第37界 次なる冒険
秋もかなり深まり、カラッと晴れた青空の下で行われる体育の授業。
「オラオラオラオラァ!!」
「本気出し過ぎだろっ」
生徒各自が好きに動き回っている中で、俺は久々にホナタとの組手を行っているのだが。
さっきから、全力全開という言葉が似合うパワーで乱打が飛んでくる。ホナタと初めて会ったころに比べれば、だいぶ慣れてきているし受けるだけなら難しくはないんだが、さすがに腕が痺れてくる。
「あんまりその女に付き合っていると脳みそまで筋肉になりますわよ?」
そういうユイは、いつも通りのんびりと隅の方で紅茶を口にしていた。優雅な立ち居振る舞いはお嬢様なだけあって絵になる。
「ハッ、甘ぇんだよ火の玉女。もうすぐ体育祭があんだから、鍛えんのは当然だろーが!」
「ん? 体育祭…?」
ちょっと待ってくれ。俺、聞いてない。
「あら、一真さんはご存じありませんでしたの。毎年この時期は、全校挙げての運動会を実施しておりますのよ」
「武闘祭の時ですらあんな感じだったのに、今度はがっつり運動目的かよ…。何するんだ?」
まあ、なんとなくわかるけど。もうホナタのきらっきらした目つきでわかる。
「全校生徒で殺し合いでもすればいいんだよぉ。そしたら、スッキリするのに♪」
「そういうことを言うなってば、
会話に割り込んできたのは、先日転校してきた幼なじみである十塚友里。〈天使〉の力を持ち、異世界人を憎んでいる少女だ。学園にやってきたのは、『門』を調べるためと言っていたが、今のところ動く様子はない。何しに来たんだ、マジで。
「ふふっ、ほらカズくん、そうでもしないとこの地球は元の世界には戻らないよ?」
「戻らないし、戻れないだろ。だから、今の世界をどう生きていくか考えたほうが生産的だと思うぜ」
「どうかなぁ。案外、この世界なんて儚いモノだからねっ♪」
意味深な言葉を残して、友里はどこかに行ってしまった。なんなんだ本当…。
『ピンポンパンポーン。クラスX-1所属の新辰一真くん、急いで生徒会室に来てください! 生徒会長がお待ちでーす!』
少し懐かしい校内放送。またぞろ、何か依頼事でもあるんだろうか。
あんまり危なくない話だといいなぁと、軽いため息をつきながら、俺は重い腰を上げて生徒会室に向かった。
◯●◯●◯●◯
「よく来てくれましたね、新辰さん」
「こんにちは生徒会長。で、用っていうのはなんですか?」
「ええ。まずは、これを見てください」
久方ぶりに訪れた会長室の真ん中、立派なデスクチェアに腰かける生徒会長、もとい仁王館菊世は、いつも通りのにこやかな笑みとともに、壁側モニターに一枚の画像を映し出した。
どこかの洞窟らしき薄暗い場所、金属らしい物質に覆われている壁は学園内で見たことがない。そこに立ち入り、何かを調べていたのだろうか。けど問題はそこではない、謎の武装集団がナニカと向き合っている。
暗闇の中であってなお妖しく輝く翼が、歪な膨らんだ胴の片方にのみ生えている。ソレが纏っている闇は内側を見通せないほどに深くて昏く濃く、無数の爪や牙を生やした無間の怪物の姿を取っていた。
「これは…?」
「今回解決してもらいたい事件、いや戦ってもらいたい相手ですよ」
また無茶苦茶な。見たところ、この正体不明のやつはヤバい。それだけはわかる。なんなら、普段は消している〈ウィアルクス〉を今すぐ構えたいぐらいに
「コイツは…? この場所はいったいどこなんですか」
「ここは学園地下に広がる巨大洞窟。かねてから調査が必要だと思っていたんですが、ようやく先日、国連主導のもと調査団が送り込まれたのです。これはその時の監視記録。そして、調査団が中層あたりで遭遇したのがこの正体不明の怪物です。彼らは並大抵の “エイリアス” であれば対処可能なだけの戦力を整えていました。国連としてもバックアップに万全を期していたはずです」
もうオチを聞かなくてもわかる。ここまで丁寧に前振りをされれば、否が応にも想像がついてしまう。
「ふふふ、勘がいいですね。想像通り、全滅壊滅消滅…。言い方は何でもいいですが、とにかく調査団はこの怪物に滅ぼされました。塵一つ現場からは戻ってきていません。如何なる力によってかはわかりませんけれど」
ふぅと一息つくと、菊世は再び画像を切り替えた。今度は巨大な祠。洞窟の入り口だろうか。周囲の岩盤や瓦礫と比べると、それなりのサイズがあるが、学園にこんな場所があっただろうか。いや待てよ、この景色はどこかで見た気が…。
「あっ。前にカナミたちが占拠していた鉱山!?」
「この場所を知っていましたか。巨大洞窟の入り口は本来 “ドワーフ” の管轄ですが、以前からなぜか漂う魔力量が異常数値を示していました。そこで魔族であるセクストさんに調べてもらったところ、この扉が見つかったというわけです」
トリリアがここのところ渋い顔をしていたのはそれが原因だったのか…。てっきり、精霊族で彼女のパートナーでもあるコウと喧嘩したのかと思ってたが、良かった。
「さて、話は急ですが新辰さんにはこの洞窟を調べてもらいたいのです。異能に対抗できる貴方の剣があれば、他の生徒を行かせるよりは危険も少ないでしょうから」
「な、なるほど…」
むしろただの地球人である俺の方が危ないと思うんだけどなぁ。
とはいえ、確かに放っておけないし、これが原因で地球と学園の間でいさかいが起きても困る。一肌脱ぐしかなさそうだ。
そんなわけで。
翌日朝、俺は “ドワーフ” 管轄の鉱山の入り口に建てられている砦から、問題の洞窟に向かった。生徒会長からの助言に従って、リュックサックに緊急時の用意を詰め込んでいる。準備も整っているし、あとは中に入るのみなのだが。
「どうして、お前らがいるんだよ」
「仲間外れはひどいですよ、新辰さん!」
「そうじゃんね~。ウチがそもそも見つけちゃったもんなんだし、最後まで関わりたいじゃん?」
「いや仲間外れにした覚えはないけど…」
俺を待ち構えていたのは、どういうわけか、準備万端やる気満々なルゥとトリリアだった。
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