第17話-肉食妹と御曹司 ③

「依頼……? 俺たちに?」

「はい。そうなんです。実は、お願いしたいことがありまして……。CAN部のみなさんは相談事を聞いてくれると……」

「そんなこと、家で俺に言ってくれれば良いじゃないか」

「それも考えたんですけど……。ゆうちゃん一人に負担かけたくなかったし、でもゆうちゃんがいるCAN部のみなさんなら安心して相談できると思って……」


 問い詰めると、唯は眉をしゅんと下げて、申し訳なさそうにスカートのすそを握る。


 いや、そんな責めたかったわけではない。むしろ俺を気遣ってくれたのであれば、こちらが謝りたくなるくらいだ。まったく可愛いマイシスターだな。あ、今は違うか。


 とにかく俺がアルバイトや家事を担っているせいか、良くも悪くも唯は俺に対して、かなり遠慮がちな性格をしている。


 俺はそんな妹の優しさを受け取って、頭をぽん、と撫でた。


「そうか……。でも困ったらちゃんと言わなきゃダメだぞ」

「はい……。ありがとうございます」


 お兄ちゃん思いの良い妹ちゃんだよね。なんて姫野が小声で囁いてきて、俺は自慢げに微笑んだ。そしてもう一度、唯に視線を戻して訊ねる。


「それで何を相談したいんだ?」

「それが、実は私のことではなくて、紹介したい人がいるんですけど」

「紹介したい人……?」

「はい。それでそろそろ来るはず――」


 唯が何かを気にして壁掛け時計に目をやったその時、部室の扉が軽くノックされ、ゆっくりと開く。そして、恐る恐るといったような声と共に、小さな頭がひょっこりと覗いた。


「こっ、こんにちは……。中等部の、御門院みかどいんです……。よろしくお願いします……」


 お坊ちゃまみたいなボブヘアーにくりくりとした目元。頬には少しソバカスがなびき、だがそれさえもアイデンティティのように思える、いかにも成長期まっさかりの見立て。そして中等部の制服にネクタイにズボン……。あれ、ネクタイにズボン?


「唯、まさか紹介したい人ってのは……」


 問うと唯はこっくりと頷き、頭から俺の手をどけて、来客の横に駆け寄る。

 そして振り向くと、無垢な笑顔でそいつの肩に手を添えた。


「そうです。こちら唯と同じクラスの御門院みかどいん虎太郎こたろうです。CAN部のみなさんには虎太郎くんの願いを叶えてほしいのですっ!」

「し、紹介したい……、男……?」


 いつまでも虚空こくうを撫でる俺の手を姫野が包んで下ろし、今にも噴き出しそうな顔で「ドンマイ、お兄ちゃん」なんてささやく。


 後ろから聞こえる有巣と伊達のくすくすとした笑い声がなおさらしゃくさわって、どこへ送れば良いかわからない感情を持て余す俺に、唯と御門院とがきょとん、と首を傾げた。


 と、とにかく! お兄ちゃんは認めませんっ!

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