第25話-文芸部と抱えていた爆弾①

 文芸部は中庭を囲むように高等部校舎に隣接された部室棟にある。あまり馴染みはないが大半の部活はそこを拠点として活動しているので、どちらかといえばそこを拠点としていない俺達が異質なのだ。


 酷く不安な面持ちの姫野と、それをあやす俺を従えて、有巣は文化系の部活が立ち並ぶフロアを脇見なく進む。


「ほら、姫野。何だか面白い部活がいっぱいあるな!」

「……うん」


 お目当ての文芸部に着くまでには、オカルト研究会や六芒星占い研究会、郷土料理研究会など異色のレパートリーが並び、どれも怪しい雰囲気をかもしていた。


 普段であれば「あの部活なんだろう?」とか「この部活は楽しそう!」とか、テンション上げ放題の姫野は、俺の背中に隠れるように半歩後ろを重い足どりで歩く。


 部室棟までは泣き叫んでいたが、ここまで来ると観念したようで、うな垂れた顔をしていた。泣くほど嫌ってどういうことだよ。まあいつも泣いてるけど。


 そんな姫野を気遣いながら早足の有巣についていくのは楽じゃない。兎と亀を同じペースで歩かせるのにはいくらか無理があるのだ。


「ちょっと待ってくれよ」


 呼び止めると有巣は後ろを一瞥いちべつして「そんなやつ放っておけ」と吐き捨てる。自分が連れてきたくせに。


「それにもう着く」


 言葉通り、有巣は数メートル先の一室の前で立ち止まり、それを聞いた姫野の足取りはより一層重くなる。数秒の間をあけて、ようやく三人が『文芸部』と標札のかかった戸の前に辿り着いた。


 有巣が道場破りにように「頼もう!」とノックすると、軽快に戸が開いて中から長身で細目の男が暖かい笑顔で出迎えてくれた。


「こんにちは。CAN部の皆さんだね。どうぞ」


 ブラウンでパーマがかかった柔らかい髪と見るからに伊達の大きな黒縁眼鏡をかけた物腰の柔らかい長身男は、俺の想い描いていた文芸部の人よりもかなりお洒落しゃれ。おばさま方が好みそうな韓流系の甘いマスクだ。


 中に誘導される有巣の後ろで感じの良い人だな、と思っていると背中を強く握られる。


「ん? どうした」


 暗い夜道を歩くときの妹たちのように、震える手で背筋を掴む姫野はぎりぎり聞こえるくらいの声量だった。


「絶対にあたしの名前呼ばないで。絶対に」

「え? なんでだよ姫――痛ッ!」


 返事はなく、力いっぱい俺をつねると、ごめんねとこぼし、再び床を見つめる。いつもと違う雰囲気をまとった栗色の髪はその明るさと対照的に暗いかげびていた。


 今は理由を教えてくれなさそうなので、やむを得ずそのまま部屋に入る。その後ろを背後霊のようにくっついてくる姫野はやけに重たい。


 どうしたのだろうか。確かに有巣が文芸部に行くと宣言してから、どことなく元気の無い姫野に違和感はあったが、普段から掴みどころの無い姫野にとっては、これも普通なのではないかと思える。だから俺はさほど気にかけずに足を踏み入れた。

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