幕間① 雷と嵐の娘、強さの証を (前編)
彼女は物心がついた時から、強さに固執していた。《雷獅子》と呼ばれる王である父と、《嵐虎》の称号を持つ王妃の母。そんな世界最強の二人が常に側にいたからかもしれない。
それはホナタにとって幸運でもあり、不運でもあった。
「こら、ホナタ! また泥だらけで家の中、歩き回ったでしょ!! 」
「バレたー!」
「待ちなさい!」
ありきたりな日常。母に叱られて、父にそれを笑われる。そして父も母に怒られる。
世間では、彼ら二人は尊敬と畏怖の念で見られることが多いが、娘である自分からすれば、どこにでもいる普通の両親だったのだ。
むしろだからこそ、二人の強さの秘密が知りたかった。特別な何かがあると信じていた。
ちなみに家庭内ヒエラルキーの頂点は母であり、父親は一番下である。王様なのに。
父…ネメアム=ネツァーク=リオウは、見た目は軟派な優男といった雰囲気で、よくメイドや貴族のご婦人方に手を出そうとして、母…バゥフィ=ネツァーク=リオウにフルボッコにされていた。
やめときゃいいのに、父曰くそのスリルがたまらないらしい。一度殴り殺されればいいと思った。
とはいえ、母も凛とした超美人なので、言い寄る男は多かったが、全員ブチのめされていた。恐ろしい。
そんなこんなで平穏無事 (?) な子ども時代を送ったホナタだったが、10歳の時にちょっとした事件が起きた。
遠征に出た父親が、年端もいかない少女を連れて帰ったのだ。王宮は蜂の巣を粉砕したような騒ぎになった。よもや隠し子かという話が出たところで、バゥフィの堪忍袋の尾が切れるまで、噂が広がり続けた程だ。
「どういうことかしら、アナタァ…!?」
「違うんですフィ。これには訳が。あっ、オレの子とかじゃないからねっ」
「あぁ?」
「ひぃ」
流石に今回は、よもや世に聞く離婚とやらまで行ってしまうのかとハラハラしながら事の成り行きを見守っていたホナタだったが。父が少女の被っていたローブを取ったところで、驚きに息を呑んだ。それは母も同じだったらしく、絶句していたのを覚えている。
「…わかってくれたかな?」
ホナタと同い年くらいの少女には、獣の特性を示す耳も体毛も尻尾も、まして爪や牙すらなかった。その娘は、明らかに異端だったのだ。
「彼女はね、地球人なんだ」
「「!?」」
驚きが重なる。
今、様々な次元の世界が戦争中で、その中には青き星・地球という世界がある事はなんとなく知っていた。それなのに、敵であるはずの世界の存在をなぜ。
子どもであるホナタには、全く理解が及ばなかった。それに母はまた怒り狂う気がして、そっと震えながら見上げて。再び驚きに目を見張った。
「……そう」
普段は苛烈鮮烈極まりない母が、この時に限って、哀しさと嬉しさと、僅かな戸惑いが同居した複雑な面持ちをしていたから。
優しく地球人の少女の髪を撫でながら母は、父と目線を交わすと、無言でその子を抱き上げた。
ホナタは察した。何か事情があるのだと。
好奇心旺盛な超絶やんちゃ娘ではあっても、地の頭はいい彼女である。その新たな家族を受け入れようと決めた。
養女という形で、その少女はそこから三人と共に暮らす事になる。父と母は実の娘と同じにその少女を扱ったし、それに異論はなかった。妹が欲しいと願ったことがあったのもある。
本人も名前を思い出せないということで、青味がかった艶やかな髪に因んだアオイという名前が与えられた。
二人は姉妹同然の仲として育ち、幾年かの月日が流れる。大事件が起きたのは、それから少し先のことだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます