第64界 乗り越えるべき壁
足元に激しい振動を感じた。階下にいるはずのホナタだろうか。あいつなら大丈夫だと思うが、心配にはなる。
「まったく。こんな時までも他人の心配かい?」
「友達が心配になったら悪いかよ」
「肝心な時に隣にいない友人のことが?」
「みんな、この状況をどうにかしようと頑張ってくれてるんだ。俺もあいつらの信頼に応えて、あんたを止めないとな」
俺の返答に、
「まだそんな事を言っているのか。君はつくづく愚かだねぇ。いつまで夢物語を信じているつもりなんだよ」
「夢物語?」
「そうさ。異なる世界の人間と仲良くなれるだなんてね。価値観も文化も生まれも違う彼ら、僕たちとは全く異なる進み方をした世界の住人と真に理解し合えると本気で思ってるのかい?」
師匠の言うこともわかる。俺だって〈ユニベルシア〉に入学するまでは、
けど、違った。みんな一人一人が悩んで、泣いて、怒って、笑って懸命に生きている。俺たち地球人と何も違わないんだ。個人の差異は当たり前でも、決して心の通わない化け物なんかじゃない。
「だから、俺はあいつらと明日も一緒に生きていく。その邪魔はさせない!!」
「いいや。このルートのこの星はここで終わりだ。そしてこの宇宙、平行銀河もね」
白刀と黒剣をゆっくりと構える師匠に対し、こちらも〈ウィアルクス〉を中段に据えて柄を握る手に力を籠める。
張り詰めた空気を最初に破ったのは、師匠の方だった。
「――― “
「!」
数メートル以上離れていたはずの姿が、瞬間移動のような速さで目の前に迫る。
真下からすくい上げるような一撃を、なんとか〈ウィアルクス〉で受け止めた。体が浮き上がりそうな程の衝撃に、なんとか足を踏ん張って耐える。
「くっ…、
向こうが高速移動で来るなら、こちらも対抗しなければ。
ルゥの『跳躍』の急加速に慣れてきたことで連続で発動することもできるようになっている。師匠の周りをジグザグに跳び回りながら、攻撃のチャンスを伺う。
「直線的な動きじゃあない。良い判断だ、馬鹿弟子くん。けどまだ足りないよ」
何かするつもりか。琉香の余裕は崩れない。
なら、ホナタの『嵐』を『跳躍』に乗せて叩き込む!
「
「足りないと言ったろう? 隙を読むのがまだ下手だ。――― “
「ッッッ」
斬りかかった瞬間に合わせて琉香の周囲から、俺の操る『嵐』を上回るスピードの烈風が吹き荒れた。高圧縮された風の塊が炸裂するや否や、俺の体を刃が切り裂き、弾き飛ばした。
樹木の足場から放り出されそうになるが、刃を突き立ててどうにか留まる。
「やっぱり強いな師匠…!」
「君が弱すぎると言ったはずだよな、馬鹿弟子君。借り物の力に振り回される段階は過ぎたようだが、応用力がまだまだ。そんなことでは僕には届かない、到底及ばない」
「だと、しても!!」
立ち止まらないと決めたから。
呼吸を整え、〈ウィアルクス〉に宿っている力に意識を集中する。今までの学園生活の中でできた友人たちから受け取ったスキルは全部で九つ。その全てにアクセスして、一時の技としてでなく常時発動できる状態、天思〈ハーゲンティ〉戦の時の
「行くぞ、〈ウィアルクス〉!!」
『ALL SKILL, accepted. CHAIN to victory. ――― Go your way!』
あらゆる困難を切り裂く為に少年が手にした聖剣は、主の望む完全無欠の結末を呼び込むべく、二度目の最適化を果たす。
白銀の装甲と、その継ぎ目を走る虹光に、手足と胴体が覆われる。漲る力をそのまま背部のスラスターから放出して、一気に前に飛び出した。
「その姿…っ! 君は、自分がなにをしてるのかわかっているのか!」
「さあな。でも、今はアンタをぶっ飛ばせれば十分だ!」
「この大馬鹿者め…!!」
琉香が再び暴れ狂う風刃を乱舞するが、虹光のヴェールを腕から展開して、その
懐に潜り、振りかぶった右拳を全力で叩き込む。それに合わせて琉香も黒いスパークを纏わせた拳を繰り出してくる。
「アストラル・インパクト!」
「“
虹光と黒雷がぶつかり合って衝撃波がまき散らされる。
なぜか焦っている琉香だが、依然として技の威力は絶大だ。この状態で殴り合ってなお拮抗している。いやエネルギーの放出量では向こうが上か。
けど、俺も黙ってやられているわけじゃない。込めた一撃に『跳躍』を潜ませて、ルゥから教えてもらった遠当ての要領で衝撃波の中に二段目の攻撃を通す。
「ぐ、地味に器用な真似を…」
バックステップで衝撃を受け流す琉香。
しかしダメージは入っているはずだ、逃がさない!
「うおおおおおお!」
もう一歩続けて無理矢理踏み込む。鎧中に流れるエネルギーの奔流を右腕の籠手部分に集中させ、言ノ葉を紡ぐ。
「天の星は遍く可能性…。一が集いて全を超える。明日に繋げ、無限大の虹!
白光を下地に数多の色彩が宿り、高らかな音を響かせて澄み渡る “虹” の奔流を拳にまとう。全身全霊の一撃をただ真っ直ぐに放つ。
「可能性可能性と、馬鹿の一つ覚えみたいに! …其は全ての可能性を否定する闇。零へと還り全を始まりへ。
景色を歪ませるほどの “闇” が荒れ狂い、琉香の左拳に乗せられて打ち出された。
相剋する同質同位相の白と黒。まるで互いの意思を表すように一歩も譲ることもなく、その場で相手を相殺し続けていく。
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