第66界 新たなる辰の始まり
なにが起きたのか、わからない。
頭の奥で嫌な音がジーンと鳴り続けている。
「師匠…?」
俺が
「師匠が、俺の母さん…?」
あり得ない。だって俺の両親はかつての戦争で死んでしまったんだ。天涯孤独になった俺を拾ってくれたのが師匠のはずだ。
「“ついニ、この時が来たカ。待っていたゾ。神が死ぬ、その時ヲ”」
「この声…」
ノイズにまみれた声。魔力を帯びた圧が大気を軋ませる。振り返るとそこにいたのは、黒く澱み濁った闇の集合体。姿は初めて見るが、以前クリムゾ先輩たちと遭遇した魔神で間違いない。
「魔神……」
「“感謝するゾ、人ノ子。これで新しキ神と、古キ神。二柱とモ倒レタ。我ガ悲願、計画はここニ成就スル…!”」
恍惚の色に声を震わせながら、横たわっている菊世と琉香に闇が手を伸ばす。
「止めろ。なにをするつもりだよ」
「“己ヲ生み出シタ者が、心配カ。だガもうココニ意思ハない。あるノはタダの器。純粋ナ神ノ力だ”」
「師匠はまだ死んでない。死なせてたまるか!」
「“斬っタのハ貴様デアロウ。そシて案ズルな、神が死ヌことモなイ。たダ消えルのミだ”」
神…? 師匠が母さんで、神さま…?
もう頭が混乱してなにがなんだかわからない。なにを信じれば良いんだ。今すぐ目の前の存在を止めなければならないはずなのに、足が動かない、拳を握れない。
「“貴様モ用済ミとナッた。安らカに滅ぶガ良い。人ノ子”」
「っ……!?」
魔神が左腕らしき部位をゆらりと掲げる。ただそれだけで、空全体を包む濃密な闇が降り注ぎ、防御が間に合わず殴り飛ばされる。
意識が、沈む。抗うことすら許さない暴力の渦に飲み込まれながら視界が暗転した。
◯●◯●◯●◯
「なんですのっ、アレは……!」
樹の龍を倒した後、中央校舎に向かっていたユイ達もその異常を確認していた。
そびえ立つ樹の天蓋を中心として、紫電と黒雷が轟いている。と同時に視界全体を呑み込もうとする暗黒がそこから全方位に伸びていく。
「気持ちの良いものではないですわね……」
「おい、火の玉女!」
突然、ホナタが行く手に降って湧いてきた。
「あら狼娘。カズマさんはそちらにいないんですの?」
「おう、会長を追って行っちまったぜ。オレも敵をブッ飛ばしたから追いかけようとしたら、急にあの建物から弾き出されちまった」
「観たところ、あの場所はすでに異界となり始めていますわ。カズマさんは大丈夫かしら…」
それにこのイヤな気配。あの広がり続ける闇は、
「ヤバい、みんな! 学園内の魔力値がどんどん下がってくじゃん!? これって、どんどん世界が消えかけてるってことじゃんよ!?」
「なんですって???」
世界が消える。この場合の世界とは、文字通り地球そのものという意味か。それを実行しているのは、あの暗黒を操っている何者か。だがそんな埒外の異能、どんな世界にも属さない。
「カズマさんの安否が心配ですわ。早く向かいましょう!」
「“それニは能ワズ。貴様ラもココで滅ブのだカら。新タな時代にハ不要故”」
「「「!」」」
中央校舎の方に位置していたはずの強大な力の権化が、いつの間にか目の前に迫っていた。背筋を凍らせる
「貴女は何者ですの?」
「ソイツは魔の神、遥か太古にこの星に飛来した異なる理で動くバケモノだ」
混乱した状況に更なる乱入者現る。
「次から次へと! 今度は誰なんですの! …あら、確か高等部の先輩でしたわね」
「覚えていてくれて嬉しいよ、鞠灯ユイ」
「に、兄さま!?」
「やあ。テッサも良く頑張っているみたいだね」
魔神と称された存在との間に割り込んできたのは、眩しい金髪にルビーの瞳を持ち、魔力を帯びた『腕』を脇に滞空させた青年。
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