のこの戦いだと、数値的ダメージが入る。コスモスの狙いはそこなのだろう。ヒット&アウェイを繰り返している。
「ええい、ちょこまかとうっとおしいですわ…。狼娘、癪ですが、力をお貸しなさい!」
「ヘッ、しゃーねぇな!!」
ユイとホナタが前に出る。二人の掌、銃口から、力の奔流が溢れ出し、重なる。
紅蓮の『炎』と新緑の『嵐』の爆発。とはいえ、息があってるのかあってないのか、ギリギリのところで力がせめぎあう。バラバラのコンビネーション、それでいて、確かな技となって。
「精霊術・亜業!」
「ぶちかましやがれ!!」
「「“
僅かな力の拮抗が、奇跡的に一つの塊となって放たれた。火の精霊がもたらした息吹にして、獣の王が研いだ牙の一撃。フィールドを激しく抉り、立ちはだかる全てを呑み込もうと荒ぶる。
「そっちがそう来るなら、俺だって…!」
《accept. SKILL UNION, 『STREAM』『TEMPEST』》
複数の
「
通常。炎と水が重なり合えば、水蒸気爆発が起きる。今回も当然、そうなった。観客席まで覆うほどの蒸気の塊が両チームを隔て、そして。
蒸気の幕を切り裂いて、ルゥとカナミが突貫。蹴りと槍、二条の線が強烈な重さを伴う。剣の腹で受け止めるも、勢いに負けて吹き飛び、ファイブに受け止められる。
「お前らも息ぴったりだな!?」
純粋に嬉しいと思う。たまたま知り合った友達同士が、こうして一緒に肩を並べていることに胸が熱くなるのは感傷的すぎるだろうか。いや、それならこちらも。
「テッサ、一つ訊きたいんだけどさ」
「なに?」
「お前の『契約』って、操るだけじゃなくて催眠術みたいなことできたりしないか? あなたは強くなーる的な」
「は、はぁ? ……で、できるけど。やってほしいのかしら」
躊躇いを瞳に色濃く表しながら、テッサがうつむく。
他人に『契約』を使うことを、本当はいけないことだと思っていたのだろうか。だけど、もしそこに信頼があれば、新しい可能性になるはずだ。だって、人との繋がりなんて、そういう試行錯誤の繰り返しなんだから。
「おう。俺に『契約』を掛けてくれ。一泡ふかせてやろうぜ!」
「……わかった。後悔しないでよね! ―― “
テッサの瞳が朱い煌めきを発し、俺の体に不思議な感覚が宿る。自分以外の力が満ちていき、感覚が研ぎ澄まされてゆく。暖かく、こちらを思いやるような思念。併せて、《ウィアルクス》が新しいスキルの発現とその使い方を伝達。
《new SKILL, 『CONTRACT』, Re:load》
――――
「これが、今の俺の全力全開ッ」
「うげ」
「アレはまずくないかしら…?」
「ハッ、いいぜぇ、カズマ! こいよォ!!」
「保健室行きだけは避けないとですね……」
白の刀身から迸った虹の燐光が、数多の瞬きを発しては吸い込む。光の刃が空に届かんばかりに急激に伸び、力を収束させていく。
《『TEMPEST』『BRAZE』『MAGIC』『GLOW』『CRAFT』『STREAM』『CONTRACT』... SKILL UNION full burst.》
――――
張り詰めた波動が臨界点を突破、空間ごと切り裂く閃刃が振り下ろされる。
真一文字に引かれた境界を中心に光の柱が顕現し、フィールドにいた八人全員まとめて巻き込み、一瞬で吹き飛ばした。
後に残ったのは、八人それぞれの爆笑、苦笑、微笑み、呆れ声、叫び声。今を生きている実感を胸に、彼らの
「ええ、ええ…。今はそれで構いませんよ。今は、ね」
埋もれんばかりの歓声が立ち昇る特設フィールドの外周部で、菊世は、そんな彼らに向けていた視線をそっとずらした。
来るべき必然と運命の訪れを、ひしひしと感じ取りつつ。
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