第15話-肉食妹と御曹司 ①

『――それでですね! これまたゆうちゃんのソーセージが長くて太くて』

『それでそれで!?』

『食べさせてくれたんですけど、口に収まりきらなくて、もう頭がクラクラしそうで』

『そうか! 優馬のソーセージはそんなに猛々たけだけしかったのだな!』

『そうなんです! しかも口に含むとなんとも言えない芳しい香りで、唯の頭は完全に思考停止だったのです! あとはなすがままに……』

『す、すごいね……。優馬くんのって、そんなにすごいんだ……』

『しかもただ大きいだけじゃないのです! 先っぽが――』


「おい、武者野。なにアホ面で突っ立ってんだ。入らねえなら失せろ」


 掃除を終えて、ほどよく太陽が傾きかけた放課後。

 部室内から聞こえた会話に精神を削られていると、後ろから伊達にど突かれる。


「いや、なんか会話的に、今入ったらアウトというか。入ったらいけないような」

「おまえが妹にち◯こ、しゃぶらせてる話を暴露されてるからか?」

「ストレートすぎる! それに断じて違います! ただそういう空気が――ぐっふぅ!」

「うっせぇな、男ならそんなことでいちいち気にしてんじゃねえよ。ったく、それで本当にキン○マついてんのか」


 腹を一発殴りながらそのセリフはどこぞのヤンキー漫画だろうか。発言に羞恥心しゅうちしんの欠片もない伊達を苦痛な眼差しで睨むと、眼帯がない方の瞳が虫けらを見るように俺を一瞥して、ためらいなく部室の戸を開く。


 俺がその後ろから青い顔で入室すると、部室にいた三人のうち、一番小さな少女がぱぁっと顔をほころばせた。


 姫野とはまた違った意味で無垢で幼い笑顔。ポニーテールに黒縁のメガネという、清楚文学系少女の仕上がり。そして明らかに俺たちと異なる中等部のセーラー服を、リボンまできっちりと着こなしたその存在は、俺の喜びそのものでもある――


「――とか思ってんだろ? このロリコン野郎が」

「伊達先輩。勝手に人の感情描写を奪わないでもらっていいですか? しかし、間違っていないので許します。たまには先輩もまともなこと言えるんですね」

「……うぜえな。果てろ」


 他のメンバーに見えない確度で、伊達はもう一発、俺のみぞおちに拳を撃ちつける。

 数分の間に二発もくらった俺は胃酸が喉までぶりかえしてきたが、そんなことも気にならないくらい、その少女の笑顔に見惚みとれていた。


 そう。最近CAN部に訪れるようになったのは、このヤンキー女子高生だけではない。それとは正反対の女神も降臨していたのだ。


「ゆうちゃん、お掃除当番お疲れさまです! ゆいは待ちくたびれましたよ!」


 武者小路家、長女。そして愛しの妹、武者小路むしゃのこうじゆいが世界の中心で俺に微笑みかけた。

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