第48話-ユ涙姫と卒業式①

 月曜の昼休み。大劇場も顔負けの講堂ホールには少年少女の賑やかな声が響く。

 それと同時に横からは苛々いらいら露骨ろこつにした有巣の地団駄じだんだが鳴り続いていた。


「優馬、まだなのか?」

「あと二、三分だから待ってろ」

「ぐぅー……。もどかしい! どうも待つのは苦手だ」

「だからって足ばたつかせるなよ、子どもか!」

「じっとしていられるかっ! 凛は今も舞台ぶたいそでで」

「わかってる。俺だって緊張してるんだ」


 俺と有巣は映画館顔負けのゆったり背もたれがついた椅子に落ち着かなく身を強張らせている。二百人以上は入ったであろう、ちょっとしたアリーナみたいなホールにはどこを見渡しても生徒だらけ。各々談笑を楽しんでは、その時を待っていた。


 月曜の昼休みと言えば昼会。そう答えるのが星砂高校の大多数。


 ステージ下には放送部のテレビ局のような中継カメラが用意され、檀上だんじょうでは昼会を取り仕切る生徒会が打ち合わせに臨んでいる。その中から頭一つ飛び抜けた千鶴さんがこちらに気付いて手を振り、俺と有巣もぎこちなく頭を下げた。


 その様子に千鶴さんは『だ・い・じょ・う・ぶ・だ!』と口を動かして笑顔を作る。


 今から始まるのは毎週恒例の昼会。普段なら学内テレビ放送のところ、今日はなんと公開収録だった。学校一の有名人である神宮寺千鶴や同じく開催されるモダンロックオーケストラ部の演奏を一目見ようと、満席寸前となった会場はどこか浮足立っている。


 その中で俺と有巣はひきつる顔をそのままに、他の生徒とは別の心境でその時を待っていた。なにせ今から始まることを知っているのは姫野はもちろんとして俺と有巣、そして舞台で着々と準備を進めている千鶴さんしかいないのだから。

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