第3話-貧乏優男とゲイ術顧問②

 顧問がいる。その事実を知ったのはCAN部発足から一ヶ月以上経ってからだった。


 放課後、いつも通り部室の扉を開けると、そいつは平然と紅茶を高注ぎしていて、俺を見かけるや否や愛くるしい仔犬でも見つけたように抱きしめてきた。


 ファッションモデルのようにすらりと伸びた長身は千鶴さんよりも高く、それでいて優しく抱擁ほうようしてくる。花のような香りが鼻をくすぐり、雑誌の表紙を飾りそうなほど端整な顔つき。


 完璧なビジュアルだ。まあ見ためは、だ。


「武者小路くん。君のその優しくも気高い風貌が僕をインスピレーションの乱気流にいざなうんだ。ぜひ、今度、絵画モデルをやってくれないか? もちろん、生まれたままの姿で」

「あー……。すみません。俺、胸に七つの傷があるので見せたくないんです。あなたを世紀末にいざなうことになってしまうので」


 ただ一つ。そいつは男だった。

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