第◼️界 ◼️■◼️ラ◼️◼️テ◼️の◼️
どことも知れない大きな洞の中、コツコツと硬い足音が大きく反響していた。足音の主からはかすかに機械の駆動音が漏れていることから、種族が
《accept... license confirmation. . . . . . . . . OK.》
内部のエアが抜けて、重い扉が時間をかけて開く。機械的な動作からは想像できないことに、内部は生物的に配置されたパイプが無数にうねる、ある種生々しくグロテスクな空間となっていた。
その中央部、多くのパイプが絡み合い集中する台座のような場所に佇む別の人影があった。ローブを目深にかぶっていて誰か判別はしにくい。そこに最初の人影は……、クラスX-1の生徒、新辰一真のクラスメイトである、ファイブ/555-βは近づいた。
「今回はよくやってくれました、ファイブさん。非常に有益なデータが得られたとともに…、”鍵” はいくつ揃いましたか?」
「返答。出現したキーは二。完成には程遠い。計画の修正を提案。現状では回復不能に陥る」
「言われなくとも把握しておりますよ。ですが、このままで結構です。彼の活躍が広まれば、自ずと計画は加速しますからね」
本当に現状、充分に役割を果たしてくれている。全く大したものだとローブ姿の人物はくつくつと妖しく笑いながら、部屋のスイッチを入れた。簡易照明に照らし出された物体に、ファイブは見覚えがなく首を傾げた。
「それにしても、ユイさんったら。門の解放は全種族の悲願…でしたか。それは全くもってその通りなのですけどねえ」
「……説明を求む。当機は初見」
大空間の暗黒から現れたのは、天井を飾る九枚のステンドグラス。使われている色は、それぞれ、白・灰・黒・青・赤・黄・緑・橙・紫。描かれているのは、様々な異種族が争い、奪い合い、世界が軋んでいる様子。端的に言えば、そういう類の絵画が、古く劣化したガラス片に閉じ込められていた。記録なのか、物語なのか、ファイブに判別はつかない。
「ふふふ、なんだと思います? これは、門が完全に解放した結果訪れるものですよ。黄昏、審判の日等々様々に言い伝えられていると思いますが、要は『終末』のことです」
「ゲート解放の…後に発生する事象…」
「ええ。全世界の融合だなんて。そんな事が起きてしまえば無事でいられるはずがないですよね?」
「不可解。そこまで詳細に把握しているのならば、何故。否、まさか他種族は、この結末を、っ」
本能的に、そんなものが量子ネットワーク内で活動する機人にあるのならばだが、ファイブはローブの人物の側から飛び退った。機械的な思考パターンが警鐘を鳴らしたためだ。何か致命的な企みに加担している、それを理解してしまったが故に。目前の計画に加担すれば、自種族への利益より、不利益の方が大きいと。目の前の人物を放置してはいけないと、そう見えざる心が教えたのだ。
「あらあらぁ、どうされましたか? まさかチキってしまわれたとか?」
「否定。純粋脅威を今、確認。排除を開始する…!」
ファイブの両腕を形作る量子情報が瞬時にパターンを変えて、二門の重厚なキャノン砲となる。充填されていたエネルギーが速射され、ローブ姿の人影を襲う。
「堪え性のない人ですねぇ。いえ、人ではなく機械でしたか。どちらにせよ…煩いですよ?」
「ガッ……」
振り向かない。そうせずとも、光弾は一片の傷を与えることもなく消し飛び、ファイブの体が宙に浮きあがる。大きく太い枝が彼女の体を貫いていた。
植物を人の腕ほどもある太さに一瞬で『成長』させる力。常識を無視して振るわれるその強力な能力故に、上位の存在であることは明白。導き出したローブの人影の正体に驚きながらも、ファイブの意識の接続はここで切れた。
気を失った機人の躯を床に放り出して、人影はローブを脱いだ。しゃらりと肩口から零れた艶やかな長い黒髪を整えながら、学園生徒会長たる匂王館菊世は軽くため息をついた。
「やれやれ、いい協力者だったのですけれど。まあ、いいでしょう。記憶を弄っておけば問題はないのだし。
「まったく、姉さんはどうしてこうも無計画なんだい?」
暗闇の奥から歩いてきた菊世の愛すべき弟、匂王館莇未は常日頃のしかめっ面を殊更に渋くさせながら、ファイブの駆体を担ぎ上げた。
「心外だわ、私ほど計画的な女はいないと思うのだけれども。そう言う貴方は、順調なのかしら?」
「姉さんと違って、充分なデータが集まってきているよ。さすがにこの規模ともなると、協力者は尽きないしね」
その生意気な発言に、こめかみに青筋を立てながらも、優秀な弟を持って嬉しいわと菊世は頷く。
憎たらしい愛弟が去るのを見送って、大空洞の中央部に位置する台座にそっと触れた。すべての始まり。世界を繋げて、壊した、大いなる根源。様々な因縁を生み出してしまった『門』の亡骸である。今は《コル・ポルタ》と呼ばれているこの空の台座を満たすことが、菊世の生きる理由だった。
「待っていなさい…。もうすぐ、終わらせてあげますからね。この下らない、偽りの世界ごと……」
『門』は答えない。ただ、台座の縁に填まった色のない石が、照明の光を鈍く反射するのみである。壊れた鏡のように、歪で虚ろな想いを映して。
(閑話休題)
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