第75界 お帰り
溢れ出し始めた虹光は留まるところを知らず、カミの内から外に溢れ続ける。
「何が起きてるんだ……?」
「馬鹿息子! 願いを発動できるだけのエネルギーがチャージされた、今なら君の仲間を呼び戻せる!」
琉香のその言葉を聞いて、俺はハッと頭上を見上げる。カミから漏れるあの光は異世界の銀河を構成する光だと直感で理解した。ならアレを手繰り寄せれば、学園のみんなを取り戻すせるってことか。
「頼む〈ウィアルクス〉。力を貸してくれ。みんなを取り戻したいんだ」
《All right. Complete your mission.》
聴き馴染んだ機械音声と共に白い剣が変形して、右腕にガントレット形態となって装着される。
道は開いた。なら、あとは必要なのはこのゴールへ届く手ってことだよな。さすが相棒。
[許サナイ。コノ終末ハ絶対。何人ニモ邪魔ハサセナイ。既ニ他ノ世界ハ飲ミ込ンダ、今更―――]
「終わりを誰かに決めさせたりしない。いいや、俺たちは俺たち自身を終わらせたりしない!」
ガントレットを装着した右腕を目一杯伸ばす。後ろで滞空する琉香の〈
流れに逆らわず一気に飛び上がって天使の包囲網を全て突破してカミのお膝元、大樹の表面へ一足飛びにたどり着く。
先ほどの斬撃で付いた亀裂に向かって右拳を全力で振り抜いた。
鈍い手応えと共に、拳が突き刺さった箇所から虹色の光が一層色濃く漏れ出す。
直後、信じられないほどの爆発が起きて吹き飛ばされ、あっという間に艦へと叩き返された。
「かふっ……。みんなは……?」
「大丈夫かい。まったく、無茶をするなどいくら言っても君は一向に聞きやしないね!」
甲板に出てきていた琉香に抱き止められて辛うじて落下は免れる。右腕が尋常じゃないぐらいの痛みに侵されてピクリとも動かない。というか想像以上に反動が凄い。これで駄目ならどうしようもなさそうだ。
「だが、無茶をした甲斐はあったようだ。見たまえよ」
琉香に促されて真上に視線をやると、俺の攻撃を受けた部分から光が一層強く漏れ輝いて、天地を貫き止めるほどの大樹の姿が苦悶に震えていた。
亀裂から飛び出した光の欠片が地上へ落下せずに天空へと飛び散っていく。光の軌跡が空に無数の円環を描いていくのが俺の目に映った。
あの『
あの時はただ絶望をもたらすだけの現象だった。それを今俺は希望と期待を持って見上げている。
[馬鹿、ナ。コンナコトハ、アリ得、ナイ]
「あり得ないことなんかないさ。奇跡はいつだって偶然に起こるんじゃない。必然に起こすものなんだ。みんなの後一歩頑張ろうという小さな意志が、大きな結果を生むんだ」
[結果論、ダ。カミニ、ヒトガ一人デ抗エルワケガ]
「一人じゃない。俺は、たくさんの仲間と、一緒に戦ってきた。これまでもそうだし、これからもきっとそうやって平和な世界を求め続けてやる!!」
「ははは! 驚けよ異世界の終神。僕の自慢の馬鹿息子は、諦めない事にかけては異能級なんだよ!」
空の大穴が完全にその口を開いたその向こう側に広がるのは別世界の銀河。太陽系とは全く異なる時が流れている平行銀河の星々が瞬き、そして。
[サセナイ。今スグニ全テリセットセネバ。ナニカスル前ニ―――]
「そいつは!」
「こちらのセリフですわ!」
【
それを為した紅蓮と深緑の螺旋が俺の真正面に突き刺さる。いや、降り立った。燃えるような赤い長髪をなびかせながら二丁拳銃を構える少女と、目の覚めるような深緑の髪と獣の耳を持つ少女。よく知る二人がそこにいた。
「ユイ……カナミ……」
「わたくしたちだけではありませんわ」
「そうだぜ。見てみろよ!」
現れた二人に続いて、蒼の激流と黄の流星が駆け抜けたかと思えば、大樹の幹のように太い【
「カナミ、ルゥ!」
「待たせたねえ、風紀委員サマ」
「ただいま戻りました。さあ、反撃の時間ですよ一真さん!」
不思議な話だ。一年前までの自分ならこんな風に異世界の人間と関わり合うなんて想像もできなかった。
だけど今は違う。この学園で出会ったみんなが大事で、大切で、俺の日常になっているんだと改めて実感する。
「なにを情けない顔をしているんですの。ほら、世界を守るのでしょう? 共に戦いますわよ!」
「そうそう。てかよぉ、オレたちだけじゃないぜ? 今のカズマに力を貸してくれるのはよォ」
ホナタの言葉通り、天に開いた世界の穴からはさらに続けて無数の輝きが舞い降りてきている。
色も大きさも全くバラバラ。ただ唯一共通するのは、その全てがたった一人の少年の想いに大なり小なり反応したという事実。
「みなさん癖が強いですからね。自分達の行く末を勝手に決められるのは我慢ならないようです」
「人なら当然さね。ウチらはやりたいようにやるだけなのさ!」
「本当におまえらは……。振り回されるこっちの身にもなって欲しいよ」
「そんなことを言って。嬉しいくせに強がるなよ、馬鹿息子くん」
琉香の声もどことなく、喜んでいるように感じる。
「む、息子? どういうことですの、カズマさん?」
「ああ、師匠は俺の母さんらしいんだ。義理のだけど」
「「「えっ。ええええええぇええええええええええええ!?」」」」
「なるほど……。妙に雰囲気が似ていると思えばそういうことでしたか……」
目を丸くして驚く三人をよそに、妙に落ち着いて納得しているルゥ。そんなに雰囲気似てるかな、俺と
【馬鹿、ゲテイル。幾ラヒトガ寄リ集マロウトモ、世界ト共ニ在リ、世界ヲ終ワラセルカミニ勝テルトデモ―――】
「違うぜ、神さま。人が集まって、みんなで作り上げるのが世界なんだ。それを俺が、―――俺たちが証明してやる!」
【良カロウ。ソレデハセメテ、友ト共ニ果テルガ良イ、人間!!】
再び開かれた世界の空で、大樹の神が腕を広げ臨戦態勢へと移行した。
互いに放った啖呵を合図に、世界の命運を賭けた決戦の火蓋がここに切って落とされたのだった。
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