第65界 明かされる真実の一つ
拮抗の中で、すぐ目の前に師匠の顔が見える。強い意志と激しい後悔が、その瞳に映っている。
これは師匠の感情か、それとも俺の感情なのだろうか。
「なぜわからない、馬鹿弟子君。この世界はもうぐちゃぐちゃに汚れてしまっている。ならば、一度全て浄化せねばならない。全てを黒に沈め、やり直すんだ!!」
「そんなことしたって過去は変わらない、無くなった物は戻らないだろ!」
「だから同じ悲劇を起こさないようにしようというんだ!」
琉香の激しい気迫にわずかに押し込まれる。
彼女にも彼女の戦う理由があって、その覚悟の度合いは生半可ではないのだろう。
「確かに悲劇だったし、大勢が悲しんだ。だけどそれを乗り越えてみんな生きてるんだろうが! なのに、一人勝手に絶望を持ち越して終わらせようだなんてふざけるな!!」
力の衝突に押し負けそうになる拳を再び握りしめる。絶対にここは譲れないという想いを込めて。
「わかっていないよ、君は。いや君こそはわかっていなければならない。この星の苦しみと嘆きを!」
「…? どういう意味だよ」
琉香が大きく後退する。勢い余って前のめりにこけてしまった。
苦虫を噛み潰したような顔がこちらを見つめてくる。一体なんなんだ。
「君はどうして自分が聖剣に選ばれたか、分かっているかい?」
「〈ウィアルクス〉に、選ばれた理由…」
あの時はルゥを助けるため無我夢中で戦う中で意識していなかったが、思えば確かに、都合よくこの剣が落ちていたのはどういうことだったのだろう。
アレは、俺が剣を選んだのではなく、剣が俺を選んだ…?
「その剱、白き聖剣はこの星が生み出した鍵。いわば安全装置のようなものさ。多数の並行銀河と繋がったこの地球を守るために、いざという時には『門』を閉じる為のね」
「開けるためじゃなくて、閉じるため…」
「ああ。だが、その権能を振るうには、各世界の力と使い手がリンクする必要がある。『鍵』として覚醒させた暁には、使い手は世界を操る能力を得るというわけだ」
琉香はそれが素晴らしいものであるという口調でありながら、心の底からの嫌悪を隠さない。目に確かな意思が輝いている。
「そんな力、俺は望んでいないぞ」
「いいや君が望んだのさ。諦めない諦めないと言い続け、多くの異世界人と縁を結んだ。その結果、世界の鍵は成った。君も使い手として覚醒してしまった。もう止められない、その力を僕は奪い世界を閉ざす!」
圧倒的な覇気が彼我の距離を無視して届く。眼前に立つ超常に、体の震えが止まらない。けれど立ち止まる事はできない。
みんなのために、世界のために。そして何より自分のために!
「…なぜだい、馬鹿弟子君」
「俺がやりたいことなんだ。師匠がやりたいことがそれだって言うなら、真正面からそれを止めてみせる!」
「本当にワガママな子だよ、君は! ならば全霊を以て僕は僕の願いを貫かせてもらおう!!」
「ああ。来いよ師匠! ぶっ飛ばしてやる!!」
疲れが出始めている手足に再び力を込める。覚悟に応えてくれるかのように虹のオーラが迸る。
一瞬で飛び込んでくる琉香。
「スキル、『
「
反発する属性を同時に放ち、発生した水蒸気爆発の槍を叩き込む。腹部に直撃させてそのまま前に出る。
「調子にっ…乗らないことだよ!」
蒸気の膜を切り裂いて襲ってくる金剛の杭を、鋼の防壁で防ぐ。相殺された勢いの向こうから、続けて紫電の衝撃波が駆け抜けてくる。
「ぐ…!」
〈ウィアルクス〉の刃の腹で受けるが、止めきれずに吹き飛ばされた。骨の芯まで痺れさせる電流に動けなくなる。
「渡してもらうよ。世界の『鍵』を!」
「断る、ッ」
体を仰向けに倒して放たれた斬撃を辛うじて避ける。そのまま左足を振り上げて、跳躍しつつ琉香の引き締まった肉体を蹴り飛ばす。
すかさず光の槍を叩き込むも、剣で打ち払われる。これは予想通り。〈ウィアルクス〉をボウガンモードに変えて、自己強化した膂力で弦を引き絞る。
「
駆け抜けた一条の光がかざされた刀と剣をまとめて砕き落す。琉香の体中を守るように漂っていた力の渦が、かすかに揺らぎ崩れる。
チャンスはここ!!
「もっと…もっと力を貸してくれ、〈ウィアルクス〉!」
『All light. ―――Go your way!!!』
あふれ出るエネルギーを右手に収束させる。あらゆる物より硬く、あらゆる物より鋭い。全てを断ち切る巨大な『剣』が顕現した。
空に届かんばかりにそびえ立つ白光の刃の一閃を、裂帛の気合いを乗せて両手で振り下ろした。
「切り拓け、―――
空間から音が消える。刃に触れた全てが絶たれ、しかしその
きっと、琉香はこの一撃を受け止めれたはずだと思う。先ほど同様に拮抗しただろう。
だがそうはしなかったし、ならなかった。
「え……………?」
ズッ、と何一つの抵抗なく斬撃が琉香の体を斬り裂く。
テーブル状に広がる樹木の足場をわずかに削って聖剣が止まる。
琉香の体から血はこぼれていない。だが、明らかに力の気配が消え失せている。
「なん、で」
「嘆くことはないのさ馬鹿弟子君。これも僕の企みの一つ…………。君なら、僕の "躰" を傷付けることができると信じていた…。これが最後のピース…。アァ……世界を掴みたまえ。…………僕の最愛の息子よ」
発せられた言葉はハッキリと耳に届いた。だけど、意味を理解できない。
力なく倒れ伏せていく琉香の姿が、現実感を置き去りにしたまま、視界に焼きついていく。
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