第45話-信念と正さとネバー・ギブ・アップ⑧

「――やはり、わたしは優馬の案に賛成だ。むしろそれ以外の方法はないと思っている」


 有巣はそう呟いた。なにかを決意したような有巣をうかがいながら、姫野は逃げるように視線を足元に落とす。


「でも、やっぱり、あたしにそんな勇気は――」


 姫野が震える口でそれ以上を言おうとした時、有巣の両手が姫野の手を優しく包む。


「凛……やろう」

「いや、でも……」

「間違ったことはしていないんだ。それを証明しよう」


 有巣は穏やかに言うと姫野の手を強く握る。それでも姫野はうつむいたままだ。


「あたしには無理だよ」

「無理じゃない。貴様が部活勧誘に来た時、何度断られてもめげることなく、わたしの前に現れたじゃないか。貴様の良いところはアホみたいに前向きなことだろ? 立ち止まったり、後退こうたいしたりするくらいなら前のめりに倒れろ」

「でもそれはあたしだから。だって本当のあたしはこんなにも――」

「その姫野凛だって貴様自身だ。全部、姫野凛だ」


 力強く、されど優しく、有巣はさとすように語りかける。そして、


「なによりわたしは凛のそういうところが好きだ」


 有巣はいつか見たようなとびきりの笑顔でそう言った。


「ずるい……ずるいよ有巣さん。そんなこと言われたら、やるしかなくなっちゃうじゃん」


 姫野はうつろな目を上げ、泣き出しそうな、されど嬉しそうな表現し難い顔を向ける。


「もし失敗して学校中の笑い物になっても、また昔みたいに立ち直れなくなっても、あたしのこと見捨てないでいてくれる?」

「もちろんだ。昔の貴様も今の貴様も、そしてどう転ぼうがこれからの貴様も、全部ひっくるめて受け止めてやる。なんたってわたし達はBSSフレンドなのだろう? それに貴様、あたしがどんな人間でも友達でいてくれと言ったではないか――ってまた泣くかっ!」

「だって……だって、嬉しいんだもん」


 やっぱり姫野は泣き出した。そして決意したように潤む目を俺たちに向ける。


「あたし、やるよ。やっぱり二人がいればあたしは大丈夫みたい。例えだめでも……頑張ってみる! どうせ失うものもないしね」


 有巣は健気に笑う姫野から俺に視線を移し、同じようににっこりと笑った。

 千鶴さんは俺の肩にぽん、と手を置く。


 それがどんな結果をもたらすかなんてわからない。けれど、やっぱり踏み出してみないことには変わらない。だから俺も肯いた。


「やろう。姫野ならこの世界を変えられるかもしれない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る