第21話-肉食妹と御曹司 ⑦

「――なるほどね。だが、それは教員として、ただ聞き過ごすわけにはいかないな……」

「すみません東雲先生……。でも僕の担任に言うのだけは、待ってもらえませんか? まだ……、自分の力で解決したいんです」


 なにかをこらえるように懇願する御門院の瞳を東雲はまっすぐ見つめると優しく微笑んだ。


「そうか、その気持ちはとても大切なことだね。もちろん尊重するし、僕もできることは協力しよう。ただし、ちゃんと僕ら先生のことも頼ってほしいな。いいかい?」


 小さく頷く御門院の肩にぽんと手を置いて、東雲は「まあ彼らに任せれば大丈夫だ」と囁いたのち、やっと呼吸が整ってきた有巣と伊達を筆頭に、俺たちの方へ振り向く。


「あとはCAN部諸君。君らの言いたいこともよくわかる。甲乙はつけ難いが、僕はどれも大切だと思う。それにその人に合った解決方法というものもあるからね」


 そして、明るい笑顔で人差し指をぴんと立てた。


「そこでどうだろう? 例えばそれぞれのレクチャーを受けてみて、御門院くんが最も自分に合った手法のメンバーを選び、他のメンバーは選ばれた者のサポートをするというのは?」

「それってつまり……」

「当面は御門院くんに合った誰か一人の案が採用されるということだ。まず足がかりとして、それでやってみてはどうかな?」


 東雲が言い終えた後、有巣と伊達はお互いを見合う。そして、


「上等だ! やってやらぁ!」

「受けて立ちましょう!」


 二人の気迫に一歩遅れて、姫野も「あたしもっ!」と割って入り、千鶴さんも「楽しそうだから混ぜろ!」と意気揚々に参加表明をする。


 東雲がどういう意図でそう提案したのかはわからないが、方向性は決まったようだった。


「うん、やる気いっぱいだね。みんなの誰かのためになりたいという、その心が大切なんだよ。というわけで御門院くん、それで良いだろうか?」

「あ、はい。ぜひそれでお願いします」


 なんかすごく良いことに聞こえるが、結局彼女たちを突き動かしているのが競争心と面白そうだからという不純な動機だと思うと、どうしようもない。


 だが、決まったのであればいいか。そう俺が安堵していると、全員の目線がこちらに向いていることに気付く。俺が不思議に小首をかしげると、有巣が矢を射るような眼で俺に問いかけた。


「おい、優馬。貴様はどうするのだ?」

「はぇ? 俺?」

「当然だ。貴様にもやってもらうぞ」

「え、俺は……嫌だからな。そんないじめとかわかんないし……、責任持てないし、なにより――」


 唯とべたべたしているのが気に食わない。さすがにそれは言えなかった。


「意外だね、こういう時に優馬くんならすぐ動いてくれるのに」

「そりゃあサポートくらいはするけど、俺以外にもこんなにいるし……」


 姫野の言葉にその通りだと思いつつ、それを遮っているのが妹への嫉妬心だと思うと余計にいたたまれず目を逸らす。すると、東雲がとびきりな笑顔でこちらへ向き、なんだか嫌な予感がした。


「それじゃあ、優馬くんはチューターとして、それぞれのレクチャーを受ける際の支援をしてくれないかな?」

「え、それって……?」

「簡単に言うと、マネージャーのように御門院くんに同行してくれればいい」

「えっ! なんで俺がそんなことっ!」

「お願いします。お兄さん」

「お兄さんじゃねえよ! それに俺は――」

「ゆうちゃん……。お願いします」

「うっ……」


 唯の潤んだ瞳に充てられて、それ以上、言葉が出ない。俺は悩むように頭を掻いたが、もう答えは決まってるし、拒否しきれないことも理解できている。


「あー! わかったよ。やればいいんだろ?」

「うむ。それでいい」


 有巣が満足そうに微笑み、そのまま仁王立ちで人差し指を力強く御門院に向けた。


「よし、とにかくこれで承った! ではこれより依頼人、御門院虎太郎に対するCAN部を執行する! 必ず私が、、貴様の望みを解決してやろう」

「いいや、てめえじゃねえ、あたしだね」

「あ、あたしだって頑張るから!」


 ご乱心の二人が睨み合い、その脇で姫野が負けじと手を挙げる。


 唯と御門院が不安半分に、でもそんな子供っぽい三人を見てどこか楽し気な表情を浮かべ、東雲と千鶴さんは彼らを見て微笑む。


 俺はいつも通りため息をつきながら、増えた分の紅茶を用意して、開け放ったままの窓から、まだ心地よい温風とその香りを感じた。


 役者が揃い、季節はいよいよ次のステップへ向かう。夏の嵐が産声をあげた。

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貧乏優男と鬼畜嬢ッ! 鹿毛野ハレ @kagenohare16

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