第3界 自己紹介はいつだって難しい
痛む頭を振りつつ眼を覚ますと、そこは見知らぬ天井だった、なんて言うとベタだろうか。簡素なベッドとカーテンしかない保健室で寝かされていた俺に、白衣の教師が事情を説明してくれた。
リモルという名の保険医曰く、あの後襲撃者は全員捕まり、騒ぎはすぐに収まったらしい。ルゥも無事というか、保健室まで運んでくれたのは彼女らしく。面目無い…。
一通りの現状説明を受けて、丸一日寝ていたものの、俺は体調に問題もないということで自分のクラスへ案内されることとなった。
情報の回りが早いことで、何やら廊下を歩いているだけで、周囲から視線を感じる。まぁ、地球人の学生なんて珍しいだろうしなぁ。この分だと、学園の中でも噂になってたりして。自意識過剰か。
「ほら、ここが君のクラス。クラスX-1だよ」
「X…」
道すがら見てきた他のクラスはみな数字なのに、ここだけなぜアルファベットなのか。何か意味があるのか?
「ふふふ、まぁおいおいそれはわかると思うよ。ではでは、楽しいキャンパスライフをね? たまには怪我もしてくれると、非常に嬉しいな」
おい保険医のセリフじゃないだろと、ツッコミかけたが既にリモル保険医は歩き去った後だった。
「ふぅ…。よし!」
扉の前でグダグダ悩んでいても仕方がないので、意を決して教室に入る。ホームルームの最中だったらしく、担任らしき女性教諭と生徒たちが一斉にこちらを見ることとなった。
(うげ、悪目立ちしたぁ!?)
冷や汗をかきながらも、担任の先生に促されるまま、真ん中あたりの席に座る。これまた目立つ場所に…。いや、ほら、なんか隣の席のやつなんか露骨にこっち睨んでるけど?
「はいはーい、それでは。クラスメイトも出揃ったことですし、自己紹介と参りましょう! 一人一人、前からお願いしますねぇ」
おっとりした性格なのか、マイヨ先生というらしい担任のマイペースなノリに合わせてホームルームが進行していく。始まった自己紹介を聞いてみると、やはり普通じゃない。
精霊、獣人、鬼神、機人…魔法使いや、ドワーフ、エルフなどなど。《エイリアス》ばかりだ。歳もそれぞれの世界準拠でバラバラ。そして地球の人間なんて、やはりいない。そもそもどうして俺はここに転入する事になったのか、さっぱりだし。
「ほら、次はあなたですよー?」
「っと、すみません」
危ない、ぼーっとしてた。慌てて立ち上がり、周りに視線を配る。やはりすごい見られてる…。そんなに気になるか。自己紹介って苦手なんだけどなぁ。
「えーと、俺の名前は新辰一真。ここ地球出身で、14歳です。みんなと仲良くできたらいいと思ってます。これから、よろしくお願いします!」
うむ。我ながら無難な感じにまとまったはず。これなら変に目立つことは…。
「オイ、テメェふざけてんのか?」
「へ?」
俺の右隣の席の女子が、完全にブチ切れてる様子で席から立ち上がっていた。確かホナタといったっけ、若葉のように鮮烈に煌めく緑の髪と金の瞳を持つ獣人の女の子だ。さっきから睨まれてたけど、俺何か怒らせるようなことしたか??
「仲良くしたい、だぁ? オレらんとこと、テメェのとこは戦争してたんだぞ。仲良くなんかできねぇだろ!」
戦争、か。確かに異世界と繋がって《エイリアス》との接触以降、様々な異世界との戦争が勃発した。異世界同士の戦争に巻き込まれる形ではあったが、確かに元は敵世界の間柄なのは間違いない。
「だけど、今はこうして交流のための学園なんだ。いがみ合ったって仕方ないだろ?」
「ざっけんな! クソ弱ぇ地球人の分際で主導権握りやがって、どんな手品使ったんだ。ぜってぇ認めねぇ!」
引き締まった体を使ってジャンプし、机の上に仁王立ちになるホナタ。行儀悪いぞ。
つまりは…、自分たちより弱い者に従ってる今の状況に不満があって、そいつらと仲良くなんかできるかと。なるほど…。子どもか!
「もし、仲良くしてほしいってんならよぉ、オレと勝負しろ!」
「勝負って…」
本気で戦ったら、俺は普通にホナタに負けるだろう。獣人は、ルゥもそうだったが、身体能力が地球人とは比べ物にならないくらいに高い。秒殺待った無し。
「それならぁ、ランキング戦形式で戦ってみたらどうですか?」
「あ? …なぁるほど、ポイントも貰えて一石二鳥か。よし、それでやんぞ!」
「ランキング戦?」
マイヨ先生が提案してきたそれは聞き覚えがない。てか、教師なら喧嘩は止めてくれよ。
「ランキング戦というのはぁ、生徒同士で問題を解決するシステムですねー。ルールが決められているので、殺し合いにはならないんです。そして、勝った側にはポイントが入り、ランキングに反映されます。順位によって色々特典があるんですよぉ?」
そういうことか…。《エイリアス》の中には、血の気の多い、ホナタみたいな困ったやつもいるだろうし、その対策な訳だ。上手いこと考えられてるなぁ。
「オイ、今ナメたこと考えてなかったか?」
「いや、何も?」
「嘘つけぇ! こっち見て答えろ!?」
なんだか、揶揄い甲斐がありそうな性格だなぁこいつ…。まぁ仲良くなるためなら、仕方ない。向こうの流儀に従うしかないな。郷に入りては郷に従えというし。
「そのランキング戦、受けて立つよホナタ」
「へぇ、思ったより肝座ってんじゃねえか。なら、ルールはこっちで決めさせてもらうぜ。って、気安く名前呼ぶんじゃねえ!」
「ああ。よろしく頼むな。ホナタ」
「だから名前ぇ!」
間違い無くノリの良さが滲み出てるホナタはさて置き、他のクラスメイトの様子も伺う。全員、自分は関係ないという雰囲気のくせに、しっかりと事の成り行きを伺っているようだ。抜け目のないことで。
だが、いきなり皆と仲良くできるなんて思ってない。少しずつでいい。差し当たって、まずは、どうにかしてホナタに勝つことからだなーなんて。その難しさを理解した上で、まだ微かな希望をこの時の俺は信じていた。
数十分後、スマートフォンに似ている支給された電子端末でランクを確認できると言われて、ホナタのランクを知って絶望するまでは。
【ホナタ=ネツァーク=リオウ】
学園全ランキング:9位/8500人中
……………うっそだろ、おい。
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