第73界 繋がりゆく意思

 菊世によって終末装置 【Exygg's=Drasilイグズ・ドラシル】が起動したのと同タイミング。


 各所で煙を燻らせ人気を失った学園〈ユニベルシア〉の一角で、詩詩葉透ししばとおるは目を覚ました。


 確か自分は巨大な繭のような卵のような物に触れようとしたはず。そこで気を失っていたのかと、


「まったく……厄介極まりないな、異世界の力とは……」

「だけど悪いことばかりじゃないよ。完全には無理でも、肩を並べれるんだって。私はこの学校で知ることができたんだもの」

「貴様……。〈バルバトス〉、十塚友里とつかゆうりか」

「久しぶり〜〈アモン〉。友里でいいよん。それよりも、どうしてここに?」


 辺りの瓦礫の山を見渡しつつ、透は痛む体に鞭打って立ち上がる。幸い鋼の小箱の形をした武器、〈儀典聖剣フェイルセイバー〉は壊れていない。まだ戦える。


 瓦礫の山の向こうから歩いて来たかつての同胞、十塚友里に向き直る。柔らかさと狂気が同居した危なっかしいイメージだったが、今の友里にはそれがない。何か変わるきっかけがあったのだろうか。


「決まっているだろう。もちろん、異世界人どもを駆逐し、この世界を救うためにやって来たのだ。異世界の力で地球を脅かす者を許してはおけない、からな……」

「そんなこと言ってボロボロじゃない。相変わらず無茶ばかりだね〈アモン〉。これから、どうするつもり?」


 問われて考える。武器はある。体も動く。ならば、やることは一つだ。


「この星を、守るさ」

「さすがだねえ。ふふふ。あなたの諦めの悪いところ、カズくんとおんなじだ」

「カズくん……?」

「大切な幼なじみだよっ。彼が諦めない限り、私も諦めないって決めたんだ。異世界の人たちは確かに憎いよ。けど、きっとそれ以外の感情も抱けるから。だから、〈アモン〉。ううん、透も一緒に戦ってほしいの。みんなの為じゃなくてもいい、あなた自身のために!」


 自分自身のため、か。


 言われなくてもそのつもりだ。地球のためと言いつつ、目的はとっくに自己満足にすり替わっていたのだから。だからこそ、止まるつもりは当然ない。友里の言うように。


「それにしても、あれだけいた〈ワールダー〉がもはや我ら二人だけか」

「あはは~、随分と減っちゃったよねえ。でも安心して。こうなるだろうって、琉香さんから私預かっているものがあるの!」

「〈キマリアス〉から?」


 あの黑き神のことだから、きっとまた勝手に判断して勝手に動いていたのだろうが、この局面で役に立つような物があるのだろうか。


 友里が取り出したのは見覚えのある黒い箱。自分が持つ〈儀典聖剣フェイルセイバー〉によく似ている。


「それは……?」

「名前は忘れたんだけど、これには全ての〈ワールダー〉の力が入っているんだって。使っていた子たちから預かったらしいよ」

「預かった? 奪ったの間違いではなく?」

「まあ、琉香さん全然説明しないからねえ。うん、奪ったんじゃないよ。他の〈ワールダー〉のみんなは自分たちの意志で戦いから去った。だから、その力を琉香さんが回収していたんだ」


 にわかには信じられない。だがあの底の知れない薄笑いを浮かべた麗人の考えなど。凡人の自分にわかるはずもない。だから、力を貸すというのならそれを使いこなしてみせるだけだ。


 軽く息を吐いて、天を突き刺す巨大な樹を睨みつける。あれが全世界で起きている異常現象の大元には違いない。一刻も早く対処せねばならないし、その為ならなんだってする。


 だが、そんな透の決意を試すかのように事態が急変する。


 見据えていた大樹が、そのてっぺんから何かに削り取られたかのように、あるいはナニカに齧り取られたかのように急に消滅したのだ。


 それと同時に、澱んでいた大気が晴れていき、代わりに地肌を突き刺すような空間のひりつきに見舞われる。めまいすら覚えるその重圧に、冷や汗が垂れるのを感じた。


「今度は何事だ……!?」

「マズいね。今度こそ『門』が完全に起動しちゃったみたい」

「なんだと! くそ、早く向かうぞ友里。手遅れになる前に―――」


 歩き出そうとして気づく。周囲に数えきれないほどの気配。囲まれている。人の気配ではなく無機質な存在がこちらに視線を向けていた。


「まずはここを切り抜けないといけないみたいだね」

「ああ。手を貸してくれ友里」

「もちろんだよ!」


 背中から天使の翼を伸ばして桃色のボウガンを構える友里に続き、透も〈儀典聖剣フェイルセイバー亞門あもん〉を展開する。


 応戦するようにこちらを包囲していた “敵” が動き出す。植物のような体に様々な生物の特徴を兼ね備えたような怪物の集団。その矛先が二人に向けらていた。


 世界を救うための最終ラウンド、地球人側の決戦がここに始まった。

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