第14界 それは金色に耀く
「《ウィアルクス》、モード:ツインソード!」
「おいでなさい、霊従器 《阿吽》!」
白き
一真とユイ、二人の戦いは、初手から激しいぶつかり合いだった。ルゥら四人に見守られる中、刃と弾、光と熱が想いを言葉以上に雄弁に語り合わせる。体術、剣術、銃術、互いの持つ全てで唾競り合っていた。
ユイの足から放たれる蹴りを右の剣で受け止め、左の返す刃を空いた胴に突き込む。それは銃身に弾かれる。すぐさま突風を割り込ませて、距離を取った。
「本当に諦めの悪い…! もう一度問いますわよ、新辰一真。あなたは、どうしてそこまでしますの? 他人のことなど、世界のことなど放っておいて、のんびり暮らすことだって、あなたにはできるはずですのに」
「言ったはずだぜ。諦めたくないと。俺は、自分にできる全てをやり切るまで、前に進み続ける。確かに、難しいことはわからないけどさ。ただ単に、俺は嫌なんだよ。困ったり、苦しんだり、悲しんでるやつを見過ごすのは!」
「…………やはり、大馬鹿者ですわね」
鞠灯ユイはここに来て薄々、確信しつつあった。目の前の馬鹿男は決して止まらない。自分と同じか、それ以上の覚悟を胸に秘めて、こんな生き方を選んでいる。詳しい事情なんて、それこそ窺い知れない。
世界は複雑だ。今は特に、数多の異世界が重なり、権謀術数や思惑が絡み合う。その中で、彼のような純真さを保つのは難しいとよくわかっている。
(けれど…)
もしこの男、新辰一真がそんなややこしさを全て打ち砕いてくれるなら。それが可能というのならば、自分は。
「…ふふっ、よく理解できましたわ。ならば、この一戦を試金石にして差し上げます。わたくしを止めて、この学園を手始めに救っておみせなさい!」
「言われるまでもないさ! てか、やっぱりユイは笑顔が似合うよな」
「なっ…、よくもそんな恥ずかしい事が言えますわね!?」
火照っている己の顔を隠しつつ、ユイは返事の代わりに弾幕を張る。
片や、それに刃の乱舞を返す一真の方は、ユイの戦闘技術や気迫に目を丸くしていた。
(ほんとに困るくらい、強い…!)
戦闘能力的には、ホナタといい勝負をするんじゃないだろうか。勝てるかどうか、非常に怪しい。
(だけど…)
笑ってくれた。彼女の真っ直ぐな情熱、加減を間違えれば自らも傷つけて燃やしてしまいそうな『炎』の笑顔。危なかっしくて、見てられなくて、けれどその心根の真っ直ぐさが滲んでいる。あの顔ができるのなら、もう心配ないはずだ。
この笑顔に報いなければならない。
所詮は思い込み、主観が見せている幻なのかもしれない。でもそう感じた心は、きっと自分の物だ。それを嘘にしたくはないから。
「っと、いい加減終わりにしませんこと! しつこい男は嫌われますわよ?」
「ああ…そうだな!」
背中から迸らせていた紅蓮の翼を羽ばたかせて、ユイが突っ込んでくる。全身の拘束具はとっくに燃え落ちていた。残り火をチラつかせていて、炎のドレスのようだ。
ジグザグに動き回るせいで、剣の振り所が掴めない。リーチも活かせない。《ウィアルクス》を双剣から手甲に変形。対抗して、ユイの手元で回転した《阿吽》の銃身が肘までを覆い、トンファーとなる。
激しい打撃の応酬。数度の打ち合い、制したのはユイ。大きく弾き飛ばされた俺に狙いを定めた彼女の二丁銃が連結され、今度はロングカノンに変形した。
「終わらせなさい! 撃ち抜き、焼き尽くすは、我が赫灼。精霊術・奥義 "
紅蓮に染め上げられる視界に映るのは、火柱の尾を引く、灼熱の矢。『炎』が噴き上がり、大気と大地をその熱で抉りながら、真っ直ぐな軌道で暴れ狂う。咄嗟に左掌を翳して受け止める。尋常ではない熱さと推進力に圧されて、左腕全体が爆発しそうだ。
ただし、命の危険は感じない。もちろん本気の攻撃なのだろう。それでも、俺が受け止められるギリギリだ。試されているのかもしれない。
「だっ、たら、応えないとな!!」
《accept. SKILL...『BLAZE』, re:load》
宿すは『炎』。情熱の深紅。
「――
掌に収斂させた『炎』を矢に、右拳に吹き荒れる『嵐』をカタパルトのように操る。大風圧の勢いを得て加速した爆発が、元の軌道をなぞって解き放たれた。炎と炎が拮抗して混ざり合い、中央で光の円環を刻む。
際限なく拡散していく波動は煌めく粒子からなっており、その光景はまるで。
「……空が、金色に……」
誰がつぶやいたのだろうか。天空にまで達した強大な力の衝突は、そのまま静かで優しい幕切れを迎えた。ハラハラと光の粒が舞い散る中、武器を収めて、俺はユイと向き合う。
「あなたの力は、しかと理解しましたわ。よろしければ…、わたくしが、風紀委員のこれからのお仕事を、手伝って差し上げますわよ」
「いいのか? ありがたいけど、危険なことばっかりだぞ」
「そのようなことは、今更ですわね。罪滅ぼしとでも思ってくれれば、結構なのですけれど」
「…そっか。なら、そうしてもらおうかな」
「ええ。差し当たって、これは契約の証ですので、あしからずお願いしますわね?」
「へ?」
ユイがつぅっと、端麗な顔を近づけてくる。頬に、暖かく湿っていながらも、仄かな熱を持った柔らかい感触。
「……!?」
大騒ぎするホナタとルゥ、ニマニマしているトリリア、ほっこりして拍手してるコウを横目にして、何をされたのか徐々に自覚する。遅れて、俺もみっともなく動揺を晒す羽目になるのだった。ユイの悪戯な笑みが心臓に悪い。
そんな彼らの青春と健闘を、何事もなかったかのように、あっけらかんと澄み渡る青空が讃えていた。
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